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Entry 2021/06/18
Update

映画『クローブヒッチキラー』ネタバレ感想とラスト結末の評価解説。父親が殺人鬼?という疑念を抱く少年が昇る究極の大人の階段

  • Writer :
  • 松平光冬

未解決事件に挑む少年が目にする衝撃の結末とは?

映画『クローブヒッチ・キラー』の主演俳優は『荒野にて』『ゲティ家の身代金』で注目を集めた若手俳優チャーリー・プラマーを起用し、ダンカン・スキルズ監督が演出を務めたサスペンススリラー。

アメリカのとある小さな町で起きた未解決事件の真相に挑む16歳の少年を描くサスペンススリラーとして、話題となっています。

本作で描かれるシリアルキラー事件のモデルとなった実際の事件背景および、少年が選択する結末についての考察を、ネタバレ有でレビューします。

映画『クローブヒッチ・キラー』の作品情報


(C) CLOVEHITCH FILM, LLC 2016 All Rights Reserved

【日本公開】
2021年(アメリカ映画)

【原題】
The Clovehitch Killer

【監督・製作】
ダンカン・スキルズ

【脚本】
クリストファー・フォード

【製作】
アンドリュー・コートシャック、コディ・ライダー、ウォルター・コートシャック、クリストファー・フォード

【撮影】
ルーク・マクーブリー

【キャスト】
チャーリー・プラマー、ディラン・マクダーモット、マディセン・ベイティ、サマンサ・マシス

【作品概要】
ゲティ家の身代金』(2017)で注目を集め、『荒野にて』(2019)では第74回ベネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した、注目の若手チャーリー・プラマー主演のサスペンススリラー。

プラマー演じる少年タイラーが、10年前に起きた未解決事件の真相に挑みます。

その他のキャストは、海外ドラマシリーズ「アメリカン・ホラー・ストーリー」のディラン・マクダーモット、『ブロークン・アロー』(1996)のサマンサ・マシス、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のマディセン・ベイティ。

監督は本作が長編映画デビューとなるダンカン・スキルズ、脚本を『COP CAR/コップ・カー』(2016)、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)のクリストファー・フォードが担当します。

映画『クローブヒッチ・キラー』のあらすじとネタバレ


(C) CLOVEHITCH FILM, LLC 2016 All Rights Reserved

アメリカの中東部にあるケンタッキー州。

キリスト教の伝統が根付く町で暮らす16歳のタイラーは、便利屋を稼業とする父親ドンが隊長を務めるボーイスカウトに参加し、ボランティアの活動にも勤しんでいました。

この町では10年前に発生し、いまだ解決していない連続女性殺人事件、通称“クローブヒッチ(巻き結び)事件”の被害者への追悼式が行われています。

身障者の伯父ルディの保険料が上がるため、リーダーシップ研修には行かせられなくなったことをドンから告げられ落ち込むタイラーでしたが、仕方なく納得。

ある夜、無断でドンの車に乗って、ガールフレンドのエイミーとドライブに出かけたタイラーでしたが、車内に緊縛された女性の写真があったことで、気まずい雰囲気に。

次の日曜の朝、教会に一家で向かったタイラーと友人ビリーは、教会に入らず1人でいる同級生の女子キャシーを目にします。

神に祈りを捧げず、10年前の事件を調べるキャシーを蔑むビリーから、お前が女性を緊縛する趣味を持つ変態という噂が出ていると知らされるタイラー。

写真の持ち主がドンではないかと疑ったタイラーは、彼が趣味の工作を楽しむ為の小屋に潜入。そこで発見したのは、SM雑誌や、ノラという女性の緊縛姿を写したポラロイド写真でした。

インターネットでクローブヒッチ事件を調べ、被害者の中にノラという名の女性がいたことを突き止めるタイラーでしたが、その直後、勝手にネットを使っていたことを母シンディに咎められてしまいます。

ドンは、思春期の男子が女性に興味を持つことは理解できるとするも、いかがわしい写真を持つのはダメだと諭すのでした。

クラスメイトたちから相手にされなくなったタイラーは、キャシーにクローブヒッチ事件の真相究明への協力を求めます。

キャシーは元警察関係者バーバラの家に住んでおり、彼女が事件について調べた資料をタイラーに見せます。

犯人は綿密な計画を立てた上で警察を挑発し犯行に及んできており、いずれまた事件を起こすだろうと、キャシーは考察。

それ以降、ボランティアで家庭教師を務めると称し、キャシーの家で事件を調べるようになるタイラーでしたが、ドンに彼女の家に行っていることを知られ、ガールフレンドが出来たと告げます。

夜、ノラの写真に「ラッキーのお気に入り」と書かれていたことが気になったキャシーがタイラーの家を訪ね、小屋に忍び込むも、写真もSM雑誌もなくなっていました。

その代わりに出てきたSM部屋の見取り図が気になったタイラーが家の地下室に入ると、そこで大量のSM写真や、事件被害者の身分証明書を発見します。

数日後、男2人だけのキャンプとしてタイラーと山奥に入ったドンは、タイラーが小屋や地下室で見つけた物は伯父ルディの物で、彼が事件の真犯人だと明かします。

今まで隠していたのは家族を守るためだったとするドンに、タイラーは警察に通報するか証拠を燃やすよう要請。

息子の眼前で、ドンはあらゆる証拠品を燃やしました。

後日、ドンが真犯人だと断定したキャシーがボーイスカウト教室に姿を現したことをきっかけに、タイラーとビリーが殴り合いのケンカに。

キャシーは、お詫びとしてタイラーの部屋の窓にメモを置いていきます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『クローブヒッチ・キラー』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C) CLOVEHITCH FILM, LLC 2016 All Rights Reserved

ボーイスカウトのリーダーシップ研修でタイラーは家を空けることになり、ドンの勧めでシンディと幼い娘ルディも数週間実家で過ごすことに。

1人となり買い物に出かけたドンは、スーパーマーケットで見かけた女性を尾行し、帰宅後に自ら女装して緊縛した姿を、屋根裏にあったポラロイドカメラで撮るのでした。

そこへタイラーに会いにキャシーが訪ねてきます。

慌てて着替えて、タイラーが不在だとして彼女を返したドンは、イライラを爆発させます。

日曜日、ドンは教会の礼拝に入った後、変装して尾行した女性の家に。

怯える女性を縛り上げて、顔にビニールをかけ窒息する様子を眺めているドンの背後に、ライフルを構えたタイラーが現れます。

時は遡り、タイラーはキャシーから貰ったメモに書かれた、ノラが住んでいた空き家に。

そこで全てを話したタイラーに、キャシーは自分の母親もクローブヒッチ事件の被害者だと明かします。

その後、タイラーは研修に行くと思わせておいて、キャシーと共にドンの動向を追っていたのです。

自首を勧めるタイラーの要請を呑んだドンは、代わりに暴発する危険があるとして、ライフルを渡すようにと言います。

タイラーが渡したライフルの銃口を向け引き金を引いたドンでしたが、弾は入っていませんでした。

ドンと揉み合ううち、タイラーはあわや窒息させられそうになるも、キャシーに後頭部を殴られたドンは気絶。

それから時は過ぎ、タイラーの家に行方不明となっていたドンの死体が見つかったという通報が。

ドンは殺された可能性もあるとして、警察がタイラーに聴取を求めるも、シンディはそれを拒否します。

キャシーと共にドンを山奥に運び、彼が1人キャンプ時に銃の暴発事故で死んだよう細工したことを思い出しながら、タイラーはボーイスカウト新隊長就任の挨拶代わりに、亡くなった父への弔辞を述べました。

映画『クローブヒッチ・キラー』の感想と評価


(C) CLOVEHITCH FILM, LLC 2016 All Rights Reserved

神を重んじる保守的な町で起こる悲劇

本作の舞台となるアメリカ・ケンタッキー州は、バイブル・ベルトの北端に位置します。

「バイブル・ベルト(Bible Belt)」とは、アメリカ南部および中部をまたいだ、聖書を字義どおりに信じる、要するにプロテスタントやキリスト教原理主義、福音派といった敬虔なキリスト教信者たちが多く住む地域です。

本作の主人公タイラーも、日曜日には家族総出で教会に通い、食事前に神に祈りを捧げる習慣があることからも、町全体にキリスト教の伝統が根付いていることが伺えます。

だからこそ、タイラーが卑猥な写真を見つけたことがすぐに知れ渡ってクラスメイトから蔑まれたり、単独行動を取る少女キャシーを異教徒として忌み嫌うのも、聖書に記されていること以外の行動を起こす者、聖書の教えにない物への反発心の表れといえます。

敬虔なキリスト教信者の中には、ロック音楽を「悪魔崇拝の音楽」と忌み嫌い、ダーウィンの進化論を「聖書に記されていないから」として信じない人もいるほどです。

本作が製作された2018年は、中絶や同性愛に反対するキリスト教福音派の熱烈支持を受けたドナルド・トランプ米大統領(当時)が、中間選挙の勝利に向けて猛威を振るっていた年です。

バイブル・ベルトが、トランプ支持者が多かった地区なのは言うまでもないでしょう。

(C) CLOVEHITCH FILM, LLC 2016 All Rights Reserved

本作は、1974年から91年の間にカンザス州で10人を殺害した実在のシリアルキラー、デニス・レイダーがモデルです。

カンザス州もまたバイブル・ベルトに属する地域であり、犯人のレイダーは地元の教会の役員をしつつ、タイラーの父ドン同様にボーイスカウトの隊長を務めていました。

91年に10人目の殺人を犯した後は鳴りを潜めていたものの、2004年頃に自分の犯罪が迷宮入りとなると知って再び殺人欲求を起こし、マスコミにメッセージを送ったことが逮捕のきっかけとなります。

ドンもまた、善き父、善き町民だったものの、息子に過去の犯罪を知られたことで抑えていた欲求が解放され、クローブヒッチ・キラーとしての顔を出してしまうのです。

ちなみに、デニス・レイダー事件をモデルにスティーヴン・キングも小説『素晴らしき結婚生活』を書いており、それを映画化した『スティーヴン・キング ファミリー・シークレット』(2014)もあります(出来は凡庸ですが…)。

『スティーヴン・キング ファミリー・シークレット』(2014)

恐怖の代償は大人への成長

(C) CLOVEHITCH FILM, LLC 2016 All Rights Reserved

本作の脚本家クリストファー・フォードは、『COP CAR/コップ・カー』、『スパイダーマン:ホームカミング』を手がけています。

前者はひょんなことから悪徳保安官と謎の男の死闘に巻き込まれる少年2人を、後者は底知れぬヴィラン(ヴァルチャー)と闘わねばならなくなった半人前のスーパーヒーロー(スパイダーマン)を、それぞれ描いています。

この2作品に共通するのは、「怖い大人と子ども」の二項対立ですが、『クローブヒッチ・キラー』ではさらに「実の父子」関係がプラスしています。

それまで尊敬の対象だった父ドンが、一転して恐怖の対象に変わってしまう……。タイラーは息子として、とてつもない試練を与えられてしまいます。

結果として彼は、10年前のクローブヒッチ事件の犯人だったドンを、法の裁きを受けさせず、自らの手で葬ります。

ただ、この“親殺し”は、ユングの心理学においては、親からの精神的な教えや束縛から離脱し自立する、という意もあります。

父親からの死の恐怖を乗り越えることによって、タイラーは文字通り大人として成長したのです。

まとめ


(C) CLOVEHITCH FILM, LLC 2016 All Rights Reserved

人間誰しも、知られたくない過去の一つや二つはあるもの。それは親しい相手ほど知られたくないはず。

タイラーもまた、父ドン同様に知られたくない過去を背負います。

指導者としての顔、家族の大黒柱としての顔を持っていたドンを、「多面性のある人だった」と弔辞で振り返るタイラー。

しかし、父親のもう一つの顔は、自分が背負った過去と一緒に、永久に墓場まで持っていくことでしょう。


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