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Entry 2020/03/08
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映画『東京の恋人』あらすじと感想レビュー。“大人の恋愛と性愛”もしくは青春の終わりを綴る|OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録3

  • Writer :
  • 黒井猫

第15回大阪アジアン映画祭上映作品『東京の恋人』

大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門にて上映された映画『東京の恋人』。

結婚を機に映画監督の夢をあきらめ北関東に住む主人公・大貫立夫と、別れた学生時代の恋人・満里奈が約10年ぶりに再会したことから始まるラブストーリーです。

下社敦郎監督がクラウドファンディング・CAMPFIREにて資金を集め、製作された本作はMOOSIC LAB 2019の長編部門で最優秀女優賞、松永天馬賞を獲得した作品です。

映画『東京の恋人』は6月27日より東京ユーロスペースにて公開されます。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録』記事一覧はこちら

映画『東京の恋人』の作品情報

【公開】
2020年公開(日本映画)

【監督】
下社敦郎

【キャスト】
森岡龍、川上奈々美、吉岡睦雄、階戸瑠李、木村知貴、西山真来、睡蓮みどり、辻凪子、窪瀬環、テルコ、いまおかしんじ、マメ山田、伊藤清美ほか

【作品概要】
映画音楽も手がける異才・下社敦郎監督が東京60WATTSとコラボレーションした音楽×映画の祭典「MOOSIC LAB」作品。東京60WATTSの心を震わすロックンロール・ミュージックと共に、MOOSIC LAB初の日活ロマンポルノを彷彿とさせるアプローチで、くすぶる大人たちの性愛と青春の終わりを綴る。

MOOSIC LAB2019、第3回別府ブルーバード映画祭上映作品。脚本は下社敦郎と赤松直明、音楽は東京60WATTSが務めます。本作はMOOSIC LAB2019の長編部門にて最優秀女優賞、松永天馬賞を獲得しています。

主人公・立夫を演じるのは、映画『舟を編む』(2013)、ドラマ『あまちゃん』(2013)、ドラマ『カルテット』(2017)など、さまざまな映画、ドラマ、CMに出演している森岡龍。ヒロイン・満里奈を演じるのは、Netflixオリジナルドラマ『全裸監督』(2019)、37seconds(2019)など、恵比寿マスカッツや浅草ロック座、多方面で活躍中の現役セクシー女優の川上奈々美です。

下社敦郎監督プロフィール

映画『ヴォワイヤンの庭』(2018)

1987年三重県生まれ、映画美学校フィクションコース修了。

監督作『WALK IN THE ROOM』(2016)でTAMA NEW WAVEコンペティション入選、カナザワ映画祭 期待の新人監督入選、『ヴォワイヤンの庭』(2018)にて妙善寺映画祭 最優秀芸術賞、オイド映画祭 ベストセレクション入選、福島映画祭、渋谷TANPEN映画祭、高円寺阿佐ヶ谷映画祭等で上映。

また、いまおかしんじ監督『ろんぐ・ぐっどばい』(1973)、『れいこいるか』(今年公開予定)、田尻裕司監督『愛しのノラ』(2017)などの映画音楽も担当。

映画『東京の恋人』のあらすじ

結婚を機に北関東の田舎でサラリーマンをやっている30歳を過ぎた立夫(森岡龍)のもとにある日、大学時代の恋人・満里奈(川上奈々美)から「写真を撮ってほしい」という連絡がはいります。

かつて映画制作を志していた立夫は、久しぶりに訪れた東京で昔の自主映画仲間や満里奈と再会をする。立夫と満里奈は二人、車で海へと向かう。ひと時の逢瀬を重ねていくも、立夫は自分の結婚や妻の妊娠を言い出しかねていた……。

映画『東京の恋人』の感想とレビュー

“過去”を受け入れた上で“今”を生きる

映画『東京の恋人』は青春していた若い頃に後ろ髪を惹かれながらも、“今”を見つめ直し、そして大人になっていく男の物語です。

全編で流れるロックンロールな楽曲と哀愁漂う歌謡曲のミックス、そして男と女の情愛などのシーン・ショットから様々な映画・音楽への下社監督のリスペクトを感じる作品でした。

特に章立ての構成に男女の恋愛、ロードムービー的な展開、ハードカットを多用した場面転換の編集、音楽の使い方など劇中でも台詞として使われているジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)へのオマージュが多用され、下社監督のリスペクトをヒシヒシと感じられます。

映画『東京の恋人』を鑑賞後、“今”から見た“過去”は良し悪しすべて含めて懐かしく美しいものである。しかし、時間が不可逆的なものである以上、過去に縛られることなく、過去を受け入れた上で“今”を生きなければならない。そんなことを考えさせられました。

本作では彩度を上げた画作りが特徴的でした。その画から誰もが持っている「あの時に戻りたい」「あの頃は良かった」という“今”では叶うことのない夢想を感じさせてくれます。そのため、主人公・立夫が過ごす東京の景色はどこか幻想的なものとなっています。

一方で「時の残酷さ」ということも痛感させられます。立夫が元恋人・満里奈と一時を過ごしたのち、地元に帰ることで“今”を突きつけられることになります。ですが、「“過去”があるからこそ“今”がある」そんなことを再認識させられ、生きているこの瞬間を大切にしたい、また数年後にもう一度観たいと思える、そんなちょっとビターで美しく懐かしく、そして儚い青春映画でした。

そして、多くの人々に観て、共感して欲しい作品でもあります。

下社監督は、本作品の製作資金を集めるためのクラウドファンディング・CAMPFIREにて、このようなメッセージを送っています。

All The Young Dudes あれからみんなどう生きてますか? あれからどんな人生生きていたって、君が好きです。どうかよろしくお願い致します。

まとめ

映画『東京の恋人』は、青春の憧憬感じて懐かしさ溢れ、ちょっとビターながらクスリと笑える美しい青春映画です。

東京60WATTSの心を震わすロックンロール・ミュージックと共に、MOOSIC LAB初の日活ロマンポルノを彷彿とさせるアプローチで、くすぶる大人たちの性愛と青春の終わりを綴る映画『東京の恋人』は、6月27日より東京ユーロスペースにて公開されます。

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