アニーシュ・チャガンティ監督の2020年11月に北米配信の映画『RUN(原題)』。
2018年公開の映画『Search/サーチ』でその驚くべき演出力を見せつけたアニーシュ・チャガンティ監督の2作目となる長編映画『RUN(原題)』。
慢性的な病気により車椅子での生活を余儀なくされている女子学生が、自身を過剰に保護する母親に不信感を抱き、その秘密を暴こうとしたことで驚愕の真実にたどり着いてしまうサスペンス・サイコスリラー映画です。
『アメリカン・クライム・ストーリー』でゴールデングローブ主演女優賞を受賞したサラ・ポールソンが、娘を狂気的に愛する母ダイアン役を怪演。そして娘クロエ役には、実生活でも車椅子を用いているキエラ・アレンが抜擢されました。
映画『RUN(原題)』の作品情報
【公開】
2020年(アメリカ映画)
【監督】
アニーシュ・チャガンティ
【キャスト】
サラ・ポールソン、キエラ・エレン、パット・ヒーリー、サラ・ソーン、エリック・アタヴェール、オナーレ・アメス
【作品概要】
生まれつき身体に不自由を持った娘と、彼女を過剰なまでに介護する母親。そんな母娘の間に生じた日常の綻びから明かされていく衝撃の真実と狂気を描いたサスペンス・サイコスリラーです。
2018年の『Search/サーチ』で注目を浴びたアニーシュ・チャガンティ監督の長編第2作であり、「信じた全ての場所を疑え」というキャッチコピー通り、或いはそれ以上の作品となっています。
映画『RUN(原題)』のあらすじとネタバレ
母ダイアンに愛情深く育てられてきた娘クロエは、大学への進学を目指すようになり、現在はその合格通知を毎日待つ日々を送っていました。
クロエは不整脈、血色素症、喘息、糖尿病、下肢の筋無力症といった慢性の病気を抱えており、酸素吸入器やインスリン注射などの助けが必要でした。毎日必ず薬を飲み、歩行がうまくできないため車椅子での生活を余儀なくされていましたが、自身を甲斐甲斐しく介護する母親のことを常に気遣う、とても優しい娘でした。
ある日、ダイアンから与えられたチョコレートを食べていたクロエ。糖尿病ゆえに、彼女は食べていいチョコレートの量もダイアンに厳しく管理されていましたが、もう少しだけチョコレートが食べたいと思ったクロエは、ダイアンの買い物袋の中にあるチョコレートをこっそり取ろうとします。
そこでクロエは、処方箋袋と、その袋の中に入っていた緑色の薬を発見します。そして処方箋と薬瓶には、クロエではなくダイアンの名が記されていたことを不思議に思います。
夕方、ダイアンはその薬をクロエに与えます。クロエは薬について尋ねますが、ダイアンは話をはぐらかすばかりでした。
翌日、例の薬を改めて確認するクロエ。薬瓶には母親の名前ではなく自分の名前が記されていました。しかし、少し浮いている薬瓶のラベルを剥がしてみると、その下にはやはり母親の名前が記された別のラベルが隠されていました。クロエの疑念はますます強まっていきます。
クロエはその薬がどのようなものなのかを探るため、ダイアンが眠りについた夜、インターネットでの検索を試みますが、そもそも家にはインターネット自体が繋がっていませんでした。ダイアンに不信感を抱き始めたクロエは、やがてその薬を飲まずに保管するようになります。
ある日、母娘は映画を一緒に観に行きました。クロエは映画の上映中、ダイアンに「トイレへ行く」と行って映画館を離れ、薬の正体を知るべく薬局へと向かいます。
そこで彼女は、緑色の薬は、主に筋肉の震えや強張りを改善するために用いられる筋弛緩作用を持つ薬であり、少なくとも下肢の筋無力症を抱えるクロエが飲んではいけない代物であることを薬剤師から聞かされます。
母ダイアンは、クロエの足を確実に動かせないようにするために、彼女には決して飲ませてはいけない薬を定期的に与えていたのでは……受け入れがたい事実にショックを受けたクロエは呼吸困難の発作に陥りますが、そこに彼女を探しに来たダイアンが姿を現します。
ダイアンは「大丈夫」とクロエを落ち着かせながらも、注射によって彼女を眠らせて家へ連れて帰ります。
自室で目を覚ましたたクロエは、部屋のドアが外から鍵がかけられていることに気付き、あわせてダイアンが外出していることも確認します。今が逃げるチャンスだと考えたクロエは、何とか窓を通って屋根の上を這い、自室から脱出することに成功します。
やがて、クロエは普段から自分の家に訪れていた宅配員のトラックを見つけると、トラックの前に飛び出て宅配員に助けを求めます。しかし、その様子を家に戻ってきたダイアンは目撃していました。
クロエに助けを求められた宅配員は、ダイアンの脅迫に近い訴えと尋常ではない様子を不審に思い、クロエの望み通り彼女を警察署へ連れて行く準備をします。するとダイアンは宅配員の首に注射を打ち昏倒させ、クロエをそのまま地下室へと連れて行きます。
クロエが再び気がついた時は、地下室に監禁され、車椅子も使えなくされていました。そして彼女は、ダイアンがその存在を秘密にしていた地下室で母の素顔を知ることになります。
映画『RUN(原題)』の感想と評価
母娘の間に隠されていた衝撃の真実の狂気の愛を描いたサスペンス・サイコスリラー『RUN(原題)』。母ダイアン役のサラ・ポールソンがあるインタビューにて「この映画は薄氷の上を歩くようにハラハラするため、観客の目を虜にするでしょう」と語っていた通り、映画の完成度の高さとアニーシュ・チャガンティによる「緊張」の演出には、始まりから最後まで退屈する暇がないといっても過言ではありません。
そして何よりも特筆すべきは、やはり圧巻としか言いようのない母親と娘の表情の演技です。
母ダイアンを演じたサラ・ポールソンは、過保護ながらも愛情深い母の姿、それと表裏一体であった狂気を見事に表現。『ミスター・ガラス』(2019)、『オーシャンズ8』(2018)、『キャロル』(2015)などで演じた役とは一味違う、強烈なキャラクターをまさに「怪演」しました。
また、長きにわたって母の狂気に蝕まれてきた娘クロエを演じた、キエラ・アレンの演技も決して忘れてはなりません。
アニーシュ・チャガンティ監督はオーディション映像を見ながら、自然で飾らない彼女の姿にキャスティングしたといいます。
そして監督の予想通り、本作が初の長編映画出演ながらも、キエラ・アレンは卓越した演技力を発揮。それは、映画『RUN(原題)』が彼女の代表作の一つとなることを観る者に確信させます。
まとめ
母ダイアン役のサラ・ポールソンと、娘クロエ役のキエラ・アレンによる「女優」としての対決という側面も持つ映画『RUN(原題)』。それは二人が演じる母娘の対決の構図と重なり、作中で訪れる「逆転」の結末にも現実・虚構入り混じった説得力を生み出しています。
物語のプロット自体は王道/シンプルながらも、二人の女優の対決によってその魅力を高めるという演出の妙からは、「PC画面上の映像」のみで物語を描いた前作『Search/サーチ』とは全く毛色の異なる作品を今回制作した、アニーシュ・チャガンティ監督の演出力の「幅」を改めて感じさせられました。
果たして、アニーシュ・チャガンティ監督は映画『RUN(原題)』を経て、次はどのような作品と演出によって観客を驚かせてくれるくれるのか、非常に楽しみです。