Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

『クラブゼロ』あらすじ感想評価レビュー。ミヒャエル・ハネケに師事したジェシカ・ハウスナー監督が描く衝撃の学園サスペンス

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『クラブゼロ』は2024年12月6日(金)より全国順次公開!

「意識的な食事」という思想にドップリとハマる子供たちと、大人たちが反発する光景を、独特の空気感で描いたドラマ『クラブゼロ』

確信的かつ極端な思想を提唱する教師に同調していく子供たちと、その考えを受け入れられない大人たちがぶつかり合い、衝撃的な結末を迎えるさまを描きます。

作品を手がけたジェシカ・ハウスナー監督は、オーストリアの重鎮、ミヒャエル・ハネケに師事した気鋭の監督。作品は2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品され大きな注目を浴びています。

映画『クラブゼロ』の作品情報


(C)COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

【日本公開】
2024年(オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール合作映画)

【原題】
Club Zero

【監督・脚本】
ジェシカ・ハウスナー

【出演】
ミア・ワシコウスカ、エルザ・ジルベルスタイン、マチュー・ドゥミ、アミール・エル=マスリ、シセ・バベット・クヌッセンほか

【作品概要】
「意識的な食事」を説く栄養学教師と彼女に心酔する生徒たちの運命を、その考えを受け入れられない親たちとのコントラストで描いたサスペンススリラー。『リトル・ジョー』(2019)『ルルドの泉で』(2009)のジェシカ・ハウスナー監督が作品を手がけました。

キャストには『悪魔はいつもそこに』(2020)『ピアッシング』(2018)『ボヴァリー夫人』(2014)などのミア・ワシコウスカ、『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』(2021)のエルザ・ジルベルスタイン、『トムボーイ』(2011)のマチュー・ドゥミ、『インフェルノ』(2016)のシセ・バベット・クヌッセンらが名を連ねています。

映画『クラブゼロ』のあらすじ


(C)COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

名門校に赴任してきた栄養学の教師ノヴァク。彼女は自身が「意識的な食事」と呼んでいる最新の健康法をベースとして生徒たちに教育を進めていました。

「意識的な食事」とは「少食こそ健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」という思想を指します。

生徒たちはそのあまりにも先進的なポリシーを吸収し実践を開始、すっかり彼女の思想に感化され「食べないこと」に多幸感や高揚感を抱くようになり、その言動や行動はエスカレートしていきます。

両親たちは徐々にその異変を感じノヴァクへの大きな反発を抱くようになります。しかし生徒たちはノヴァクとともに、「クラブゼロ」と呼ばれる謎のクラブに集結していき……。

映画『クラブゼロ』の感想と評価


(C)COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

この物語の展開はどこか「いつの間にか始まっている」「いつの間にか新たな問題が起こる」という雰囲気で進み、非常に独特のスリラー感を醸すものとなっています

物語の序盤、子供たちが通う学校では複数の言語が飛び交い、中には打算的に感じられる意見もありながら、堂々とした持論をぶつけ合います。

そしてケンカにまで発展しそうなそのぶつかり合いは、いつしか同じ思想へと合わさっていき、一つのコミュニティを形成していきます。

この過程だけを眺めていけば、何の不自然さも感じられないありふれた光景であるようにも見えるでしょう。

ところがこの思想は学校の外に出ると、いきなりおかしなものと思われ、思想を広めた教師ノヴァクは異端児として批難を受けてしまいます。


(C)COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

人が生きていく上でエネルギーの摂取は必要なことであるという、「当たり前」と思われる思想からすれば、食を悪しきものとする考えは非常に衝撃的なものであります。

「そもそも食物を摂取せず生きていけるのか」という疑問も沸き、反発も当然と考えられるものであります。

一方でファスティング、つまり断食という行為の中でいわゆる「食事」「接種」という行為を「悪しきもの」と考える思想は意外にも現実に存在し、摂食障害者以外でもその通りと考える方向性をもって積極的に行動に移す人も多くいるといわれています。

社会にはこのような常識的「当たり前」を覆す思想も多く存在し、同様に多くの反発を買っているケースも多くあります。

その意味ではグローバルなテーマの中に存在する特異点、不自然な点をうまくスリラー的要素としてとらえた作品であると言えます。

物語の舞台となる学校はノヴァクの極端な思想に反発する意思もありながら、一方で容認してもよいのではと認める意見も存在するなど、物語中では賛否の関係がかなり複雑に描かれています。

そして物語の最後の展開では、常識を覆す思想に強く反発していた子供の親たちは、予想外の変化を見せていきます。

不穏な空気が漂う中、いきなり見ている側がドキッとさせられる展開がほぼ皆無であるにも関わらず、自身の基盤となっていた常識としているものが大きく崩れていく、そんな不安をおぼえる作品であると言えるでしょう。

まとめ


(C)COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

ジェシカ・ハウスナー監督が以前手がけた『リトル・ジョー』(2019)もまた、一つの不思議な植物が生み出す、「人知れず広がっていく恐怖」を描いた作品でありました。

反発する人と人同士の間合いの作り方は独特な空気感を生み出しており、この不穏ある意味ハウスナー監督ならではの持ち味であり、その恐怖の神髄が置かれたポイントこそが、作品の本質を知る鍵でもあります。

また強いエネルギー感のある激しい展開は皆無でありながら、ある意味グロテスクなシーンも設けられており、物語の異質さをより深いものとしているところには要注目。

そのじんわりと身に染みてくる不安感は、自身がまだ認識していない世の非常識的な常識を深く考えさせられるものといえるでしょう。

映画『クラブゼロ』は2024年12月6日(金)より全国順次公開!




関連記事

サスペンス映画

本日公開!上映中のおすすめ台湾映画『目撃者 闇の中の瞳』をご存知ですか?

台湾映画『目撃者 闇の中の瞳』は、本日1月13日(土)より新宿シネマカリテほか、全国順次公開! アジア映画はあまり見たことがないというあなた。の台湾映画デビューに、チェン・ウェイハオ監督の体感型サスペ …

サスペンス映画

『ある閉ざされた雪の山荘で』ネタバレ映画原作のあらすじ結末。どんでん返しを東野圭吾独特の流儀でクローズドサークルとして魅了!

東野圭吾の『ある閉ざされた雪の山荘で』が待望の映画化決定! 人気作家・東野圭吾が約30年前に執筆した小説『ある閉ざされた雪の山荘で』が、この度映画化されることになりました。 早春の乗鞍高原のペンション …

サスペンス映画

【ネタバレ】『蛇の道』あらすじ感想と評価考察。リメイクをフランスにて黒沢清監督が完全復讐劇に更に昇華させる⁈

1998年に手がけた伝説の同名映画、オールフランスロケでリベンジリメイク 今回ご紹介する映画『蛇の道』は 『岸辺の旅』(2015)、『スパイの妻』(2020)の黒沢清監督が、1998年に手がけた同名映 …

サスペンス映画

『愚行録』ネタバレあらすじ感想と結末ラストの考察評価。本格ミステリ映画の伏線と謎に隠されたもの

第135回直木賞の候補になる貫井徳郎の小説「愚行録」を映画化 “仕掛けられた3度の衝撃。あなたの日常が壊される”と銘打った映画化は、第135回直木賞の候補になった貫井徳郎の同名の小説「愚行録:をベース …

サスペンス映画

『ワイルド・ロード』あらすじ感想と評価考察。マシン・ガン・ケリーが長距離バスで逃亡するアウトローを熱演!

途中下車は許されない。それは、死線を走る片道切符―― 映画『ワイルド・ロード』が、2022年12月2日(金)より全国ロードショーとなります。 ラッパーのマシン・ガン・ケリーことコルソン・ベイカーと、名 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学