孤独な元ボクサーと目の不自由な女性のラブストーリー。
吉高由里子と横浜流星のW主演で、2020年10月23日(金)より全国ロードショーされる恋愛映画『きみの瞳が問いかけている』。
その原作となったのが、2011年製作の韓国映画『ただ君だけ』です。
孤独な元ボクサーをソ・ジソブが、彼と心を通わせていく目の不自由な女性をハン・ヒョジュが演じました。
すれ違う切ない恋、迫力たっぷりのアクションと、見応えたっぷりの一作です。
映画『ただ君だけ』の作品情報
【日本公開】
2012年(韓国映画)
【原題】
오직 그대만
【英題】
Always
【監督】
ソン・イルゴン
【キャスト】
ソ・ジソブ、ハン・ヒョジュ、カン・シニル、パク・チョルミン、チョ・ソンハ、オ・グァンロク、キム・ジョンハク、キム・ミギョン
【作品概要】
『マジシャンズ』(2007)のソン・イルゴンが監督を務め、『映画は映画だ』(2009)、『Be With You いま、会いにゆきます』(2019)のソ・ジソブが主演したラブストーリー。
チャールズ・チャップリンの名作『街の灯』(1931)をモチーフに、孤独な男性と目が不自由な女性の純愛を描きます。
ヒロインのジョンファ役に、日本でも話題を呼んだ大河ドラマ『トンイ』(2010)ではタイトルロールを演じたハン・ヒョジュ。
映画『ただ君だけ』のあらすじとネタバレ
30歳のチョルミン(ソ・ジソプ)は、将来を期待された実力派のボクサーでしたが、いまはボクシングから離れ、朝はミネラルウォーターの配達、夜は駐車場の料金所で働いています。
料金所の仕事を引退するという年配男性から、仕事を引き継いだチョルミン。その夜、料金所の狭い一室に、見知らぬ女性がやってきて、親しげにチョルミンに話しかけながら、自分の作ってきたご飯を手渡します。
目が不自由なその女性ジョンファ(ハン・ヒョジュ)は、引退した年配男性と交流があり、一緒にご飯を食べたりテレビドラマを見たりしていたため、チョルミンのことを年配男性だと思って接していたんです。
チョルミンの声で、彼が年配男性では無いと知ったジョンファは料金所を立ち去ろうとしますが、外は雨が降り、真っ暗。チョルミンはジョンファに、料金所でドラマを見ていくよう声を掛け、引き止めます。
その日から、ふたりの不思議な交流が始まりました。ドラマを全身で楽しむジョンファの様子を、チョルミンは黙って見つめるという、穏やかな時間が流れます。
帰り際に握手を求められたチョルミン。ジョンファは握り返してきた彼の手の硬さに驚き、どんな職業をしていたのかと興味を抱きますが、チョルミンは手を引っ込めて、何も語ろうとはしませんでした。
ある夜、駐車場から出てきた車のクラクションに驚いたジョンファは、転んで足を怪我してしまいます。チョルミンは病院に付き添い、家まで送ることに。
電車の中で名前を尋ねられた彼は、「ジャン・マルセリーノ」だと答えました。
駅からジョンファの自宅までは、チョルミンが彼女をおんぶします。元ボクサーの彼は体力に自信がありましたが、あまりに急で長い階段に息を切らせます。
途中、近所の子どものいたずらを受けながらも、なんとか無事にジョンファを自宅まで背負ったチョルミン。自宅の排水口のつまりも直してくれたチョルミンへのお礼に、ジョンファはコンサートのチケットを渡しました。
一緒に行く相手がいないと断ろうとするチョルミンでしたが、ジョンファと一緒にコンサートに行く約束をします。
コンサート当日。お互いにいつもよりおしゃれをして待ち合わせし、コンサートを楽しみました。
その後、ジョンファは、父とよく行ったという店へチョルミンを連れ出します。
自分の「目」のことを語るジョンファ。目が悪くなる前は、大学で彫刻を専攻していたこと。彫刻のことは思い出せるのに、父や自分の顔は思い出せないこと。
毎日見ていたはずなのに、記憶しようとは考えていなかった、忘れてしまった大切なもののことを、彼女は笑顔で語ります。
そして、チョルミンに、昔は何をしていたのかと質問します。答えたくないチョルミンは、冷たい態度で彼女を傷つけてしまいました。
別れ際、謝るジョンファに、チョルミンはぽつりぽつりと、自分のことを打ち明けます。
「30歳。ボクシングをしてた。若い頃はかなりのワルだった。でも今は違う」。
さらに、自分が不器用ゆえにうまく伝えられなかっただけで、ジョンファを傷つけるつもりはなかったと言いますが、ふたりは気まずい空気のまま別れます。
その日から、ジョンファは料金所には訪れなくなりました。
チョルミンが以前お世話になっていたボクシングジムの館長と、兄貴分であるトレーナーが、彼を連れ戻そうと声をかけます。ボクシングはもう稼げないから、総合格闘技をやってみないかと言うんです。
そこでチョルミンは、ボクシングだけでは生活できず、副業で借金の取り立ての「殴り屋」の仕事をして、4年3ヶ月刑務所に入っていたことを明かしました。
彼が最後に取り立てようとした男は重傷を負い、今でもキリスト教系の病院に入院しています。
その病院のシスターに、洗礼名としてチョルミンにつけられたのが、「ジャン・マルセリーノ」でした。シスターは、修道会で障がい者が作ったというカチューシャを、チョルミンに渡します。
一方、ジョンファが帰宅しようとすると、家の前に上司が待ち伏せしていました。コールセンターで働くジョンファに、立場を利用していつも過度なスキンシップをしたり、プレゼントを渡して食事に誘ってきたりする男です。
無下にするわけにもいかず、ジョンファは上司を家に上げますが、荒々しい態度に急変した彼に、ジョンファは押し倒されてしまいます。
チョルミンがやってきて、上司をジョンファから引き離し、殴って追い出しました。
ジョンファは仕事を失ってしまうことに怯え、チョルミンを責め立てます。チョルミンはシスターにもらったカチューシャをそっと置き、彼女の元を去りました。
ですが、彼は彼女を見捨てませんでした。彼女が外出する時は、少し離れて後を見守ります。
久しぶりに料金所を訪れ、仕事を辞めたと告げるジョンファ。
ふたりは、チョルミンの運転で、彼が育った養護施設跡に出かけます。車に乗る前に、チョルミンは、ゴールデンレトリバーの子犬「ディンガ」をジョンファにプレゼント。
孤児だったチョルミンは、養護施設で育ちましたが、洪水で今は跡形もなくなり、湿地になっています。僕には帰るところがないと呟くチョルミンに、「石をひとつ探して」と言うジョンファ。
お互いに拾った石を、相手だと思って持っていてと優しくジョンファは語り、ふたりは手を繋ぎました。
映画『ただ君だけ』の感想と評価
本作の原案となったのは、“喜劇王”チャールズ・チャップリン監督・主演の映画『街の灯』(1931)。目が見えないヒロインの手術代のために、格闘技の試合に出ることになった主人公、という元の設定を膨らませ、両思いのラブストーリーとして生まれ変わらせました。
『街の灯』が自己犠牲の無償の愛ならば、本作は贖罪を愛を持って赦すことを描いています。
ジョンファとチョルミンの過去がつながっているという点は、ドラマ的ではありますが作品として無理のない設定になっており、チョルミンが自分の命をかけても償うという大きな決意に繋がるポイントになっていました。
ソ・ジソブは、暗い瞳をした口数の少ないチョルミン役で物語を牽引。
ぽつりぽつりと語る言葉に込められた力と、ジョンファに出会って笑顔になっていく様子が、とても丁寧に積み重ねられていきます。撮影に入る前に1ヶ月半かけてトレーニングをしたという身のこなしと肉体美にも注目です。
また、ジョンファを演じたハン・ヒョジュの愛らしいこと。瞳は動かさずにくるくると変わる豊かな表情に、チョルミンでなくても引きつけられてしまいます。
目が見えるようになった後の、少し落ち着いたトーンでの演技も、チョルミンを失った彼女の2年間を想像させてくれました。
そして、出番は少ないながらも、『82年生まれ、キム・ジヨン』(2020)でも好演している、シスター役のキム・ミギョンが絶妙な存在感を出しています。包容力のあるシスターを軽やかに演じ、このシスターがいたから、チョルミンが足を洗えたんだと納得させられました。
まとめ
本作でジョンファはチョルミンを「アジョシ」と呼んでいます。日本語では「おじさん」と訳されてしまいますが、「アジョシ」には、年上の男性に親しみと尊敬を込めた、「おじさん」とはちょっと違ったニュアンスもあります。
日本版リメイクである『きみの瞳が問いかけている』では、ジョンファにあたる吉高由里子が、チョルミンにあたる横浜流星を「おじさん」と呼んでいる予告編が見られます。
横浜流星は「おじさん」と程遠い年齢とキャラクターですので、「おじさん」呼びをする理由になった、日本版ならではのエピソードが組み込まれているんじゃないでしょうか。
チャン・チョルミン、ジャン・マルセリーノ、キム・ハクソンと、さまざまな名前を持ったチョルミンを、愛おしそうに「アジョシ」と呼ぶジョンファ。
退院後は言葉を発さなくなってしまったチョルミンですが、チョルミンのラストの「声」は、きっとジョンファに届いたはずです。
リメイク公開を前に、ぜひ『ただ君だけ』もご鑑賞ください。温かな気持ちに包まれますよ。