連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第5回
世界の隠れた名作から珍作・怪作まで、埋もれかけた映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第5回で紹介するのは、これぞ未体験映画の代表『バースト・マシンガール』。
カルトな人気を誇る、日本映画のレーベル”Sushi Typhoon”。徹底した描写のアクション・ホラー・バイオレンス映画を世に放っています。
このレーベルは海外からの出資で完成した、井口昇監督の『片腕マシンガール』(2008)の世界的ヒットを受けて誕生しました。
片腕にマシンガンを装着して悪と戦う、セーラー服姿の女子高生。その姿はジャンル映画ファンたちに、大きなインパクトを与え受け入れられました。
あの衝撃作に対する、アメリカから挑戦状と言うべき作品が現れました。情け無用、血まみれ上等の激闘が幕を開けます。
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CONTENTS
映画『バースト・マシンガール』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Spare Parts
【監督】
アンドリュー・トーマス・ハント
【キャスト】
ミシェル・アーギリス、エミリー・アラタロ、キリアナ・スタントン、チェルシー・ミュアヘッド、ジュリアン・リッチングス
【作品概要】
何者かに拉致されたガールズバンド4人組。彼女たちは片腕を切断され、凶器を装着されデスマッチを強要されます。ヒロインたちが活躍するバイオレンスアクション映画。
「未体験ゾーンの映画たち2021」上映作品『スカイ・シャーク』(2019)や、「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品『スキンウォーカー』(2018)の製作者、アンドリュー・トーマス・ハントが監督した作品です。
主人公4人組の1人を演じたエミリー・アラタロは、スタントウーマンとして『マザー!』(2017)に参加、『シャドウズ・ゲート』(2010)には女優として出演と、幅広く活躍しています。
大ヒットしたSFシチュエーションスリラー『キューブ』(1997)で、最初に殺される役を演じて以来、その特異な風貌でB級映画ファンにお馴染み、ジュリアン・リッチングスも出演した作品です。
映画『バースト・マシンガール』のあらすじとネタバレ
とあるスクラップ置き場。そこでは切断された人間の腕が、無造作に投げ棄てられていました…。
その頃酒場では4人組のガールズバンド”Ms.45″が演奏していました。ギターのエマ(エミリー・アラタロ)とボーカルのエイミー(ミシェル・アーギリス)は姉妹です。
ベースのジル(チェルシー・ミュアヘッド)とドラムのキャッシー(キリアナ・スタントン)は同性同士のカップル。”Ms.45″の演奏は会場を沸かせます。
ところが酔った男がステージに上がってエマに迫ります。男に肘鉄を喰らわせ叩きのめすエイミー。
男の仲間もステージに乱入、襲われたエマも反撃しバンドのメンバーは大立ち回りを演じます。会場全体が乱闘騒ぎになりました。
店主が発砲して騒ぎは収まり、騒ぎの最中にジルの妊娠を聞かされ喜ぶエイミー。
演奏を終えると、駐車場でグッズを売る”Ms.45″。ドナーの精子で子供を作ったキャッシーとジルを祝福していると、先ほどの乱闘相手の男たちが現れます。
喧嘩を売るなら上等、と彼女たちは怯みません。そこにスキンヘッドの怪しげな男サムが現れます。サムの姿を見て立ち去る男たち。
サムは彼女たちの演奏と暴れっぷり、特にエマがギターを斧のように扱って闘い、観客を沸かせた姿を褒めました。
妹のエイミーは男と立ち去り、キャッシーとジルは2人で姿を消しました。ボーカルの妹より、お前が注目を集めるのに相応しいと告げるサム。
いずれお前はアリーナを観衆で埋め尽くし、皆がエマの名を叫ぶだろう。そう言い残し彼は立ち去りました。
“Ms.45″の4人はワゴン車に乗り、夜の道を次の会場へと移動します。
エマは自由奔放な妹エイミーの振る舞いをとがめ、姉妹はののしり合いを始めます。ジルが叫んで喧嘩を止めさせた時、後ろから車が現れました。
彼女らのワゴンにぶつかった車には、先ほどのサムが乗っていました。危険運転で挑発すると走り去るサム。
怒ったエマはハンドルを握り後を追います。ところがワゴンはパンクし停車しました。
彼女たちの車は路上に仕掛けられた、タイヤを切り裂くスパイクを踏んでいました。イタズラにしては悪質な行為に困惑します。
保安官のパトカーと回収車が現れました。バンは回収車に積み込まれ、保安官と共に修理工場に向かう4人。
彼女たちは広大なスクラップ置き場を持つ、修理工場に案内されました。
怪しげな場所に送られたと保安官に訴えますが、修理工場のダニエルはいい奴だ、と告げた保安官。ダニエルは4人を1室に案内します。
エマのスマホに彼女の恋人、ティムから電話が入りました。彼女は部屋から出てティムと話します。
トラブルで修理工場にいると聞き、迎えに行くと言うティムに、大丈夫だと答えたエマ。
残された3人のいる部屋には、怪しげな配管がありました。外に出たエマもそれに気付きます。配管の先にサムの車がありました。
サムがエンジンをふかすと、エイミーたち3人の残る部屋にガスが噴き出します。部屋から脱出できません。
スクラップ置き場の怪しい雰囲気に気付いたエマは、心配する恋人に構わず周囲を伺います。
地面に埋め込まれた車の中に人が入れられ、監禁場所に使われていると気付くエマ。
車の中の人を助けようとした彼女にダニエルが迫ります。エマはスクラップで彼を殴り倒して逃げ出します。
しかしエマはサムに捕まり薬で眠らされ、部屋に残る3人も倒れました。
意識を失った4人は手術台に並べられ、片腕を切断されます。
手術を行ったドクターと呼ばれる女は、目覚めたエイミーに神々をなだめるために、お前が選ばれたと伝えます。
自分の右腕が切断されたと気付いて、動揺し意識を失うエイミー。
再び彼女が目覚めた時、首には鎖がつながれていました。それを引いて彼女を連れ出した、剣闘士風の巨漢・ドリラーは彼女の切断された片腕に刃の付いた義手を装着します。
彼女はドリラーに、スクラップ車両に囲まれた闘技場に押し込められます。そこに斧の義手を付けたエマが現れました。
ハンマーの義手を付けたキャッシー、ノコギリの義手を付けたジルも姿を現します。4人が集まると照明が点灯します。
闘技場の周囲には歓声を上げる観客たちがいます。そして皇帝(ジュリアン・リッチングス)と名乗る男は、観客たちのリーダーでした。
自分たちの繁栄のために、大地に血を流せと言う皇帝。観客もそれに唱和します。観客席には銃を持った保安官が立ち、彼女たちが逃げるのは不可能です。
4人の前に手に凶器を持った8人の男女が現れます。互いに殺し合い勝者は戦士として生き残る、我々のために血を流せと告げる皇帝。
妊娠しているジルは解放しろと要求されると、妊婦を戦わせるような残酷なことはしないと、皇帝は眠っている間に中絶した胎児を見せます。
キャッシーは怒りますが、皇帝はアリーナでの殺し合いを開始させ、8人は彼女たちを襲いました。
身を守るため4人も反撃します。凶器を使った死闘で1人死ぬと、大きな歓声を上げる観客たち。
凄惨な闘いの末、全ての相手を殺害しますが、ジルは命を失います。
残った3人が皇帝に怒りの声を上げると、彼は部下に命じ麻酔銃で彼女たちを眠らせます。アリーナに歓声が響きわたりました。
悪夢からエマが目覚めると、彼女を世話をする女リアが現れます。彼女は片足が義足でした。
現れたサムに、与えられた食事を投げつけるエマ。
エイミーとキャッシーは粗末な1室に閉じ込められました。パートナーのジルを失い、嘆き悲しむキャッシー。
サムは反抗するエマに、妹たちは犬のように扱われている、お前は自分の待遇に感謝しろと告げました。
そこにドリラーが現れます。皇帝の命令でサムからエマを引き取り、エイミーとキャッシーと共に連れて行きます。
3人に対し最初の試練を生き残ったが、まだ本物の戦士とは言えないと告げるドリラー。死にたくなかったら真の戦士になれと言葉を続けます。
戦うより死を選んだらどうなる、と尋ねたキャッシーにならば殺す、だがお前は死の準備が出来ていないと告げたドリラー。
ドリルの付いた義手を武器に、彼は襲い掛かる3人を鍛え始めます。
訓練を終えたエマの傷を、サムに命じられ彼女を世話するリアが縫います。エマに身の上を聞かれ、兄と妹と来たと答えるリア。
彼女は最初の戦いで兄と妹が死に、自分は足を失ったと言いました。しかし殺されるはずの彼女をサムが皇帝を説得して救い、今はこうして生きていると語ります。
リアに共に逃げようと言うエマ。しかしそこにサムが現れると、彼女は怯え命令に従って引き下がりました。
サムはエマにギターを与えますが、片腕を失った彼女に演奏は出来ません。彼はエマの横に座り2人で演奏します。サムは彼女に執心しているようです。
別の部屋に監禁されたエイミーとキャッシーにもその音が聞こえます。舞台で演奏する時以外はエマと対立していたエイミーは、複雑な思いで姉の演奏を聞いていました。
今日も訓練に励む3人に、古代ローマの剣闘士の誓いの言葉を告げるドリラー。訓練中も銃を持つ男に監視される戦士たち。
風呂に入る皇帝を世話するドクター。彼女は皇帝の妻で、息子のサムを誇らしく思っていました。
しかし父親である皇帝は、皆が求める闘技場の戦士として麻薬中毒者や浮浪者、ガールズバンドを連れてくる息子に不満を漏らします。
血を流す神への捧げものに、優れた戦士が欲しいと息子の力不足を責める皇帝を、ドクターはなだめました。
その頃エマの恋人ティムは、ガールズバンド”Ms.45″の行方を求め演奏した酒場を訪れます。
店主も行方を知りません。ティムは彼女が電話で話した、スクラップ置き場のある修理工場の場所を尋ねました。
自分なら関わらず近寄らない、と言いつつ工場の場所を教えた店主。
エイミーに対し亡きジルへの想いを語り、今は彼女の復讐を果たすことが生きる理由だと語るキャッシー。
エマの気を引こうと、特別な扱いを続けるサム。
様々な思いを胸に、3人の女は戦士になる訓練を続けます。
映画『バースト・マシンガール』の感想と評価
参考映像:『天使の復讐』(1981)
このトンデモ映画、『片腕マシンガール』や『マッドマックス サンダードーム』(1985)、『死霊のはらわたⅡ』(1987)の影響を受けた作品だ、と誰もが思うでしょう。
これらの作品より重要な作品があります。それは主人公たちのガールズバンドの名であり、オープニングとエンドロールの曲で連呼される、”Ms.45″。
『ドリラー・キラー』(1979)や『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』(1992)の、アベル・フェラーラ監督の『天使の復讐』(原題「Ms.45」)から頂いたものです。
体験から神経衰弱に追い込まれ、そして男にリベンジする女性をスタイリッシュに描いた低予算エクスプロイテーション映画で、予告編で圧倒されてしまう、カルト的人気の映画です。
徹底的に虐められた主人公たちが、男たちにリベンジするお話。そこには『天使の復讐』へのオマージュがあるのです。
カルト集団が巣食うラストベルト
本作で殺人バトルを仕掛けるのは、恐るべきカルト集団。現実にはあり得ないだろう、とツッコミたくなる設定です。
殺人カルト集団が出てくる映画と言えば『ウィッカーマン』(1973)や『ミッドサマー』(2019)が思い浮かびます。
古くから伝わる怪しげな何かを信仰する集団、といえば離島や人里離れた寒村、といったイメージがお似合いです。
ところが『バースト・マシンガール』に登場するのは、片田舎とはいえスクラップ置き場。工業化の影響を受けた場所です。
これはアメリカのラストベルト、工業が衰退し寂れた街の風景を重ねた結果でしょう。
かつて栄えた街が、製造業の衰退と共に荒廃し、そこに住む人々の多くが白人貧困層に転落する。彼らの不満がトランプ支持に向かい、国を2分する事態となりました。
キリスト教原理主義でも、排他主義でも、何かを信奉したくなるほど追い詰められた人々の姿は、現在の大きな社会的テーマとして様々な映画に描かれています。
人知れぬ場所より、今はかつて栄えた地方都市の方がカルト集団にお似合いかも。そんな世情がアメリカの地方を舞台に、『マッドマックス』的な狂気を持つ世界を描かせました。
日本でも同じような状況です。『犬鳴村』(2020)や『樹海村』(2021)のような物語が、今後はシャッター街のある町で生まれるのかもしれません。
ホームセンターの工具で描く剣闘士バトル
参考映像:『未来帝国ローマ』(1983)
特殊メイク系のグロ描写など、エグいシーンが続々登場、パンクなおネエさんが活躍と、ジャンル映画ファンなら間違いなく飛びつく本作。
しかし軽快なテンポで話が進むと思いきや、人間関係の恨みつらみに、権謀術策渦巻くドラマが展開。これが本作にいささか冗長な印象を与えます。
ガールズバンドが主人公の映画です。全編ロック音楽を流しそのリズムに乗せて進めた方が、との感想が否めません。
映画『グラディエーター』(2000)のヒット以降、『ROMEローマ』(2005~)や『スパルタカス』(2010~)などドラマ化されるなど、人気の古代ローマや剣闘士の世界。
そのイメージが本作に反映されたのでしょうか。それらが持つ人間ドラマまで、このジャンル映画に持ち込まれたのでしょう。
工務店で調達したレベルの工具・凶器を駆使して繰り広げる、マンガ的剣闘士バトルの映画ですからドラマは二の次でも良いはずです。
私が本作を見る前の予想は、『片腕マシンガール』を進化させた『爆裂魔神少女 バーストマシンガール』(2019)のような映画でした。
実際に目撃したのは、スプラッター映画の巨匠ルチオ・フルチが、『ブレードランナー』(1982)的近未来で、殺戮剣闘士バトルを描いた怪作『未来帝国ローマ』みたいな作品だった、そんな印象です。
もちろん本作、クセが凄すぎるB級映画『未来帝国ローマ』よりも、ちゃんとしています。
まとめ
数多くのB級映画を手掛けたプロデューサー、アンドリュー・トーマス・ハント監督作品らしい要素が詰まった映画『バースト・マシンガール』。
映画は決して安っぽい印象を与えるものではありません。ロケ地は主にスクラップ置き場ですが、しっかり作り込まれた映像で俳優も良質、残虐シーンはサービス満点です。
この映画を”Ms.45″を軸に受け取ると、『天使の復讐』ではボロボロの状態で男に復讐した女性主人公は、本作では怒りをたぎらせ力まかせの逆襲を繰り広げます。
それを意識して劇中の”Ms.45″の曲を聞くと、本作に対する印象は大きく変わるでしょう。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回、第6回は美女を監禁し、自分を愛するよう仕向ける男。危険な関係が衝撃の結末を迎える心理サスペンス、『ラブ・エクスペリメント』を紹介します。お楽しみに。
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