連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第32回
今回ご紹介する映画『The Soul: 繋がれる魂』は、中国のSF小説家チアン・ボーの短編小説「移魂有術(Transfer Soul Skills)」が原題で、最新医療の研究が進み、癌細胞などで破損した脳神経を修復する技術が、開発された2032年の台湾が舞台です。
“ランタンフェスティバル”の夜、生命工学と美容整形の分野の企業を創設した、実業家の男が鈍器で撲殺された事件を発端に、被害者の死が紐解く“愛の形”や“命の重み”をサスペンスタッチで描いていく、サイエンス系SFドラマです。
「金馬奨」にて、サスペンス映画としては異例の5部門ノミネートを果たした、『目撃者 闇の中の瞳』(2018)のチェン・ウェイハオ監督が手掛ける『The Soul: 繋がれる魂』は、監督自身が父親をガンで亡くし、原作を読み感銘を受け、「人生と愛」をテーマに脚色し製作されました。
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CONTENTS
映画『The Soul: 繋がれる魂』の作品情報
【日本公開】
2021年(台湾映画)
【原題】
緝魂
【監督/脚本】
チェン・ウェイハオ
【原作】
チアン・ボー
【キャスト】
チャン・チェン、チャン・チュンニン、クリストファー・リー、チャン・シャオウェイ、リン・フイミン、サミュエル・クー、チャン・ボージア、ルー・シューフェン
【作品概要】
主演は『レッドクリフ PartⅠ』と『レッドクリフ PartⅡ -未来への最終決戦- 』にて、呉の初代皇帝孫権を演じた、チャン・チェン。彼は末期がんを患った、敏腕検察官を演じるにあたり、12kgの減量をし体当たりで熱演します。
また、主演映画『ビバ!監督人生!!』(2007)で、台北映画祭の最優秀女優賞を受賞し、『東京に来たばかり』(2013)で日本人の奈菜子役を演じた、チャン・チュンニンが刑事で主人公の妻を演じます。
映画『The Soul: 繋がれる魂』のあらすじとネタバレ
“ランタンフェスティバル”の明けた早朝、小高い山の上に建つ豪邸に1台のパトカーが到着し、警官が家主のワンから通報が入ったと告げると、ワンの部屋へと案内されます。
部屋に近づくと異様な臭いのする煙が漂い、部屋のドアには妙な印が刻まれていました。先に中へ入ったメイドは部屋の様子を見て悲鳴をあげ、2人の警官も部屋の惨状に言葉を失います。
ワンは右側頭部を鈍器で殴られ死亡しており、そばには凶器とみられる金剛杵(こんごうしょ)を左手に持ち、血まみれになったワンの妻が気絶しています。
床には臭いの元とみられる薬草の束が燃やされ、部屋は煙で燻されていました。
産婦人科の診療室では、妊娠7週を告げられた妻と夫が、なぜか哀愁を漂わせながら喜びをかみしめています。その理由は、夫の体が癌に犯され余命いくばくもないからです。
夫の検診では主治医が癌は腰髄に転移し、脳への転移が進むと脳細胞が破壊され、最終段階になってしまうと告げます。
医師は弱った脳神経を修復する、開発中の新療法について説明します。そして、“RNA修復技術”の臨床試験を受ける適性があるか、遺伝子検査をしておくことを勧めます。
妻は夫を助けるために不動産を手放し、治療費を捻出しようとしますが、夫は治療には莫大な費用がかかると、諦め気味になっていました。
朝のニュースでは早朝におきた、ワン・シーツォンの殺害事件について報道され、重要参考人として妻が警察に連行されていきます。
ワン・シーツォンは生命工学と美容整形の分野で、ワンコーポレーションを創設し、教育や保育、保険、不動産へと事業を拡大し慈善活動として、児童養護施設へ多額の寄付も行う有識者でした。
癌を患った検察官のチャオは、病気療養のため休職していました。しかし、妻の妊娠を知り黙って死を待つよりも、家族のために復帰して、国民の注目が高い、ワン・シーツォンの殺人事件を担当させてほしいと願い出ます。
チャオの妻アバンは刑事で、シーツォンの妻イェンの取り調べを始めます。イェンの証言では眠れずテラスで夜景を眺め、部屋へ戻る時にシーツォンの部屋に異変を感じて、入ってみると前妻スージェンとの息子、ティンヨウが“帰っていた”と言います。
彼は部屋で儀式のようなことをして、シーツォンに襲いかかり金剛杵で何度も殴打し、大量の出血をみて気を失ってしまったと話します。
メイドも物音で目が覚め、ワンの様子を見に行こうとした時に、ティンヨウが外に逃げ去っていくのを目撃していました。
イェンは春節の前日に、母親のスージェンが亡くなったあと、黙って家を出たきり行方不明だったティンヨウが突然現れ、母親の死は父親のせいだと暴れ騒ぎ立てたと言います。
ティンヨウの全身には呪いのようなタトゥがあり、胸には部屋のドアに描かれた印と同じものが刻まれていたと言います。
それはスージェンが信じていた魔術で、ティンヨウは同じ魔術の儀式で母親の魂を呼び覚まし、シーツォンに復讐したのだと話します。
聴取の様子をモニタリングしていたチャオは、アバンや他の捜査員たちに担当することになったと告げます。そして、チャオは遺言書の遺産相続人がイェンの他に、もう1人いることに目をつけ、調査するよう指令をだします。
第2相続人に指定されていたのは、ワンコーポレーションのCEOで、「RNA修復技術」の研究にも携わっている、“遺伝子学研究所長”のワン・ユーファンです。
ユーファンはシーツォンの全財産と経営権が、イェンにあるから犯人である可能性はないと証言しますが、直系血族であるティンヨウが相続から外され、第2相続人にユーファンの名前がある理由を訊ねます。
ユーファンは「それも父親を殺した原因のひとつ」だと答え、アバンは“母親のためにやった”と、いう供述の意味は何か聞きます。
メイドの供述によると先妻のスージェンは、心の病を発症していてその原因が夫のシーツォンにあったと言います。
スージェンがティンヨウを出産したあと、シーツォンは彼女に一切関心を示さず、出張で家を空けることも多く、服に女性の髪の毛や口紅のシミをつけて帰るなど、“浮気”が原因で深刻なうつ状態へと陥ったと言います。
そして、夫婦の不仲で一番苦しむのが子供だと続けます。スージェンが亡くなる前日、彼女は夫の顔に似てきたティンヨウに、恨みつらみをぶつけ何度も頬を叩き責め立て、「息子の顔を見ていられない」と言っていたと証言します。
シーツォンはスージェンの葬儀に参列しましたが、準備に関しては全てワン・ユーファンが行い、彼女の死後すぐにシーツォンが支援していた、児童養護施設で育ったリ・イェンと再婚します。それもユーファンの紹介でした。
チャオは司法解剖の結果、“遺体の傷痕から、左利きの人物の犯行”と目視し、イェンが供述書にサインをする利き手を確認します。
チャオはティンヨウも左利きだが、イェンも左利きで凶器に指紋があり、シロだと言い切れず釈放は保留にします。そして、スージェンの死因について“転落事故”と、報道されている真相を調べるよう指示します。
Netflix映画『The Soul: 繋がれる魂』の感想と評価
映画『The Soul: 繋がれる魂』は、近未来の科学的な進歩の中に、古来から伝わる「陰陽思想」なども盛り込まれて、見ごたえのある作品です。
要所要所に出てくる「あなたが私の立場だったら」という言葉は、作品テーマのキーワードでもあるでしょう。
シーツォンの思考を持ったイェンが言った「あなたが私の立場だったら」は、自己愛の究極から出た、“煩悩”そのものの発想です。
ティンヨが殺害に使おうとした“金剛杵”は、“煩悩”を打ち砕く武器です。ティンヨはまさに、シーツォンの頭の中にある煩悩を、打ち砕こうとしていたように見えます。
反対にアバンの言った「彼が私の立場だったら」は、愛する人を救いたい思いから発せられた“慈悲”から出た発想といえます。
とはいえ、どちらにしても本人の意思や意向を無視したゆえに、どこかにゆがみが生じて、犠牲や罪の上に幸せは成し得なませんでした。
“陰陽思想”から見る運命
陰陽思想とは“森羅万象”の摂理に基づき、宇宙のありとあらゆる事物には、陰と陽の二気があってそのバランスを保ちながら、存在しているといわれています。
人は往々にして不条理なことがおこると、その原因を他人や社会に転嫁してしまいがちです。シーツォンも自分が生まれ持った、トランスジェンダーを隠すために、スージェンとユーファンの人生と命を犠牲にしました。
もし、彼がトランスジェンダーであることを、ひた隠しにせず受け入れて堂々と生きていたら、違った生き方で存在していけたでしょう。
また、アバンの愛する夫の延命を望む気持ちがわかる反面、夫婦でその宿命と向き合い、残りの人生を清々しく全うしてほしかったとも思いました。
“因果応報”の観点から2人とも、何かを犠牲にしたり罪を犯してまで、運命を変えようとすれば、報いは同じように自分に返ってくるという意味も含んでいます。
素朴な疑問、“RNA”とは?
作中にでてくる“RNA”とは、“リボ核酸”という生体高分子のことです。よく聞かれる“DNA”は遺伝情報を保存している生体分子で、RNAというのはその遺伝子情報を“転写”するためのたんぱく質を生成し、次世代へ残していく役割があります。
ざっくりとした説明ではありますが、このストーリーを見る上で知っておくと、単なる作り話ではなく、どこかで同じような研究がされているかも……そんな想像も掻き立てられます。
しかしながら仮に自分の思考や記憶をRNAタンパク質にコピーをして、誰かの脳に転写ができたとしても、“精神”といった“魂”の部分は生きていく過程の中で育まれるものです。
自然の摂理に逆らって造られた人間には、感情の面でどこか欠落した人間になり、繰り返されたら・・・と考えると、恐ろしい気持ちになります。
まとめ
映画『The Soul: 繋がれる魂』はサイエンス系のSFサスペンスドラマですが、オカルト的な要素もあり、多方面からドキドキ感を与えてくれる作品でした。
本作は科学が発展すると、怨霊や呪いなども作りだそうと思えば、できてしまうことも現しています。シーツォンが自分の細胞を使って他人に憑依し、リアル生霊になったのも同じではないでしょうか?
逆にイェンがティンヨに話しかける前半のシーンには、シーツォンの演技に加えスージェンが憑依していたのでは?と思わせます。
なぜならば、イェンがティンヨに「ヨウヨウ」と呼びかけた目は愛おし気で、ティンヨも瞳に母を見たように感じます。
しかし、最後の裁判のシーンではイェンからスージェンの魂が抜けたかのように、ティンヨにもそれがわかったように見えたからです。
親子の絆は夫婦“愛”の中で育まれ、未来永劫に遺伝していくものであり、最新科学技術をもってしても、魂までは生成できないと実感できる映画でした。