撃沈するのは、この艦か、未来か。
《日本初の原子力潜水艦》を巡って繰り広げられる戦闘と政争を描いた、かわぐちかいじの同名名作コミックを実写化した「沈黙の艦隊」シリーズの映画第2作『沈黙の艦隊 北極海大海戦』。
映画第1作『沈黙の艦隊』、配信ドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1 東京湾大海戦』に続く本作では、原作随一のバトルシーン「北極海大海戦」と、原作連載当時に社会現象を巻き起こした「やまと選挙」の行方が映し出されます。
本記事では映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』のネタバレあらすじと共に、本作の魅力をご紹介。
海江田が口にした「鯨」とアメリカ大統領ベネットが口にした「リヴァイアサン」から、映画作中で重要な役割を果たしたソナー音(探信音)の真の意味を考察・解説していきます。
CONTENTS
映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』の作品情報

(C)かわぐちかいじ/講談社(C)2025 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.
【日本公開】
2025年(日本映画)
【原作】
かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社「モーニング」)
【監督】
吉野耕平
【脚本】
高井光
【音楽】
池頼広
【主題歌】
Ado「風と私の物語」(作詞・作曲:宮本浩次、編曲:まふまふ)
【キャスト】
大沢たかお、上戸彩、津田健次郎、中村蒼、松岡広大、前原滉、渡邊圭祐、風吹ジュン、トーリアン・トーマス、ブライアン・ガルシア、ドミニク・パワー、リック・アムスバリー、岡本多緒、酒向芳、夏川結衣、笹野高史、江口洋介
【作品概要】
かわぐちかいじの同名名作コミックを実写化した「沈黙の艦隊」シリーズの映画第2作。映画第1作『沈黙の艦隊』、配信ドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1 東京湾大海戦』に続く本作では、原作随一のバトルシーンとして知られる「北極海大海戦」と、原作連載当時に社会現象を巻き起こした「やまと選挙」を描く。
主演の海江田四郎役・大沢たかおを筆頭に、上戸彩、中村蒼、笹野高史、江口洋介ら同シリーズを彩るキャスト陣が続投し、さらに津田健次郎、風吹ジュン、渡邊圭祐が新たにシリーズへ参加。そして映画第1作・配信ドラマ同様に、吉野耕平が監督を務めた。
映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』のあらすじとネタバレ

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日米が極秘裏に建造した日本初の原子力潜水艦「シーバット」の艦長へ密かに選出された海上自衛隊二等海佐・海江田四郎は、艦内での反乱後に同艦を強奪。自らを元首とする独立国家《やまと》の建国を宣言しました。
「シーバット」から名を改め、新国家《やまと》の領土そのものとなった原潜「やまと」には出航時に核ミサイルが積載された可能性も噂されていた中、海江田が提案した両国の同名交渉に応じた日本内閣総理大臣・竹下登志雄。
「世界規模の超国家軍隊の創設による、恒久的世界平和の実現」を掲げる海江田に、竹上はアメリカとの同盟関係を維持した上で《やまと》との友好条約を了承。さらに《やまと》を巡る事件の審議と、それまでの自衛隊の指揮権を国連に託すことを決断しました。
「やまと」撃沈のためアメリカ海軍・第七艦隊は東京湾内に侵入・攻撃するも、海江田の同期・深町洋が乗るディーゼル潜水艦「たつなみ」の決死の護衛、ニュースキャスター・市谷裕美の「やまと」核保有の新報道により、「やまと」は無事に再出航。
第七艦隊に核ミサイルの“模擬”発射も見せた後、「やまと」は国連総会が行われるニューヨークへと向かうべく、アメリカ・ロシアの国境線でもある北極海・ベーリング海峡を進みます。
日本では、《やまと》の目指す世界平和に賛同した内閣総理大臣・竹上登志雄は、国民の真意を問うために衆議院の解散と総選挙を発表。
幹事長・海斗、外務大臣・影山をはじめ方針で対立した与党・民自党と袂を分ち、内閣官房長官・海原渉と政党「新民自党」を立ち上げて選挙に臨みます。
アメリカ大統領のニコラス・ベネットは、ニューヨークを目指す「やまと」を核を保有するテロリストとして撃沈すべく「オーロラ作戦」を立案し、ロシアを筆頭に各国へ作戦内容を公表。
他国からの作戦干渉を封じた上で、名門ベイツ家の養子・ジョンが艦長が務める同国最新鋭の原子力潜水艦「アレキサンダー」を向かわせました。
「アレクサンダー」の異常と言えるほどの圧倒力な速力で「やまと」の乗員を驚かせ、屈辱的な形で投降を求めるジョン。しかし海江田は戦闘を続行し、その中で「アレクサンダー」の異常な速力の正体を見抜きます。
実は「やまと」撃沈のために北極海に送り込まれた米潜水艦は、ジョンが駆る艦「アレクサンダー」と、ベイツ家の長男でジョンの義兄・ノーマンが駆る艦「キング」の2隻であり、2隻は驚異的な連携で“異常な速力性能”を演出していたのです。
一時は追い詰められるも、巨大なクレバスの隙間に生まれた危険海域「ツイン・ホーンズ」へ潜り込むことで危機を脱した「やまと」。
海江田は、2隻の“兄弟のような深い信頼”で成り立つ連携と、常に「キング」を庇う行動をとる「アレクサンダー」の戦闘スタイルの意図から推理し、早期に戦闘を終了させる最短の選択をとります。
艦体に超接近した「アレクサンダー」による決死のソナー妨害を受けるも、「キング」による魚雷攻撃を回避した「やまと」。そして海江田は、自身が狙っていた“位置”への誘導に成功しました。
映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』の感想と評価

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探信音にこめた「“同族”にこそ伝わる声」
原作漫画では「やまと」側からも攻撃を行なっていたにも関わらず、ニューヨーク沖で包囲網を敷かれた場面で海江田はなぜ頑なに魚雷を撃たずに、ソナー音だけを発射し続けたのか。
それは「戦闘の意思がないことを証明するため」という理由だけでなく、映画作中でたびたび登場した「鯨」が深く関わっています。
「鯨は特定の超音波を鳴らすことで、視界が悪い海中でもエサを含む周囲の物体、そして同族の位置を見つけ出す」という話は有名ですが、過去シリーズでも描かれ続けてきた通り、潜水艦も「特定の超音波=ソナー音(探信音)」によって周囲の障害物や敵艦を見つけ出します。
そして北極海での潜水艦戦にて、海底に沈みゆくノーマンがソナー音という“言葉ではない声”を愛する義弟ジョンに伝え、ジョンもまた愛する義兄の遺言の意味を解する姿には、時に愛情深いと言われる鯨たちの交信の姿が重なります。
そう感じられたのは、本作を観る人々だけでなく、映画作中で「鯨のように泳げば自由を知る」と語っていた海江田も、その一人だったのでしょう。
だからこそ海江田は、自身や国家《やまと》を敵と見なすアメリカ大統領ベネットに向けて「私は『敵』ではなく『同族』として、今ここにいる」と伝えるために、鯨たちやベイツ兄弟への畏敬の念もこめて“言葉ではない声”を発し続けていたのです。
そして、海江田がベネットに伝えようとした「同族」とは、「この世界の平和を望む人間」であることは言うまでもありません。
「国家という怪物」への恐怖を払う声

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ベネットは映画第1作の時点から、海江田ならびに国家《やまと》を「リヴァイアサン」に例えていました。
リヴァイアサン(Leviathan)とは鯨などの姿で描かれることが多い、旧約聖書に登場する海の怪物です。また哲学書トマス・ホッブズが書き遺した著書名としても知られ、同書内では「社会契約説に基づき形成された国家」を指す言葉として用いられています。
冷戦体制が崩壊し、“世界の警察”としての地位が弱まっていく中でも、世界の秩序を保つための重要な国家として在り続けるアメリカ。その長にあたる同国大統領という役目の責任の重さは計り知れません(時には、その責任の重さを理解しない人間もいるようですが)。
その“重さ”を理解する人間の一人であるベネットは、ゆえに既存の世界秩序を揺るがし得る新国家《やまと》をひどく恐れていたことは、本作でも「会議室内の天井を覆う、怪物リヴァイアサンの幻影」として描かれています。
あるいは、ベネットはアメリカという国を誰よりも“怪物”だと痛感しているからこそ、《やまと》に対しても怪物性を見出したのかもしれません。
しかしニューヨーク沖での包囲網で、《やまと》という名の国家=怪物を率いる首魁であるはずの海江田は、魚雷ではなくソナー音を発射することで、「自分は『同族』だ」という仲間を求める声を発し続けました。
「自分も国家も、“怪物”と恐れられるものではない」「自分も国家も正体は、鯨のように同族を探し求める“人間”なのだ」……そうした海江田の意思を聞き取ったがゆえに、ベネットも世界平和を願う同族として、海江田に応じる決断を下したのです。
まとめ/海中の怪物が、地上の神へ

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ホッブズの哲学書における、社会契約説によって形成された国家の理想形は、怪物リヴァイアサンの名を冠しながらも、同時に「人間に平和と防衛を保障する“地上の神”」でもあるとも説明しており、それは映画作中でも触れられています。
「海中に潜む怪物が、人間に平和と防衛を保障する地上の神になる」……。
それは、潜水艦という“海中に潜む怪物”として時に畏怖されながらも、命を懸けて恒久的な世界平和を実現させようとする海江田と原潜「やまと」の行く末を暗示しているといえます。
世界各地の人々の意思が集う国連において、神とも怪物とも例えられる海江田という“世界を平和を願う人間”は、どのような審判を受けるのか。それは、本作の続編でついに下されるはずです。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身。2019年に日本映画大学を卒業。映画評を寄稿する一方、映画配給レーベル「Cinemago」宣伝担当として、『ザ・エクソシズム』『Kfc』のキャッチコピー作成なども行う他、『獄舎Z』『トレジャー・アイランド』の字幕監修を手がける。2025年公開のタン・チュイムイ監督・主演作『野蛮人入侵(原題)』では、日本公開版タイトル『私は何度も私になる』を命名した(@youzo_kawai)。

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