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Entry 2021/04/21
Update

映画『The Soul』ネタバレあらすじと感想評価。結末まで原作小説のテーマである遺伝子で魂は繋げられかを描く|Netflix映画おすすめ32

  • Writer :
  • からさわゆみこ

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第32回

今回ご紹介する映画『The Soul: 繋がれる魂』は、中国のSF小説家チアン・ボーの短編小説「移魂有術(Transfer Soul Skills)」が原題で、最新医療の研究が進み、癌細胞などで破損した脳神経を修復する技術が、開発された2032年の台湾が舞台です。

“ランタンフェスティバル”の夜、生命工学と美容整形の分野の企業を創設した、実業家の男が鈍器で撲殺された事件を発端に、被害者の死が紐解く“愛の形”や“命の重み”をサスペンスタッチで描いていく、サイエンス系SFドラマです。

「金馬奨」にて、サスペンス映画としては異例の5部門ノミネートを果たした、『目撃者 闇の中の瞳』(2018)のチェン・ウェイハオ監督が手掛ける『The Soul: 繋がれる魂』は、監督自身が父親をガンで亡くし、原作を読み感銘を受け、「人生と愛」をテーマに脚色し製作されました。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

映画『The Soul: 繋がれる魂』の作品情報

(C)2021 Netflix

【日本公開】
2021年(台湾映画)

【原題】
緝魂

【監督/脚本】
チェン・ウェイハオ

【原作】
チアン・ボー

【キャスト】
チャン・チェン、チャン・チュンニン、クリストファー・リー、チャン・シャオウェイ、リン・フイミン、サミュエル・クー、チャン・ボージア、ルー・シューフェン

【作品概要】
主演は『レッドクリフ PartⅠ』と『レッドクリフ PartⅡ -未来への最終決戦- 』にて、呉の初代皇帝孫権を演じた、チャン・チェン。彼は末期がんを患った、敏腕検察官を演じるにあたり、12kgの減量をし体当たりで熱演します。

また、主演映画『ビバ!監督人生!!』(2007)で、台北映画祭の最優秀女優賞を受賞し、『東京に来たばかり』(2013)で日本人の奈菜子役を演じた、チャン・チュンニンが刑事で主人公の妻を演じます。

映画『The Soul: 繋がれる魂』のあらすじとネタバレ

(C)2021 Netflix

“ランタンフェスティバル”の明けた早朝、小高い山の上に建つ豪邸に1台のパトカーが到着し、警官が家主のワンから通報が入ったと告げると、ワンの部屋へと案内されます。

部屋に近づくと異様な臭いのする煙が漂い、部屋のドアには妙な印が刻まれていました。先に中へ入ったメイドは部屋の様子を見て悲鳴をあげ、2人の警官も部屋の惨状に言葉を失います。

ワンは右側頭部を鈍器で殴られ死亡しており、そばには凶器とみられる金剛杵(こんごうしょ)を左手に持ち、血まみれになったワンの妻が気絶しています。

床には臭いの元とみられる薬草の束が燃やされ、部屋は煙で燻されていました。

産婦人科の診療室では、妊娠7週を告げられた妻と夫が、なぜか哀愁を漂わせながら喜びをかみしめています。その理由は、夫の体が癌に犯され余命いくばくもないからです。

夫の検診では主治医が癌は腰髄に転移し、脳への転移が進むと脳細胞が破壊され、最終段階になってしまうと告げます。

医師は弱った脳神経を修復する、開発中の新療法について説明します。そして、“RNA修復技術”の臨床試験を受ける適性があるか、遺伝子検査をしておくことを勧めます。

妻は夫を助けるために不動産を手放し、治療費を捻出しようとしますが、夫は治療には莫大な費用がかかると、諦め気味になっていました。

朝のニュースでは早朝におきた、ワン・シーツォンの殺害事件について報道され、重要参考人として妻が警察に連行されていきます。

ワン・シーツォンは生命工学と美容整形の分野で、ワンコーポレーションを創設し、教育や保育、保険、不動産へと事業を拡大し慈善活動として、児童養護施設へ多額の寄付も行う有識者でした。

癌を患った検察官のチャオは、病気療養のため休職していました。しかし、妻の妊娠を知り黙って死を待つよりも、家族のために復帰して、国民の注目が高い、ワン・シーツォンの殺人事件を担当させてほしいと願い出ます。

チャオの妻アバンは刑事で、シーツォンの妻イェンの取り調べを始めます。イェンの証言では眠れずテラスで夜景を眺め、部屋へ戻る時にシーツォンの部屋に異変を感じて、入ってみると前妻スージェンとの息子、ティンヨウが“帰っていた”と言います。

彼は部屋で儀式のようなことをして、シーツォンに襲いかかり金剛杵で何度も殴打し、大量の出血をみて気を失ってしまったと話します。

メイドも物音で目が覚め、ワンの様子を見に行こうとした時に、ティンヨウが外に逃げ去っていくのを目撃していました。

イェンは春節の前日に、母親のスージェンが亡くなったあと、黙って家を出たきり行方不明だったティンヨウが突然現れ、母親の死は父親のせいだと暴れ騒ぎ立てたと言います。

ティンヨウの全身には呪いのようなタトゥがあり、胸には部屋のドアに描かれた印と同じものが刻まれていたと言います。

それはスージェンが信じていた魔術で、ティンヨウは同じ魔術の儀式で母親の魂を呼び覚まし、シーツォンに復讐したのだと話します。

聴取の様子をモニタリングしていたチャオは、アバンや他の捜査員たちに担当することになったと告げます。そして、チャオは遺言書の遺産相続人がイェンの他に、もう1人いることに目をつけ、調査するよう指令をだします。

第2相続人に指定されていたのは、ワンコーポレーションのCEOで、「RNA修復技術」の研究にも携わっている、“遺伝子学研究所長”のワン・ユーファンです。

ユーファンはシーツォンの全財産と経営権が、イェンにあるから犯人である可能性はないと証言しますが、直系血族であるティンヨウが相続から外され、第2相続人にユーファンの名前がある理由を訊ねます。

ユーファンは「それも父親を殺した原因のひとつ」だと答え、アバンは“母親のためにやった”と、いう供述の意味は何か聞きます。

(C)2021 Netflix

メイドの供述によると先妻のスージェンは、心の病を発症していてその原因が夫のシーツォンにあったと言います。

スージェンがティンヨウを出産したあと、シーツォンは彼女に一切関心を示さず、出張で家を空けることも多く、服に女性の髪の毛や口紅のシミをつけて帰るなど、“浮気”が原因で深刻なうつ状態へと陥ったと言います。

そして、夫婦の不仲で一番苦しむのが子供だと続けます。スージェンが亡くなる前日、彼女は夫の顔に似てきたティンヨウに、恨みつらみをぶつけ何度も頬を叩き責め立て、「息子の顔を見ていられない」と言っていたと証言します。

シーツォンはスージェンの葬儀に参列しましたが、準備に関しては全てワン・ユーファンが行い、彼女の死後すぐにシーツォンが支援していた、児童養護施設で育ったリ・イェンと再婚します。それもユーファンの紹介でした。

チャオは司法解剖の結果、“遺体の傷痕から、左利きの人物の犯行”と目視し、イェンが供述書にサインをする利き手を確認します。

チャオはティンヨウも左利きだが、イェンも左利きで凶器に指紋があり、シロだと言い切れず釈放は保留にします。そして、スージェンの死因について“転落事故”と、報道されている真相を調べるよう指示します。

以下、『THE SOUL 繋がれる魂』ネタバレ・結末の記載がございます。『THE SOUL 繋がれる魂』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2021 Netflix

アバンは再びワン邸へ現場検証をしに出向き、スージェンの部屋を捜査すると、呪術の印が床に刻まれていました。そして突然、床に袋が落ちて中から古書をみつけます。

1年前、スージェンは記者に夫の秘密を暴露すると呼びだし、飛び降り自殺する様子を撮影させていました。

彼女は飛び降りる前に「これ以上ない屈辱よ! 絶対に許さないから!」と叫び、何かの画像が印刷された紙を複数枚ばらまいています。

ところが記録では強風で飛ばされ、発見されなかったと話します。アバンが見つけた古書は陰陽思想の魔術本で、スージェンはそれにはまっていました。

彼女は自殺する前に最も邪悪な呪術、“降頭術”の呪いを体に刻み、生霊となって夫に最も残忍な呪いをかけようとしていたと説明します。

生霊となって相手を呪うと、次々と不幸がおこるからです。シーツォンはスージェンの自殺直後に脳腫瘍を患い、会社は深刻な経営不振に陥りました。

検視ではスージェンは幻覚剤を吸入していて、ベラドンナという植物が原料のヒヨスチアミンが大量に検出されています。

同じ魔術を信じていたティンヨウは、ベラドンナを燻してシーツォンを気絶させ、金剛杵で殴り殺し、古書に書かれていた通りの方法で復讐を果たしました。

次にチャオが疑問視したのは家の監視カメラです。外に何台かあるほかにイェンの部屋にも設置されていました。

ある3日間の映像に、彼女の不可解な動きが録画されていました。眠っている時に急にけいれんを起こしたり、誰もいない方向を見ながら「タン・スージエン、私は恐くない。あなたは何もできない」と言っている姿です。

イェンに映像を見せると嫁いできた1年前から、自分たち以外に誰かがいる気配を感じていて、メイドから先妻が自殺をしていたことを聞いたと言います。

スージェンの亡霊を見たとき、自分の体が乗っ取られると感じ、事件の日、部屋ではヒヨスチアミンの臭いがしたこと、ベラドンナの生息地など詳しく語り始めます。

そして、ベラドンナの生息地のどこかに、スージェンの残した小屋があるから、そこを探してみたらいいと言います。

チャオは監視カメラの映像を全てチェックすると、イェンに異変があった時を境に、様子が激変していることに気がつき、さらにユーファンとの親密な様子もみつけます。

(C)2021 Netflix

ユーファンについて調べてみると、彼とスージェンは過去に“RNA修復技術”の共同研究者で、後に不倫関係になったことも知ります。

テレビではユーファンがワンコーポレーションのCEOとして、会社の経営不振は半年前から起き、RNA技術を癌治療に応用し、会社の立て直しを考えると発表していました。

イェンはシーツォンの家に来た頃は、メイドやユーファンに対して腰が低く礼儀正しく、その日に何かの“同意書”にサインをしているが、それは右手で書いていました。

チャオはアバンに録画を見せながら、イェンが何かに憑りつかれたようになった日を境に人が変わったと話します。そして、利き手が変わっただけではなく、筆跡まで変わっていることを指摘しました。

イェンとユーファンが親密になったことで、チャオとアバンは共通の仮説をたて、ユーファンを聴取します。

経営の傾いた会社を奪われるのを恐れたシーツォンが、後継者に相続させようと考え始めましたが、ティンヨウしかおらず、RNAの臨床試験をシーツォンで開始し延命させ、イェンと再婚させ後継者を作ろうとしたといいます。

シーツォンは癌家系だったため、遺伝子操作をしてイェンに人工授精したが、副反応が出たのがあの映像だと説明します。

しかしチャオはスージェンとの過去の関係を持ち出し、彼女が自殺をした現場に、ユーファンもいたことを突きつけます。記者はユーファンから口止めされていました。

チャオはユーファンがイェンと深い関係になり、それを知ったスージェンは、絶望して自殺をしたのではと問います。

さらにそれを苦にしたユーファンがRNAの技術を使い、スージェンの細胞をイェンに移植し彼女を複製し、ティンヨウを利用してシーツォンを殺害したという仮説を話します。

一方、ティンヨウの行方を捜索していた警察は、居所を見つけだし彼を逮捕します。アバンは破壊された、シーツォンのスマートフォンのデータが修復されたと聴かせますが、“ワン・ティンヨウ!”と叫ぶ言葉しか、修復できていませんでした。

チャオはティンヨウとイェンを対面させ、両者に反対尋問をさせます。イェンはスージェンしか知り得ない、ティンヨウを愛称で呼び、山小屋のことを訊ね、ティンヨウに宛てた手紙のことを話すと、「あの男を殺してくれてありがとうね」と言い失神してしまいます。

状況的にイェンの脳にはスージェンの細胞が移植され、記憶や動作が彼女が憑りついたようになり、ティンヨウが母の仇を討つための犯行だったという見方がされました。

その後、チャオは脳に癌が転移し発作を起こして入院します。イェンは病院でユーファンと再会し、翌朝には2人で出所していきます。

チャオはRNAの手術を受けますが、脳細胞は再生しても骨髄の癌は治せず、麻痺が残ります。しかし、チャオは必死に公判に出廷しようと、資料を確認しはじめます。

そんなときイェンはワンの屋敷でユーファンに殺害されそうになります。アバンはその一報を受けていると、チャオはパソコン内にあったスマートフォンの音声データをみつけます。

2つあったデータの1つはクラウドに保存され、アバンから聞かされたものより、詳細な音声データです。アバンはチャオに改ざんした音源を聞かせていました。

そこにはイェンの声で「会社が崩壊しかけている、CEOの座を私に譲りなさい」と言い、シーツォンの「俺の会社だ。誰にも譲らない」という会話でした。

アバンはイェンとユーファンの策略を知り、チャオのRNAの手術をさせようとして、音声データ使って2人を脅したのです。

ところがイェンが警察に駆け込み、ユーファンの裏切りでCEOの座を譲らないと殺すと脅されたと言います。彼女は「ワンコーポレーションは私のものです。誰にも譲りません」と供述します。

音声データに残されたシーツォンの言葉と、イェンの言った言葉が同じであることに、チャオは気づき、チャオはイェンに移植されたのは、シーツォンの細胞ではないかと考えます。

後継者になったイェンは、会社が傾きかけたことが不安になり経営権を狙い始め、父親を恨んでいたティンヨウを利用し、彼を殺害する計画を考えたと仮説します。

ティンヨウに襲われたシーツォンは死の淵で彼の名を叫ぶと、ティンヨンはとどめを刺せずに逃げ、イェンがCEOの座を譲るよう迫り、とどめを刺しました。

遺言書の筆跡とイェンの書いたサインの筆跡は一致し、彼女の中にいたのはシーツォンだと、チャオは確信します。

イェンはチャオに「癌になると明日をも知れぬ命に怯えなければいけない・・・癌はそれほどに残酷。結局、私たちは同じ船に乗った者同士なのだから」と告げ去っていきます。

(C)2021 Netflix

ある日、チャオの家に逃亡中のユーファンが訪ねてきて、事の真相を語り始めます。シーツォンとユーファンは、20年前に遺伝学研究所を解説した頃から親密な関係でした。

シーツォンはトランスジェンダーで、同性愛者のユーファンはそんなシーツォンを愛していたということです。

シーツォンは世間の目を晦ますために、同僚のスージェンと体面上の結婚をしますが、そんな夫婦生活は破城します。

うつ病になった彼女への罪悪感から、気遣うようになったユーファンに、スージェンの気持ちは次第に彼に傾き、恋愛感情に変わりました。

シーツォンはRNA研究の進捗に期待をしていました。女性となって会社を経営したいという野心をもちかけてきました。

そんな時にシーツォンの浮気を調査したスージェンは、それ以上の衝撃敵な事実を知ります。スージェンが真実を暴露すると言ったのは、シーツォンとユーファンの関係のことでした。

しかし、シーツォンが脳腫瘍を患ってしまい、彼の計画は前倒しになります。イェンはガン予防の治験という名目で、高額な報酬契約をしシーツォンと再婚します。

シーツォンの脳神経をスキャンし、RNAパウダーを精製しイェンに移植していくと、シーツォンの記憶や思考がイェンの脳に複製され、3日目にはシーツォンの意識をもったイェンとなります。

シーツォンとイェンは同じ魂を共有しましたが、シーツォンが徐々に混乱し始め、イェンに会社を乗っ取られると妄想しすると、遺言状からイェンの名前を削除しようとし、イェンはシーツォンの殺害を計画し実行しました。

真実を知ったチャオは「なぜ、彼のためにそこまでするのか?」聞くと、ユーファンは同じ質問を奥さんにしたら「私が彼の立場だったら、同じことをしたはず」と言って、チャオはアバンの愛の深さに気づきます。

ユーファンはチャオに“イェンに罪を認めさせたい”と、話しチャンも“自白をさせよう”と、ユーファンに変装させ2人でイェンのところに向かいます。

チャオはイェンとしてではなく、“ワン・シーツォン”として話し始め、“スージェンの呪い”は凄まじいと切りだし、病気や経営不振だけでなく家族や愛する者も去ったと言います。

シーツォンは目的を達成するのに、“愛が一番邪魔”と言いのけ、アバンがチャンのために偽証罪を犯したことも挙げます。

そして、生涯で一番愛したワン・ユーファンのことは、過去のことで前の人生最大の汚点だったと言い放つと、隠れていたユーファンがシーツォンに何かを吹きかけます。

夕刻のニュースでは新CEOのリ・イェンが就任21日で、全保有株を手放し、会社経営から退く意向を発表したと報道されます。

ユーファンは自死し、チャオは検察長に録音データを隠ぺいを告白し、本物の録音を提出します。

死期と今後の行方を予想した彼は、生まれくる我が子にメッセージを残し、法廷に証人として出廷します。

裁判では“同じ立場になったら、あなたも同じことをする”という、録音されたイェンの声が流れると、彼女は人が変わったように、シーツォンの殺害と自分の声だと認めます。

ある日、服役中のリ・イェンのところに面会者が訪れます。それは生まれたばかりの我が子を抱いたアバンでした。

ガラス越しに2人の姿をみたイェンは、アバンにしかわからない、チャオがしていた“仕草と合図”を送り、その意味を理解したアバンは涙を流します。

Netflix映画『The Soul: 繋がれる魂』の感想と評価

(C)2021 Netflix

映画『The Soul: 繋がれる魂』は、近未来の科学的な進歩の中に、古来から伝わる「陰陽思想」なども盛り込まれて、見ごたえのある作品です。

要所要所に出てくる「あなたが私の立場だったら」という言葉は、作品テーマのキーワードでもあるでしょう。

シーツォンの思考を持ったイェンが言った「あなたが私の立場だったら」は、自己愛の究極から出た、“煩悩”そのものの発想です。

ティンヨが殺害に使おうとした“金剛杵”は、“煩悩”を打ち砕く武器です。ティンヨはまさに、シーツォンの頭の中にある煩悩を、打ち砕こうとしていたように見えます。

反対にアバンの言った「彼が私の立場だったら」は、愛する人を救いたい思いから発せられた“慈悲”から出た発想といえます。

とはいえ、どちらにしても本人の意思や意向を無視したゆえに、どこかにゆがみが生じて、犠牲や罪の上に幸せは成し得なませんでした。

“陰陽思想”から見る運命

陰陽思想とは“森羅万象”の摂理に基づき、宇宙のありとあらゆる事物には、陰と陽の二気があってそのバランスを保ちながら、存在しているといわれています。

人は往々にして不条理なことがおこると、その原因を他人や社会に転嫁してしまいがちです。シーツォンも自分が生まれ持った、トランスジェンダーを隠すために、スージェンとユーファンの人生と命を犠牲にしました。

もし、彼がトランスジェンダーであることを、ひた隠しにせず受け入れて堂々と生きていたら、違った生き方で存在していけたでしょう。

また、アバンの愛する夫の延命を望む気持ちがわかる反面、夫婦でその宿命と向き合い、残りの人生を清々しく全うしてほしかったとも思いました。

“因果応報”の観点から2人とも、何かを犠牲にしたり罪を犯してまで、運命を変えようとすれば、報いは同じように自分に返ってくるという意味も含んでいます。

素朴な疑問、“RNA”とは?

作中にでてくる“RNA”とは、“リボ核酸”という生体高分子のことです。よく聞かれる“DNA”は遺伝情報を保存している生体分子で、RNAというのはその遺伝子情報を“転写”するためのたんぱく質を生成し、次世代へ残していく役割があります。

ざっくりとした説明ではありますが、このストーリーを見る上で知っておくと、単なる作り話ではなく、どこかで同じような研究がされているかも……そんな想像も掻き立てられます。

しかしながら仮に自分の思考や記憶をRNAタンパク質にコピーをして、誰かの脳に転写ができたとしても、“精神”といった“魂”の部分は生きていく過程の中で育まれるものです。

自然の摂理に逆らって造られた人間には、感情の面でどこか欠落した人間になり、繰り返されたら・・・と考えると、恐ろしい気持ちになります。

まとめ

(C)2021 Netflix

映画『The Soul: 繋がれる魂』はサイエンス系のSFサスペンスドラマですが、オカルト的な要素もあり、多方面からドキドキ感を与えてくれる作品でした。

本作は科学が発展すると、怨霊や呪いなども作りだそうと思えば、できてしまうことも現しています。シーツォンが自分の細胞を使って他人に憑依し、リアル生霊になったのも同じではないでしょうか?

逆にイェンがティンヨに話しかける前半のシーンには、シーツォンの演技に加えスージェンが憑依していたのでは?と思わせます。

なぜならば、イェンがティンヨに「ヨウヨウ」と呼びかけた目は愛おし気で、ティンヨも瞳に母を見たように感じます。

しかし、最後の裁判のシーンではイェンからスージェンの魂が抜けたかのように、ティンヨにもそれがわかったように見えたからです。

親子の絆は夫婦“愛”の中で育まれ、未来永劫に遺伝していくものであり、最新科学技術をもってしても、魂までは生成できないと実感できる映画でした。

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