山奥で静かに暮らす男ロブ、彼の閉ざした過去とは?
山奥で静かに暮らしていた男が、大切にしていたブタが盗まれたことで、奪還する為の戦いに身を投じる映画『PIG』。
山奥で暮らす、謎だらけの男を中心に展開される、独特の展開と雰囲気が印象的な本作。
出演作品の独自性で、昨今では他の追随を許さないレベルに到達している、ニコラス・ケイジの長編映画100本目となる作品です。
ブタを盗んだのは誰なのか?その目的は?謎が謎を呼ぶ展開の先に辿り着く、独特のクライマックスが印象的な、本作の見どころを紹介します。
映画『PIG』の作品情報
【公開】
2022年映画(アメリカ)
【原題】
Pig
【監督・脚本・原案】
マイケル・サルノスキ
【キャスト】
ニコラス・ケイジ、アレックス・ウルフ、アダム・アーキン、カサンドラ・バイオレット
【作品概要】
山奥で静かに暮らしていたロブが、盗まれたブタを奪還する為に戦いを開始するリベンジスリラー。
主役のロブを演じるニコラス・ケイジは『フェイス/オフ』(1997)『ナショナル・トレジャー』(2005)など、メジャー大作に出演するだけでなく、近年では『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(2021)『マッド・ダディ』(2017)など、独自路線の映画に多数出演し、唯一無二の存在感を放っています。
監督は本作が監督デビュー作となる、マイケル・サルノスキ。
映画『PIG』のあらすじとネタバレ
山奥で1人暮らしをしているロブ。
ロブは、トリュフを探し出す「トリュフ・ハンター」として暮らしており、見つけたトリュフを料理に使用したり、業者に売ったりして生活しています。
トリュフを探し出すには、トリュフの臭いを嗅ぎ分けるブタが必要で、ロブは飼っているブタを家族同然に溺愛していました。
ある夜、覆面を被った謎の2人組がロブの家に侵入し、ブタを盗み出します。
2人組から暴行を受け、気を失っていたロブは、目覚めた次の日の朝からブタの捜索を開始します。
数年ぶりに街に降りたロブは、トリュフを取引している販売業者のアミールを呼び出し、故郷のポートランドに戻ります。
映画『PIG』感想と評価
盗まれたブタを探し出す、ロブの戦いを描いた映画『PIG』。
本作はかなり風変りな作風で、まず主人公のロブは「トリュフ・ハンター」という、聞き慣れない仕事をしています。
「トリュフ・ハンター」は実際に存在する仕事で、作中にあるようにブタを使い、トリュフを探し出し業者に売っている人達です。
この、トリュフ探しに不可欠なブタを、何者かに盗まれたことで、本作の物語は始まります。
ですが、物語の主軸は「誰がブタを盗んだのか?」ではなく「そもそもロブは何者なのか?」という部分です。
本作は3部構成になっており、各パートがロブの心情に合わせた内容となっています。
まず第1部は、山奥でブタと共に暮らすロブの姿が描かれています。
この第1部では、ほとんどロブは喋りませんし、トリュフを買い付けに来るアミールとの関係も、いまいち分かりません。
ただただ、人間関係を閉ざして生きる、ロブの謎が際立つパートとなっています。
そして、ブタが盗まれたことで始まる、第2部。
アミールと共にブタを探すロブは、裏世界にも精通しているようで「かつては、街で知らない者がいない存在だった」ことが分かります。
裏社会の殺し屋同士の掟や争いを描いた『ジョン・ウィック』シリーズのような展開ですが、ここから『PIG』は独特の展開を見せます。
ロブにはジョン・ウィックのような無敵の強さは無いですが、かつて3000人以上の人間をもてなしてきた経験から、人間を見抜く洞察力が優れていることが分かります。
さらに、第1部では完全に心を閉ざしていたアミールと、次第に協力関係が築かれていき、2人は相棒のようになっていきます。
第2部は、謎だらけだったロブの過去が徐々に明かされる、第1部からの急展開を見せるパートになっています。
そして第3部では、ブタを盗んだ黒幕である、アミールの父親と対峙します。
ロブは、過去にもてなした人のことを全て記憶しており、アミールの父親の心を開く為の料理を作ります。
ですが、ロブが探していたブタは死んでしまっていたことが分かり、失意のロブは再び山奥へ戻ります。
救いの無いラストのように感じますが、人を避けていた第1部の時のロブとは違い、ブタを探す中で、ロブは閉ざしていた心を開くようになります。
ロブは自身の過去を見つめ直し、これまで閉ざしていた人間関係と、再び向き合う決心がついたのかもしれません。
ブタを探す男を描いたリベンジスリラーと見せかけて、実は1人の男の人生を追体験させ、精神的な成長を描いた構成の『PIG』。
実に風変りですが、味わい深い作品だと感じました。
まとめ
ブタを盗まれたロブと、ブタを盗んだ黒幕のアミールの父親。
2人は対照的に見えながらも、最愛の人間を失った悲しみから、過去を閉ざし、心を失った状態で現在を生きているという部分は、共通しています。
この一見接点が全くないように思われた、2人を繋ぐのが料理。
かつては、もてなす側だったロブと、もてなされたアミールの父親、2人の共通の記憶が互いの閉ざした心を再びこじ開ける、クライマックスは残酷ながらも感動的な展開です。
本作において、ロブを演じたニコラス・ケイジが役にはまり過ぎており、黙って料理を作り、ブタと共に食事をする冒頭の数分だけで、世捨て人の風格が、凄いぐらい出ています。
また、冒頭にしか登場しないブタが可愛くて、連れ去られる際の泣き声が悲鳴のようにも聞こえ、ロブが「家族同然に愛している」というのも納得できます。
映画『PIG』は「ブタを探す謎の男」という設定を、最終的に重厚な人間ドラマに仕上げた、職人技の光る珍味的な作品でした。