Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/05/27
Update

映画『アングスト/不安』感想レビューと評価。実在の殺人鬼がモデルの1983年製作のサイコスリラー|SF恐怖映画という名の観覧車104

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile104

緊急事態宣言が緩和され劇場での映画公開が再開し、徐々に日常が戻りつつあります。

しかし、依然として映画館への人入りは少なく、最新作の劇場公開スケジュールは未定の作品が多い現状です。

そんな中、劇場公開が突如発表され、映画業界の注目を一挙に集めた作品が登場。

今回は、軽い気持ちで観ることが厳禁と注意喚起されている映画『アングスト/不安』の魅力を紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『アングスト/不安』の作品情報


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

【原題】
Angst

【日本公開】
2020年(オーストリア映画)

【監督】
ジェラルド・カーグル

【キャスト】
アーウィン・レダー、シルビア・ラベンレイター、エディット・ロゼット、ルドルフ・ゲッツ

映画『アングスト/不安』特集記事はこちら

映画『アングスト/不安』のあらすじ


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

白昼の住宅街で金を取るわけでもなく、女性を殺害した「男」(アーウィン・レダー)。

直後に逮捕されたその「男」は10年後に刑務所から出所することになります。

しかし、服役中に更生することなく殺人衝動を燻ぶらせていた「男」は、出所と同時に殺人計画を実行に移し始め……。

世界各国で上映禁止となった禁断の作品


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

1980年にオーストリアで発生したヴェルナー・クニーセクによる殺人事件を独自に調べ上げたジェラルド・カーグル監督によって製作された1983年の映画『Angst』。

本作はそのあまりにも凄惨な内容から本国のオーストリアでは1週間で上映打ち切りになっただけではなく、世界各国で上映禁止やビデオの発売禁止措置を取られることになりました。

日本でも『鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜』(1988)と言うタイトルでレンタル用VHSが発売されたものの、普及本数が少なく話題とはなりませんでした。

本作に対して取られた措置によって興行的に大失敗となり、巨額の費用を投じていたジェラルド・カーグル監督は破産に追い込まれ、作品は埋もれることになってしまいます。

しかし、アメリカの映画情報サイト「Taste of Cinema」による「史上最もダークなシリアルキラー映画」ランキングにおいて1位にランクインするだけでなく、ホラー映画専門配信サイト「SHUDDER」での「実録犯罪映画トップ10」で5位に選出されるなど確かな存在感を見せつけ始めた本作。

その長年の評価の高さを受け、『Angst』が『アングスト/不安』と改題し、遂に日本でも劇場公開されることとなりました。

「衝動」によって壊れる計画と惨劇


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

本作はサイコパスである主人公の「男」目線で物語が進み、劇中の殆どすべてのシーンで「男」の心情が語られます。

サイコパスの心情を徹底的に調べ上げたジェラルド・カーグルによって描かれる「男」は、出所後に行おうとしている殺人計画を獄中で念入りに立てるほどに危険な人物です。

ですが、今度は「警察に捕まらない」と言う考えで作り上げた綿密な計画が、抑えがたい殺人への「衝動」によって次々と崩れていきます。

冷酷無比で殺人を心から求めるこの「男」はそれだけで充分な危険人物であると言えますが、そんな「男」でさえ自身の「衝動」が抑えられず計画とは全く異なる無計画な惨殺が進んでいく様は時にシュールですらあります。

この劇中では悲惨なことが行われているにも関わらずどこか滑稽さを感じてしまう感覚は、サイコサスペンスとして高い評価を受ける傑作『ザ・バニシング-消失-』(1988)を鑑賞中の感覚に近いものを感じると言えました。

独特なカメラワークと演出が「不安」を引き立てる


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

『アングスト/不安』は一切の演出なく唐突に開幕し、「男」が逮捕されるに至る住宅街での殺人が繰り広げられます。

まとわりつくような独特なカメラワークや頭に残る不穏なBGM、そしてあえてカットせずにそのまま流れ続ける興奮のあまり手際の悪い「男」の犯行。

それらすべてが本作に乾いた恐怖を付与しており、より現実に近い、「物語」ではなく「現実」に起こりえることなのだと言う「不安」を鑑賞者に植え付けることに成功しています。

モデルとなったヴェルナー・クニーセクとは?


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

本作の基となった殺人鬼ヴェルナー・クニーセク。

彼の犯行は『アングスト/不安』と同様、もしくはそれ以上に猟奇的かつ残虐であり、彼の犯罪を知ることは精神衛生上好ましくないと言えます。

また、この項目では史実であり、劇中とは異なる点は多くあるとは言え一部のネタバレを含みますのでご注意ください。

残虐な犯行


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

ヴェルナー・クニーセクは出所後の就職先を決めるため、出所の数週間前に3日間の休暇を貰い出所。

その時、クニーセクは幼少時代より知っていた車いすの男性の住む別荘へと侵入、男性とその母親を殺害します。

その後クニーセクは男性の妹を10時間前後に渡り拷問し殺害、遺体は血だらけだっただけではなく殴打や火傷の跡まであったとされています。

逮捕されたクニーセクは終身刑を言い渡され現在も収監中ですが、脱獄を試みたことがあるなどその「恐怖」は今もなおオーストリアを支配しています。

まとめ


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

本作はサイコパスの「男」による残虐かつ非倫理的な「思考」及び「殺人」が劇中で繰り広げられます。

精神的に深い傷を負う可能性もありますので、あくまでもそのことを承知の上で鑑賞に挑んでください。

『アングスト/不安』は2020年7月3日(金)より全国で上映開始。

惨劇をその目で確かめたい方のみご鑑賞することをオススメいたします。

映画『アングスト/不安』特集記事はこちら

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile105では、『SF映画おすすめ5選!2000年代の名作傑作選』と題し語り継ぎたい2000年代の名作SFを5作、ランキング形式でご紹介させていただきます。

6月3日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら





関連記事

連載コラム

『声/姿なき犯罪者』あらすじ感想と評価解説。韓国映画おすすめ!リベンジ復讐劇で描く元刑事が詐欺グループに立ち向かう勇姿|映画という星空を知るひとよ117

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第117回 近年深刻化する犯罪のひとつである振り込め詐欺を扱った韓国映画『声/姿なき犯罪者』。 双子の兄弟キム・ソン&キム・ゴク監督が、詐欺犯罪を徹底的にリサー …

連載コラム

『Ben-Joe』あらすじ感想と評価解説。岩松あきら監督が三河映画第二弾で摂食障害問題を描く|映画という星空を知るひとよ183

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第183回 愛知県三河地域を拠点にする完全自主制作映画プロジェクトの“三河映画”第二弾『Ben-Joe』。 家庭や社会からの疎外感から‟摂食障害”となった女子大 …

連載コラム

映画『アンチグラビティ』ネタバレ感想評価とラストまでのあらすじ。異次元世界の謎が次々と明かされるロシア発のSFアクション|サスペンスの神様の鼓動34

サスペンスの神様の鼓動34 こんにちは「Cinemarche」のシネマダイバー、金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。 今 …

連載コラム

【短編映画無料配信】ラブ・デート~恋人たちの散文詩|あらすじ感想評価レビュー。初々しい国際的馬鹿ップルの悩みと喜びを鮮やかに描く《松田彰監督WEB映画12選 2023年9月》

「月イチ」企画の短編WEB映画第9弾『ラブ・デート~恋人たちの散文詩』が無料配信中 『つどうものたち』(2019)、『異し日にて』(2014)、『お散歩』(2006)などの作品で数々の国内外の映画賞を …

連載コラム

『羊と鋼の森』『orangeオレンジ』橋本光二郎監督が示す「才能」の見つけ方|映画道シカミミ見聞録4

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第4回 みなさんこんにちは、森田です。 映画『orange-オレンジ』(2015)と『羊と鋼の森』(2018)と聞いてどんな共通点を思い浮かべますか。 「山崎賢人が主 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学