Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/09/30
Update

映画『かざあな』あらすじ感想と評価解説。どろどろの恋愛ラブストーリーを内田伸輝監督が初長編作で描く|インディーズ映画発見伝21

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第21回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」

コラム第21回目では、内田伸輝監督の映画『かざあな』をご紹介いたします。

脚本はなく、プロットを途中まで書いて強行的に撮影し、完成までに4年半の月日をかけた力作。

男女のどろどろの恋愛模様を生々しく重苦しく描きます。

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

映画『かざあな』の作品情報


(C)映像工房NOBU

【公開】
2011年(日本映画)

【監督・脚本】
内田伸輝

【キャスト】
鍋山晋一、秋桜子、山内洋子、赤穂真文

【作品概要】
監督を務めた内田伸輝監督は、ドキュメンタリー映画『えてがみ』(2002)でデビュー。

初長編映画となった『かざあな』時は、第8回TAMA NEW WAVEコンペティションでグランプリ・女優賞、ひろしま映像展2008グランプリ・企画脚本賞・演技賞 三部門受賞、PFFアワード2008審査員特別賞受賞など数々の賞を受賞し、バンクーバー国際映画祭コンペティション部門他で正式上映されました。

監督最新作は『女たち』(2021)。その他の監督作に『ふゆの獣』(2011)、『僕らの亡命』(2017)などがあります。

出演者には、『えてがみ』(2002)にも出演した鍋山晋一や『卍』(2006)の秋桜子、『俺たちの世界』(2009)の赤穂真文などが顔を揃えます。

映画『かざあな』のあらすじ


(C)映像工房NOBU

ナベ(鍋山晋一)は、美術の学校で出会ったミカちゃん(秋桜子)とヨウちゃん(山内洋子)と卒業後も仲良く出かけていました。

3人で過ごすうちにナベはミカちゃんのことが好きになり、気持ちを伝えますがミカちゃんは友達以上の関係を望みませんでした。

自分が選ばれなかったことにショックを受けたヨウちゃんはミカちゃんに嫉妬し、ナベと関係を持ち付き合うことになってしまいます。

どろどろの男女の肉体と言葉が交錯し、感情がぶつかり合っていきます……。

映画『かざあな』の感想と評価


(C)映像工房NOBU

ミカちゃんに恋しながらも、その思いは叶わず、ヨウちゃんと行きずりのまま付き合ってしまうナベは、次第に自身の衝動を悔やみ、ヨウちゃんと付き合うことに煩わしさを感じ始めてしまいます。

3人の友達関係を壊したくないと思うミカちゃん、自分が選ばれなかったと感じ、選ばれたいと思うヨウちゃん。

ヨウちゃんと別れたナベは再びミカちゃんに思いを伝えますが、自分勝手だと言われてしまいます。ミカちゃんの予想外の反応にナベは呆然とします。

しかしそのミカちゃんが付き合っていたのはナベの友達でした……ナベは絶望し、感情を爆発させてしまいます。

脚本はなく、途中までのプロットで撮影を敢行した本作は、監督自身もどう終わるのか分からないラストであったと言うほど、演技とむき出しの感情が合わさった生々しさが観客を惹きつけます。

本作は全編を通してカメラで男女の恋愛を追っているかのように映し、時折インタビューをしているかのように、それぞれの登場人物の生の声が語られます。

ドラマでありながら、ドキュメンタリーのような現実味が、登場人物たちが役をこえてむき出しの感情をぶつけ合う独特の世界観を作り上げます。

内田伸輝監督は本作以降の『ふゆの獣』(2011)などでも、即興の芝居にこだわり、男女のむき出しの感情をスクリーンにおさめることを重視しています。

他愛もない日常、恋愛のもつれ、感情のぶつかり合い、フィクションと生身の人間の感情が交錯して一つの映画を作り上げている、それが内田伸輝監督作品の面白さなのです。

まとめ


内田伸輝監督(C)Cinema Discoveries

男女のどろどろの恋愛をカメラで追っているかのように映しだし、日々の他愛もない会話や生々しくぶつかり合う感情を映しとった映画『かざあな』。

恋した相手に振り向いて欲しい、恋は人を自分勝手にさせる……、そのようなどろどろした人々のむき出しの感情を、生身の感覚で感じられるような生々しさ。それは、即興の演技にこだわり、ドキュメンタリーのように男女の恋愛模様を映し出す内田伸輝監督独自の演出によるものでしょう。

脚本はなく、途中までのプロットで撮影を敢行し、完成までに4年半の月日をかけた本作の生々しく、ありありと伝わってくる感情はどこか普遍的であり、人の感情の移ろいをも感じさせる力作です。

内田伸輝Twitter

次回のインディーズ映画発見伝は…

次回の「インディーズ映画発見伝」第22回は、高橋伸彰監督の『夏の夜の花』を紹介します。

次回もお楽しみに!

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら



関連記事

連載コラム

映画ボウリング・フォー・コロンバイン|ネタバレ感想と解説。マイケル・ムーアが銃社会をアポなしで斬る!|だからドキュメンタリー映画は面白い8

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第8回 なぜアメリカでは銃撃事件が多発する?なぜアメリカ人は銃を持つ? 『だからドキュメンタリー映画は面白い』第8回は、2003年公開の『ボウリング・フ …

連載コラム

映画『フォートレスダウン』ネタバレ感想と考察評価。自国を持つために”弾圧”と闘うクルド人を描いた力作|未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録23

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第23回 日本劇場公開が危ぶまれた、様々な国籍のあらゆる映画を紹介する、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第 …

連載コラム

【ネタバレ】ニキータ|結末考察とあらすじ感想。女性暗殺者が真に強くなり“愛と葛藤”のラストで出した“生きざま”|すべての映画はアクションから始まる33

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第33回 日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画は …

連載コラム

佐久間由衣×村上虹郎らが映画『“隠れビッチ”やってました。』東京国際映画祭の完成披露に登壇|TIFF2019リポート10

第32回東京国際映画祭は2019年10月28日(月)から11月5日(火)にかけて開催! あらいぴろよが自身の体験をもとに描いたコミックエッセイを、三木康一郎監督により映画化した『“隠れビッチ”やってま …

連載コラム

【ネタバレ】コネクト シーズン1|あらすじ結末感想と考察評価。三池崇史が韓国で制作したグロ満載のサスペンススリラードラマ【SF恐怖映画という名の観覧車172】

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile172 『イカゲーム』や『Sweet Home -俺と世界の絶望-』など、目を背けたくなるような過激な描写と引き込まれる物語が絶妙なバランスで展 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学