連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」第1回
映画ファン毎年恒例のイベント、今回で11回目となる「未体験ゾーンの映画たち2022」が、2022年1月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷で開催されました。
傑作・珍作に怪作、復活した名画など様々な作品を上映する「未体験ゾーンの映画たち2022」、今年も全27作品を見破し、紹介して古今東西から集められた映画を応援させていただきます。
第1回で紹介するのブラジル・日本・アメリカ合作の、グラフィック・ノベルを原作としたソード・アクション&ヒロイン任侠映画『ヤクザプリンセス』。
20年前、なぜかKinkaku-ji(?)が建つOSAKA JAPANから始まった因縁が、妖刀”村正”を軸にサンパウロの日本人街で、血で血を洗う壮絶バトルを引き起こす…。
映画にも「文化的に正しい描写」が求められる風潮の中、グラフィック・ノベルが原作の本作は、ほど良い誇張とフィクションで描いた日本、「劇画チックJapan」が登場します。スタイリッシュな映像世界は必見!見逃せない一本の登場です。
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CONTENTS
映画『ヤクザプリンセス』の作品情報
【日本公開】
2022年(ブラジル・日本・アメリカ映画)
【原題】
Yakuza Princess
【監督】
ヴィセンテ・アモリン
【キャスト】
MASUMI、ジョナサン・リース=マイヤーズ、伊原剛志、尾崎英二郎、ケニー・ルー、竹嶋利仁、マリコ・タカイ
【作品概要】
自分を育てた祖父を無くし、サンパウロで孤独に剣の道に生きるアケミ。彼女はヤクザ一族の血を引いていました。彼女の前に、記憶を無くした刀傷だらけの白人の男が現れます。そして始まる宿命の対決を描く、バイオレンス・アクション映画。
監督は「未体験ゾーンの映画たち2018」上映作品、『モーターラッド』(2017)のヴィセンテ・アモリン。彼は第2次大戦後に抗争劇を引き起こした、ブラジル日系人社会を描いた映画、『汚れた心』(2011)も監督しています。
ロサンゼルスでミュージシャン活動をしているMASUMIが、初の映画主演を務めた作品です。共演は『ベルベット・ゴールドマイン』(1998)で人気を高め、『M:i:III』(2006)や『ストーンウォール』(2015)に出演したジョナサン・リース=マイヤーズ。
アモリン監督の『汚れた心』に出演、『硫黄島からの手紙』(2006)や『ラスト・ナイツ』(2015)と合作・海外映画への出演豊富な伊原剛志。
同じく『硫黄島からの手紙』に出演後、海外ドラマ『HEROES』(2006~)や『高い城の男』(2015~)など、ハリウッドを拠点に活動する尾崎英二郎が共演しています。
映画『ヤクザプリンセス』のあらすじとネタバレ
Osaka Japan、20年前。3つの山をあしらった家紋が掲げられ、鎧兜が飾られた式典の場に多くの人々が集まっています。
その中に母に抱かれた幼い女の子と、その兄の男の子がいます。男の子が鎧兜と共に置かれた日本刀を抜くと、刀身には”村正”と刻印されていました。
式典の中心人物らしい家族が、記念写真の撮影に集まると襲撃が始まります。銃と刀を使用した闘いとなり、女の子は何者かに連れられ逃げますが、家族は次々殺害されます。
男の子は母に駆け寄りますが、既に息絶えていました。冷酷な襲撃者はその子を射殺しました…。
São Paulo Brazil、現在。傷だらけの男(ジョナサン・リース=マイヤーズ)が病院で目覚めます。混乱したままベットから離れ、状況が判らぬまま駆け寄る看護士を殴り倒し、鎮静剤を注射され意識を失う男。
同じサンパウロの剣道道場でアケミ(MASUMI)が、師範のチバ(竹嶋利仁)から厳しい稽古を受けていました。稽古に耐えかねたアケミに、6歳のお前を私に預けた祖父が望んだように、お前は真の戦士になる必要がある、と諭す千葉。
道場主のチバは、彼女に剣と一体となれと告げました。その言葉に従い、迷いを断ち切ったアケミは、鋭く竹刀を振るいます。
サンパウロの日本人街。ここは世界最大の日系人コミュニティで、アケミが暮らす街でした。
その頃、大阪のとある場所では、ヨシアキがヤクザたちに拷問を受けていました。その男の前に現れるヤクザ組織の幹部タケシ(伊原剛志)。
タケシの舎弟であったヨシアキは、残される母の面倒を見てもらう代償に、とタケシにある秘密を打ち明けます。
それを聞いたタケシは、口封じに拷問していたヤクザを射殺します。秘密を知り俺を運命を決まったとつぶやくと、ヨシアキも射殺するタケシ。
サンパウロ日本人街の、ツガハラ(マリコ・タカイ)の店で働くアケミの前に、友人のサマラが現われます。アケミは友人のように人生を楽しんでいません。帰宅すると亡き祖父レンの位牌に線香をあげるアケミ。
手錠でベッドにつながれた病院の男は、記憶喪失だと診断されました。患者は米国人か英国人と思われますが、身元は不明です。現れた刑事は男に日本刀を見せました。
日本刀には”村正”と刻まれています。発見された時、君はこの刀を持っていた。君はこの刀で傷つけられた、何か覚えているかと尋ねられます。
何も覚えてない、と答えた男は1人になると点滴の注射針を抜き、それを使い手錠を外します。ベッドを出た刀傷の男は非常ベルを鳴らして注意をそらし、証拠品の日本刀を掴んで病院を出ました。
大阪ではタケシが組織の親分ケンイチに、ヨシアキを始末した件を報告していました。しかし彼は、ヨシアキから聞いた件は親分に伝えません。彼に部下を殺された組織の幹部、コジロー(尾崎英二郎)は責任をとれと詰め寄ります。
コジローに追及されてもシラを切りますが、組と親分にケジメをつけようと、指を詰めようとするタケシ。
タケシに信頼を寄せる親分は指詰めを止めさせます。コジローが勝手に振るまうタケシを信用するなと親分に訴えると、タケシは声を荒げ恫喝します。
俺は何十年も組と親分に尽くしたと叫ぶタケシに、それは以前俺がお前の命を救ったからだ、と指摘するコジロー。
その夜、サンパウロではアケミが、祖父から受け継いだ紋章を腕にタトゥーとしていました。それは3つの山をかたどっています。
アケミは射殺された祖父の体に、この入れ墨があったと彫師に語ります。警察からは祖父の殺害犯は不明だが、おそらく強盗を試み失敗した者だ、と説明されたアケミ。
その日はアケミの誕生日です。カラオケ・バーで友人のサマラが祝いますが、そこでチンピラたちに絡まれ乱闘騒ぎを起こすアケミ。警察が駆け付け、彼女の身元は師匠のチバが引き取りました。
自分の記憶を取り戻せない刀傷の男は、ヒントを得ようと日本人街の骨董店に入り、店主から自分が持つ”村正”の日本刀の説明を求めます。
かつてこの店に、”村正”を研ぎたいと持ち込んだ男がいた。日本人たちは”村正”を血に飢えた、呪われた妖刀と信じていると語る店主。
男に脅された店主は、この刀はおそらくヤクザが絡んだいわく付きだと教え、かつて“村正”を持ち込んだ男の住所を渡します。
自宅に戻ると位牌に今日21歳になったと報告し、祖父レンの遺影と酒を酌み交わすアケミ。今日同じ紋章のタトゥーを入れた、と彼女は報告しました。
反対するかもしれないが、タトゥーは正しい行為と信じていると語り、亡き祖父を想い涙を流すアケミ。
翌日、刀傷の男は手がかりを求め、骨董屋店主に渡された住所を訪れます。そこはアケミのアパートでした。
密かに日本を出国しサンパウロに現れたタケシは、現地の日系人裏社会の男(ケニー・ルー)から銃を入手します。
同じ頃自宅に向かっていたアケミは、トラブルとなったチンピラたちの襲撃を受けました。反撃しつつ、必死に自宅に向かうアケミ。
手こずると銃を発砲するチンピラたち。彼女は自室に逃げ込みますが、数で勝り銃を持つチンピラに追い詰められます。その時、アケミは部屋に男が潜んでいると気付きます。
その男こそ、記憶の無い刀傷の男でした。彼は日本刀でチンピラたちに斬りかかり、アケミを助けますが肩を撃たれ倒れました。
男が落とした“村正”を掴んだアケミ。すると妖刀が使用された修羅場の記憶、彼女の内に眠る記憶が甦ります。刀を振るい銃を持つチンピラの手を切り落とすアケミ。
立ち上がった刀傷の男がアケミを逃がそうとした時、何者かがチンピラを射ちます。それはこの場に現れた日本のヤクザ、タケシでした。
チンピラたちを射殺したタケシは、刀傷の男にも発砲します。男はアケミと共にアパートの屋上に逃れ、屋上伝いに逃げる2人をタケシは追ってきます。発砲して迫るタケシに格闘を挑む刀傷の男。
2人はタケシから逃れることができました。その際、タケシはアケミに向かい“アキ”と呼びかけました。
チバの剣道道場に逃げ込んだアケミは、刀傷の男を治療します。なぜアパートにいたのかと彼女に問われ、自分の記憶を取り戻す助けが欲しいと打ち明ける男。
アケミの記憶では祖父は日本刀は持っていません。彼と話したいと言う男に祖父は死んだと伝えるアケミ。彼女は消毒薬を求めて道場の中を探します。
師匠のチバの部屋で薬を求め木箱を開けたアケミは、写真が入っていると気付きます。
その中の1枚は、冒頭の大阪の襲撃事件の際に取られた写真で、彼女は家族と並んで映る男が、先程自分を“アキ”と呼んだ襲撃者だと気付きました。
そこにチバが現れます。写真に写る人々は自分の家族かと師に尋ねるアケミ。写真の家族の背後には、3つの山の家紋が広げられています。
写真の裏には1999年夏、と記してあります。写真の中で母に抱かれる幼い子が私か、と尋ねるアケミ。
アケミの問いに答えず、彼女が持つ日本刀を手にするチバ。その刀身に”村正”と刻まれています。
弟子のアケミが、秘められた過去の因縁と巡り合ったと悟ったチバは、自分はお前を救えないと告げます。そしてお前の勤め先の店主、ツガハラに聞けと告げるチバ。
彼女は自分の出生に秘密があり、周囲にそれを知りながら隠し続けた大人たちがいたと悟ります。この”村正”がお前を見つけたと語るチバ。今のお前と刀は一体だ、行くがよいと命じます。
アケミが去った後に現れた刀傷の男に、殺しに来たのかと尋ねるチバ。男は答えずアケミの後を追いました。
ツガハラ夫人の前に現れたアケミは、彼女に祖父レンについて尋ねます。ツガハラはレンと8年間付き合いがありましたが、彼女にもレンが孫娘に秘密にした詳細は知りません。
しかしツガハラの、死の直前の行動は奇妙だった、彼は去るべき時が来たと語っていたと教えます。かつて祖父レンが旅行した場所に向かえと、アケミに住所を渡すツガハラ。
そこは日本語で“緑の谷”と記された場所です。駅に向かうアケミの後を、刀傷の男がつけていきます。
乗り込んだ列車の中で、チバから渡された写真をながめるアケミ。その頃、彼女のアパートでは検視官たちが、チンピラたちの殺害現場を調べていました。
そこにコジローに率いられたヤクザの一団が現れます。部屋からアケミの写真を入手すると、検視官たちを殺し立ち去るヤクザたち。
列車でアケミの隣に座った刀傷の男と、アケミは”緑の谷”を目指します。改めて男は自分には記憶が無い、記憶を失った場所で、“村正”の日本刀と共にいたのが手掛かりだと説明しました。
自分には力になれないかもしれない。そう語ったアケミは男の手助けに感謝します。しかし祖父のレンは、刀やヤクザとも無縁な、無害な老人だと説明します。
無害な老人などいない、と応じる男。ツガハラに教えられた人里離れた寂れた場所に、建物が立ち並んでいました…。
映画『ヤクザプリンセス』の感想と評価
スタイリッシュ&血みどろで描く、胸熱の因縁抗争劇映画『ヤクザプリンセス』、いかがだったでしょうか?
冒頭で大阪に金閣寺が登場したシーンに、これからどうなる?、と感じた不安はすぐに吹き飛んだ痛快娯楽作。
これはTokyo Japan Kinkakuji のシーンから始まった、ショー・コスギ主演のトンデモニッポン忍者映画『ニンジャ(ニンジャ/転生ノ章)』(1984)へのリスペクトでしょう(?)。
大阪で麺をすする伊原剛志は『ブラック・レイン』(1989)への、黄色いジャージ軍団はブルース・リー、そして『キル・ビル Vol.1』(2003)へのオマージュか…本作は「日本を描く海外アクション映画たち」への、愛に満ちた作品です。
こう紹介すると、ドルフ・ラングレン主演のトンデモニッポン映画、『リトルトウキョー殺人課』(1991)のサンパウロ版かも、と誤解する方がいるかもしれません。
とんでもありません。本作のクオリティは高く、ハリウッドスケールで作られた、リアル感ある任侠モノVシネマ、と呼ぶべき映画です。
間違いなく世界で日本人が一番楽しめる、”ガイジン”が真面目に描いた“ニッポン映画”。この魅力の背景を解説していきましょう。
「劇画チックJapan」をスタイリッシュに描く
本作の原作はブラジルのグラフィック・ノベル「SAMURAI SHIRO」。劇中でアケミの友人が持ってきた本の表紙がこの作品です。作者はマーベルコミックでも活躍する、ダニーロ・ベイルース。
彼は日本の劇画「子連れ狼」の大ファンであり、劇画などフィクションの分野に登場する、娯楽として誇張して描かれた日本文化の良き理解者です。
よって劇画や娯楽時代劇、Vシネマのテイストが大好きな方なら、間違いなく『ヤクザプリンセス』が気に入るでしょう。
また彼は本作監督ヴィセンテ・アモリンの映画『モーターラッド』に登場するキャラクターを創造した人物です。彼の世界観を理解する監督との共同作業で、実にユニークな作品が誕生しました。
ダニーロ・ベイルースは、熱狂的“日本びいき”ではなさそうです。彼にはマカロニウェスタン、SF、クトゥルフ神話の影響を受けた作品があり、様々な異国・異文化ポップカルチャーに興味を抱くアーティストです。
そんな彼だからこそ、冷静に日本文化のリアルな部分と誇張した部分を織り交ぜ、見応えある物語を創造できたのです。映画の中に崩壊した「なんちゃってニッポン描写」は無い、と約束しましょう。
なお原作タイトルの「SAMURAI SHIRO」が、少々気になっています。日本のプロレスラー、越中詩郎は1984年、三沢光晴と共にメキシコに遠征した際、”Samurai Shiro”のリングネームを使用しているのです。
メキシコ遠征から帰国した三沢光晴が、2代目タイガーマスクとしてリングデビュー…したのは余談です。サブカルチャー好きの原作者だけに、メキシコ時代の越中詩郎のリングネームを、このキャラクターに与えたのかもしれません。
誰か優れたグラフィック・ノベル作家として活躍する、ダニーロ・ベイルースご本人に質問して下さい!
海外で活躍する日本人俳優たちが集結
いくら日本を「忠実」に描こうにも、使われるのが“ヘンな日本語”では興ざめです。そして英語圏市場を意識した本作は、日本語と英語を織り交ぜたセリフ回しが重要です。
そんな本作での伊原剛志の演技は完璧。ヴィセンテ・アモリン監督は『汚れた心』で主役に起用した彼に、絶大な信頼を寄せていました。
『汚れた心』はブラジルの映画祭を中心に、数多くノミネーションされ受賞した作品です。監督は自分にとって初めてとなる、剣を使うアクション映画を撮る際に、彼の演技に大いに助けられたと語っています。
伊原剛志は刀を使ったアクションを熟知している本物だ。『十三人の刺客』(2010)を見て欲しい。三池崇史監督が彼に執着するのも理解できる、とインタビューに語ったアモリン監督。
MASUMIにとって日本語・英語は問題ありませんが、本作が長編映画初主演の彼女は、大きなプレッシャーを感じていました。
彼女の最初の撮影はカラオケバーでの乱闘後、祖父の遺影の前で泣くシーン。初めて撮影セットに入り、感情的場面を演じるのは難しく緊張した。しかし監督は私が演技に入るには時間が必要と理解しており、おかげで満足できるシーンになった。
物理的にもスケジュールも厳しかったが、クルー全員と強く団結して完成させた、特別な思い出となる映画が『ヤクザプリンセス』だ、と話しているMASUMI。
現在はハリウッドで活躍している尾崎英二郎は、アモリン監督は俳優のアイデアを演出に取り入れ、リハーサルに多くの時間を割いて、じっくり撮影に取り組む映画作家と紹介しています。
オーストリア生まれの監督はロンドン、ワシントンDC、オランダそしてブラジルなど世界各地を転々として育ち、英・仏・スペイン・ポルトガル語を操る、今はブラジルで活動する人物です。まさに本作に適任の人物でしょう。
その他日本人・日系人役の俳優も、違和感を感じさせぬ人物ばかり。日本の芸能界に限界を感じ、ハリウッドに活躍の場を移した、主人公の師匠を演じる竹嶋利仁。
TVドラマ『MACGYVER/マクガイバー』(2016~)や『S.W.A.T.』(2017~)などでゲスト出演を重ね、インドやシンガポール制作作品にも活躍の場を広げている俳優です。
またマリコ・タカイは、ジャレッド・レトがジョン・レノンを殺害した人物、マーク・チャップマンを演じた映画『チャプター27』(2007)で、オノ・ヨーコ役で出演と聞くと納得する雰囲気の持ち主です。
その他の登場人物も実にリアル。中国系アメリカ人俳優ケニー・ルーは武道の達人であり、迫力ある格闘シーンを生み出すために起用されました。
まとめ
日本文化を扱ったB級映画や、Vシネマ的作品ファンなら必見の『ヤクザプリンセス』。タイトルやビジュアルに魅かれて鑑賞した方は、絶対に満足するはずです。
そして日本人・日系人&ブラジル人に囲まれ奮闘する男、ジョナサン・リース=マイヤーズ。マイノリティー側の人物を演じる事が多い印象を受けますが、今回の孤独に闘う姿も彼にピッタリです。
ところで彼はいきなり、“Shiro”の名を与えられます。“シロー”でなく“シロ”で、原作「SAMURAI SHIRO」とは「白人のサムライ」の意味でしょうか?これ、コンプライアンス的にどうでしょう。
しかし劇中で、この名を与えられるシーンを見ると、…“シロ”って犬の名前?、と感じたのは私だけでしょうか。この後主人に忠実に仕え、武士道・任侠道的な自己犠牲の限りを尽くしそうな、彼の姿を見るとそんな気がします。
主君に忠実な武士道の美学とは、究極のマゾヒズムだ、とも言います。そんな「劇画チックJapan」のムードが強く漂わせるシーンでした。
MASUMIは撮影現場でジョナサン・リース=マイヤーズは、まだ演技の経験の浅い私に「あなたは常に美しい。だから、それに逆らうんだ」とアドバイスしてくれた、と語っています。
その言葉に従い他人の目、つまりカメラにどう撮られるか意識せず、自分の感情を表現することに集中できた、と振り返っているMASUMI。
撮影現場でナイスガイで、劇中のアクションもカッコいい、男も惚れるジョナサン・リース=マイヤーズ。
しかし全身刀傷だらけで、お姐さんには散々ボコられ、武士道・任侠道に目覚めて、”Shiro”の名を与えられる姿は…もの凄く”ドM”に見えました。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」は…
次回の第2回はロシア発の天真爛漫ファンタジー、おとぎ話の世界を豪華絢爛に描いた映画『マジック・ロード 空飛ぶ仔馬と天空の花嫁』を紹介いたします。お楽しみに。
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増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)