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映画『ドリラー・キラー マンハッタンの連続猟奇殺人』あらすじと感想レビュー。伝説のカルト作品でアベル・フェラーラが演じた狂気|夏のホラー秘宝まつり:完全絶叫2019⑦

  • Writer :
  • 増田健

2019年8月23日(金)より、キネカ大森ほかで開催される「第6回夏のホラー秘宝まつり2019」。

日本映画界夏恒例のホラー作品上映イベント「夏のホラー秘宝まつり」。厳選された上映作品の中に、名作ホラー映画が毎年リバイバル上映されます

今年のリバイバル上映作品に選ばれた1本が、アベル・フェラーラ自ら主演・監督を務めたスプラッター・ホラームービー、『ドリラー・キラー マンハッタンの連続猟奇殺人』です

後にクリストファー・ウォーケン主演の『キング・オブ・ニューヨーク』で名を上げ、ハーヴェイ・カイテル主演の『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』『スネーク・アイズ(1993)』でその地位を不動のものにしたアベル・フェラーラ監督。

その彼を代表する初期の作品は血みどろで、作家としての情念が詰まった流血映画であったと、大きな話題になりました。

その狂気を秘めた伝説のカルトムービーが、今年の「夏のホラー秘宝まつり」で甦る

【連載コラム】「夏のホラー秘宝まつり:完全絶叫2019」記事一覧はこちら

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映画『ドリラー・キラー マンハッタンの連続猟奇殺人』の作品情報


(C)2019 キングレコード

【製作】
1979年(アメリカ映画)

【原題】
The Driller Killer

【監督・主演】
アベル・フェラーラ

【出演】
アベル・フェラーラ、キャロリン・マーズ、リチャード・ボワース

【作品概要】

アベル・フェラーラ監督の長編映画第2作目となる、カルト映画化した伝説のスプラッタームービー。

売れない画家である、監督自らが演じた主人公は、絵を描くことに没頭し生活に追い詰められ、やがて現実と狂気の世界の区別がつかなくなっていく。

そして電動ドリルを手に、夜のニューヨークの街をさまよい始めた彼は今日もまた、血塗られた凶行を繰り返す…。

映画『ドリラー・キラー マンハッタンの連続猟奇殺人』のあらすじ


(C)2019 キングレコード

ニューヨークの街で暮らす、売れない画家のリノ・ミラー(アベル・フェラーラ)。彼は恋人のキャロル(キャロリン・マーズ)と、そのパートナー・パメラと共に暮らしていました。

安定した収入の無いリノは、アパートの家賃や電話代の支払いに苦しみながら、絵を描いていました。絵のアイデアを得る為か、スケッチブックや双眼鏡を手に、街にたむろする人々を観察するリノ。

彼が目にしたのは犯罪がはびこり、路上にホームレスが溢れる荒んだ世界でした。

今描いている絵が完成し、認められれば金が入る。そのプレッシャーの影響か、リノは幻覚を見る様になっていきます。

リノの住むアパートの一室を、“ルースターズ”というバンドが借ります。昼だけでなく、深夜にも部屋でリハーサルを行う“ルースターズ”。その騒音に悩まされ、追い詰められた彼は、あてもなく夜の街をさまよいます。

そんな折キャロルの元に、別れた元夫スティーブン(リチャード・ボワース)から、金が同封された手紙が届きます。彼女を案じるスティーブンからの便りに、改めて自分の境遇を考えるキャロル。

昼夜問わず行われる、“ルースターズ”のリハーサルに悩まされたリノは、大家に苦情を申し立てます。しかし大家は取り合わず、怒りを募らせた彼は以前TVで見た、電動ドリルを購入します。

深夜、絵を描いていたリノは、幻聴と幻覚に襲われます。そして電動ドリルを手に夜の街に出たリノは、路上で寝ていた男の体にドリルを突き立てます。

生活に追われ、騒音に悩まされ、キャロルとも心が離れ始めたリノ。やがて狂気の世界に憑りつかれた彼は、電動ドリルを手に夜の街を、地下鉄の中を駆け抜け、次々と人を襲います…。

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映画『ドリラー・キラー マンハッタンの連続猟奇殺人』の感想と評価


(C)2019 キングレコード

成功を目指したアベル・フェラーラの怪作

1951年ブロンクスに生まれ、生粋NYっ子であるアベル・フェラーラ。彼は10代から8㎜カメラを手に映画を撮影、短編映画を製作するようになります。

1976年、商業デビューを遂げた初の監督はポルノ映画。その作品には、当時の彼女も出演させたと語っているアベル・フェラーラ。

さらに上を目指す為、第2作目の長編商業映画として、監督・主演を務めた作品が『ドリラー・キラー マンハッタンの連続猟奇殺人』です。

なお主役はJimmy Laineとクレジットされていますが、これはアベル・フェラーラの変名ですので、ご注意下さい。

彼が2作目として選んだのは当時人気で、インディーズ作品でも大きくヒットする可能性がある、スプラッタームービーでした。映画の冒頭に「大音量でお楽しみ下さい」とのクレジットが入りますが、当時普及し始めたビデオでの鑑賞を意識したものでしょうか。

彼が自ら手にする凶器として選んだのは電動ドリル。お手本となる電動工具を使った、低予算で大成功を収めたホラー映画といえば『悪魔のいけにえ』、と自身が認めています。

ドリルを使った連続殺人、というシチュエーションはインパクトがありますが、ねちっこく見せるグロテスクな描写はありません。特殊メイクに予算をかけれない事情もあるのでしょう。

その一方で劇中に登場するロックバンドの音楽同様、テンポ良い演出でNYの街を舞台に、次々見せる残酷シーンが売りの映画です。全編に流れるパンクな精神を大いに楽しみましょう。

当時の危険でパンクな大都会・NYを描いた作品

この作品と将に同時代、同じNYを舞台にしたスプラッター映画、そして監督は他人に委ねたものの、製作・脚本・主演は俳優ジョー・スピネルが務めた作品に、1980年に製作された映画『マニアック』があります。

参考映像:『マニアック』(1982日本公開)

アベル・フェラーラと同じくNY生まれ、NYで活動を続けたジョー・スピネルが、自らも出演した『ロッキー』の成功に影響を受け、製作したのが『マニアック』でした。

トム・サビーニの特殊メイク(役者としても出演)が有名ですが、『ドリラー・キラー』と共に、当時の危険な街の雰囲気の描写を、リアルに体感できる作品です。

『ドリラー・キラー』について尋ねられたアベル・フェラーラは、この作品はエクスプロイテーション映画であるが、同時に自伝的ドキュメンタリーでもある。無論ドリルで人を襲うシーンを除いて、と語っています。

映画に登場する登場人物が住むアパートは、実際に当時監督が住んでいたアパート。ロケ地もその近辺で、当時NYの街にたむろしていた人々の姿が、繰り返し映し出されます。

そんな危険な街でもあり、同時にパンクカルチャーの街でもあった当時のNY。そこで若い監督とスタッフが、成功を求めて16㎜フィルムで撮影した映画、という背景を鑑賞して感じとって下さい。

ちなみに同時期日本では、石井聰亙(現・石井岳龍)監督が1980年、『狂い咲きサンダーロード』を完成させています。この当時確かに、全世界がパンクしていた時代がありました。

規制・封印された事でカルト化した映画

『ドリラー・キラー』を現在の視点で見れば、粗削りだがパワフルな魅力のある、若手製作のインディーズホラー映画、という評価になるでしょう。

主人公の行為は通り魔そのものですが、閉塞した状況と肥大したエゴに追い詰められた果ての凶行、と見れば観客にある種の共感を与える描き方です。

残酷描写はNY市内でのロケの効果もあって、実に臨場感がありますが猟奇趣味は控え目、悩める青春映画の枠で捉えた方が正解です。一方若い女性に危害を加える、暴力ポルノ的な直接描写は避けています。

一方主人公と同居する2人の女がバイセクシャルとして描かれ、短いながらサービスショットを提供しているのが、かえってエクスプロイテーション映画らしい性格の描写でしょう。

ちなみにアベル・フェラーラは、監督としての意地か、それとも単に恥ずかしかったのか、ベットシーンに参加していません(濃厚なキスシーンあり)。

実はアベル・フェラーラ、「主演女優と寝たら絶対ダメだ。良い映画が作れなくなる」との名言(?)を残しています。ここは信念にしたがったと解釈しましょう。

ところで本作は、様々な映画をビデオで鑑賞する機会が増えた当時、イギリスの“ビデオ・ナスティ”こと、ビデオ作品には映画より表現規制を幅広く解釈し、厳しく審査した結果、多くの作品を発売禁止とした制度の、やり玉にあがる作品となります。

その結果『ドリラー・キラー』は、イギリスでは1984年から1999年に、カット版が承認されるまで、見る事が出来ない作品となりました。更に完全版が鑑賞可能になるのは、2002年の11月まで待たされる事になります。

無論この規制は監督に不服な事態でした。しかしイギリス当局に“猥褻”された作品が、見てみると実は作家性の強い、優れた作品であると評判になり、アベル・フェラーラはかえって本国より、欧州で知名度を高める事になりました。

まとめ


(C)2019 キングレコード
伝説のカルト映画、そして時代を代表するスプラッター映画、そして青春の痛みを残酷に描いた映画である『ドリラー・キラー マンハッタンの連続猟奇殺人』。

ところで悩める主人公アベル・フェラーラが、突然なぜか“ライトセイバー”にしか見えない物を、手にするシーンがあります。

この“ライトセイバー”の根元は赤色、ダース・ベイダーの色と同じ。主人公がダークサイドに墜ちた事の比喩なのか、アベル・フェラーラもまた『スター・ウォーズ』(エピソード4は1977年米公開)の洗礼を受けた、という事でしょうか。

そしてこの映画には、実はチョイ役でブルース・ウィリスが出ている、という都市伝説(?)が今だにささやかれ続けています。

どうやら噂は、アベル・フェラーラ本人がある場所で冗談で、「ブルース・ウィリスが出てるよ、映画の冒頭で、タクシーの窓ガラスを拭いている男だよ(どう見ても別人です)」、と語ったのが出どころの様です。

この映画を「夏のホラー秘宝まつり2019」の大画面でご覧になる方、11月発売の高画質のBlu-ray&DVDで鑑賞する方は、冒頭のシーンにどうか注目してご覧下さい。

やはりどう見ても、ブルース・ウィリスじゃないと思います。多分。

映画『ドリラー・キラー マンハッタンの連続猟奇殺人』は2019年8月23日(金)より、キネカ大森ほかで開催される「夏のホラー秘宝まつり2019」にて上映、11月6日Blu-ray&DVDリリース!

【連載コラム】「夏のホラー秘宝まつり:完全絶叫2019」記事一覧はこちら

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