インドの最高級ホテルで起きた無差別テロ事件を映画化!
2008年にインドの国際都市・ムンバイで発生した、タージマハル・ホテル襲撃事件。
その衝撃のテロ事件に遭遇した宿泊客と、彼らを守り抜いた従業員の姿が映画化されました。
3日間に渡り、テロリストに支配された豪華ホテル。いつ殺されるか分からない恐怖と緊張感が支配する中、勇気ある人々は行動を起こします。
映画『ホテル・ムンバイ』の作品情報
【日本公開】
2019年(オーストラリア・アメリカ・インド合作映画)
【原題】
HOTEL MUMBAI
【監督・脚本・編集】
アンソニー・マラス
【キャスト】
デヴ・パテル、アーミー・ハマー、ナザニン・ボニアディ、アヌパム・カー、ジェイソン・アイザックス
【作品概要】
2008年に起きたムンバイ同時多発テロ。その標的となったタージマハル・ホテルで起きた惨劇と、人々の勇気ある行動を描いたサスペンス映画。
監督はアンソニー・マラス。1974年のトルコのキプロス侵攻を描く短編映画、『THE PALACE(原題)』で世界20か国以上で数々の映画賞を獲得。バラエティ誌に「2018年注目すべき映画監督10人」の1人として、紹介された人物です。
主演のホテル授業員役に『スラムドッグ$ミリオネア』『LION/ライオン 25年目のただいま~』のデヴ・パテル。『君の名前で僕を呼んで』のアーミー・ハマー、「ハリーポッター」シリーズのジェイソン・アイザックスが、ホテルの宿泊客として出演しています。
またイラン出身のナザニン・ボニアディ、インドを代表する俳優であるアヌパム・カーなど、映画に相応しい国際色豊かな出演陣が登場しています。
映画『ホテル・ムンバイ』のあらすじとネタバレ
2008年11月26日。ゴムボートに乗ってムンバイに上陸した、若い男の一団の姿がありました。彼らはタクシーに分乗すると、ムンバイ市内へと姿を消します。
その日、シーク教徒であるアルジュン(デヴ・パテル)は、頭にターバン(パグリー)を付けると、まだ幼い子を妻に預け、職場であるタージマハル・ホテルへと向かいます。
一方ムンバイに上陸した男たちは、イヤホンから流れる扇動的なメッセージを聞いていました。メッセージは彼らが訓練に従い、各々のターゲットを攻撃するよう指示しています。
同じ頃、ムンバイの歴史ある最高級の五つ星ホテル、タージマハル・ホテルではVIPの客を迎える準備が行われていました。
アメリカ人のデヴィッド(アーミー・ハマー)と名家の娘ザーラ(ナザニン・ボニアディ)夫婦は、産まれたばかりの子のキャメロンと、その世話役のサリーと共に、タージマハル・ホテルに到着します。
ホテルのVIP客として迎え入れられた、デヴィッドとザーラ夫妻。ホテルの完璧な受け入れに2人は満足します。
ムンバイのCST(チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス)駅では、トイレでカバンから銃を取り出した男が、混雑する駅に向け銃撃を開始します。パキスタンのイスラム系テロ組織が、行動を開始したのです。
ようやくタージマハル・ホテルに到着したアルジュン。レストランで勤務を着く前に、他の従業員と共にオベロイ料理長(アヌパム・カー)より、身だしなみのチェックを受けます。
出勤中に靴を無くしサンダル履きで現れたアルジャンを、オベロイは勤務から外れるよう命じます。間もなく妻が子を出産するアルジャンは懇願し、余っていた合わない靴を無理に履き、勤務に入ります。
次々と宿泊客を迎え入れるホテルのTVに、CST駅が襲撃され100名以上の死傷者が出たとのニュースが流れていました。
ムンバイ市内で別れて襲撃を開始したテロリスト。一部はパトカーを銃撃して乗っ取ります。テロリストがパトカーを使用して攻撃した事で、混乱はさらに深まります。
ホテルのレストランでは従業員たちがもう一人のVIP客、ロシア人のワシリー(ジェイソン・アイザックス)の対応について、注意を受けていました。
その頃外国人旅行客に人気のカフェに、バックバッカーのカップル、エディとブリーがいました。彼らが会計を済ませようとした時、カフェはテロリストの襲撃を受けます。
倒れた人々にとどめを刺してゆくテロリストの、隙を見て外へと逃れ出たエディとブリー。
デヴィッドとザーラ夫妻は、4階の部屋にいるサリーに具合の悪いキャメロンを任せ、レストランに入ります。近くの席に女を手配する、ワシリーの姿がありました。夫妻のテーブルはアルジュンが対応します。
襲撃されたカフェから逃れた人々は、逃げ場を求めタージマハル・ホテルに向かいます。殺到する人々に従業員は何事かと思いますが、彼らをロビーに迎え入れます。
しかしロビーに流れ込んだ人々に紛れ、テロリストもホテルの中に入っていました。位置に付いた彼らは、ロビーにいる人々に銃撃を開始します。
ロビーでの銃撃を知ったアルジュンは、機転を利かし店内の照明を消し、客に伏せるよう指示します。デヴィッドとザーラ、そしてワシリーもテーブルの下に身を隠します。
我が子キャメロンの身を案じたザーラは、部屋にいるサリーに電話を入れますが、シャワーを浴びていて、電話にも襲撃にも気付かないサリー。
テロリストたちは、イヤホンから流れる首謀者の声に従って行動します。ホテル襲撃の第1段階を終えた彼らは、客室を回って声をかけ、ドアを開けた宿泊客に銃弾を浴びせます。
サリーの部屋もノックされます。赤ん坊を診に医者が来たと思った彼女はドアを開けますが、そこには茫然とした老婦人がおり、部屋の中に逃げ込んできました。ようやくサリーはホテルの襲撃に気付きます。
近づく銃撃の音に、サリーはキャメロンと共にクローゼットに身を潜めます。部屋に現れたテロリストは、逃げ込んだ老婦人を撃ち立ち去ります。
クローゼットから出たは、部屋で老婦人の遺体を目にします。彼女は泣きながら電話し、今起きた出来事をデヴィッドに報告します。
ホテル側は何度も警察に通報していました。警察が到着するまでレストランの客を、この場に止めようとするアルジュン。しかし我が子とサリーの身を案じたデヴィッドは、ザーラを残し部屋に向かう事を決意します。
テロリストの目を逃れながら部屋に向かった彼は、危険を逃れ4階の自室に到着します。再会したサリーに、妻ザーラに無事とのメッセージを、送信するよう頼んだデヴィッド。
TVのニュースはタージマハル・ホテルが襲撃され、最大で1000名の宿泊客と500名の従業員が、取り残されていると報じていました。
また事態に対処できる特殊部隊はムンバイにおらず、1300キロ離れたニューデリーからの、部隊の到着を待つしかないとも伝えます。
装備も人員も不足している地元警察は、ホテルを包囲して見守るしかありませんでした。彼らの前でテロリストから逃れたエディが窓から飛び降り、骨折して倒れます。
中にブリーが撃たれて取り残されている、と訴えるエディ。その姿にホテルに入る事を決意する刑事たち。
一方レストランのアルジュンに、オベロイ料理長から客を連れて、6階のチェンバースラウンジに来るよう連絡が入ります。ほぼ侵入不可能なチェンバーズで、警察の到着を待つのが宿泊客にとって最も安全だと判断したのです。
アルジュンは不安に駆られる客をまとめ、非常階段を使いチェンバースへ向かいます。デヴィッドと離れ離れになる事を危惧したザーラも、ワシリーの説得に従い同行します。
拳銃を構えた2人の刑事は、旧式のライフルを持つ警官と共にホテルに入ります。しかしマシンガンと手榴弾で武装したテロリストに圧倒され、刑事らは身を隠します。
アルジュンは客と共に、無事チェンバースラウンジに到着しました。オベロイ料理長は、集まった従業員に、残る事を強要しない、家族がいる者は脱出しろと話します。
逃げる事を選んだ従業員に、恥じる事はないと語りかける料理長。後にはアルジュンら、宿泊客を守る事を選んだ者だけが残りました。
ザーラは電話で夫デヴィッドに、サリーとキャメロンと共に、安全なチェンバースに来るよう連絡します。しかしその姿を見たある老婦人客は、テロリストに連絡したと彼女を責めますが、2人の間に割って入り、ザーラの身を守ったワシリー。
また老婦人はオベロイに、アルジュンのターバン姿を見ると不安になると訴えます。それを聞いたアルジュンは、彼女の元に向かいます。
彼女に妻子の写真を見せたアルジュン。自分はシーク教徒で、頭に付けたターバンはパグリーと言って、シーク教徒には神聖なもので、子供の頃から身に付けずに外出した事はないと説明します。
それでもお客様が安心するなら、パグリーを外しましょうと提案したアルジュン。その言葉に老婦人も落ち着きを取り戻します。
その頃テロリストは、フロント係に強要して宿泊客にドアを開けるよう指示させていました。それを断ったフロント係を、テロリストは射殺します。
チェンバースラウンジに、従業員に連れられた新た一団が逃げ込んできます。その中には撃たれたバックパッカーのブリーの姿もありました。
彼女の出血はひどく、このままでは命が危険です。また彼女のうめき声がテロリストに聞かれる可能性もあります。
そこでアルジュンはブリーを病院に連れて行くため、共にチェンバースから出る事にします。
一方デヴィッドは、サリーと赤ん坊を連れ、安全なチェンバースに向かう事を決意します。
ブリーと共に階段を降りるアルジュンですが、彼女の出血がひどくなり、止むなくパグリーを外し止血します。
そこに逃れてきた刑事2人が現れます。刑事はアルジュンをテロリストと疑いもみ合いとなります。その場から逃れようとしたブリーは、テロリストに射殺されます。アルジュンを従業員と確認し、彼に警備室へと案内させる刑事たち。
テロリストは首謀者から、人質として利用できる、VIP客の確保を命じられていました。ブリーの身元を確認していた彼らは、赤ん坊の声に気付きます。
テロリストに気付かれたと悟ったデヴィッドは、サリーとキャメロンをロッカールームに隠すと、囮となって逃げますが、テロリストに捕えられます。
一方警備室に到着したアルジュンと刑事たち。刑事は警察に連絡をしますが、応援が到着するまで待機するよう命じられます。
しかしアルジュンから、チェンバースラウンジに大勢の人かいると聞かされ、モニターでその部屋にテロリストが迫っていると確認した刑事は、拳銃を手にチェンバースに向かいます。
一方テロリストは、チェンバースの中の従業員に声をかけ、扉を開けさせようと試みます。オベロイ料理長は警察に連絡を取り確認しますが、射殺した警察官の名を名乗るテロリストを信用してしまいます。
その光景を警備室のモニターで見ていたアルジュン。彼はオベロイに連絡しようと試みます。
映画『ホテル・ムンバイ』の感想と評価
徹底した取材に基づいて作られた映画
この映画が作られたきっかけになったのは、事件を紹介したドキュメンタリー作品『Surviving Mumbai』を見た事である、と監督のアンソニー・マラスは語っています。
ドキュメンタリーを見ると、多くのテロ事件と異なり3日間という長期間の出来事であって、巻き込まれた人々は、隣人と自分自身に多くを頼る必要があったと監督は続けています。
自らも家族を持ちながら、多くのタージマハル・ホテルの従業員がホテルに残る事を選び、互いと宿泊客を救い出しました。銃を持たず冷静に、無私無欲で行動した人々を描くために、監督は関係者への取材を重ねます。
その中には世界中のVIPを顧客に持つ一流シェフ、ヘマント・オベロイ料理長もいました。彼は事件に基づいた映画と聞き、協力をためらいましたが、アンソニー・マラス監督が伝えたいストーリーを聞いて、改めて協力したいと思ったと語っています。
ちなみに映画では多く描かれていませんが、オベロイ料理長はテロリストから隠れている間に、スタッフと共に鍋やフライパンを詰めたシャツを自作し、間に合わせの防弾チョッキとして、宿泊客らに与えたそうです。
その他多くの関係者に取材し、大量の新聞記事に何百時間ものテレビ報道やインタビュー映像、テロ実行犯と首謀者の通話を傍受した録音記録に目を通し、監督は物語を作りあげました。
無慈悲な死を描く衝撃的演出
多くの取材に基づいた映画ですが作りは劇映画、モデルとなる複数の人物を合せて創作した人物が登場するなど、様々なフィクションを交えたものとなっています。
この映画が観客を圧倒するのは死の描写。劇映画だとキャスティングを見て、この役柄の人物、このネームバリューの役者なら、恐らく死なないだろう思い込むものです。
そういった想像を裏切る、余りにも突然で、当たり前の様な死の描写。決して死を過剰な暴力、残酷な描写では描いていませんが、淡々と描かれる死が、かえって日常に突然訪れるテロの恐怖を描いています。
事件の生存者はいつ殺されるか、1秒後か1分後あるいは1時間後か、全くわからない状態だと話していた、と語るマラス監督。
この緊張感を出すために、演出でも様々な試みを行っています。例えば犯人グループを演じた俳優と、ホテルの従業員や宿泊客を演じた俳優たちを引き離し、緊張感を高めたと話しています。
劇映画の構造を持ちながら、奇妙なほど緊張感、緊迫感をはらんだ『ホテル・ムンバイ』。並みのアクション映画より、実に怖い映画に仕上がっています。
まとめ
さらにアンソニー・マラス監督は、『ホテル・ムンバイ』の撮影現場に巨大なスピーカーが設置させ、突然大きな銃声を流すという事を行いました。
突然銃声の不意打ちを浴びた主演のデヴ・パテルは、それによってどんなに緊張感がもたらされたか、想像できるだろう、と語っています。
彼は俳優としてではなく、偽りのない恐怖心で演技に臨むのだと自分に言い聞かせて、現場に立っていたと証言しています。
これは同じように映画に緊張感を持たせるため、撮影現場にショットガンを持ち込み、突然発砲した『エクソシスト』演出中の、ウィリアム・フリードキン監督のエピソードを思い出させます。
長編映画としては本作が初の監督作であるマラス監督。今後が期待されますが、現場ではフリードキン監督のような完璧主義&ムチャ振り演出で、スタッフを牽引しているのでしょうか?