Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/10/14
Update

映画『X 謀略都市』あらすじと感想評価レビュー。女性刑事が連続殺人事件と14年前の死の真相に挑む|サスペンスの神様の鼓動23

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

連載コラム『サスペンスの神様の鼓動』第23回

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回ご紹介するのは、10月13日からヒューマントラストシネマ渋谷などで開催される「ワールド・エクストリーム・シネマ2019」にて上映される、パニック障害を持つ女性刑事が、連続殺人事件に立ち向かうハンガリー映画『X 謀略都市』です。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『X 謀略都市』のあらすじ

© 2018 Focusfox

殺人課の女性刑事でシングルマザーのエーヴァは、かつては優秀な刑事でしたが、ある出来事がキッカケで精神障害を患い、現在はオフィスワークがメインとなっています。

ハンガリーでは、政府に国民の不満が爆発し、次期首相を決める選挙のタイミングで、暴動が起きていました。

暴動により多発する犯罪と、警察署の署長の「次の首相が決まるまで、犯罪を発生させない」という方針で、数々の事件が、十分な捜査を行われず処理されていました。

エーヴァは、解決されたとする事件の中でも、4つの事件に矛盾を感じ、殺人課に再捜査を依頼しますが、刑事たちは、やる気が無く、事件現場に出れないエーヴァを馬鹿にして、誰も聞く耳を持ちません。

そんな中、新たに殺人課へ配属された刑事、ペーテルだけはエーヴァの主張を聞き入れ、興味を持ちます。

エーヴァは、家庭でも問題を抱えていました。

反抗期の娘、カティが大学で度々問題を起こし、退学寸前となっているのです。

カティが大学で起こす問題の発端は、エーヴァの夫でカティの父親が、14年前に自ら拳銃で命を絶った事によるもので、大学では副市長の子供に「汚職して死んだ」と馬鹿にされ、カティは悔しい思いをしていました。

エーヴァも、夫が命を絶った日の事を、断片的に思い出す事はありますが、細部まで正確に覚えておらず、カティに本当の事を話せません。

カティは、エーヴァが何も語らない事に不満を抱き、母娘の関係は良好とは言えませんでした。

ある日、殺人課に通報が入り、首を吊った状態の死体が発見されます。

殺人課は、自殺で処理をしようとしますが、ペーテルがエーヴァを呼び捜査をさせます。

死体を見る事もできず、殺人現場に入るとパニックを起こすエーヴァですが「10数えて心を落ち着かせろ」と言う、ペーテルのサポートを受けて現場を検証。

その結果「被害者が自ら死を選んだ」と考えた際の、矛盾する点を見つけ出し、殺人事件である事を見抜きます。

エーヴァの洞察力に驚いたペーテルは、エーヴァが矛盾点を訴えていた事件を再捜査します。

捜査の結果、それぞれの犯罪現場に「インテリ層の裏切り」「汚職」などの、政府を非難するメッセージが残されていた事が判明します。

全てのメッセージが「政府の裏切り」というHPに掲載された文章と一致する事から、HPのIPアドレスを割り出し、ペーテルとエーヴァは犯人を逮捕します。

ペーテルは功績が称えられ昇進しますが、エーヴァは事件に不可解な要素を感じます。

それは、陰謀が渦巻く、大きな事件の始まりでしかありませんでした。

サスペンスを構築する要素①「鋭い洞察力を持つ女刑事」

© 2018 Focusfox

連続殺人事件が巻き起こる中、本作に登場する殺人課の刑事達は、暴動が巻き起こり、犯罪が多発する事で、捜査に関して無気力になっています。

そんな中、たった1人で事件の真相に立ち向かうのが、主人公の女性刑事エーヴァ。

精神障害を患っており、パニックを起こす為、殺人事件の現場に行く事は出来ませんが、現場の写真から矛盾点を洗い出す、凄まじい洞察力の持ち主です。

その洞察力は、犬の写真の牙の長さと、実際の犯行の傷跡が一致しない事を見破るなど、かなり細かく、かつては優秀な刑事であった事が分かります。

本作の中盤以降も、このエーヴァの細かい洞察力が物語を動かします。

ただ、犯人と対峙した際に、頭痛と恐怖から動く事ができなくなるなど、エーヴァの心の傷は深い事が分かります。

鋭い洞察力を持ちながらも、行動が制限されてしまっているエーヴァが、どのように連続殺人事件に立ち向かうか?

ここが、本作の見どころとなっています。

サスペンスを構築する要素②「連続殺人事件と14年前の死の真相」

© 2018 Focusfox

政府への不満から暴動が起き、犯罪が多発するハンガリーで巻き起こる、謎の連続殺人事件。

本作の物語の主軸は、一見すると無関係に見える、連続殺人事件の真相解明となります。

事件を繋ぐのは、現場に残された「政府への批判」メッセージ。

ここから1度は犯人を捕まえますが、誰もが「簡単すぎる」と感じるでしょう。

本作は、犯人逮捕から一気に物語が動き出します。

ストーリー序盤で、資産家のホルヴァートが、何者かに襲われ絶命する瞬間まで、さまざまな細工をしている場面が映し出されます。

中盤以降の物語を動かす重要な場面ですので、度々映し出される、死を前にしたホルヴァートの動きは見逃さないで下さい。

また、連続殺人事件と同時進行で、かつては、誰もが認める優秀な刑事だったエーヴァが「何故、精神障害を患ってしまったか?」という真相部分も、重要な物語として進んでいきます。

鍵を握るのは、14年前に自ら命を絶った夫の記憶。

あまりにも強いショックを受けたエーヴァは、記憶から消していましたが、過去と向き合わなければならなくなります。

エーヴァは、14年前の真相を解明し、殺人事件の黒幕を突き止める事が出来るのでしょうか?

サスペンスを構築する要素③「黒幕の正体は?」

© 2018 Focusfox

「政府に不満を持つ者の犯行」と思われた連続殺人事件は、資産家のホルヴァートの死から急展開を迎えます。

ですが、権力に弱い警察署の署長の方針で、事件は早期解決した事にされ、エーヴァが矛盾点に気付き、その後の捜査を希望しても誰も動こうとしません。

やがてエーヴァは、自身が追いかける強大な敵の正体に気付きます。

正体を見せた黒幕が、エーヴァに語りかける言葉は、もう絶望的としか言えません。

この黒幕の正体が『X 謀略都市』という作品のテーマとなっており、クライマックスに向かうまで匂わせてきた要素が、ハッキリと形になる部分でもあります。

また、本作の印象的な演出として、建物の外観や風景が、逆さまに映し出されている場面があります。

これが、何を表現しているか?という部分も、注意してご覧ください。

映画『X 謀略都市』まとめ

© 2018 Focusfox

本作で描かれている特徴的な部分として「権力」の存在があります。

作品の舞台は、政府に不満を感じて暴動が起きているハンガリーで、警察署は次期首相に遠慮して、事件が発生しても捜査を長引かせようとしません。

エーヴァの娘、カティが通う大学で「副市長の子供を処罰なんてできない」という場面もあり、「権力」という存在の、あからさまな負の部分が強調されています。

実際にハンガリーでは「政治への不満」から、国外へ移住する若者が多く、1990年代以降、人口が減少を続けているという現実があります。

そんなハンガリーの現状を反映させた作品『X 謀略都市』。

ヒューマントラストシネマ渋谷で上映される「ワールド・エクストリーム・シネマ2019」にて、11月1日(金)~11月7日(木) の公開となっています。

社会派の、見応えのあるサスペンス映画ですよ。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに。

関連記事

連載コラム

映画『燃ゆる女の肖像』感想レビューと評価解説。女性同士の恋愛を通じ“記憶する”という離別を描く|シニンは映画に生かされて21

連載コラム『シニンは映画に生かされて』第21回 2020年12月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開の映画『燃ゆる女の肖像』。18世紀フランスを舞 …

連載コラム

西原孝至映画『シスターフッド』内容解説と考察。劇中のメモ書き「私たちは花ではなく、花火である」を解く|映画道シカミミ見聞録37

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第37回 こんにちは、森田です。 今回は3月1日からアップリンク渋谷より全国順次公開される映画『シスターフッド』を紹介いたします。 本作を通して、自分が自分らしく生き …

連載コラム

【ネタバレ】シンウルトラマン|ゼットンのデザイン設定を変更した意味は?“シン・シリーズ最大のテーマ”へとつながる出現の意義【光の国からシンは来る?12】

連載コラム『光の国からシンは来る?』第12回 1966年に放送され2021年現在まで人々に愛され続けてきた特撮テレビドラマ『空想特撮シリーズ ウルトラマン』(以下『ウルトラマン』)をリブートした「空想 …

連載コラム

映画『ビッチホリディ』あらすじネタバレと感想。女性監督ならではの視点と巧みな物語の語り口|未体験ゾーンの映画たち2019見破録47

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第47回 ヒューマントラストシネマ渋谷で開催の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。今回はエーゲ海に面したリゾート地を舞台に、奇妙な人 …

連載コラム

映画『マックイーン :モードの反逆児』感想と評価。コムデギャルソン・川久保玲の反骨精神との比較から|映画道シカミミ見聞録39

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第39回 こんにちは、森田です。 今回は、英国の天才的ファッションデザイナーと謳われたアレキサンダー・マックイーンの生涯をたどるドキュメンタリー映画『マックイーン:モ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学