Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/08/02
Update

映画『君が世界のはじまり』ネタバレあり解説レビュー。ブルーハーツと“えん”が描く青春の夜明け前|映画道シカミミ見聞録50

  • Writer :
  • 森田悠介

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第50回

こんにちは、森田です。

今回は7月31日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開中の映画『君が世界のはじまり』を紹介いたします。

原作はふくだももこ監督の短編小説『えん』と『ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら』。これを1本の映画に再構成したものが本作です。

ここではその映画化に際して新たに与えられたタイトルに注目し、「君」とはだれで、なにが「はじまり」なのかを読み解くことで、テーマに迫っていきます。

【連載コラム】『映画道シカミミ見聞録』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『君が世界のはじまり』のあらすじ

(C)2020「君が世界のはじまり」製作委員会

舞台は大阪。ある夜更け、住宅地にパトカーのサイレンがけたたましく鳴り響きます。

高校生が父親を刃物で刺し殺したという情報が、無線で交わされています。

いったいだれが、なぜ刺したのか? この町には、退屈で、息苦しい日々を送っている生徒は少なくなく、主人公の縁(松本穂香)とその親友の琴子(中田青渚)もその1組です。

おなじ高校に通う純(片山友希)は、母親が家を出ていき、父との2人暮らしに耐え切れず、ショッピングモールでいつも時間をつぶしています。

純はその屋上で、東京から転校してきた伊尾(金子大地)と出会い、モールの非常階段で衝動的に体を求めあうようになります。

伊尾は伊尾で、父の再婚相手と関係をもちながら、卒業したらこの何もない町を出て、東京に戻りたいと考えています。

また琴子こそ衝動に駆られるタイプで、彼氏をつぎつぎに変えては、授業をさぼって校舎の地下室で煙草をふかしています。

しかし、そこに偶然居合わせたサッカー部の業平(小室ぺい)に一目ぼれしてからは、彼一筋を貫こうと決意します。

サッカー部主将の岡田(甲斐翔真)は琴子に憧れていましたが、自分が彼女の眼中にないことを認識しており、まずは縁に近づき、恋焦がれる琴子の様子をともに複雑な心境で見守っていくことにします。

このように、それぞれ満ち足りぬ6人の男女が、じぶんの“刃物”が飛びださないようにかかわりあうなかで、物語は進みます。

2つのえん=「円」と「縁」

(C)2020「君が世界のはじまり」製作委員会

よく青春は「無軌道」と形容されがちですが、彼らの行き場のなさ、途方に暮れる感覚は「円」に近いとみえます。

縁(ゆかり)が琴子から「えん」と呼ばれるのがまさに象徴的です。ふくだ監督はインタビューでこう語っています。

やっぱり自分が当事者であった頃、大人たちが青春をすごくいいものとして、美化して捉えたがるけど、その渦中にいる、しかもすごく世界が狭い自分たちにとっては「大人の思いを描く青春という箱に入れられている」みたいな感覚があったんです。(「ピクトアップ」2020年8月号より)

無軌道に走る若者たちが美化された青春だとすれば、本作では狭い世界で縁(ふち)までの距離を推し量っている高校生たちが描かれているといえます。

ここからは、よりつぶさに“えんの青春”をみていきましょう。

スポンサーリンク

自転車の円

(C)2020「君が世界のはじまり」製作委員会

殺人事件の冒頭から間もなく、縁と琴子が自転車に2人乗りして登校するシーンに切り替わります。

なにかのアンサーのように映しだされる「自転車」は、その後の場面でも、橋のうえで琴子の母のまわりを走ってみせたり、校庭に円を描いてまわってみせたりと、重要なモチーフとして登場しつづけます。

この描写は北野武監督の『キッズ・リターン』(1996年)を連想させますが、いずれの自転車も2人をどこか遠くへ運んでくれる、やさしいものではありません。

出口がない環境のなかで、それでもこぎつづけなくては倒れてしまうという「青春の円」を見事にあらわしています。

仲間の縁

(C)2020「君が世界のはじまり」製作委員会

自転車が倒れてしまわないもう1つの方法は、片方に「スタンド」を立てることです。

縁と琴子のペアをはじめとし、彼らはその時々に「支え」となる相手と向きあっていきます。

それはいってみれば、群像劇にふさわしい仲間の存在になりますが、縁というものが腐れ縁ふくめ“清濁併せ呑む”ように、“自他を傷つけかねない強烈な希求”がスタンド代わりになることもあります。

単なるやさしさは求めていない、というのは純と父の関係によくみてとれます。

純の父は、ふくだ監督が前作『おいしい家族』で描いた父親像と同様に「母親」と化して、家事を完璧にこなしています。

純がどんなに寝坊しても、また遅く帰ってきても、食事を用意して待っています。

この“やさしさ”に純は“気が狂いそう”になり、混乱したままネットでその言葉を検索すると、ある楽曲を見つけます。

それが、ブルーハーツの《人にやさしく》です。

スポンサーリンク

『リンダ リンダ リンダ』との比較

(C)2020「君が世界のはじまり」製作委員会

この曲はタイトルとは裏腹に“気が狂いそう”という歌いだしではじまります。

ブルーハーツの楽曲を重要なモチーフにしている作品は数多くありますが、なかでも山下敦弘監督の映画『リンダ リンダ リンダ』(2005)と本作は比較すべき点があります。

どちらの脚本も向井康介が書いており、編集もおなじ宮島竜治が担当しているからです。

つまり兄妹のような作品だからこそ、その違いをみればテーマが浮かびあがってくるのです。

実際に山下監督は、16年前の自分たちには引きだせなかったもう一つの“青春”が本作には映っている、と述べています。

自分と向井は“青春”というものをどこか疑っていたんじゃないかと思う。若者たちの持つ衝動やエネルギーに照れを感じ、寄り道だらけの物語を作った。(映画公式パンフレットより)

ここから逆に確認できるのは、本作には斜に構えずに、真正面から青春を捉える目がある、ということです。

そして、この姿勢をもっとも的確に示しているのが、夜のショッピングモールのシーンです。

スクリーンを見つめる10の瞳

(C)2020「君が世界のはじまり」製作委員会

業平との初デートにこぎつけた琴子でしたが、業平が縁のことを話すのが気に食わず、縁を避けるようになります。

そんな折に、「高校生が父親を刺した」というニュースが報じられます。

その夜、琴子を除く5人は、営業終了後のショッピングモールに忍びこみ、これまで抱えこんできた気持ちを一気に解き放ちます。

生と死の感情が嵐のように吹き荒れる乱痴気ぶりは、まるで『台風クラブ』(相米慎二監督/1985年)の一夜を校舎からモールに移したかのような画です。

ひとしきり騒いだあと、5人はフードコートの椅子に一列に座り、殺人を犯した生徒とじぶんたちはなにが違うのかを語りあいます。

親がうっとうしかったり? 大学どこ行こうか迷ったり? ほんとうは好きなのに嫌いと言ってみせたり?

これら押しつぶされそうな不安を、一人ひとりがカメラ(スクリーン)にむかって問いかけます。

そう、「君」とは最終的に、劇場の暗闇で息をひそめるように座っている、わたしたちまでを指すのです。

はじまりはいつも君

(C)2020「君が世界のはじまり」製作委員会

「君」とは“親を殺していたかもしれない私”であり、スクリーンを見つめている孤独な“あなた”である。

催事場に展示されていたギターとドラムセットを手にした彼らは、即席のバンドを組んで《人にやさしく》を演奏しはじめます。

マイクを握る業平は、そこで血まみれの少年を目撃します。

じぶんたちの代わりに、父親を殺したのかもしれない生徒の幻に、業平は「ガンバレ!」と歌詞にあるよう声を張りあげます。

『リンダ リンダ リンダ』ではあえて避けられていた直球。しかも、美化されることのない泥(血)にまみれたストレートです。

翌朝、登校した縁は琴子に想いを告げるべく、逃げる彼女を追いかけます。

雨あがりでぬかるんだ校庭にふたりは突っ伏し、泥だらけになって、ついには笑いだしてしまいます。

世界の開闢を知らせるような笑い声。なにも解決していなくても、これからどうなるかわからなくても、いま、ここで、“君が世界のはじまり”と言えるだれかがいる。

だから、刃物を出すのは今日でなくてもよい。

それまでずっと弧を描いてきた校庭から、ふたりすこし顔を見あげてみると、そこは縁のない空がどこまでも広がっているのでした。

【連載コラム】『映画道シカミミ見聞録』記事一覧はこちら



関連記事

連載コラム

映画『ザ・ビースト』ネタバレあらすじと感想。ニコラスケイジがアクションとクセのある役どころに挑む|未体験ゾーンの映画たち2020見破録45

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第45回 「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第45回で紹介するのは、ニコラス・ケイジ主演のサバイバル・アクション映画『ザ・ビースト』。 船とい …

連載コラム

韓国映画『暗数殺人』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。実話元ネタ事件の真相と刑事の執念を描く|サスペンスの神様の鼓動32

こんにちは「Cinemarche」のシネマダイバー、金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。 今回ご紹介する作品は、狡猾な殺 …

連載コラム

映画『マ・レイニーのブラックボトム』ネタバレ感想と結末まで評価考察。実在歌手で“ブルースの母”と称された女性を取り巻く人々を描く|Netflix映画おすすめ9

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第9回 1927年のシカゴを舞台に、「ブルースの母」と称される実在の歌手マ・レイニーとそのバックバンドがレコーディングする光景を描きながら、 …

連載コラム

Netflix映画『ベルベットバズソー 血塗られたギャラリー』ネタバレ感想。ラスト結末までのあらすじ紹介も|SF恐怖映画という名の観覧車36

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile036 様々な配信サービスが世の中に登場するとともに、生き残り競争も激化し始めた2019年。 配信サービスごとに、各々違った強みを持っているため …

連載コラム

映画『ドント・ゴー・ダウン』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。SFタイムスリップに遭遇した特殊部隊の運命|未体験ゾーンの映画たち2020見破録40

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第40回 「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第40回で紹介するのは、戦場から抜け出せなくなった特殊部隊を描くアクションホラー映画『ドント・ゴー …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
映画『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)より全国公開
映画『写真の女』
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学