映画のセレクトショップとして、広島市民に愛されている劇場「八丁座」。
広島市の中心、八丁堀福屋百貨店8階にある映画館「八丁座」。江戸時代の芝居小屋をイメージして2010年に開館しました。
今回、地元からの絶大な人気を獲得している「八丁座」の支配人・蔵本健太郎さんに映画館への思いを直接、伺うことができました。
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まちなかの映画館の灯を消させない
「八丁座」支配人の蔵本健太郎さん
──日本でも類を見ない独自のコンセプトを持つ映画館「八丁座」。開館の経緯、そしてコンセプトについてお聞かせください。
蔵本健太郎支配人(以下、蔵本):八丁座が開館したのは2010年で、当時は「日本全国どこにもない夢の映画館を広島に作る」という、大きな夢を持って出発しました。
広島では2005年ごろから郊外にオープンしたシネコンの影響もあって、中心街の映画館が相次いで閉館していきました。
一時、街中の映画館が全てなくなってしまったんです。
私たちは祖父の代からいわば地元の八百屋のような、小さな映画館を運営しており、そのような時代の潮流に対し、広島人として、広島のまちなかの映画館の火を灯していかないといけないという意地がありました。
それから何年もの間、福屋さんに通いその思いを伝え、ようやく2010年この地にオープンしました。
和モダンな劇場をつくりたい
八丁座「壱」の劇場内・特製提灯が観客の気持ちに盛り上げる
──「夢の映画館を作る」というという点について具体的に教えてください。
蔵本:お客様がロビーにいらした時に、非日常を味わえるようなものを思い描いていました。
テーマは「芝居小屋」。芝居小屋はエンタテインメントの原点で、江戸時代は、庶民が芝居小屋で日頃の憂さを晴らしていた。
提灯がぶら下がっていて、幕があって、座敷があって…。日本全国様々な映画館がありますが、シネコンを始めその多くは欧米のスタイル。
日本なんだから、和の映画館があってもいいんじゃないか、ということが出発点になっています。
多彩な映画を見て欲しい
八丁座「壱」の劇場内・芝居小屋のような美しい緞帳
蔵本:もともと映画というのは一般大衆のものです。
気軽に街で映画を見てほしい。わざわざ郊外まで足を運んで見に行かなくても、広島の街中でいろんな映画が見られる。小さいホールで意識の高い人が見るというよりは、あらゆる作品が普通に何気なく上映している街でありたい。
「ミニシアター系でしょ」とか「敷居が高いし、アートな映画ばっかりやってるみたい」に思われがちなのですが、八丁座は見ての通りの『天気の子』や『アルキメデスの大戦』のようなメジャー大作のものから、インディーズ系のものもやっています。
話題作が街中で見られることを大切にしています。一方で、8月には『ひろしま』(1953/関川秀雄)や、『この世界の片隅に』(2016/片渕須直)も上映しています。
「八丁座の映画を見てたら、話題作からマニアックなものまで自然と見ていた」というそういう存在になりたいですね。
こだわり抜いた和装飾
八丁座のロビーの一部・劇場扉の襖絵や床の絨毯はホテルのごとく
──館内正面の襖を始めとする装飾に和モダンのコンセプトが生かされています。別世界にやって来たワクワク感があります。
蔵本:劇場内の装飾は、広島出身の美術監督、部谷京子さんにお願いしました。現場の魂を注入したいということで京都の太秦撮影所で実際に使っていた襖を譲り受けました。
扉絵は宮島のもみじのイメージです。扉は奥に行くに従って、もみじも色づいて行きます。襖絵、扉絵だけでなく、行灯も撮影所から譲り受けました。
八丁座のロビーの一部・屋号の文字が劇場の勢いを物語る
蔵本:八丁座という筆文字も元黒澤組にいた方に一筆いただきました。受付の看板もこれら装飾の一環です。
はじめは全席枡席にしよう!というところからスタートして、自由に発想していき現在の形になっています。
畳敷きの席やカウンタータイプの席、姉妹館のサロンドシネマでは、掘りごたつ式の席、おひとり様席など、色々なお客様に楽しんでいただけるように用意しています。
また、この劇場で一番の主役は椅子だ、という気持ちがあって、飛び込みで地元のインテリア「マルニ木工」に依頼しました。最近Appleにも椅子を納品したという広島発のショップです。
映画館の主役はお客さまを迎える椅子
八丁座「弐」の劇場内・曲げ木の技術で謳われ地元「マルニ木工」とタッグ!
──劇場内の座席数を確保しようという昨今の流れからは逆行しているように思われますが…。
蔵本:そうですね、あまり考えずに(笑)。「右手で夢を、左手でそろばんを」とよく言っていました。計算(経営)は、利き手じゃないほうでするわけですから、そんなに緻密にはやっていないですね(笑)。
昨今、劇場にも効率性を求める動きがありますが、だからこそ非効率でもいい。劇場内の提灯、緞帳をつけたり、舞台がある劇場で監督さん役者さんの舞台挨拶で、緞帳が開いて「わ〜」という歓声が上がって…、そういう一体感を味わえるまさに「芝居小屋」を作り上げていきました。
八丁座「壱」の劇場内・100年後も愛される映画館としての“おもてなしの椅子”
蔵本:うちは、映画館以外の経営はしていないので、周囲からは「素晴らしき暴挙」と称賛されたものです。
先代の支配人は口癖のように「石橋を叩かず飛び越えろ」と言っていまして。でもそうやって意地でもやろうという心意気があると、地元の方々が応援してくださる。
地元の百貨店、地元のマルニ木工、そしてカフェも地元のお店に入っていただきました。そうやって地元の方々との連携、協力によってやらせていただいています。本当に有難いことです。
八丁座のロビーにあるお洒落なカフェ「茶論 記憶」
海外からも「八丁座」に来て欲しい
蔵本支配人の夢は大きく尽きることはない
──今後の八丁座の目指す展開は?
蔵本:そうですね、開館してからもうじき10年を迎えます。
自分たちがこんな映画館があったら面白いという夢があって思い切って作りあげていきましたが、これからは和風の映画館という八丁座の特徴を生かした取り組みを考えています。
広島は毎年多くの海外からの特に欧米の観光客が多く来ます。そういう方々にも、日本の映画を楽しんでもらいたいと思い、観光業の方や資料館にも協力いただいて、今年は『この世界の片隅に』の英語字幕の上映を行いました。
蔵本:実は2年前、フランスから『この世界の片隅に』の場所をめぐるツアー客が来ました。ここ八丁座のある福屋百貨店は戦前からある被爆建物で、劇中では主人公すずさんがスケッチをする、いわば映画の聖地なんですね。
ツアーでは広島の平和公園、記念館を見て、そして八丁座に訪れて映画『この世界の片隅に』を鑑賞するというもので、大変、好評をいただきました。今年の秋もこのツアーがあります。
和風の映画館で、日本映画を楽しんでいただく。日本の映画の素晴らしさも伝えていきたいと思っています。
励みの言葉「いつ来てもいいよね」
八丁座のチケットカウンター・“おもてなし”に留まらない来館者へ声がけが印象的
──最後に映画と八丁座への思いを今一度おきかせください。
蔵本:いつ来ても美味しいと評判のラーメン屋さんというのは、その時々に陰ながら微調整してその店の美味しさを作りあげています。
八丁座も同様に、「この映画館はいつ来てもいいよね」と仰っていただけるように、スクリーンや音、シートなどできる限り最良のものを求め、基礎の部分を大切にしていきたいと思っています。
映画は勉強にもなるし、もちろん娯楽でもあります。
現在、福島をテーマにした『ニッポニアニッポン』を上映していますが、シリアスだけど、コミカルでパワフルな映画です。
映画『ニッポニアニッポン フクシマ狂詩曲(ラプソディ)』(2019)
東京では残念ながらあまり話題になっていませんが、「広島×福島」をテーマに8月に上映しています。
普通に肩肘張ってとかではなく見ていただく。そして面白かったけど考えさせられると感じていただけたら。
たかが映画ですが、されど映画です。今映画は、いつでもどこでも観られます。だからこそスクリーンにかかっている意味や、「旬」を感じることが可能です。
そして不特定多数の人が劇場に集まって観ることの価値も。手軽になったからこそ、映画館の役割は永久不滅だと思っていす。
インタビュー/ くぼたなほこ
撮影/ 出町光識
映画館「八丁座」の情報
八丁座「弐」の劇場内
【住所】
広島県広島市中区胡町6−26 福屋八丁堀本店
【電話】
082-546-1158
【公式HP】
広島の映画館サロンシネマ、八丁座のサイト
【開館】
2010年11月26日
映画館「八丁座」には姉妹館「夢売劇場 サロンシネマ1・2」もある!
映画館「サロンシネマ1・2」の情報
【住所】
広島県広島市中区八丁堀16−10
【電話】
082-962-7772
【開館】
2014年9月20日
「サロンシネマ1・2」の劇場ロビー
広島県にある和モダンで風格のある映画館「八丁座」。また、名作映画イラストでお馴染みの宮崎祐治喜さんの壁画が出迎える姉妹館「サロンシネマ1・2」。
いずれもシネコンでは感じることのできない贅沢さを持った、おすすめの映画館です。
ぜひ、一度足を運んでみてはいかがでしょう。