第4回尾道映画祭中止なるも、ファンの要望に応え一部開催
新型コロナウイルス感染拡大防止のあおりをうけ、2020年2月28日~3月1日にかけて開催予定となっていた第4回尾道映画祭は中止することが決定。
しかし、イベントを楽しみにしていた映画ファンの切なる要望に応え、イベント主催となる映画館・シネマ尾道にて行われるイベントを中心として、予定されていた一部のプログラムが同日にわたり無名のイベントとして行われることとなりました。
そのイベントの一日目である2月28日に行われたのが「SHINPA vol.12 in 尾道」。
これは『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』『チワワちゃん』を手掛けた二宮健監督を中心として2014年からスタートした上映イベントで、東京国際映画祭とのコラボレーションや年越しカウントダウン・オールナイトなど、監督主導による運営形態を維持したイベントとして各方面から注目を浴びていますいます。
2019年の秋にシネマ尾道の支配人の河本清順と、二宮監督が対面を果たしたことをきっかけに実現したというこのイベントは、2020年2月28、29日と二日にわたって行われました。今回はこの1日目の前編の模様をリポートします。
【連載コラム】『シネマ尾道の名もなき映画イベント』一覧はこちら
CONTENTS
「SHINPA vol.12 in 尾道」前編の概要
【開催日時】
2020年2月28日
18:30より舞台挨拶
【会場】
広島・シネマ尾道
【登壇ゲスト】
安川有果、大野キャンディス真奈、嶺豪一、山中瑶子、枝優花、深田晃司
MC:二宮健
深田晃司監督が現代日本映画会を語る
今回初めて広島・尾道での開催となった「SHINPA」。その中で新たな企画として特別講演『現代映画の動向』が行われました。
これはもともと京都国立美術館で10年間ほど行われていた展覧会のタイトルから由来し、SHINPA自体の活動も非常に近い思想があるという認識より一貫した催しとして毎回その有識者を招き、上映とトークのプラスアルファとして現在の映画の動向を考えるような試みになればと企画されたもの。
第一回の講師として、深田晃司監督が招かれ行われる運びとなりました。
このテーマに関し深田監督は、日本の映画製作における予算に対する認識について言及。アメリカではスタジオ主体、フランスではプロデューサー主体で映画が作られていることに対し、日本の映画界がそういった構図を持たないことに対する問題点を挙げるとともに映画製作者は「いかに自分が撮りたいものを、意識して作っていけるかということ」を考え続けていかなければならないと説きます。
たとえば少しでも多くの資金が集まればそれだけ撮影日数の延長も見込むことができ、演出に対して改善が見込めます。それをどうやって調達するかを考えていくことは映画作りの重要な課題ですが、それをどう行うかという現実的な側面を日本の映画学校で教えてもらう機会はありません。
一方で、かつて海外で深田監督が対面した映画を学ぶ学生にはこういった認識がしっかりと植え付けられており、日本と海外の映画製作に携わる人それぞれに意識の差があることを認識として語ります。
そしてこういった問題に関し、あくまで仕事として映画作りを志すのであれば、そこは徹底して考え、スタッフ、キャストが平等に生き残っていける体質を作っていかなければ「多様性や日本映画としての勢いのようなものが失われてしまう」という問題を提起されました。
またこういった問題は映画を見る側の人としても意識することが必要であり、さまざまな環境にいながらもいろいろな映画が見られるのは当然の権利としてあるという見る側の意識の重要性も併せて説かれ、観衆の関心を深く集めていました。
深田晃司監督プロフィール
1980年生まれ、東京都小金井市出身。大正大学文学部卒業。1999年に映画美学校フィクションコースに入学。習作長編『椅子』などを自主制作したのち、2005年に平田オリザが主宰する劇団「青年団」に演出部として入団します。
2006年、19世紀フランスの小説家バルザックの小説を深澤研のテンペラ画でアニメーション化した『ざくろ屋敷 バルザック「人間喜劇」より』を監督。2008年には、青年団の劇団員をキャストにオムニバス長編映画『東京人間喜劇』を公開しました。
2010年に『歓待』を発表。同作は東京国際映画祭の日本映画「ある視点」部門にて作品賞を受賞しました。
2014年には『ほとりの朔子』を発表。フランス・ナント三大陸映画祭にて、最高賞である金の気球賞と若い審査員賞をダブル受賞し、国外での注目を集めました。
2015年、平田オリザ原作にして、世界初の“人間とアンドロイドの共演”で話題となった『さようなら』を経た後、2016年に公開した『淵に立つ』が第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査委員賞を受賞しました。
2018年にはインドネシアを舞台にした『海を駆ける』を公開。同年、フランスにおける芸術文化勲章「シュバリエ」を受勲しました。
新進気鋭の映像作家による秀作短編
そしてこの日は、SHINPAが推す気鋭の映像作家5人による興味深い短編映像5作品が紹介され、作品や作品作りにまつわる話などが展開されました。
安川有果監督『グッバイ筋肉!』(2019年/24分)
「自身の体の一部が離れて独立し、それが三角関係にならないか」という原案から作られた、ある一つのカップルと筋肉という三つ巴が起こす三角関係を描いたユーモラスなラブコメディー短編。キャストは松本妃代、板橋駿谷、加藤諒(声)。
大野キャンディス真奈監督『歴史から消えた小野小町』(2019年/27分)
小野小町が、現代の一人の女性に取り付き、その生涯をたどっていくという物語。映像制作の経験がないという大野監督が「撮りたい」という思いだけで、独学で映像を学び、脚本から出演、撮影、編集まで全部一人で果たし完成させた意欲作。キャストは大野キャンディス真奈。
嶺豪一監督『どろん』(2014年/30分)
映画製作とともに俳優としても活躍する嶺監督が、かつて自分が体験した自転車での事故をアイデアの発端として、一人の男性がとある事故から死にゆくまでの経緯を、ファンタジードラマ的に描いた物語。キャストは渋川清彦、飯田芳、前野朋哉、服部未来、徳永芳子。
山中瑶子『おやすみ、また向こう岸で』(2019年/24分)
一組の男女の関係がもつれる中、女性の幼馴染みが突然告白、微妙な三角関係に発展していく様を繊細かつ個性的な映像で描く。キャストは三浦透子、古川琴音、中尾暢樹。
枝優花『恋愛乾燥剤 a piece of 21世紀の女の子』(2018年/8分)
オムニバス作品集「山戸結希 企画・プロデュース 映画『21世紀の女の子』」の一作品として製作された映像で、恋愛の理想と現実のギャップに悩む一人の女の子が、恋愛関係を解消する薬「恋愛乾燥剤」で彼氏との関係を解消しようとする姿を、大胆なビジュアル主体にて描く。キャストは山田杏奈、藤原隆介。
「SHINPA」のスペシャル企画「KCP」
そしてこの日はイベント冒頭で客席からのテーマをランダムでセレクトし、第2部イベント終了までに短編映画を完成させる即興映画制作企画『KCP(ケーシーピー)』の実施も宣言されました。
これは29日にミッションを与えられた監督、役者が観衆より与えられたテーマに従い企画会議、撮影、編集を行い即興で映画を製作、上映するというもの。今回は安川有果・小村昌士両監督とともに、ゲストとして女優の吉田志織が参加しミッションに挑戦します。
今回は「陰キャ(陰キャラ)の恋」「サッカー」「お泊まり会」という3つのキーワードが提示され、29日の同時間に行われる「SHINPA Vol.12」の後編で上映されることとなりました。
まとめ
客席にはまばらに空席も見られましたが、来場したファンは深田晃司監督のトークをはじめ新鋭映像作家らの声に熱心に耳を傾け、センスあふれる映像の数々に目を輝かせて見入っていました。
またイベント終盤には29日の映画『チワワちゃん』上映時の舞台挨拶に登場予定の吉田志織も登場しイベントはアットホームな笑顔に包まれ、明日のKCPにより作られる映像、そしてイベント自体への期待感を大いに膨らませて終了しました。
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