Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

『手紙と線路と小さな奇跡』感想評価と解説レビュー。韓国の実話を基にイ・ジャンフン監督が初の私設駅の開業を描く|コリアンムービーおすすめ指南29

  • Writer :
  • 西川ちょり

映画『手紙と線路と小さな奇跡』は2022年4月29日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他にて全国順次公開!

『手紙と線路と小さな奇跡』は、観客動員数260万人を突破した映画『Be With You ~いま、会いにゆきます』(2018)で監督を務めたイ・ジャンフン監督の3年ぶりとなる作品です。

駅も道路もなく、最寄りの駅まで線路を歩くしかない村人たち。大切な人たちに安全な生活を送ってもらうため、駅を作ろうと奮闘する高校生の夢と葛藤を描く感動の物語です。

主人公ジュンギョンには、『それだけが、僕の世界』(2018)などの作品で知られるパク・ジョンミンが扮し、イ・ソンミン、イム・ユナ等がそれぞれの持ち味を発揮しています。

【連載コラム】『コリアンムービーおすすめ指南』記事一覧はこちら

映画『手紙と線路と小さな奇跡』の作品情報


(C)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & BLOSSOM PICTURES CO., LTD. All Rights Reserved.

【日本公開】
2022年公開(韓国映画)

【原題】
기적(英題:Miracle: Letters to the President)

【監督・脚本】
イ・ジャンフン

【キャスト】
パク・ジョンミン、イ・ソンミン、イム・ユナ、イ・スギョン、チョン・ムンソン

【作品概要】
1988年に建てられた韓国初の民間による駅舎をモチーフに、世界で最も小さな駅作りに奮闘した人々の努力や葛藤を描くヒューマンドラマ。

それだけが、僕の世界』などの作品で知られるパク・ジョンミンが主演を務め、その父親役に『工作 黒金星と呼ばれた男』(2018)などのイ・ソンミン、クラスメイト役に『EXIT イグジット』(2019)をはじめ俳優としての活躍が目覚ましい少女時代のユナが扮している。

映画『手紙と線路と小さな奇跡』のあらすじ


(C)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & BLOSSOM PICTURES CO., LTD. All Rights Reserved.

ジュンギョンが父テ・ユン、姉のボギョンと暮らしている村には道路がなく、駅もありません。出かけるには最寄りの駅まで線路を歩かねばなりません。

かなりの距離がある上に大変危険で、実際、歩いている途中に列車が来て、ひやっとすることも度々です。

ジュンギョンは今日、大統領府に村に駅を作って欲しいと嘆願する54通目の手紙を送りました。彼は天才的な数学の才能を持っていましたが、夢はただ一つ、村に駅を作ることです。

そんなジュンギョンの非凡さを一目で見抜いたクラスメイトのラヒは、駅を作るために出来ることを考え、さまざまなアイデアを練りますが、ジュンギョンが不得手な分野ばかり。

では数学大会で大統領賞を取り、直接大統領に交渉しようということになりました。目標通り大統領賞を取りますが、大統領の来ない大邸での表彰と知り、ジュンギョンは落胆します。

ラヒはジュンギョンの将来性を考え、一緒にソウルの学校へ行こうと誘いますが、彼は村を離れたがりません。

村の人の安全を願うのは勿論のこと、駅を作りたいという彼の思いには、隠された大きな理由がありました。

映画『手紙と線路と小さな奇跡』感想と評価


(C)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & BLOSSOM PICTURES CO., LTD. All Rights Reserved.

舞台は1988年の韓国

時は1988年。それは、民主化運動が高まり、新しい大統領が誕生し、ソウルオリンピックが開催された激動の年でした。

韓国初の民間による小さな駅舎が生まれたのもそんな時代だったからこそでしょう。本作はその史実をもとにしています。

80年代という時代の雰囲気を再現するため、劇中、様々な工夫が凝らされています。

カセットテープに吹き込んだメッセージが手紙で送られてきたり、ジュンギョンとラヒがラヒの自宅で観る映画がフランコ・ゼフィレッリ監督、ブルック・シールズ主演の『エンドレスラブ』(1981)のVHSビデオだったりと、アナログで懐かしいアイテムが多数登場します。

また、映画のトーン自体も、時代を感じさせる落ち着いた色合いで綴られており、ノスタルジックな雰囲気をもたらしていますが、過去に重大な経験をしているジュンギョンの人生の流れを表す上でも、それらは効果的な役割を果たしています。

そしてなんとも唸らされるのは、ラストに流れる楽曲でしょう。80年代といえばこれ! 世界共通でノルタルジーを沸き起こす名曲中の名曲です。

ここではカン・ヒョンチョル監督の『サニー 永遠の仲間たち』(2011)でもかかったあの曲とだけ記しておくことにします。

泣きと笑いが絶妙にリンクする感動作


(C)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & BLOSSOM PICTURES CO., LTD. All Rights Reserved.

Be With You ~いま、会いにゆきます』(2018)の監督による待望の新作というだけあって、激しく心揺さぶられ、大いに泣かされる作品に仕上がっています。

死者が登場するファンタジーの要素が重要である点や、ストーリーに隠された秘密が明かされていくに連れ、そこに潜む家族の愛が画面に溢れ出すという展開も前作『Be With You ~いま、会いにゆきます』を彷彿させます。

さらにイ・ジャンフン監督らしいところは、笑いの要素がしばしば見受けられるところです。とりわけ、パク・ジョンミン扮するジュンギョンとイム・ユナ扮するクラスメイトのラヒとのやり取りはコミカルで、淡い初恋の要素も織り交ぜながら、まさにラブコメ的な面白さで気持ちよく笑わせます。

この泣きと笑いの要素のさじ加減が絶妙で、キャラクターたちの豊かな感情と人間味を際立たせています。

まとめ


(C)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & BLOSSOM PICTURES CO., LTD. All Rights Reserved.

駅を作るという目標を達成するために、何をすればよいか知恵を出し合い、挑戦し続ける主人公の姿を通して、本作は多くの大切なことを教えてくれます。

家族の愛情や絆を確認させてくれるのは勿論、地域コミュニティーの大切さや、教育の大切さもメッセージとして伝わってきます。

また、個性的なキャラクターを演じる役者にも注目です。

数学の天才であり、夢を諦めないこのジュンギョンという主人公は、『それだけが、僕の世界』で天才的なピアノの腕を持つサバン症候群の青年を、『ただ悪より救いたまえ』(2020)ではドラァグクイーンを演じるなど、これまで様々な役柄に挑戦してきたパク・ジョンミンにふさわしい役柄といえるでしょう。

彼の父親役のイ・ソンミンも喜怒哀楽を全面にして、持ち味を存分に発揮。

作品の「陽」の部分を一身に背負うイム・ユナのコメディエンヌぶり、ジュンギョンの姉役のイ・スギョンの穏やかで温かな佇まい、大人気ドラマ『賢い医師生活』のト・ジェハク先生ことチョン・ムンソン演じる優しく面倒見のいい教師の存在など、すべての演者、キャラクターを好きにならずにはいられません。

関連記事

連載コラム

映画『聲の形』ネタバレ感想と評価考察。京都アニメーション×山田尚子がいじめをテーマにした漫画を映像化|映画という星空を知るひとよ9

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第9回 映画『聲の形』は、耳が不自由な少女とその少女をいじめたことが原因で、コミュニケーションが苦手になった少年の切なく美しい青春ストーリーです。 原作は「マン …

連載コラム

映画『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』感想解説と内容評価レビュー。タイトルの意味(邦題)に隠された意図を考察|SF恐怖映画という名の観覧車147

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile147 車や電車など人類は長い歴史の中で長距離を移動できる手段を手に入れ、空間的距離が生み出す問題は以前に比べ少なくなりました。 しかし、その一 …

連載コラム

映画『愛について書く』あらすじ感想と解説レビュー。脚本家の“お仕事映画”としての愉しみ|OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録8

第15回大阪アジアン映画祭上映作品『愛について書く』 2020年3月15日(日)、第15回大阪アジアン映画祭が10日間の会期を終え、閉幕しました。コロナウイルス感染の拡大に伴い、イベントや、舞台挨拶な …

連載コラム

『アステロイド・シティ』あらすじ感想と評価解説。ウェスアンダーソン監督がSFコメディを独特の世界観で生み出す|山田あゆみのあしたも映画日和12

連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第12回 今回ご紹介するのは、『ムーンライズ・キングダム』(2012)や『フレンチ・ディスパッチ』(2021)などで唯一無二の世界観を誇る監督ウェス・アンダー …

連載コラム

実在の心霊スポット⁈ホラー映画『ウィンチェスターハウス』『死霊館』の超常現象の怪|SF恐怖映画という名の観覧車4

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile004 例年以上に暑い初夏が終わり、ついに夏本番。冷たい飲み物やアイスなどが恋しくなる季節がやってまいりましたね。 映画好きな私としては、クーラ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学