連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」第12回
映画ファン待望の毎年恒例の祭典、今回で11回目となる「未体験ゾーンの映画たち2022」が今年も開催されました。
傑作・珍作に怪作、ド派手なアクションなどさまざまな映画を上映する「未体験ゾーンの映画たち2022」、今年も全27作品を見破して紹介、古今東西から集結した映画を応援させていただきます。
第12回で紹介するのは人質と共に立てこもる武装集団に、単身挑む男を描いたアクション映画『レッド・ブレイク』。
早くから音楽活動を始め、16歳で出演したコカ・コーラのCMでブレイク、シンガーとして大成功を収めたタイリース・ギブソン。2000年にTVドラマ出演し俳優活動を開始します。
『ワイルド・スピードX2』(2003)をきっかけに、今や人気アクション俳優の1人になりました。その彼が製作も務めた主演最新作を紹介します。
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CONTENTS
映画『レッド・ブレイク』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
Rogue Hostage
【監督・製作】
ジョン・キーズ
【キャスト】
タイリース・ギブソン、ジョン・マルコヴィッチ、クリストファー・バッカス、マイケル・ジェイ・ホワイト、ルナ・ローレン・ベレス
【作品概要】
武装集団が乗り込み戦場と化した近所のスーパー!人質の中にいたタイリース・ギブソンが単身敵に挑む!どんな役で出演なのか、ジョン・マルコヴィッチ!一体何が起きるのか、と映画ファン注目のアクション映画。
『ストレンジャー 異界からの訪問者』(2018)や未体験ゾーンの映画たち2020で上映された『プリテンダーズ ふたりの映画ができるまで』(2018)など、数多くの映画の製作を務めたジョン・キーズ。
監督・脚本家としても活躍する彼が手掛けた本作。その主演を『ワイルド・スピード』シリーズのタイリース・ギブソンが務めました。
名優として名高く、また『AVAエヴァ』(2020)などアクション映画に出演することも多いジョン・マルコヴィッチに、『エレベーター』(2012)や『セレブリティ 欲望とセックスの罠』(2016)、Apple TV+オリジナルドラマ『真相 – Truth Be Told』(2019~)のクリストファー・バッカス。
『ブラック・ダイナマイト』(2009)の主演を務め、数多くのアクション映画に出演のマイケル・ジェイ・ホワイト、ドラマ『デクスター 警察官は殺人鬼』(2006~)のルナ・ローレン・ベレスらが共演した作品です。
映画『レッド・ブレイク』のあらすじとネタバレ
闇の中海兵隊員として戦友と共に敵陣に接近するカイル・スノーデン(タイリース・ギブソン)。しかし待ち伏せしていた敵は、彼らに激しい銃撃を浴びせました…。
戦場の悪夢から目覚めたカイルに、娘のエンジェルはテレビが紹介した、アフリカの貧しい子供たちを助けて欲しいと訴えます。
今は海兵隊員を辞め、児童保護局職員として働く父なら、他の国の不幸な子供も助けるはず。そう告げた娘の言葉に、出来る事はすると思うと答えるカイル。
テレビは自身が経営するスーパーチェーンの新規店舗開店を宣言する、エンジェルの祖父サム・サフティ(ジョン・マルコヴィッチ)の姿を映し出します。
それを見てテレビを切るカイル。彼は母の再婚相手の継父サムを嫌ってました。そしてカイルは朝食の前に、娘と共に神に祈りを捧げます。
祈りの中で神に、父が子供を救うのを手助けして下さいと願うエンジェル。そんな優しい娘をカイルは温かい目で見守ります。
その頃、郊外の農場ではイーガン・レイズ(クリストファー・バッカス)が、テレビに映るサムを見つめていました。親父を苦しめた18年間の恨みを償わせる、とつぶやくイーガン。
多くの銃や手製の爆弾を所持するイーガンは拳銃を手に取り、壁に貼ったサムの選挙ポスターめがけて発砲し撃ち抜きます。
児童保護局の調査員として勤務するカイルの女性の同僚、クローブは同性のパートナー・サンシャイン(ルナ・ローレン・ベレス)と電話で会話していました。
電話を終えた同僚に、両親が行方不明になって男の家に預けられている、スパニッシュ系の男の子の調査を手伝って欲しいと告げるカイル。
一方サムのボディーガードを務めるスパークス(マイケル・ジェイ・ホワイト)は、敵の多いサムが人前に出る事を危惧していました。
しかし選挙が近い下院議員のサムに、忠告に従う意志はありません。警備は君の仕事だ、それに自分を狙うほどアメリカ人はクレイジーではない、と応じるサム。
彼はスパークスにカイルの家に向かうよう告げます。サムは義理の息子のカイルに不満を抱いているようです。
祖父を慕うエンジェルは、現れたサムを喜んで出迎えます。戦場の記憶に苦しむカイルの前に現れたサムは、明日の朝は孫娘を連れて行って良いか訊ねました。
彼は新規スーパーの開店セレモニーに孫娘を連れて行き、有権者にアピールするつもりでした。承知したものの気乗りしない様子のカイル。
母の再婚相手を嫌うのは判るし、私は気にしていないと告げるサム。しかしカイルはスパークスに、自分の家に銃を持ち込むなと迫ります。
戦場で仲間を失ったカイルは銃を嫌っていました。敵対的な姿勢のカイルに、妻がお前から去ったことを知っている、だが今は娘のために生きろ、お前の母は私に感謝していたと諭すサム。
サムは継父としてカイルとその娘を気にかけていましたが、息子の戦場で受けた心の傷の深さは理解していないようでした。
翌朝、イーガンは2人の仲間と共に車で出発します。そしてカイルはクローブと共に、問題の子供の家に向かいます。
熱心なケースワーカーとして働くクローブですが、カイルは自分の仕事に限界を感じているようでした。
そんな悩める同僚にクローブは、自分のペンダントに下がる聖クリストファーのメダルを見せます。
旅人を守る聖人、聖クリストファーは幼きイエスを背負い川を渡りました。カイルにペンダントを渡し、全ての子供には救う価値があると励ますクローブ。
イーガンの車がスーパーの駐車場に到着した頃、カイルたちも問題の家を訪問していました。現れた男は、両親のいない男の子を預かっていました。
男はマニーという名の少年が、恩知らずにもナイフを持ち抵抗している、これでは銃を使うしかないと訴えます。子供のいる家に銃があると知り驚くカイル。
男はマニーを地下室に住まわせ、虐待しているようでした。クローブに声をかけると、母は死に父が僕をアメリカに入国させたとマニーは説明します。
父は戻るまでこの男の家に居るように言った。しかし男は意地悪で、父は帰って来ないと訴えるマニー。
2人が少年を保護しようとすると男は激しく反発します。男を取り押さえつけたカイルに、クローブは落ち着くよう言い聞かせます。
手を離すと男は少年に掴みかかります。父からもらったナイフで男の手に切りつけたマニーを、2人は緊急に保護して強引に連れ出しました。
同じ頃イーガンの一味は、スーパーの外部にある設備に細工していました。それに気付いた従業員を射殺します。
2人と共に車に乗ったマニーは心を開き始めます。空腹の少年のために、近くのサムが経営するスーパーに行こうとクローブが提案すると、カイルは拒否しました。
カイルは戦場から戻った、心に傷を持つ自分を継父は臆病者扱いしていると説明します。
戦場の体験は彼を蝕んでいました。これを正直に打ち明けたのは君だけだ、と語ると気を取り直してスーパーに向かうカイル。
イーガンは仕掛けた妨害装置で、スーパーに携帯の電波が通じないと確認します。スーパーのマネージャー・サンシャインは、サムの広報担当の女・ソフィーから無理な注文を聞かされていました。
スーパーの駐車場に入った時、クローブは駐車場にイーガンがいると気付きます。
彼女のパートナーのサンシャインは、高校生の時家庭教師をしていて、郊外の森の中に住むイーガンに言い寄られたことがありました。
あまりにもしつこい態度に、彼女は警官を呼びやっと別れたと説明するクローブ。その後世間との交際を断つように暮らしていたイーガンが、サンシャインの職場に現れたと彼女は不安を覚えます。
サンシャインとソフィーは、店内でスマホが通じなくなった事に気付いていました。
新規オープンの営業前の時間ですが、クローブたちが来たと気付き、一行を店内に入れたマネージャーのサンシャイン。
パートナーと抱き合った彼女はカイルと言葉を交わしますが、従業員から無線連絡を受けその場を離れます。手癖が悪く目をつけられていた若い女従業員ミッキーが、店の商品を盗んでいると報告を受けたのです。
ミッキーを捕らえ保安室に連れて行くサンシャイン。カイルがマニー少年と話していると、スーパーのオーナー、サムの開店セレモニーのスピーチが始まりました。
サムの横にはカイルの娘、エンジェルが立っていました。サムはセレモニーを自分のイメージアップに利用するつもりです。
同じ頃、イーガンたちは武装し襲撃を準備します。ミッキーが盗んだ品々を確認中のサンシャインは、裏口を施錠したかと確認する、従業員の無線の声を聞きました。
彼女が報告を不審に思った同じ時、店内に乗り込んで威嚇発砲するイーガン一味。
彼らは人々を追い込み、銃で反撃した警備員を射殺すると入り口に何かを仕掛けました。
万引きして両親を呼ぶと言われ、自分は養子の里子だと答えるミッキー。サンシャインはそれは不正行為の理由にならないと指摘します。
ところがミッキーが保安室のの監視モニターで、店内の異常事態に気付きました。部下から無線の返事は無く、固定電話も通じないと気付くサンシャイン。
同僚のクローブは胸を撃たれ、カイルはマニー少年の助けを借りて止血します。サムのボディガードのスパークスは、銃を抜き脱出のチャンスをうかがいます。
店内にイーガンの、スーパーの全ての出入り口にC4爆薬を仕掛けた、出ようとすれば爆発で建物全体が潰れると告げる放送が響きました。
それを聞きスパークスは脱出を断念します。放送で大人しく自分の指示に従えと命じるイーガン。
彼はサムに出てこいと要求します。スパークスは襲撃者はここにサムがいるのを知っていると悟りました。
さらにイーガンは自分は自爆ベストを付けている、自分が死に指がボタンから離れれば爆発するので、抵抗するなと警告します。
そして店内の者は全員集まれと指示します。スパークスにどう行動すべきかアドバイスを求めるサム。
姿を現せば殺されると警告するスパークス、自分自身を交渉材料にすべきと告げる広報のソフィー。サムは従業員を守るためにも、姿を見せることを決意します。
パニックを起こすミッキーに、保安室の扉は補強され破れない、落ち着いて潜んでいようと説得するサンシャイン。しかし外部との連絡手段はありません。
ミッキーは部屋から飛び出しました。身を隠しながら逃れようとしますが、警備員の死体を見て悲鳴をあげ、犯人一味に気付かれたミッキー。
瀕死のクローブは、パートナーのサンシャインを助けて欲しいとカイルに訴えます。一味の1人が彼らに気付き来いと叫びますが、犯人に抵抗し逃げ出すマニー少年。
カイルも抵抗を試みますが、クローブからマニーも救って欲しいと頼まれ、やむなく彼女を残し襲撃者の指示に従います。
こうして多くの人質が集められます。その中に娘サンシャインの姿を確認して安堵するカイル。
ミッキーはマネージャーのサンシャインが潜む保安室に戻ります。店内では襲撃者のリーダー、イーガンがこのスーパーチェーンを経営して成功し、下院議員まで上り詰めたサム・ネルソンを呼び出していました。
守ろうと前に立つスパークスを退け、彼はイーガンの元に向かいます。サムにカメラの前で話せと要求するイーガン。
そしてイーガンの父、ルーサー・レイズから金を横領したと世間に告白しろ、と迫ります。横領などしていない、それに20年近く前の話だと拒絶したサムをイーガンは殴ります。
サムを守ろうと行動しかけたスパークスをカイルは止めます。しかし暴行を続ける一味を阻止しようと銃を抜いたスパークス。
これでも抵抗するのかと自爆ベストのボタンを見せたイーガンに、彼はハッタリだと指摘します。
しかしサムから無理をしないでくれ、と頼まれスパークスは銃を降ろします。そして彼はイーガンの仲間に撃たれて倒れました。
辺りが緊張に包まれる中、従業員の1人レイニーが無線のスイッチを入れ、状況をサンシャインに報告します。
そのやりとりを同じ無線機を持つ従業員の男、ジェブが聞いていました。
サムを従わせようとジェブに銃を突き付けるイーガン。しかし密かにイーガンに、サンシャインは保安室だと教えるジェブ。
ジェブはイーガン一味の仲間でした。イーガンはカメラに向かうと、これからサムが話す内容を放送しないと、1時間後にスーパーを爆破すると宣言します。
皆がイーガンに注目する中、瀕死のスパークスはカイルに呼びかけました。
イーガンは要求を呑んでもらうため、誠意の証としてサムやカメラクルーど一部を残し、人質の多くを解放します。
エンジェルと共に出て行こうとするカイルを、イーガンが呼び止めます。彼に言わせると黒人の継子カイルや、孫のエンジェルはサムの有権者の票集めの道具でした。
逃げたマニー少年との関係を問われ、児童保護局で働いていると答えたカイルに、自分が少年の頃現れた保護司は、自分を救わなかったと告げるイーガン。
幼い娘に政治は関係ないと言うカイルの言葉を聞き、イーガンは犯行声明文を持たせ親娘に出ていけと言いました。声明文には「俺は記憶に残る存在だ」と書かれていました。
過去形で書かれた言葉に気付き、相手は犯行後自爆を決意していると判断したカイル。
解放する人質が集められれた時、カイルは従業員のジェブが襲撃者から銃を受け取る姿を目撃します。彼は娘に外に出るよう指示します。
カイルは娘の祖父サム、そして瀕死のクローブから守って欲しいと頼まれた、マニー少年とサンシャインを救うために密かに店内に残りました。
娘たちが解放される中、クローブの元に向かったカイル。しかし彼女はすでに息を引き取っていました…。
映画『レッド・ブレイク』の感想と評価
いかがですか、ご近所スーパーマーケット版『ダイ・ハード』(1989)は。この作品の特徴にはもう、お気付きですね?
タイリース・ギブソン演じる主人公カイルは、PTSDに苦しむ元海兵隊員。おかげて銃の握れぬ男でシングルファーザー。その娘エンジャルは幼い正義感を持つ博愛主義者。
マニー少年は不法移民で、虐待を受けている親無し子。彼を救おうとするカイルの同僚クローブはレズビアン。ちなみに元軍人のカイルも同性愛者のクローブも、敬虔なキリスト教徒です。
クローブのパートナーが、スーパーの女マネージャー・サンシャイン。彼女の部下は学費のため働く苦学生のレイニーと、万引きの常習犯とはいえ家庭に問題があるミッキー。
以上がスーパーを襲ったテロリストと対決するメンバーです。ポリティカル・コレクトネス、通称ポリコレに配慮した、「政治的に正しい人のオールスターズ」といったところです。
一方ジョン・マルコヴィッチ演じる、スーパーのオーナーで下院議員のサムは極悪人ではないものの、言葉の端々に戦地で戦った者や、低賃金労働に従事する者を軽視する姿勢が見える人物。
彼の広報担当ソフィーも同類。自己中心的でで他者を手助けしない、高所得ホワイトカラー層の代表でしょうか。
「政治的に正しい」アクション映画爆誕!
犯行グループ側に目を移しましょう。イーガンは田舎に住む孤立的な男で、銃を所有し爆弾まで作る保守的な人物。そんな男がサンシャインに、しつこく恋慕するのは皮肉かもしれません。
仲間は彼のいとこたち。こういった銃を所有する右派の人物は、地域に根付き血縁で結ばれた閉鎖的社会の住人ということでしょうか。彼らに手を貸すジェブは、社会に恨みを抱く低賃金労働者層の代表の模様です。
これら登場人物の肌の色を振り替えりましょう。現在ハリウッドが推奨している(?)、「政治的に正しい人々」「おちょくってイイ人々」「悪役に相応しい残念な人々」と見事に分類されます。
ポリコレを通じ世の中を正しい方向に導こうとする試みには、意義もあると思います。しかし本作製作にも参加した、タイリース・ギブソンはこう語っています。
「本作はこのようなメッセージを持つが故に、権力者たちが何度も封印しようとしたタイプの映画だと言えるでしょう」
「人種差別主義者の白人男性共和党員が、大量殺人を行うテロリストとして店に現れる。この人物が行いを全て映画化するのは、簡単ではありません」
本作のメッセージを、思いっきりストレートに語っています。アメリカ芸能界の大物、タイリース・ギブソンに賛同した人々でしょうか、本作のプロデューサーは40名近くがクレジットされました。
私、”船頭多くして船山に上る”なんて、一言も言ってませんよ。でも本作の監督と脚本家、映画完成後はあまり作品について、多くを語っていないようです。
もっと深掘りして欲しかった現代社会の縮図
「私はプロデューサーとして、本作の脚本を60ページも直した」と語るタイリース・ギブソン。感染症の影響で映画製作が困難になる中で、本作はニュージャージーでコロナ禍後、最初に撮影された映画だと、その意義を説明しています。
彼はハリウッドスター、そしてセレブの責任を果たそうと、多くの才能を持つ人物と共に多難な時期に映画を撮影し、世間に潜む様々な問題を世に問おうと本作を作りました。
しかし本作、「政治的に正しい人々」が多すぎです。しかし要はアクション映画に登場する人々を、善良なマイノリティーに置き換えただけとも言えるでしょう。
例えば登場人物が同性愛者である必然性は皆無。パートナーを案じる人質を同性愛者に置き換えただけで、ストーリーに大きく関与する設定ではありません。
移民・虐待される子供、学費に苦しむ若者。そういった人々を労働者として搾取するチェーン店オーナー…不公正な社会の縮図ではありますが、単に登場人物として羅列しただけと指摘するのは失礼でしょうか。
例えばPTSDに苦しみ、銃を手にとる事が出来ない主人公。それでも人々を救おうと襲撃犯に挑む姿に焦点を当て描くだけで、今までに無いアクション映画になったでしょう。
しかし彼の葛藤の描き方は不十分。銃が使いたいんだか、使いたく無いのかよく判らなぬシーンが続き、「こんな方法で敵を倒す方が、トラウマものでは…」とツっこみたくもなりました。
最後にラスボスを倒しますが…これって「トラウマを乗り越え敵を銃で倒しました。やっぱり銃は、頼りになりますね!」というメッセージでしょうか?
政治的正しさを追求した本作ですが、全体の展開は『ダイ・ハード』型のアクション映画そのもの。「政治的に正しい」メッセージを伝えるために、ストーリーが機能したとは思えません。
例えば白人貧困層の男性の襲撃犯イーガンが、マイノリティーの苦学生の女性レイニーの方が、自分より恵まれていると告げるシーン。
このような男女・肌の色・収入格差など立場の違う者が、互いを妬み自分は不当に扱われている、と対立しあう構図は世界中で起きています。原作小説も話題の韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019)は、そんな視点も大切に描かれた作品です。
しかし本作はこういった対立構造を掘り下げません。単に脚本に1エピソードとして追加しただけ、全体ではむしろ対立構造を煽る作品、というのは言い過ぎでしょうか。
そ「人種差別主義者の白人男性共和党員」が犯人の本作、彼が信念から犯行に及んだと描くのは道義的にマズいと判断したのか、金目当ての行動だと種明かしして観客を安心させます。
これまた『ダイ・ハード』シリーズと一緒の、政治性を否定し映画を娯楽として楽しませる設定です。ラストの爆発の規模が残念な本作、それ以外にも色々と問題があるようです。
まとめ
と、かなり厳しい指摘をさせて頂いた『レッド・ブレイク』。それでもB級映画・アクション映画ファンには楽しい作品です。
“政治的な正しさ”と”アクション映画の定石”の狭間で、右往左往するタイリース・ギブソンの姿も…まあ、愉快ですね。
そしてご近所スーパー内の攻防戦は、「お前、まだ死んでないのか!」「まだ動けるのかよ!」などとツッこみながら楽しめる映画です。
そしてハリウッドでは珍しく、保守的な人物として知られるジョン・マルコヴィッチの本作への起用は、”バランス感覚”という奴でしょうか。
インタビューに「作品のテーマについては、映画を見てないから判らないんだ」「3日間の撮影で、32シーン撮ったよ」「ともかく最後にはタイリース・ギブソンと、いいシーンがあるんだよね~」と答えたマルコヴィッチ、実に大人です。
ポリコレを重視し反保守、反トランプの人々が主流を占めるとされるハリウッド。その縮図も見せた作品としても興味深いです。純粋にアクションは楽しめますから、安心してご覧ください。
散々「政治的な正しさ」を追求しながらも、本作で最後に利益を得るのは「多少ズルくても、抜け目のない人物」。権力者や金持ちを出し抜いた人物なら、いささか悪人でも喝采をあびせる…これもまた、ハリウッド映画的ですね。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」は…
次回の第13回は子供を国家が所有し管理する軍事政権に抵抗する、先住民の人々の姿を描いた近未来SFアクション『ディストピア2043 未知なる能力』を紹介いたします。お楽しみに。
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増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)