豊川悦司が生み出す新たな金田一像に注目
『八つ墓村(1996)』は、数々の横溝正史小説を映画化した市川崑監督が、手堅く撮り上げた本格推理サスペンス。
岡山県の山深い八つ墓村で起こった凄惨な連続殺人事件に、豊川悦司扮する名探偵・金田一耕助が挑みます。浅野ゆう子、高橋和也、宅麻伸、萬田久子、岸田今日子、岸部一徳ら実力派俳優が顔を揃え、迫力ある物語を盛り上げています。
(C)1996 東宝・フジテレビ・KADOKAWA
祟りの伝説が根深く残る八つ墓村で繰り返される惨劇。金田一はどのような推理をして真相にたどり着けるのでしょうか。
ホラー要素もたっぷり詰め込まれた、横溝正史の世界をどうぞご堪能ください。
映画『八つ墓村(1996)』の作品情報
【公開】
1996年(日本映画)
【原作】
横溝正史
【監督】
市川崑
【脚本】
大藪郁子、市川崑
【編集】
長田千鶴子
【キャスト】
豊川悦司、浅野ゆう子、高橋和也、宅麻伸、岸田今日子、岸部一徳、萬田久子、喜多嶋舞、加藤武、白石加代子、神山繁、吉田日出子、石倉三郎、石橋蓮司
【作品概要】
岡山と鳥取の県境に位置する山村・八つ墓村で起こった連続殺人事件に名探偵・金田一耕助が挑む本格推理サスペンス作品。監督は『ビルマの竪琴』(1956)の市川崑。金田一シリーズを手掛けるのは本作が6本目となります。
資産家の遺児だと知らされた青年が連れていかれた先は、祟りの言い伝えが残る八つ墓村でした。その後、次々に殺人事件が繰り返され、金田一探偵が捜査に乗り出します。
『命』(2003)の豊川悦司が主演を務め、新しい金田一像をつくりあげました。共演は『藏』(1995)の浅野ゆう子、高橋和也、岸田今日子、岸部一徳ほか。
映画『八つ墓村(1996)』のあらすじとネタバレ
(C)1996 東宝・フジテレビ・KADOKAWA
昭和24年。母を失いひとり身となった寺田辰弥は、ある日突然資産家・田治見要蔵の遺児であることを知らされました。そのことを知らせに来た祖父・丑松は、何者かによって常備カプセル薬に毒を盛られ、辰弥の目の前で血を吐いて死んでしまいます。
田治見家の使いでやって来た未亡人・森美也子に連れられて、辰弥は岡山の八つ墓村へ向かうこととなりました。辰弥のもとには、八つ墓村へ行くなと書かれた警告状が届きますが、彼はそのことを美也子には言えませんでした。
村を訪れた辰弥は、田治見家の後継ぎになるように言われます。そんな彼に地元の老婆・濃茶の尼がやってきて、辰弥がこの村に入ると八つ墓明神の祟りがあると言い放ちました。
翌朝、辰弥の腹違いの兄・久弥が毒で殺されてしまいます。辰弥の身を案じる神戸の諏訪弁護士の依頼で村を訪れていた探偵・金田一耕助は、事件を聞いて多治見家へと駆けつけました。
映画『八つ墓村(1996)』の感想と評価
(C)1996 東宝・フジテレビ・KADOKAWA
独特の恐怖の空気感がたまらない名作
連続して起きる凄惨な殺人事件の解明と共に、不気味な祟りの言い伝えが醸し出すおどろおどろしい空気感に魅せられる名作サスペンスです。多くの俳優が演じてきた金田一耕助役に、本作では豊川悦司が挑んでいます。
母を亡くした青年・辰弥が、突然岡山・八つ墓村の資産家・田治見家の跡取りだと知らされるところから物語は始まります。そのことを伝えに来た祖父は目の前で毒殺された上、辰弥のもとには村に行くなという警告状が届きますが、真実を知りたい辰弥は恐怖を振り払って美也子と共に八つ墓村を訪れるのです。
大きな古い屋敷を取り仕切る双子の大叔母、義理の兄と姉、居候の従兄妹ら大勢の家族。そして、祟りだと叫ぶ濃茶の尼。
双子の老婆を演じる岸田今日子、濃茶の尼を演じる白石加代子の存在感に圧倒されます。「祟りじゃ!」と叫ぶ尼の姿は、本作の空気感を作る重要な要素となっています。
辰弥が到着した翌朝に、義理の兄が毒殺されますが、ここで登場するのがトヨエツ演じる金田一探偵です。飄々として笑顔がチャーミングな金田一は一服の清涼剤のような存在でもあり、薄暗く恐ろしい物語に光を当ててくれます。
物語はその後さらにホラー性を高めていきます。土蔵に隠された秘密の階段、その先に続く鍾乳洞に隠されていた兜を着たミイラ。400年も前に起きた落ち武者8人の惨殺事件と八つ墓村のいわれ、その後の発狂した田治見庄左衛門による村人惨殺。
そして、辰弥の父・要蔵による鶴子拉致監禁、その後鶴子の脱走を機に気が狂った要蔵の村人32人惨殺事件。こうして羅列するだけでも、目眩がしそうな濃い内容です。
しかし、金田一はそれらの事実に目くらましされることなく、現実を見つめて着実に、美也子が犯人だという真相にたどり着きます。
事件を引き起こした理由が金銭的なことではなく慎太郎への愛情だったこと、そして、慎太郎が遺産を放棄したことがせめてもの救いだったといえるかもしれません。
まとめ
(C)1996 東宝・フジテレビ・KADOKAWA
豊川悦司を金田一耕助役に迎え、名匠市川崑監督が描いた名作サスペンス『八つ墓村(1996)』。
得体が知れない風任せの探偵でありながら、魅力にあふれた新たな金田一像を見事に生み出しています。薄汚い格好をしていても、隠しきれない美しさはトヨエツならでは、といえるでしょう。
若き日の浅野ゆう子、萬田久子の美しさや、さすがは岸田今日子と唸らずにはいられない圧倒的な存在感など、見どころたっぷりの一作です。
本作は『八つ墓村』の第3作目のリメイクとなっており、旧作とはさまざまな違いが見られます。
市川監督自身も、金田一役に石坂浩二を迎えた横溝正史作品を数多く手がけているので、それらと見比べてみるのもおすすめです。違った角度から本作の面白さが見えてくることでしょう。