連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第31回
大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。
今回は2021年10月から放送が開始され、ついに最終回を迎えたテレビアニメ版『無限列車編』を2020年公開の劇場版と比較。その違いを解説していきます。
放送決定当初より新たな新規カットの追加が発表され、多くのファンが期待を寄せていたテレビアニメ版「無限列車編」。オンエアが開始されると至るところに新規カットが組み込まれ、無限列車の激闘を熱く彩っていました。
本記事ではOP・ED映像や次回予告映像も含め、テレビアニメ版と劇場版の違いを比較・解説していきます。
テレビアニメ版『無限列車編』OP・ED映像を解説
テレビアニメ版では当然ながらも、劇場版にはないOP・ED映像が新規で制作・放映されました。
『鬼滅の刃』に限らず、OP・ED映像はその作品のストーリー展開や結末を暗示していたり、主人公など特定のキャラクターの心情を表現していたり、作品にとって大きな意味を待たせる一種の演出として利用されています。
LiSAが手がける『明け星』『白銀』がOP・EDテーマに起用されたテレビアニメ版『無限列車編』。そのOP・ED映像から読み取れる情報を解説・考察していきます。
OP解説その1:転車台に乗る無限列車
冒頭のイントロ部分では列車基地から出庫され、走行準備のために転車台(列車を動かすターンテーブルのような台)に乗せられ回転する無限列車が登場。やがて先頭車両のランプが点灯し、作品のロゴが表示されます。
こちらは列車の出発点である基地から今まさに発車しようとしている様子から、動き出した物語を暗示しているように感じられ、これから始まる物語への期待が高まる演出になっています。
OP解説その2:水中に沈んでいく炭治郎
楽曲がBメロに入ると、水中に沈んでいく炭治郎が描かれます。そして炭治郎の脳裏に浮かんだ映像と思われる、亡くなった家族の姿が登場。その後、吹雪の山の中を走る炭治郎の映像が流れます。
家族の映像は劇中で炭治郎が見る夢そのものであり、走る炭治郎はその夢の中で苦しんむ様子を暗示しながらも、炭治郎自身の胸中にはいつも家族への想いがあり、その想い故にいまだ苦しんでいることが読み取れます。
炭治郎の胸中を心象風景的に描き、本編における炭治郎の心情描写をさらに補完した演出といえるでしょう。
OP解説その3:車内で戦う煉獄の一瞬、見せるほほえみ
楽曲のサビに入ると、映像がバトルシーンに移り変わります。その中で、無限列車内で襲い来る触手と戦う炭治郎たちの様子が描かれ、その姿を見ていた煉獄が一瞬、微笑みを浮かべています。
いつも自信にあふれ笑顔でいる煉獄ですが、この時の自然な微笑みとまなざしからは優しさが感じ取れます。そこからは、煉獄が炭治郎たちをいまだ成長過程にありながらも、その行く末に期待し頼もしく思っているように感じられ、煉獄が最期に炭治郎らに想いを伝える場面を連想させます。
OP解説その4:煉獄の背を追う炭治郎
楽曲の終わり、いわゆるアウトロが流れる場面では、走る炭治郎が背を向ける煉獄に向かって何事か叫ぶ場面が登場します。
その時、煉獄は決して振り向くことはありません。また周囲はあたり一面が火の海となっており、劇中に登場した煉獄の無意識領域のようにも感じられます。
この場面は、煉獄の死を暗示しているように感じられますが、その背中で語る生き様で炭治郎に影響を与え、後輩たちの前に立ち続けた煉獄の人柄を示しているようにも感じられます。
ED解説その1:夜空に流れる流星
楽曲のイントロでは日が暮れ、空を覆う星空に一筋の流星が輝く映像が映し出されます。瞬く間に流れていく流星ですが、その残光は強くはっきり残っているのが印象的です。
こちらの演出は夜空に流れる流星が瞬く間に消えてしまいますが、鮮烈な印象と希望を抱かせるように炭治郎にとって煉獄との出会いが短い時間であったにもかかわらず、その人生に多大な影響を与えたことを暗示しているといえます。
ED解説その2:線路を歩く炭治郎たち
Aメロが始まると、線路の上を歩く炭治郎たちの姿が映し出されます。
炭治郎たち4人から少し先を悠然と歩く煉獄の姿が目を引くこちらの場面は、煉獄が先達として炭治郎たちを引っ張っていこうという気概と、後輩の前に立ち続ける生き様を表現しているといえます。
煉獄がいつもの表情なのに対し、炭治郎が引き締まった表情で煉獄の後を追う様子からも、炭治郎らも必死に煉獄の後についていこうとしている心情が読み取れます。
ED解説その3:走り抜ける列車
楽曲のアウトロ付近になると、無限列車がまっすぐな道を走り抜ける映像が登場します。そして最後には、走る列車から空に浮かぶ月を映す演出がされています。
列車が走り続けているこちらの場面は、OPテーマ『明け星』のイントロとは対照的に、「無限列車編」以降も物語が続いていくことが連想できます。
また最後に映し出される月は三日月であり、夜中に姿を見せ日が昇ったのちも見え続け、正午頃に見えなくなる月とされています。つまり、明け方にはまだ見えていることになります。
この月の動きを物語の行く末と重ねて考えると、未だ道半ばと捉えることができ、まだまだ炭治郎たちの戦いが続いていくというメッセージが含まれているのかもしれません。
『無限列車編』劇場版とテレビアニメ版の本編を比較!
テレビアニメ版『無限列車編』放送開始に先立って公開された『アニメ「鬼滅の刃」プロモーションリール 2021』では、第1話が無限列車へと至るまでの煉獄の物語を描いた完全新作になることが発表されました。
以降の2~7話については、劇場版をベースとしながらも新規カット・新規BGMを追加し、テレビアニメ用に再編集しています。こちらの新規カットの数々が、劇場版がメガヒットを記録したテレビアニメ版『無限列車編』をさらに盛り上げ大きな話題を呼びました。
そんな数々あった新規カットの中から、特に印象的だったものをピックアップ。劇場版と比較し、解説していきます。
本編比較その1:闇夜を走る無限列車
物語の舞台となる無限列車ですが、テレビアニメ版ではところどころに闇夜を疾走する無限列車の様子を描いた新規カットが追加されていました。
話が切り替わる場面や各話の冒頭やED前などに追加されているこれらの場面は、製作側の思惑としては劇場版作品をテレビアニメ作品として編集する上での「つなぎ」の目的で挿入したと思われます。
しかしこの演出は、物語が進むにつれて濃さが増す闇の中を走る無限列車の姿によって、物語に流れる不穏な空気を徐々に強めていく演出を意図していたといえます。
中でも物語序盤で炭治郎らが魘夢に眠らされ、醒めることない夢の中に落ちていく際に挿入された無限列車の走行シーンは、視聴者の不安を最も煽っていると感じられました。
本編比較その2:炭治郎の無意識領域から抜け出す少年
テレビアニメ版では炭治郎の夢の中、いうなれば無意識領域に入り込むことに成功した結核を患った少年が、炭治郎の覚醒と共に崩壊する無意識領域から落下する場面が追加されています。
こちらは劇場版はおろか、原作コミックでも詳細には描かれていないため、夢に入り込んだ少年少女たちがどのようにそれぞれの夢から抜け出してきたのかが分かる場面になっています。
また原作コミックでは、目覚めた炭治郎に抵抗するそのほかの少年少女らとは裏腹に、この少年が炭治郎の心に救われたという描写がありましたが、劇場版では触れられていませんでした。
しかしテレビアニメ版では無意識領域が崩壊する際、少年の中に炭治郎の心の化身、通称“光の小人”が入り込む描写が追加され、さらに少年の胸中のつぶやきにより、自身の心を温かく照らしていることが語られています。
『鬼滅の刃』では原作コミックの中でつづられる説明書きをナレーションで補完するなどの演出が取り入れられていなかったことからも、テレビアニメ版ではこの場面を少年のつぶやきにより解説し、より作品の理解を深めることができる演出になっています。
本編比較その3:決死の形相で自身の頸を斬る炭治郎
魘夢の血鬼術により眠りに落ち、家族との幸せの夢を見ていた炭治郎が、夢から目覚めようと自身の頸を斬り、自死することで目覚めようとする場面。
テレビアニメ版では炭治郎が覚悟を決め、自ら頸を斬るまでに追加カットが挿入。具体的には頸に添えた刃が震えるカットと、頸を斬る直前にカッと目を見開き、禰豆子の名を叫ぶ姿を描いたカットが新たに加えられています。
その後の劇中にて魘夢は、夢の中とはいえ何度も自死するのは相当な胆力が必要であるといった旨のセリフを口にしますが、炭治郎が何度も術にかかり、その都度術を解除しているため、こちらのセリフの重みが薄れているようにも感じられます。
しかしこの追加カットにより、炭治郎が相当な覚悟と恐怖を克服し、禰豆子への強い想いから頸を斬ったことが感じられます。
これにより以降、炭治郎が何度もこのような苦しみの末に、魘夢の術を解除していることが分かり、その後の物語の中でも炭治郎の心の強さを想像させる演出となっています。
本編比較その4:横転する無限列車
無限列車と同化した魘夢を倒すことに成功した炭治郎と伊之助ですが、悶絶する魘夢にあわせ列車は脱線・横転します。こちらの場面でも、テレビアニメ版では新規カットが追加されていました。
劇場版も横転する際の様子を鮮明に描いていましたが、テレビアニメ版ではさらに詳細に描かれていることから、劇場版以上の迫力を感じさせる場面となっており、横転のすさまじさがより一層観る者に伝わってきます。
この演出により、間接的に頸を斬られた魘夢の悶絶の激しさ、ひいては断末魔の苦しみを表現しているとともに、それほどの横転であったにもかかわらず、死者を出さず被害を抑えようと尽力した煉獄の技量が垣間見えます。
本編比較その5:煉獄の負傷に震える炭治郎
魘夢を撃破した後、突如現れた“上弦の参”猗窩座と激闘を繰り広げる煉獄は劣勢を強いられます。その戦いの中、煉獄が負った傷から血が滴る様子を見て、炭治郎が強張った表情で震える場面が追加されています。
こちらの場面では炭治郎の体の震えが呼吸にまで現れており、そこから伝わってくる不安や恐怖を、声を担当する花江夏樹が一つの呼吸音だけで表現している見事な演技も印象的です。
この後、猗窩座は再び煉獄に「鬼にならないか」と誘う場面へつながっていくのですが、このカットの追加により、暗に煉獄と猗窩座の雌雄がすでに決してしまったことを表現しているのだとも受け取れます。
決して覆しようのない絶望を一瞬のカットで表現し、のちに続く煉獄の最期の場面をより盛り上げる演出的な効果も狙っているように感じられ、製作陣のこだわりが垣間見える追加カットとなっています。
テレビアニメ版次回予告の演出も解説!
劇場版からテレビアニメ版への再編集に伴って、各話の最後には次回予告も追加されています。
テレビアニメ1期でも何かと話題を呼んだ『鬼滅の刃』でしたが、テレビアニメ版『無限列車編』でも感動的な一幕から、笑いを誘うものまで様々な次回予告がありました。
炭治郎と炭十郎の会話
第3話「本当なら」の予告では、炭治郎と父・炭十郎の会話が描かれています。
本編で描かれた炭治郎の夢の世界では、すでに炭十郎が死去した後の時間が舞台であったため、父子が会話をする機会はありませんでした。
しかしこの予告では炭十郎との会話が描かれており、炭治郎の成長を実感し、禰豆子のことを託す言葉を残す炭十郎には目頭が熱くなります。
筋肉ムキムキの禰豆子
第6話「猗窩座」の予告では本編同様、夢の中を彷徨い狼狽する炭治郎の前に、体格が普段の3倍はあろうかという巨体で筋肉がたくましく盛り上がった禰豆子が登場。さらにあろうことか顎が割れており、普段のかわいらしさの片鱗もない変わり果てた姿に絶叫する炭治郎が目を覚まし、夢であったことに気がつくという内容でした。
ちなみに筋肉ムキムキの禰豆子は、公式ファンブックの4コマ漫画に登場しており、意外なところからネタを拾い上げる製作陣からのちょっとしたサプライズに喜んだファンも多かったようです。
決して振り返らない煉獄
最終話「心を燃やせ」の予告では、煉獄の名を炭治郎・伊之助が何度も呼ぶにもかかわらず決して振り返らない煉獄の姿が描かれていました。
またこの予告の映像内において、煉獄の周囲は闇に包まれています。その闇は死へ向かう煉獄の運命を暗示しているほか、それでも炭治郎らの前に立ち、脅威から彼らを守ろうとしているようにも感じられます。
また、はじめはうなだれていたものの、立ち上がった煉獄の決してうかがえない表情はどのような眼差しをその闇に向けていたのか、様々な想像を駆り立てる意味深い予告となっています。
まとめ
テレビアニメ版と劇場版、二つの『無限列車編』の比較・解説、いかがだったでしょうか。
2020年の劇場版のメガヒットもあり、『鬼滅の刃』において屈指の人気エピソードとなった「無限列車編」。
今回放送されたテレビアニメ版は、単純に劇場版作品をテレビアニメサイズに分割・編集したものではなく、製作陣の劇場版でできなかった演出や反省を生かし、さらに磨きがかかったものに作り上げようという意気込みが感じられました。