連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile153
平和な町を都市伝説が襲うオカルトホラー映画の数々。
多くの作品は町にかけられた呪いに対抗すべく主人公が奮闘し、時に成功し時に失敗するハラハラ感を楽しむ作品構造になっています。
今回はそんな都市伝説系オカルトホラーの王道展開を辿らない独自の展開で事件の根源へと迫っていく様子を描いた宗教系ホラー映画『エンプティ・マン』(2020)をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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映画『エンプティ・マン』の作品情報
【原題】
The Empty Man
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【監督】
デヴィッド・プライアー
【脚本】
デヴィッド・プライアー
【キャスト】
ジェームズ・バッジ・デール、サシャ・フロロヴァ、サマンサ・ローガン、スティーヴン・ルート、ジョエル・コートニー、マリン・アイアランド
【作品概要】
カレン・バンとヴァネッサ・R・デル・レイによって発表された同名グラフィックノベルを映像化した作品。
『ワールド・ウォーZ』(2013)に出演し、Netflix映画『スペクトル』(2016)で主人公を演じたジェームズ・バッジ・デールが本作の主演を務めました。
映画『エンプティ・マン』のあらすじとネタバレ
【1日目】
1995年、4人の男女はブータンのウラ谷をトレッキングしていました。
岩の裂け目に落ちたポールはいくつもの骨を継ぎ足したような不気味な白骨体を目にします。
その白骨体の前に放心状態で座るポールは「僕に触れたら死ぬ」と繰り返していましたが、3人は無理矢理彼を背負うと無人の山小屋に身を寄せました。
【2日目】
目を覚さないポールを背負い山を降りることが困難だと判断したグレッグは、ポールとルーシーを残し外を探索します。
山小屋に取り残されたルーシーは、山小屋の外に不審な男性を目撃しました。
【3日目】
目を覚ますとポールは山小屋の外に座禅を組んでいました。
朝、何物かの声を聞いたルーシーはポールを問い詰める2人をナイフで殺害すると、自身も谷底へと身を投げます。
その様子を「だから触れるなと言ったのに」と呟くポールが見つめていました。
2018年、ミズーリ州ウェブスターミルズ。
防犯用品店を経営する元覆面捜査官のジェイムズは妻と息子と死別してからは抗うつ剤を飲み、悪夢にうなされる毎日を過ごしていました。
【1日目】
隣人クウェイルの娘アマンダが「エンプディマンがさせた」と言う血文字を残し姿を消しました。
近所付き合いが深く、クウェイルも早くに夫を失っていることからジェイムズは警察の捜査に立ち合いますが、警察はアマンダの家出を疑うばかりで詳しい捜査をするつもりはありませんでした。
アマンダが父を亡くして以降、不思議な考えをしている事を聞いていたジェイムズはアマンダの学校の友人ダヴァラから学校で「エンプティマン」と呼ばれる都市伝説が流行っていると聞きます。
その噂は夜の橋の上で拾った空き瓶を吹き「エンプティマン」と唱えると3日後に連れ去られるというものであり、2日前にアマンダはダヴァラを含めた7人の男女でその都市伝説を実行していました。
ジェイムズは都市伝説を実行したとされるダヴァラを除く5人の家を訪ねますが、総じて行方不明となっていました。
ジェイムズはアマンダたちが都市伝説を実行したとされる橋で空き瓶を見つけ試しに吹いた後、開けっ放しにされているマンホールから橋の下へと入ります。
そこには行方不明の5人が首を吊った死体があり、鉄骨には「エンプティマンがさせた」と書かれていました。
夜、ダヴァラはスパに入浴中、「エンプティマン」に襲われ顔を滅多刺しにされ死亡。
首吊り死体の件で警察に取り調べを受けるジェイムズは、ダヴァラの死を聞き驚愕します。
5人の家やアマンダの部屋にもあった「ポンティフェックス研究所」と言う単語を怪しむジェイムズは、インターネットにおける調査で「ポンティフェックス研究所」が終末思想を持ったカルト教団の名称だと知ります。
【2日目】
「ポンティフェックス研究所」を訪れたジェイムズは演説の中で「エンプティマン」と言う単語が出て来たことに気づき、演説した男を問い詰めます。
男は「エンプティマン」とは精神圏のウイルスのような存在であると言い、その意味をジェイムズに説きますが専門用語が飛び交う男の説明をジェイムズは理解できませんでした。
ジェイムズは立ち入り禁止となっている施設の地下まで降りると、複数の集団が「エンプティマン」を呼ぶ儀式を行っていました。
係員に見つかり追い出されると、研究所を疑う男ニールからアマンダは研究所内で昇進し、州南部のキャンプにいると教えて貰います。
ニールから聞いたキャンプの場所であるマークトウェイン国有林へと向かい、キャンプ内の誰もいない事務所の中で研究所の名簿を見つけたジェイムズはアマンダを含めた7人と、何故か自分の名前のファイルがある事を発見。
夜、研究所の信者たちの儀式を目撃したジェイムズは信者たちに見つかり、多数の信者に追跡を受けます。
警察に駆け込み研究所と事件のつながりを訴えるジェイムズでしたが、キャンプへの不法侵入もありまともに対応してもらうことが出来ませんでした。
クウェイルに事情を話し避難を促したジェイムズ。
実はジェイムズにはクウェイルと浮気していた日に妻と子を失った過去があり、その日以降悪夢を見続けていました。
映画『エンプティ・マン』の感想と評価
全米で大ヒットを記録したオカルトホラー映画
2020年10月16日に全米劇場で公開され、週末興行収入ランキング初登場で3位を記録した映画『エンプティ・マン』。
本作はチベット仏教の宗教色を感じさせるブータンの山奥で不気味な白骨体を発見する、画的に引き込まれる導入から始まります。
その後、物語はアメリカの静かな町へと移り、心に深い傷を抱える男が町で起きる異変の調査にのめり込んでいく様子が描かれます。
町で発生する異変を追うと言う構図はオカルトホラーでは定番であり、大ヒットを記録した「IT-イット」シリーズなどのように、徐々に怪異の核心へと迫っていくミステリ要素も人気の理由のひとつになっています。
しかし、本作はその定番に逆らい、核心に近づけば近づくほど理解が困難になっていきます。
静かにそして淡々としながらも日常が崩壊していく、理解の及ばない恐怖に支配された作品でした。
若者と終末思想
物語の中で「エンプティ・マン」の存在は、徐々にある新興宗教へと繋がっていきます。
世界の終わりを救いとする「終末思想」はキリスト教を始め数多く存在しますが、本作に登場する「ポンティフェックス研究所」は積極的に世界の終わりのために行動するかなり過激な組織。
しかし、そんな「ポンティフェックス研究所」には若者が多く集まっている様子が描写されています。
現実の社会でも「終末思想」を持つカルト的宗教に若者が傾倒するケースは年々増加しており、「未来への希望」よりも「終わりによる救い」が求められている社会情勢なのだと言えます。
本作では、中盤より都市伝説ホラーから一転して宗教系ホラーへと様相が急変。
真綿で首を締められるような静かに自身が脅かされていく様子を、宗教と若者と言う現実と照らし合わせて鑑賞することをオススメします。
まとめ
「言葉は繰り返されることで意味や理解を失っていく」。
哲学的、宗教的に全てを把握しきることは難しい本作ですが、それゆえに人によってさまざまな解釈が可能な映画とも言えます。
実行することで確実に関係者の命を絶つ都市伝説「エンプティ・マン」。
その存在は人類にとって救いなのか、それとも恐怖の対象なのか。
アメリカで大ヒットを記録したホラー映画『エンプティ・マン』でぜひその正体を確かめてみてください。