連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第79回
アイスランドのレイキャビクに、1942年に創立された伝統ある「主婦の学校」。
その授業内容に迫った映画『〈主婦〉の学校』が、2021年10月16日(土) よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショーされます。
「主婦の学校」は寮での共同生活を送りながら、生活全般の家事を実践的に学ぶことができる、一学期定員24名の小さな学校です。
1990年代には、男子学生も受け入れて男女共学となりました。現在でも、性別に関わりなく「いまを生きる」ための知恵と技術を求めて学生たちが集まってくるといいます。
映画『〈主婦〉の学校』は、ステファニア・トルス監督が、時代の移り変わりと共にその役割を変化させてきた「主婦の学校」に注目して手掛けたドキュメンタリーです。
映画『〈主婦〉の学校』の作品情報
【日本公開】
2021年(アイスランド映画)
【原題】
Húsmæðraskólinn
【英題】
The School of Housewives
【監督・脚本・編集】
ステファニア・トルス
【キャスト】
・卒業生 アゥスロイグ・クリスティヤンドッティル(1947年在学)、ラグナ・フォスベルグ(1967年在学)、ラグナル・キャルタンソン(1997年在学)、グズムンドゥル・インギ・グズブランドソン(1997年在学)、ヒルマル・グズヨンソン(2005年在学)
・在校生(2016・2017・2018年)
・マルグレート・ドローセア・シグフスドッティル(校長)、カトリン・ヨハネスドッティル(教師・刺繍/洋裁担当)、グズルン・シグルゲイルスドッティル(教師・調理担当)、エッダ・グズムンドスドッティル(教師・織物/編物担当)、インギビョルグ・オラフスドッティル(寮母)
【作品概要】
1942 年から現在まで続く、レイキャビクの男女共学の家政学校「主婦の学校」。性別に関わりなく、それぞれの思いを胸に「いまを生きる」ための知恵と技術を求めて学生たちが集まってきます。
「主婦の学校」は1970年代に「家政学校」に名称が変更されました。本作『〈主婦〉の学校』は、この学校のことに興味をもったステファニア・トルス監督が、学校の役割に注目して製作したドキュメンタリーです。
映画『〈主婦〉の学校』のあらすじ
1942年に創立された首都レイキャビクの中心部にある男女共学の家政学校「主婦の学校」。ここは学位のためではなく、学びたい人が自分のために行く学校です。
白く美しい建物が優雅な雰囲気を醸し出すこの学校には、現在でもアイスランド全土から、様々な期待を胸にした学生が集まってきます。
「私は手仕事に興味があるわ」「将来使える技能を学べるのを楽しみにしてる」「服に開いた穴を直す方法も習えるかな」
彼らの多くは寮で共同生活を送りながら、一学期3ヶ月の間、あらゆる家事や手仕事を基本から学んでいきます。
秋学期は、草原でのベリー摘みから始まります。摘んだベリーはジャムやケーキに使われ、学生たちのお腹におさまります。
学校では、調理や裁縫、編み物、刺繍、洗濯、アイロンがけなど、一つ一つを実践的に教え、毎日の食事も調理担当の学生が作ります。
学生は多くの課題制作や試験もこなしていかなければなりません。
カリキュラムが半分を過ぎる頃には、学生の家族を招待して、制作した作品の展示や料理をふるまうパーティーも開催。
歴史ある学校の卒業生たちは、学生時代を振り却って様々な証言をしています。中には、学校初の男子学生だった卒業生の証言も……。
性別に関係なく「いまを生きる」ための知恵と技術を身につけた学生たちが、今日も「主婦の学校」を巣立っていきます。
映画『〈主婦〉の学校』の感想と評価
「主婦の学校」で学ぶもの
「主婦の学校」という言葉を耳にしますと、「花嫁学校?」と思いがちです。けれども、本作に登場する学校は、「花嫁学校」と同じような感じですが、少し違っていました。
本作ではまずこの学校の学生たちになぜ入学したのかを聞いています。
「主婦になるために行くわけじゃない」と答える人や、「自分のことは自分で面倒を見られる人間になりたい」という人。
ハンバーガーは焼けるからもっと他の料理が出来るようになりたい、服をリフォームできるようになりたいなど、入学する動機も様々です。
全寮制のこの学校では、入学するとまず寮の中での最低限度の生活ルールを体験。
授業では、テーブルセッティング&マナーを始め、初歩的な料理からおもてなし料理・伝統料理の調理法を学び、衣類の種類に応じた洗濯法や正しいアイロンがけ、素材の理解と縫製技術、火災予防のための消火器の使い方などまで学びます。
料理だけを教えるのではなく、素材となる野菜を種から育てて料理に活かしたり、無駄のない料理の活用方法や破れた服を目立たないように繕うやり方まで授業に取り込んでいます。
そこには、生きることに役立つ知恵を身につける工夫があふれていました。
「主婦の学校」が人気のわけ
アイスランドは、2021年世界経済フォーラム公表のジェンダーギャップ指数ランキングにて12年連続1位の“ジェンダー平等”が進んでいる国です。
性別にかかわらず何事も平等に出来る意識が進むこの国で、「主婦の学校」が今でも存続しているのは、主婦がこなす家事こそ生きるための大切な知識という認識が出来ているからではないでしょうか。
私たちが普段何気なくしている「食べること」は、生きていく上で最も大切なことです。いかに美味しく栄養価の高い食べ物を安価で摂取するかと、工夫も重ねられます。
そういう意味では、美味しい物を食べさせ、家族に心地良い毎日を過ごさせてあげたいという思いで家事をこなす主婦は、生活の知恵者と言えます。
また、「主婦の学校」では余った料理もムダにせず、施設に振る舞ったりして、食品ロスを防いでいます。地球環境問題も考えてのこのような学校の方針に賛同する人も多いでしょう。
「主婦の学校」の入学志願者は、世の中が不況になると急増するそうです。志願者は、低所得の中で自分の生活を守り通す方法を、「主婦の学校」に求めているのかも知れません。
まとめ
主婦が行う家事のノウハウから、ムダの無い生活の工夫までを余すところなく教えてくれるというアイスランドの「主婦の学校」。
その学校に惚れ込んだステファニア・トルス監督が、ドキュメンタリー映画として作り上げた『〈主婦〉の学校』からは、自分の手で毎日の生活を創っていくことの大切さが伝わってきます。
実際の卒業生たちは、異口同音に「主婦の学校へ入学してよかった」と言い、その中には政治家になった男性もいます。
主婦の学校で学ぶと、男性であれ女性であれ、誰にも頼らず自立していける自信がつくと言います。生活する上で役立つ実践的なものが多いということも言えるでしょう。
自立した人生を楽しむための秘訣が主婦の学校の授業に満ち溢れ、主婦業の素晴らしさを実感できる本作。
「主婦の学校」が伝授する家事のノウハウをスクリーンで観て、日本の現状と何が違うのか、と比較するのも良いでしょう。
映画『〈主婦〉の学校』は、2021年10月16日(土) よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!