デスクワーク職員 vs テロリスト vs CIA
復讐映画はいつの時代も人気であり、「ジョン・ウィック」シリーズのように大事なものを奪われた元プロがその卓越した手腕で復讐に乗り出す様には憧れの気持ちを抱きます。
しかし、大事なものを奪われるのはいつだって復讐を成し遂げる力を持った者とは限りません。
今回は恋人を殺害された暴力の経験を持たないデスクワーク職員が、壮絶な復讐に乗り出す映画『アマチュア』(2025)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
映画『アマチュア』の作品情報
【日本公開】
2025年(アメリカ映画)
【原題】
The Amateur
【監督】
ジェームズ・ホーズ
【脚本】
ケン・ノーラン
【キャスト】
ラミ・マレック、ローレンス・フィッシュバーン、レイチェル・ブロズナハン、カトリーナ・バルフ、ホルト・マッキャラニー、ジョン・バーンサル
【作品概要】
アメリカの小説家ロバート・リテルによる小説を『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』(2024)のジェームズ・ホーズが映像化した作品。
『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)でアカデミー主演男優賞を受賞したラミ・マレックが本作の主演を務め、「マトリックス」シリーズでの印象的な役が話題を呼んだローレンス・フィッシュバーンが本作に共演として参加しました。
映画『アマチュア』のあらすじとネタバレ
CIAの暗号分析課に勤めるチャーリー・ヘラーの妻サラは4泊5日の出張のためロンドンへと発ちました。
妻を見送った日、チャーリーは上層部とも秘密裏に通信を行っている協力者「インクワライン」からの情報で、チーフのムーアが過去に多数の犠牲者を出したテロや事故を米国の利益のために引き起こし揉み消した証拠を見つけてしまいます。
しかし、一介の分析官でしかないチャーリーは見なかったふりをすることを決め、かつて命を救い感謝をされている諜報員のジャクソンたちと普通の日々を過ごしていました。
翌日、いつものように出社したチャーリーは、ムーアとCIA長官のサマンサからサラがロンドンでテロに巻き込まれ死亡したことを告げられます。
絶望に暮れるチャーリーは自宅での療養を勧められサラの遺品を受け取りますが、遅々として進まないCIAの調査に徐々に痺れを切らし始め、分析官の権限を利用してサラを襲ったテロリストを突き止めムーアに報告。
しかし、ムーアはテロリストの正体を知りながらも静観を貫き、逆にチャーリーをカウンセリングへ通わせることを決め、遂にチャーリーはCIAの動きに我慢の限界を迎えました。
綿密な下準備をしてムーアのオフィスを訪ねたチャーリーは、サラを殺害した4人のテロリストがムーアが過去に行った極秘作戦の関係者であることを指摘した上で、すべての汚職の証拠と引き換えに自身がテロリストを殺害するための訓練の斡旋をムーアに求めます。
ムーアは条件を了承しチャーリーに諜報員兼教官のヘンダーソンを紹介しますが、その裏でチャーリーが持つ証拠を確保するため、CIAの職員たちを総動員させていました。
チャーリーは爆弾作りといった頭脳的な工作で才能を見せるものの、銃の扱いは一向に上達せず、ヘンダーソンもチャーリーに人を直接殺害することには向かないと、彼に復讐を諦めるように諭します。
チャーリーの隠した証拠を発見することが出来なかったムーアはヘンダーソンにチャーリーの殺害を命じますが、ムーアのオフィスに盗聴器を仕込んでいたチャーリーは危機を察知し、ヘンダーソンのもとを去ると計画を実行に移し始めます。
サラを殺した1人目のテロリスト、グレッチェンの居場所を監視カメラの映像からフランスのパリと特定していたチャーリーは、発見したグレッチェンを尾行し、彼女が強いアレルギーを持っていることを突き止めました。
グレッチェンの通う病院に忍び込んだチャーリーは、彼女に高濃度の花粉を浴びせ他のテロリストの居場所を聞き出そうと脅しますが、情報を持っていない彼女を見逃そうとした隙を突かれて反撃を受け、もみ合う内に逃げ出した彼女は車に轢かれて死亡します。
チャーリーは初めての死を目前にしたことで動揺しマルセイユまで逃走しますが、グレッチェンの携帯を奪ったチャーリーを探知していたヘンダーソンに確保されてしまいます。
ヘンダーソンはムーアの指示でチャーリーを殺害するために追跡をしていましたが、チャーリーの機転を甘く見たことで彼の逃走を許してしまいました。
映画『アマチュア』の感想と評価
力でなく頭脳で実行する復讐劇
物語の主人公チャーリーは、ジェイソン・ステイサムが演じるような屈強な人間でも「ボーン」シリーズのような訓練された元暗殺者でもなく、同年代の平均的な男性にも負けてしまうようなデスクワーク職員。
そんなチャーリーが復讐のために世界を股にかけることとなる本作は、復讐映画として異色でありながら復讐映画として観たい要素はしっかりと詰まった作品。
確かに主人公は直接的な強さは他者に劣るものの、IQ170を超える頭脳と分析官としての実力で僅かな情報を基に一瞬でテロリストの住む国や地方を特定すると言った技能を見せます。
復讐映画としてよくある暴と知のバランスを逆転することで、映画全体の完成度は落とすことなく新感覚の物語を完成させている、不思議な魅力を放つ映画となっていました。
知能だけでは補えない「経験」
チャーリーは綿密な計画を経て、テロリストを追い詰めるだけでなく自身を狙うCIAの追跡を逃れていきますが、チャーリーには諜報員としての知識がないため、諜報員ならではの手法で逆に追い詰められることになります。
本作は頭が良いからと言ってチャーリーを万能な存在にしなかったことで、復讐を重ねていくうちに「経験」を積んだ主人公が諜報員としても成長していく様子を感じることができる作品です。
頼りなさが目立つラミ・マレックの表情が、徐々に「復讐鬼」となっていき鮮やかな復讐を見せる本作は、中盤以降は画面に喰いつくようにみてしまうこと間違いなしです。
まとめ
教官であり友人であり刺客でもあるヘンダーソンを演じたローレンス・フィッシュバーンの優しそうに見えて冷酷、冷酷そうに見えて優しい、と言うどちらに触れるか全く分からない存在感。
そして、ドラマ「ウォーキング・デッド」や『ザ・コンサルタント』(2017)で知られるジョン・バーンサルによる諜報員ジャクソンも、敵か味方か分からない怪しさ満点の演技が冴えており、騙し合いの物語が広がる本作を俳優たちが後押ししています。
映画『アマチュア』は強い主人公が悪者たちを成敗する、いつもの復讐劇に飽きた人にぜひ観ていただきたい作品です。