真保裕一の小説『おまえの罪を自白しろ』が映画化に!
大物政治家を父に持つ主人公が遭遇する、身内の誘拐事件。犯人の要求は身代金ではなく、「政治家が犯した罪の自白」でした。
政治家が究極の選択を迫られるという真保裕一のサスペンス小説『おまえの罪を自白しろ』が、水田伸生監督によって映画化されます。
守るのは命か、政治家としての名誉か。政治家の生き方や本心が鮮明に描かれる映画『おまえの罪を自白しろ』は、2023年10月20日(金)に全国公開!
映画公開に先駆けて、小説『お前の罪を自白しろ』をネタバレ有りでご紹介します。
CONTENTS
小説『おまえの罪を自白しろ』の主な登場人物
【宇田晄司】
政治家・宇田清治郎の次男。会社経営に失敗し父の秘書に。
【宇田清治郎】
建設省官僚を経て、衆議院議員に。現在6期目。
【宇田楊一郎】
宇田清治郎の長男。埼玉県議。
【緒形麻由美】
宇田清治郎の長女。緒形恒之と結婚。3歳の娘・柚葉を誘拐されます。
【平尾宣樹】
埼玉県警刑事部捜査一課の警部補。
小説『おまえの罪を自白しろ』のあらすじとネタバレ
春休みが近い早春の頃。埼玉県のとある小さな公園で、緒形麻由美は3歳の娘・柚葉を遊ばせていました。
麻由美の父親は、地元では名を知らぬ者はいない衆議院議員の宇田清治郎です。
清治郎の長男にして麻由美の兄・楊一朗は、県会議員3期目で党県連幹事長の座につき、彼女の弟である次男・晄司は父の秘書をしています。麻由美の夫・緒形恒之も政界進出を狙い、市会議員を務めています。
そんな政治家一家の主婦である麻由美は、常日頃から父・清治郎に有権者を大切にするように言われ、非の打ちどころのない良き妻・良き母を演じていました。
その日も、早く家に帰りたいと思いつつ、公園のママ友たちに愛想笑いを振りまいていました。やっと自宅に帰るタイミングができ、柚葉を自転車の後ろに乗せて走りだします。
その時、後ろからくる車に気がつき道の端に寄ったところを、車から降りてきた人物に押し倒されて、自転車は転倒。
麻由美が気がついた時は、後ろに乗せたはずの柚葉はどこにもいませんでした。
白昼堂々、政治家の孫娘が行方不明に。誘拐かどうかはまだわからず、身内が警察に相談しているうちに、清治郎の事務所から「ホームページに書き込みがあった」と連絡が入りました。
埼玉県警の平尾警部が確認に行くと「孫娘は預かった」という書き込みがされていました。またその後、犯人からの連絡で「明日の午後5時までに会見を開き、おまえの罪を自白しろ」との要求がきます。
孫娘を誘拐した犯人の狙いは、身代金ではなく、政治家・宇田清治郎の罪を自白させることにあるというのです。「清治郎の罪とは何だ」と警察内でも疑問の声があがります。
孫娘を誘拐された清治郎には、橋梁建設で総理の友人の土地を通るルートへ変更させ、しかもその指示は総理側からあったという疑惑がもたれています。
その事実を告白すれば、親しくしている現総理の足を引っ張り、政界における我が身も肩身が狭くなってしまいます。けれども、告白しないと孫娘の命はおそらくありません。
実は清治郎には、過去にいくつかの心当たりのある‟罪”があったため、別の罪を告白すればどうかとも考えました。しかし、どんな罪を告白しても党内で力を失い、築いてきた地盤、政治家一族の生命が終わってしまう可能性は十分にあります。
清治郎は苦しみます。そんな彼を秘書としての立場から支えているのは、次男・晄司でした。
罪を告白して辞職し、総理との関係も黙り通す。代わりに、県議である長男・楊一朗の次の衆議院選挙での公認を取り付ける……清治郎はこの作戦でいこうと決断します。あくまで、我が身と我が一族を守るための決断でした。
警察側も犯人捜しに全力を尽くします。しかしメールの送信元アドレスを追っても、海外サーバーを経由されているため追跡できません。
身代金の要求もないため犯人との接触はかなわず、誘拐現場での犯人の手がかりもなく、動機がありそうな人物を見つけ出して捜査をしますが、以前手がかりが得られません。
誘拐事件の犯人捜しで警察がもたもたする中、非主流派の幹事長がこの機に乗じて総理を引きずり降ろそうと、動き出しました。
清治郎は孫娘を救うため、ついに罪を告白する記者会見を行います。
既に時効になった政治資金規正法違反。友人の関連会社への厚遇。そして秘書の犯した罪の黙認……政治家としての責任を当然問われる罪の自白に、会見会場が揺れるほど記者たちのどよめきが起こります。
これで清治郎の罪が全て明らかになったと誰もが思った矢先、犯人から「それじゃない。もう一回会見を開け」とメールがきました。
まだ隠していることがあるのではないか。思い当たるのは、たった一つ……警察が追っていた、例の橋梁建設ルート変更問題でした。警察も清治郎に詰め寄ります。
いよいよ総理との関係性も告白しなければならなくなった清治郎。
対して秘書の晄司は「総理は支持率が下がってもう終わりだろうから、総理を落とす約束を幹事長と取りつけ、代わって幹事長から楊一朗の次期衆院選での公認の約束も取りつけたらどうか」という戦略を提案しました。
もう孫娘を助けるにはそれしかないだろうと、清治郎は幹事長と秘かに密約を交わします。そしてその日のうちに2回目の会見を開き、橋梁建設ルート変更問題についても告白しました。
小説『おまえの罪を自白しろ』の感想と評価
大物政治家の孫娘が誘拐されます。犯人の要求は身代金ではなく「おまえの罪を自白しろ」というものでした。
誘拐事件の被害者である政治家はどんな罪を犯したのでしょう。また、犯人にとって政治家の自白はどんなメリットがあるのでしょうか。どんどん広がる予測不可能な展開に引き込まれていき、とても興味深く読める小説でした。
実は誘拐犯は直接的には宇田清次郎に何の恨みも持っていませんでした。ただ清治郎の発案した開発計画が犯人にとっては、してほしくないものだっただけ……犯人は、清治郎の犯した罪を自白させて議員を辞職すれば、開発計画も中止になると思ったのです。
一番可哀想だったのは、誘拐された孫娘でしょう。何の罪もないのに大人の都合で恐ろしい目にあわされたのですから。
そしてそんな孫娘の不運を自分のことのように思い「まずは人命救助を」と奔走するのが、宇田清治郎の次男であり、主人公の宇田晄司でした。
晄司は政治家の父の姿を見ていますが、そのやり方に不満を持っています。自らは政治家にならなかったのですが、起業した会社が倒産し、しぶしぶ父の秘書をしていました。
ですから、晄司は他の政界の人と違い、世間一般のルールを知っていたと言えます。
まず大事なのは、政治家同士のつながりよりも、人間としての価値ある生き方と、知恵をしぼり、直感を信じて事件の解決に奔走しました。
晄司の活躍とその生きる姿勢は世間の共感をよび、議員に立候補した選挙で見事に当選します。ですが、その後の晄司は「有権者の期待に応えられるような政治家」になれたのかと疑問が残ります。
新総理の電話に応える意味深なラストシーン。果たして晄司は父と同じ道に進むのでしょうか、それとも正反対の道に進むのでしょうか。今後が気になるラストシーンで、物語に含みと教訓を持たせています。
映画『おまえの罪を自白しろ』の見どころ
真保裕一のサスペンス小説が映画化されることになりました。
3歳の幼女が誘拐され、祖父にあたる政治家宇田清治郎に「おまえの罪を自白しろ」と要求がきます。
政治家一家に生まれながら、そのやり方を好きでない宇田清治郎の次男・晄司。誘拐事件をきっかけに自分の父が犯した罪と事件の解明に奔走します。
そんな宇田晄司を演じるのは、サスペンス映画初主演となる「Sexy Zone」の中島健人。『ラーゲリより愛を込めて』(2022)にも出演し、爽やかな演技で主人公を慕う兵士を好演した彼の正義感あふれる宇田晄司に注目です。
一方で、自身の政治家としての生命線を守るのか、それとも孫娘の命を守るのかと、究極の選択を迫られて悩む政治家・宇田清治郎は、実力派の堤真一が演じます。
『望み』(2020)『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(2021)の堤真一は、持ち前の凄みのある演技力で、政治社会の薄汚い争いとその深い罪に悩む清治郎を力強く表現してくれることでしょう。
映画をとりまとめたのは、映画『アイ・アム まきもと』(2022)やドラマ『Mother』(2010)『Woman』(2013)で知られる水田伸生監督。
政界のどす黒い繋がりにフォーカスした原作小説を、よりリアルな社会派ドラマに仕立てあげてくれることでしょう。
映画『おまえの罪を自白しろ』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【原作】
真保裕一『おまえの罪を自白しろ』(文春文庫)
【監督】
水田伸生
【脚本】
久松真一
【主題歌】
B’z:「Dark Rainbow」
【キャスト】
中島健人(Sexy Zone)、堤真一、池田エライザ、山崎育三郎、中島歩、美波、尾野真千子
まとめ
真保裕一の『おまえの罪を自白しろ』をネタバレ有りでご紹介しました。
“政治という世界の激しい派閥争いの中で強く生きる男”と言える宇田晄司の奮闘が、先の読めないストーリーを正義感あふれる読み応えのあるものにしています。
宇田清治郎と宇田晄司の親子の対立も見もので、親の七光りを嫌う息子・晄司の反骨精神は、とても清々しいものでした。
真保裕一氏の同名小説の映画化作品。タイムリミットサスペンス『おまえの罪を自白しろ』は、2023年10月20日(金)に全国公開されます。
物語は、誘拐事件の顛末に政治家宇田一族の歪な親子関係を絡めて展開します。映画では宇田親子を初共演となる堤真一と中島健人が演じていて、これも楽しみな組み合わせです。