映画『ファーストラヴ』は2021年2月11日(木)より全国順次ロードショー!
直木賞作家、島本理生の人気原作小説を、サスペンスミステリーでは定評のある堤幸彦監督によって映画化された『ファーストラヴ』。
本作は、父親殺しの容疑者をめぐり取材を行う臨床心理士の女性が、事件の真相に迫っていく中で、その真実が自身の抱く心の闇に絡まっていく様を描いたサスペンスストーリー。
主人公の臨床心理士女性を北川景子、父親殺しの容疑者女性を芳根京子が担当、新旧の実力者女優が演技で火花を散らしています。他にも中村倫也、窪塚洋介、木村佳乃、板尾創路らクセ者といえる超個性派俳優が集い、濃密でミステリアスな堤幸彦ワールドを絶妙に描き上げています。
映画『ファーストラヴ』の作品情報
【日本公開】
2021年(日本映画)
【監督】
堤幸彦
【脚本】
浅野妙子
【原作】
島本理生「ファーストラヴ」
【キャスト】
北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介、板尾創路、石田法嗣、清原翔、高岡早紀、木村佳乃
【作品概要】
臨床心理師が、父親を殺した女子大生の事件に迫る中で、犯人の心の闇とともに自身の過去とも向き合っていく姿を描きます。
『明日の記憶』『十二人の死にたい子どもたち』『望み』などの堤幸彦監督が作品を手掛け、脚本を『彼女がその名を知らない鳥たち』などの浅野妙子が担当しました。
主人公の臨床心理士・真壁由紀を北川景子、父親殺しの容疑で確保される女性・聖山環菜役を芳根京子が担当。メインキャストにはさらに中村倫也が脇を固めます。また窪塚洋介、板尾創路、木村佳乃、石田法嗣、清原翔、高岡早紀ら若手、ベテラン、個性派、実力派などバラエティに富んだ配役も物語を盛り上げます。
映画『ファーストラヴ』のあらすじ
ある大学のトイレで、一人の男性が胸を刺され倒れていました。一方、血まみれのナイフを持ち川端の道を歩く一人の女性。彼女はアナウンサー志望の女子大生、聖山環菜(芳根京子)。その後彼女は、トイレで倒れていた父であり画家の那雄人(板尾創路)を殺した容疑で逮捕、大きくメディアで報じられます。
警察の取り調べに対し「動機はそちらで見つけてください」と返答したという環菜。その彼女について取材の依頼を受けた臨床心理士の真壁由紀は、彼女への接見を決意します。
環菜の弁護士は国選弁護人として選任された由紀の夫・我聞(窪塚洋介)の弟である弁護士・庵野迦葉(中村倫也)。因縁の関係を持つ迦葉と由紀は大学の同級生で、彼女は戸惑いながらも迦葉に接見希望を申し出て、ついに環菜と対面します。
「あの子はくせ者だよ。心が読めない」という迦葉の言葉に身構えながら、最初は臨床心理士の立場として冷静に環菜を観察するものの、環菜を取り巻くさまざまな人物から改めて知らされる事実に翻弄されていく由紀。
そしていつしかその真実は、由紀自身が抱える心の闇へとつながっていくのだが…。
映画『ファーストラヴ』の感想と評価
この物語のポイントは、謎が謎を呼び展開していく原作のサスペンス・ストーリーを、堤幸彦監督がどう料理していくのか、という点にあります。
近年は、社会的な問題をテーマとしたシリアスなミステリー小説の映画化を度々手掛けている堤監督だけに、この物語もそのメインストリーム作品にあたる一本といえます。
しかし一方で、堤監督は本作を手掛けるにあたって、事前に難しさをおぼえていたとも明かしています。
その要因は、本作のメインテーマに起因する女性心理を、いかに描くかという点にあります。
作品のテーマとしては「複雑な家庭内虐待によって苦しむ女性の顛末」という、考えてみれば意外にピンポイントなものであり、確かにこれまでの堤監督が手掛けてきた作品を振り返ると、どちらかというとあまり性別に左右されない描き方をされてきたと感じるところもあって、堤監督が挑むテーマとしては新しいものだということがうかがえます。
そして、その課題に対して本作は、原作の基本を押さえつつ表現に対して敢えて「女性心理」ということをそれほど細かく押し出さない表現をとっており、真壁由紀、聖山環菜という二人のヒロインを変に女々しく描かず生々しいまでの姿で描き上げています。
本作のキャスティングは、全般的に当て書きされたのかと思えるくらいに役柄とピッタリ合った印象すらあり、その中で北川と芳根の二人は、少女時代から虐待やさまざまに複雑な境遇を持つことで心に傷を負った由紀、環菜という女性を、文字通り体当たりの演技で表現しています。
その演技に堤監督作品ではよく見られる速いカット展開をうまく絡ませて、心に闇を抱えた女性の生々しくオドロオドロしい心理を見るものにショッキングに伝えていきます。
そのショックがダイレクトなだけに、見るものとしてはそのキャラクターの境遇を考え、そしてその心理を想像します。
つまり「描かない」ことで観衆自身の中にその「無い部分」を直接見るよりずっと強い感情を湧き起こさせ、最も重要なポイントを鮮烈に描くことに成功しています。
またキャストの印象としては、やはり北川の存在が最も光ります。この作品における由紀という立場の役柄は、平たく言えば周りに振り回されるというもので、メインキャラクターである環菜、迦葉、我聞というそれぞれの人物とのシーンは、ある意味役者として三連組手の戦いを演じるような位置関係に立ちます。
その北川が三人の共演者それぞれに対して「こんな表情を見せるのか」と時に意外な引出しを見せ相手を翻弄する姿は、北川自身の役者という仕事におけるスキルの高さを物語っています。
そしてその北川の演技による煽りがあってこそ芳根、中村倫也、窪塚洋介らの表情も非常に生きて物語に新鮮さを与えています。北川の起用は、本作が作品として成立するための要素として大きな部分を占めているともいえるでしょう。
まとめ
この物語のメインテーマの一方で興味深いのは、窪塚が演じる我聞という役柄です。
彼は幼馴染であり不遇な少年時代を過ごした従弟の迦葉を、無償の愛情をもっと弟として家族に受け入れて、自身のカメラマンとしてのキャリアを由紀と結婚することで潔く諦めて…と絵に描いたような“いい人”として描かれます。
この物語に登場する人物はどこかに闇のようなものを抱えた人ばかりの中で、彼の存在はある意味特異点でもあり、その裏に何かあるのではないかと勘繰りたくもなります。
特に本作を原作の予備知識もなく見ると、これまでの作品では強烈な印象の役柄を多く演じ異彩を放ってきた窪塚の演技、そしてこれまで自身の作品で大きなどんでん返しをいくつも見せて、見るものを驚かせてきた堤監督だけに「我聞という役柄には、物語をひっくり返す何かがあるのではないか?」と思わせるようなところがあります。
こんな思惑を抱かせる一方、窪塚は本作で全体的にほとんど表情の変化を見せておらず、劇中で北川とは全く正反対の存在感を見せています。
彼の表情は展開の不穏な空気を微妙に深くしたり、あるいは我聞という人物のバックグラウンドを想像させたりと、物語の奥行きを深く作り上げている印象もあります。本作はこうした人物の置き方、描き方などにおいて、非常に緻密に計算されている様子を感じさせます。
そして『ファーストラヴ』というタイトル付けはどのような意味合いを持つものなのか、堤幸彦作品ならではのカラーをたたえつつしっかりと原作に描かれたその本質を描いており、堤監督作品として非常に見ごたえのある一作品となっています。
映画『ファーストラヴ』は2021年2月11日(木)より全国順次ロードショーされます!