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Entry 2020/08/14
Update

【栩野幸知インタビュー】映画『おかあさんの被爆ピアノ』“戦争を知らない自分が戦争を伝える”ことを意識した参加

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『おかあさんの被爆ピアノ』は2020年7月17日(金)より広島・八丁座にて先行公開、8月8日(土)より東京・K’s cinemaほか全国順次ロードショー!

被爆75周年を迎えた今日で戦争を知らない若い世代の目線を通し、平和を伝え続けていくことの切実な思いを描いた『おかあさんの被爆ピアノ』。


(C)Cinemarhe

本作は全国どこへでも巡り、被爆ピアノによるコンサートを開催する平和運動で知られる実在のピアノ調律師・矢川光則さんをモデルに、戦争を知らない被爆三世の女性が自身のルーツを探し求めていく姿を描いた物語です。

この作品のキャストの中で、広島県呉市の出身でもあり非常にゆかりのある俳優が栩野幸知。長く映画の現場に携わる仕事を続ける中で、役者という役割に留まらずガンエフェクト、劇用刺青師、アドバイザーなどとマルチな才能を発揮し、数々の現場で裏方として重要な作業を担ってきました。

本作でも劇中でメインキャスト二人がおとずれるお好み焼き屋の店主役を演じる役者としての仕事とともに、作品のアドバイザーとして自身の持つルーツを生かした活動を展開しています。

今回は栩野にインタビューを実施。本作を手掛けるにあたり抱いた思いや、映画という現場に携わってきた道程などを語っていただきました。

戦争を知らない子供たちに、戦争を知らない大人が平和を教える時代


(C)2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

──広島出身の栩野さんにとって広島、戦争というテーマの映画に関わることに関して、どのような思いがありますか?

栩野幸知(以下、栩野):僕の世代が子供のころは、まだ身の回りに「お姉さん」世代の被爆者がいたんです、やけどがある人もいっぱいいました。

僕は今年68歳で矢川さんと同い年なんですが、10歳で被爆から17年目ということになるので、周りでは17回忌、13回忌と年忌法要もおこなわれていたころで、なかなか子供として戦争について話をすることができなかった時代でした。俳優になってからもあまり前向きに、いわゆる広島を扱った作品というものはやっていなかったんです。

また近年は学校で近代史、明治以降の話ってあまり教えてもらえていないんですよね。その点で僕は父親が海軍の軍人だったから、わりと子供のころからそういう話を聞いていたし、年の割には詳しいんです。

なのでこれからは時も過ぎてどんどん先人が亡くなられていく中で「戦争を知らない大人」、僕なんかも厳密にはその知らない一人になりますが、そんな人たちが「戦争を知らない子供たち」に戦争のことを教えなければならないわけです。

そう考えると、とにかく思い込みで教えないようにしよう、嘘を教えないようにしようと思っています。その意味では一緒に勉強をしていこうというスタンスで、あったことをあったままに見せてあげる、そしてそのことが良いかどうかを自分たちで判断してもらうという格好が、僕のこういったテーマに対するスタンスなんです。

「平和」を伝える論点


(C)2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

──栩野さんにとって、本作において強く印象に残っている部分はどのような点でしょう?

栩野:たとえばこうした平和などに関して共通の話をするときに「これについて話そう」というテーマがあるわけですが、そこに被爆ピアノというものを置いているというポイントです。

原爆、被爆というテーマを考えると、原爆ドームとか平和公園にある原爆資料館で展示されている焼け焦げたいろんなものとか、いわゆる被爆の残した痕跡のようなものを挙げがちだけど、あれはいわば「死骸」という扱いなんですよね。

でもそれよりはたとえば今年は爆心地にあったレストハウスが綺麗になって、みんなが使えるようになったというニュースがありましたが、ああいったこととか、被爆ピアノはまだ元気に音を出しているとか、その方が話題としては豊富なんです。だから被爆ピアノなんて被爆したのにまだ現役で動いているし、本当にステキですよね。

また戦後という部分も大きな話だと思うんです。「いつまでが戦後だ?」という問いがありますが、その答えは「次の戦争が始まるまでが戦後」。その意味では日本はまだ戦後で、アメリカなんてとっくに戦後が終わっている。そういった部分のギャップってすごく感じるわけです。

当然ずっと平和が続いた方がいいけど、戦争も、そして近日の災害やコロナ渦も、自分の生活と関係ないところで事件が起こって、自分の生活をがらっと変えられちゃうわけで、そういったものはある意味一緒のものなんですよね。

そしてそういったものが現れたときに、我々はどう強く生きていくべきなのか。過去に起こった何かを、自分が疑似体験をして、その痛くても強く生きなければいけないともう一回考え直す、それを勉強するのが歴史というわけなんです。

佐野史郎との「勝手知ったる者」同士のやり取り


(C)Cinemarche

──今回本作に出演された感想などはいかがでしょう?

栩野:逆に自分の故郷の話なので、ある意味今回僕は一番自然体なんじゃないかと思うんですよね。「おまえ、まんまでやっているやん!」って言われるくらいで(笑)。

周りは佐野さんや役者さん、そして半分くらいはミュージシャンの方とかほぼ「自分」の役、あるいは自分の印象そのままの役なんですよ、ピアノを弾かれる方とかミュージシャンの方がそのまま出られているわけで、変な演技をしても敵わないわけで、僕は「お好み焼き屋さんは自分がそこにいたらどうなんだ?」という感じで演じていました。

──印象的なのは佐野さんとの自然なやり取りですね。

栩野:佐野さんは昨年3本の作品で一緒に仕事をしていました。もともとご自身がわりと近しい方で、よくうちの近所で飲んでいるんですよ(笑)。

実は撮影当日は昼間の撮影もあったんだけど、夕方からのシーンっていうのがこの作品にはなくて、空いていたのでとりあえずこのシーンを入れました、って(笑)。だからあの僕が登場したシーンは初日のみんなまだ何もわかってない状態での撮影で「なんでこんなシーンが初日に入るんだ!?」って言っていました(笑)。

そのシーンは僕がお好み焼き屋の店主をやって、その店に来た佐野さんと武藤さんがここで御飯を食べるというシーンなんですが、カメラが回ってないところで「佐野さん、熱いよ、冷ましておいた方がいいよ」と僕が言うと「大丈夫、大丈夫!」と返したり、リラックスした感じでしたね。でもカメラが回ると。「笑っちゃいけないな」と思いながら切り替えてワンテイクずつ、おなじことを2回、お互いに探りながらやっていました。

切っても切れない大林宣彦監督との関係


(C)Cinemarhe

──栩野さんはこの7月に公開された『海辺の映画館―キネマの玉手箱』にも出演されましたが、大林監督とはもともとさまざまな作品で仕事をされていますね。

栩野:大林監督の作品には14本くらい関わらせてもらっています。最初は『彼のオートバイ彼女の島』その次は『野ゆき山ゆき海辺ゆき』で、この撮影中の尾道で日航機事故のニュースを見たのであの事故の報道を見ると「あ~(大林監督と知り合って)○○年目か…」って思うんですね。今年で35年目になりますが、それからずっときて今回の『海辺の映画館』にも呼んでもらったので、快く参加させていただきました。作品はある意味戦争映画なので、僕は火薬の特殊効果の仕掛けなんかを全部やっているんです。広島の福山で撮ったんですが、結構べったり現場にいました。

助監督さんやその他のスタッフの方は、大林監督の現場は今回初めてだったんですが、脚本を読んで「栩野さん、わかります?」って(笑)。そこからの会話は「わかんない」「いいんですか?」「いいの!」って(笑)。大林さんの言うとおりにやってあげて、って。料理でいえば材料を切っておいて「はい、料理してください」って大林さんに渡す。すると大林さんが勝手に料理してくれるから、って(笑)。

僕から見た大林監督の性格については…逆に親しすぎて、何も言えない感じでもあります。一人目の奥さんと結婚をしたときには仲人をしてもらったし、大林さんとは切っても切れない縁ですね。コロナが始まってまだ弔問にも行けていないんです。今は、僕の中でまだ監督は生きているから行くと泣いちゃいそうだな、とか思っています…。

ちなみに本作には最後にベッドに寝たきりのおじいちゃんが出てきますが、それは内藤忠司さんといって彼も同い年なんですが、大林さんの『海辺の映画館―キネマの玉手箱』のシナリオライターなんです。『転校生』のころなんかでは助監督で、それから監督にもなったし、僕もいろいろ手伝って作品を何本も手掛けてきました。

──広島、呉の出身者ということもあり注目を浴びた『この世界の片隅に』では深く作品作りに関わられていますが、片淵さんとはどのようなつながりがあったのでしょうか?

栩野:片淵さんはもともと飛行機仲間で、ゼロ戦なんかの航空機に詳しくて航空雑誌に記事が書けるくらいの人なんです。その意味では僕の飛行機仲間の「向こう側の人」だったんです(笑)が、ある日知り合いから「こういうアニメ監督がいるんだけど、栩野さんは知ってる?」って聞かれて「知らない。僕はアニメはやらないもん」って。

一方で全然関係ない話なんだけど漫画『BLACK LAGOON』という作品を手掛けた広江礼威という漫画家が僕の旧友なんですが、彼は僕を勝手に作品に登場させてたんですよね、「トー・チー」っていう役で(笑)。で、このアニメ版の監督を実は片淵さんが担当されていたということを知ったんです。で、メールを入れたら意気投合して「実は今度、こういう話があって」っていう話をいただきました。

僕が呉出身というのも引っかかったみたいで、あの作品の台本の広島弁指導は僕がおこないました。すずさんが話している広島弁は、母がしゃべっていた言葉。年恰好で言えば主人公のすずさんと旦那の周作さんは僕の父と母とおなじくらいでした。周作さんは軍属といって、軍の仕事をする一般人、うちの父親も海軍の軍人だったんですが、年恰好は一緒くらいの人だったんです。

アドバイザーという役割


(C)2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

──栩野さんは俳優としての仕事以外にも、さまざまな作品でアドバイザー的な役割を担われることが多いですね。

栩野:そうですね。今度公開される『ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』という作品にもアドバイザーとして参加させていただいたんですが、作品を手掛けられた太田隆文監督さんは僕なんかより一まわり以上若いわけで「沖縄戦って、何ですか?」という話から始まったわけです(笑)。

なので彼らから「あれはどうだったんですか?」という質問を受けるというところから始まり、じゃあ一緒に勉強しようということで「この映画を見ておいて」「この文献を読んで」と指示するところからリサーチがスタートしました。

山田洋次監督の藤沢周平原作時代劇三部作ってありましたよね、『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』『武士の一分』って。あの作品では全部で僕が火薬を含めた仕掛けモノを担当させていただきました。山田監督に対しても結構言いたい放題言っていたんですが、その三部作と『母べぇ』まで参加させていただきました。最初の2作品はスタッフとして、「武士の一分」と「母べぇ」はキャストでクレジットされてますが、そんなヤツも珍しいですよね(笑)

監督って孤独なんですよね。自分にやりたいことに対して「正しいのかな」って思うこともあると思うんですが、ある程度キャリアが積みあがってしまうと、監督が「こうやりたい」と言ったときに周りは「はいっ!」とそのまま進めてくれがちな傾向にある。そこで実はまた違う意見を言ってくれる人の存在を欲しがっていると思うんです。それをアドバイザーというのでしょうか…?広島弁だと「カバチタレ(「屁理屈屋」の意)」と言うんですが、つい口を差し入れちゃうんですよね(笑)

映画という現場に携わってきた道を振り返って


(C)Cinemarhe

<──栩野さんが俳優という仕事を含めて、現場に携わる仕事に関して考えられていることはどのようなものなのでしょうか?

栩野:第一の観客が自分だということです。客席から自分が見ていいと思うかどうか、自分の演技も含めて、こういうものが見たいとか考えたりするのが楽しいんですよ。僕は自分のことを「とんかつのパセリかトマト」って言っているんです。無くても料理は成り立つ。ところがあればあったで色目がよくなり美味しそうに見える。但し食ってもそれほどうまくないけど(笑)。

モチベーションという点では、正直なところヤクザ映画なんて最後の方はやりたくいないと思っていました(笑)。ただそんな中で刺青師として仕事をやることになったり。刺青はある意味メイクの一つで、これを入れることで出演者が急にヤクザっぽくなるわけで重宝されるわけですが、できますよとそれをやり始めちゃう。

現場って、どこに頼んでいいかわからない仕事というものがあるんです。昔は一つの会社で家族みたいな感じだったけど、今はどんどん映画会社が独立していく傾向にもあって、役割はそれぞれに分かれて仕事も細分化されちゃって、たとえば「刺青師」みたいな仕事はそういうところに当たることもあるんです。よくおこなっているガンエフェクト、火薬の取り扱いなんかもそうなんです。で、ついできちゃうのでやりましょうか、って…

──ではそういったさまざまに生きる道を探しながら、今後も続けていくと?

栩野:あと2年で70歳だし、もうここまで来たら死ぬまでやるべきでしょうね(笑)。昔は「おまえは器用だから30までにやめれば、まだ仕事はある。それで間違えて40、50まで手が届いたら天職だ」って言われたんですよ。

そしていろんなことをやってみて今振り返ると、やっぱり面白かったなと思うし、今までこれで食ってこられたんだからいいんじゃないかと思うんです。メチャメチャ売れて有名になるのも面白いのかもしれないけど、キャーキャー言われて、それこそ飲み屋にもいけない生活もつらいんじゃないかと思うんです(笑)。その意味ではわりと自由に暮らしているというくらいが楽しいし、死ぬときも楽しかった、と言いたいと思っているんです。

インタビュー・文・撮影/桂伸也

栩野幸知(とちの ゆきとも)プロフィール


(C)Cinemarhe

1952年生まれ、広島県呉市出身。大学在学中に映画『仁義なき戦い・頂上作戦』で俳優デビュー。俳優活動中に大林宣彦との出会いがきっかけとなり、俳優業と並行して映画スタッフとしての活動を始めており、ステージガンを作り、銃器の火薬効果を仕掛け、劇用刺青を書き、とマルチに仕事をこなす中、それらの仕事も高い評価を得ました。

また映画『この世界の片隅で』では初のアニメ声優に挑戦、6役での収録を務める一方で脚本の広島弁指導やアドバイザーとして作品作りに深く貢献、現在も俳優業を続ける傍らで、頻繁にさまざまな仕事で作品に関わっています。

映画『おかあさんの被爆ピアノ』の作品情報


(C)2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
五藤利弘

【特別協力】
矢川光則

【キャスト】
佐野史郎、武藤十夢、森口瑤子、宮川一朗太、大桃美代子、南壽あさ子、ポセイドン・石川、谷川賢作、鎌滝えり、城之内正明、沖正人、小池澄子、若井久美子、中山佳子、石原理衣、鈴木トシアキ、竹井梨乃、笹川椛音、原岡見伍、栩野幸知、内藤忠司、増井めぐみ、田村依里奈、中原由貴、谷本惣一郎、にかもとりか、藤江潤士、大島久美子、森須奏絵、クラーク記念国際高等学校のみなさん

【作品概要】
被爆ピアノによる平和運動で知られる実在の人物・矢川光則さんの活動をベースに、被爆ピアノを携えて全国を巡る広島のベテランピアノ調律師と、そのピアノを巡り自らのルーツをたどるヒロインの出会いから広島までの旅路を描きます。

監督は『美しすぎる議員』(2019)などを手掛けた五藤利弘。五藤監督は本作と合わせノベライズ作品を執筆しました。

ピアノ調律師・矢川光則役を、近年ドラマ『限界団地』での怪演で話題となった佐野史郎、ヒロイン江口菜々子役をAKB48の武藤十夢、その母役を森口瑤子、父役を宮川一朗太らが担当。さらに広島出身の俳優・栩野幸知らも出演に名を連ねています。

映画『おかあさんの被爆ピアノ』のあらすじ


(C)2020映画「被爆ピアノ」製作委員会

自身も被爆二世であり、平和に対する並々ならぬ思いを募らせるピアノ調律師・矢川。

彼は1945年の広島への原爆投下で被爆したピアノをさまざまな所有者から任され、自身の手で修理し、全国各地より依頼があればどこにでも持参してコンサートを開き、その音色を人々に聴かせる平和運動をしていました。

その日も自ら運転する4トントラックに積んで全国を回っていた矢川は、コンサートの後片付けをしているときに、東京で暮らしているという一人の女子大生・菜々子と出会います。

菜々子は自分の母親が祖母から受け継いだという被爆ピアノを矢川に寄贈したことを知り、このコンサートにおとずれたことを明かします。

自身のこれからの進路を考える中で、菜々子は自分が被爆三世でありそのルーツを知りたいと思っていましたが、それを母は執拗に隠そうとしており、いつも不審に思っていました。

矢川と菜々子の出会いは、そんな知られざる彼女のルーツを明かしていくきっかけとなっていきました。

映画『おかあさんの被爆ピアノ』は2020年7月17日(金)より広島・八丁座にて先行公開、8月8日(土)より東京・K’s cinemaほか全国順次公開!

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