映画『ストレイ・ドッグ』は2020年10月23日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国順次公開!
復讐か? 贖罪か? 過去に犯した過ちで心を蝕まれた女性刑事が、決着をつけるために動き出します。
ニコール・キッドマンが特殊メイクでその美貌を覆い、初めて刑事役に挑戦した映画『ストレイ・ドッグ』。
LAの街を舞台に女性刑事の後悔と怒りの念がほとばしり、激しいアクションシーンが炸裂する衝撃のネオ・ノワールです。
映画『ストレイ・ドッグ』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
Destroyer
【監督】
カリン・クサマ
【キャスト】
ニコール・キッドマン、トビー・ケベル、タチアナ・マズラニー、スクート・マクネイリー、ブラッドリー・ウィットフォード、セバスチャン・スタン
【作品概要】
ニコール・キッドマンが初めての刑事役に挑んだ犯罪スリラー。過去に犯した過ちで心を蝕まれた女性刑事が、決着をつけるため動き出します。
キッドマンの美貌ときらびやかなオーラを特殊メイキャップで覆い、過去に犯した過ちで心を蝕まれた女性刑事が、決着をつけるために突き進んでいく姿を描いています。ニコール・キッドマンは、本作の演技で第76回ゴールデングローブ賞(2019)の主演女優賞にノミネートされました。
監督を務めたのは『ガールファイト』(2000)、『イーオン・フラックス』(2005)、『インビテーション』(2015)などのカリン・クサマ。
映画『ストレイ・ドッグ』あらすじとネタバレ
LA市警の女性刑事エリン・ベルは酔っ払った状態で殺人現場に現れ、同僚の顰蹙を買います。
身元不明の遺体の側には凶器と思しき製造番号のない銃が転がっており、紫色に染まった1ドル紙幣が落ちていました。
この事件は自分たちが担当するから、君は寝てきたまえと忠告する同僚刑事に向かってエリンは「犯人を知っている」と言い、「教えてくれよ。それで事件は解決だ」という刑事たちに向かってエリンは中指を立ててみせました。
エリンは自動車の修理工場に行き、職人の男に彼が作った拳銃が犯罪に使われたかもしれないと告げました。
エリンが署に戻ると、彼女に私信が届いていました。封筒の中身は紫色に染まった一枚のドル紙幣でした。サイラスが再び動き出した、とエリンは確信します。これは自分への挑戦状だと。
エリンはパームスプリングスの刑務所にトミーという男を訪ねますが、彼は既に出所していました。彼の居場所をつきとめ、訪ねていくと、トビーは病を患い、余命数ヶ月を宣告されていました。
エリンはトビーからアルトゥーロの居場所を聞き出します。アルトゥーロはLAのイーストサイド教会で問題を抱えた人々に慈善事業を行っていました。
エリンの顔を観た途端、彼は逃げ出しますが、追いつかれ、自分は足を洗ったのだと主張します。
エリンがサイラスの居場所が知りたいと言うと、彼は弁護士のディフランコが、サイラスの資金洗浄を手伝っており、その使いにペトラを使っているという情報を明らかにしました。
17年前、FBI捜査官クリスと共に砂漠地帯に巣食う犯罪組織の潜入捜査を命ぜられたエリン。サイラスは冷酷で残忍なリーダーでした。
エリンはそこで取り返しのつかない過ちを犯し捜査は失敗。クリスと銀行の女性行員を死なせてしまいます。
その時から彼女は酒に溺れ、同僚や別れた夫、娘からも疎まれる孤独な人生を送ってきました。16歳になる娘は、地元の不良と付き合い、夜な夜な遊び歩き、エリンの忠告に一切耳を傾けようとしません。
エリンはペトラがディフランコと接触するのを確認すると、ペトラの車を尾行しました。ペトラは運転手の男ととある家に入っていきました。エリンは夜通し、彼らの動きを見張っていましたが、2人が出てきたのは朝になってからでした。
車に乗り込んだ2人を見失わないように注意深く追うエリン。彼らが停車するとその側に停めていた車から仲間が現れました。なんと彼らは武装しており、そのまま銀行に入って行きました。
エリンはあわててトランクをあけ、機関銃を手に取ると、素早く警察に通報。サイレンを鳴らさず近づくように指示しました。
エリンは建物の外からペトラと男たちが行員や客たちを銃で威嚇している様子を伺いながら、警察が登場するのを待ちました。
やって来たのは男女2人の警官。3人で中に突入します。何人か犯人を射殺しましたが、警官も一人負傷しました。
ペトラと数人の男たちは銀行を飛び出て逃走。エリンはその後を追い、ペトラを殴りつけ捕まえます。ペトラの部屋に上がりこんだエリンは、その部屋の荒廃ぶりに驚きます。
サイラスからペトラに電話がかかり、集合場所はメールで知らせると指示がありました。エリンはベトラの携帯を取り上げます。
FBIがエリンの動きを不信に思い接触してきますが、エリンは私一人で決着をつけるつもりだと宣言します。
映画『ストレイ・ドッグ』感想と評価
ニコール・キッドマンが特殊メイクをして刑事役に初挑戦した作品として話題ですが、実に精巧なメイクがなされていて驚かされます。
疲れ果てた顔に刻まれた深い皺と、酒浸りで生気を失くした荒れた肌という、女性刑事の顔自体に、この人物が経験してきた暗澹とした深い絶望が刻まれており、激しい怒りと後悔の念が彼女に重くのしかかっていることを想像させます。
また、17年前の若かりし頃のヒロインもニコール・キッドマンが演じており、特殊メイクを使用することの効果と必然性をそこに感じ取ることができます。
潜入捜査に失敗し、犠牲者を出したらしいことは早々に明かされます。
そのことが女性刑事の心を壊してしまっただろうことは容易に想像がつきますが、いつかその場面がスクリーン上に実際に登場するだろうという思いが、観る者にさらなる緊張感をもたらします。
過去へのフラッシュバックは、トビー・ケベル扮するサイラスというサディスティックな悪役の存在もあり、ひりひりとした空気に包まれながらも、どこかに不思議な安堵感のようなものを一瞬ですが感じる部分があります。
それはニコール・キッドマンとセバスチャン・スタン扮するFBI捜査官が潜入捜査にあたって恋人同士を装う過程で本当の恋に陥るという展開からくるものだと考えられますが、それだけではなく、ニコール・キッドマンがこの犯罪組織の中に居心地の良さを覚えた瞬間があったという証拠でもあるのではないでしょうか?
カリン・クサマ監督が語る物語からは、そうした繊細な人間心理が浮かび上がり、そのことがまた、この女性刑事の現在の壊れ切った姿、彼女の怒りの根源であることを示唆しています。
クールなスタイル、作品に流れるニヒリズムなどは1970年代のアメリカ犯罪映画を彷彿させる一方、一匹狼の荒くれ刑事はクールなタフガイではなく一人の女性であり、一人娘を深く愛しながらも良き関係を結べず、子育てに迷う母親です。その姿が痛切なタッチで描かれています。
過去と現在が錯綜する中、映画はあっと唸らせる仕掛けを備えていて、見事というしかありません。
まとめ
ニコール・キッドマンの本作出演が決定したのは、HBOの連続ドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』(2017~2019)で、ゴールデングローブ賞を始め、様々な賞を受賞している時だったそうです。
『ビッグ・リトル・ライズ』では、何不自由ないセレブな生活を送っているように見えて実は夫のDVに悩まされている妻を演じていました。
その高貴ともいえる美しさとにじみ出る知性はまさにニコール・キッドマンという女優が持つ魅力そのものですが、今回はこれまで演じてきたキャラクターとはまったく異なった役柄に挑戦しています。
その一方で、『ビッグ・リトル・ライズ』でも双子の兄弟の母親だったように、本作でも16歳の思春期の娘を持つ役柄で、母に復讐するかのように遊び回る娘と、なんとか彼女だけは幸せにしたいと願う母親の物語が展開されています。
母がいかに娘を愛していても、娘が母に最後に歩み寄りを見せても、もう決して良き母娘になれない2人。母が去りし後、閑散としたレストランに一人心細く座っている娘の姿はきりきりとした胸の痛みを感じさせます。
カリン・クサマ監督は、本作が長編5作目。タフな犯罪アクション映画と母娘の物語を、過去と現在が錯綜するように描き、観る者の想像力を刺激しながら、一人の女性の壮絶な人生を浮き彫りにしています。
クサマ監督は、本作に影響を受けた作品として、シドニー・ルメットの『セルピコ』(1973)と共に、ジョン・カサヴェテスの『こわれゆく女』(1974)を上げています。