映画『不都合な理想の夫婦』は2022年4月29日(金)よりkino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開
『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(2013)のショーン・ダーキン監督が描く、理想的に見えていながら実は虚飾と野心に満ちた夫とその妻の関係が崩壊していく様を描く心理スリラー『不都合な理想の夫婦』が、2022年4月29日(金)よりkino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開されます。
英国インディペンデント映画賞で6部門にノミネートされた傑作です。
『ファンタスティック・ビースト』(2016)のジュード・ロウと『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(2022)のキャリー・クーンが主演を務めます。
美しくもダークな極上の心理スリラーの魅力をご紹介します。
映画『不都合な理想の夫婦』の作品情報
【公開】
2022年(イギリス映画)
【監督・脚本】
ショーン・ダーキン
【編集】
マシュー・ハンナム
【出演】
ジュード・ロウ、キャリー・クーン、チャーリー・ショットウェル、アディール・アクタル
【作品概要】
『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(2013)でサンダンス映画祭監督賞を受賞したショーン・ダーキン監督作品。
誰もが羨むような理想の夫妻の崩壊劇を極限まで描く、虚飾と野望の傑作心理スリラーです。
サンダンス映画祭のプレミア上映で話題を巻き起こし、英国インディペンデント映画賞では6部門にノミネートを果たしました。
『ファンタスティック・ビースト』(2016)や『シャーロック・ホームズ』シリーズなどで熱烈な人気を誇るジュード・ロウが主人公の英国人・ローリーを演じます。
その妻・アリソン役に、「FARGO/ファーゴ3」でエミー賞にノミネートされ、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(2022)など話題作で活躍中のキャリー・クーンが扮します。
映画『不都合な理想の夫婦』のあらすじ
1986年。ニューヨークで貿易商を営む英国人のローリー・オハラは、アメリカ人の妻のアリソン、息子のベンジャミン、娘のサマンサとともに幸せに暮らしていました。
アリソンは馬を飼い、乗馬スクールのコーチをしています。サムは器械体操に打ち込み、元気なベンは仲の良い友人と父と楽しく遊んでいました。野心あるローリーは、大金を稼ぐ夢を追って好景気にあった故郷ロンドンへの移住を妻に切り出します。
4回目の移住を不安に思うと同時にお金を心配するアリソンに、かつての上司が経営する商社の新部門の責任者に迎えられることになったから大丈夫だと話すローリー。妻にも野望を持つようにと強く言います。
母のいる故郷を離れ、アリソンたち一家はロンドンへ向かいます。着いた新居は大邸宅でした。家の前で家族写真を撮ってから、ローリーは興奮気味に新居を案内してまわります。
夫は馬小屋と乗馬スクールを敷地内に作ると妻に話しますが、あまりに広すぎるとアリソンは心配します。広い庭で夫は妻を抱きしめ、そのまま寝室へ向かいました。
夫婦はパーティーに招かれますが、堅苦しいイギリス式に疲れたとアリソンが言います。子どもたちは広すぎる家と新たな学校環境になじめずにいました。
社長のアーサーに会社を売却して大金を稼ごうと話すローリー。先方に交渉する許可をもらった彼は大喜びで性急にことを運ぼうとします。馬小屋の工事が止まっていることに気づいたアリソンは業者に電話で問い合わせます。すると金が支払われていないために中断されていたことがわかりました。
アリソンは銀行残高が600ポンドしかないことを知ってローリーを問い詰めます。彼は月末に莫大な金が入るから心配ないと話しますが…。
映画『不都合な理想の夫婦』の感想と評価
虚飾を愛する夫の哀しさ
誰もがうらやむ理想的に見えた夫婦が崩壊していくさまを描く『不都合な理想の夫婦』。
類まれな美貌で知られ、『ファンタスティック・ビースト』(2016)や『シャーロック・ホームズ』シリーズなどで大人気を博しているジュード・ロウが、虚飾や裕福な生活に病的に固執する主人公の英国人・ローリーを好演しています。
時は1986年。アメリカンドリームを追って成功したローリーが故郷のイギリス・ロンドンに凱旋したことから悲劇が始まります。
彼は大変な野心家で、好景気に沸く地元でさらに金を稼ぐことを期待していましたが、現実はうまくいきませんでした。
幼い頃に苦労したトラウマから裕福な生活に固執しており、実際の収入に見合わない高い生活レベルを落とすことができず、金がないという事実を妻に話すこともできません。
外に出れば人々の前で虚飾の羽を大きく広げて見せるばかり。自慢話ばかりのローリーは同僚や顧客からも敬遠されるようになっていきます。
そんな夫を、冷たく突き放す妻のアリソン。
最初から夫のそういった性質を知っていたはずですが、それでも生活がうまくいっている間は問題は表面化しませんでした。
「金の切れ目は縁の切れ目」の言葉通り、生活が立ち行かなくなって関係は一気に悪化していきます。
妻の愛馬・リッチモンドの急死をめぐる会話は衝撃的です。ローリーは妻の悲しみを一切思いやることなく、騙されて病気の馬に金を払わされたと言って激怒します。
また、タクシーの運転手から子どもをかわいがっているかと聞かれたローリーはこう答えます。「子供に家を与えたし、暴力も振るってない。」ドライバーにそれは最低限のことだと呆れられます。
それらは、殺伐とした幼年期や、金に苦労してきた経験がローリーに言わせた言葉だったのではないでしょうか。
ラストシーン。険悪で非日常的な会話をしていた一家が、朝食というごく日常的な行為を通して、家族という枠にすとんと収まります。
泣いている自分を抱きしめてくれる温かな手。自分の席が用意されていること。ごく当たり前の日常にこそ幸せが宿っていることにローリーが気づいてくれることを願わずにいられません。
サムという娘の魅力
ローリーとアリソンにはサムという娘がいます。彼女はアリソンの連れ子です。
多感な時期に異国へ引越ししたことで、反発と不安がないまぜになった状況に陥っています。
車で送り迎えしてくれる母がいつも時間に遅れることにいらいらを募らせてケンカを繰り返し、両親の金をめぐる大ゲンカを聞いてなおさら母への反感を高めます。
そんなある晩、彼女は両親の留守中に若者たちを家に入れてクスリを吸いながら乱痴気パーティーを開いていしまいます。もうろうとしながら嘔吐して苦しむサム。
彼女のそれらの行為の根本には寂しさがありました。母への反発の全ては、自分を一番にみてほしいという気持ちの裏返しでもあったのです。
ラストで涙を流して苦しむ父にすっと歩み寄り、黙って抱きしめるサム。
寂しさや痛みを理解しているからこそみせた純粋な彼女の優しさに、家族も観る者も救われます。
まとめ
一見理想的に見えていた美しい夫婦が崩壊していくさまを描く心理スリラー『不都合な理想の夫婦』。アメリカからイギリスに移り住み大金を稼ぐことを夢見る夫とその妻と子が、広大な屋敷の中で家族を見失っていく姿をスリリングに描きます。
野心家で金と裕福な生活を追い求める男が、逆に金に振り回され苦しむようになります。馬や自然を愛する妻は彼の気持ちを理解することができず、ただただ夫を軽蔑するようになっていきます。
軽蔑という感情はそう簡単に乗り越えられるものではありません。それまでは夫婦仲がよかったふたりの関係が瓦解していくさまは衝撃的です。
理想的だったはずの夫婦、そして家族の関係の行方を最後まで見届けてください。
映画『不都合な理想の夫婦』は、2022年4月29日(金)よりkino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開予定です。