SNSを駆使した、新時代の復讐調査劇!
「彼氏の存在によって学内でのスクールカーストが変化する」というリアルな描写が話題となった漫画『17歳の塔』でデビューした漫画家・藤沢もやし。
現代人の精神性をリアルに描く藤沢もやしが2017年から連載した漫画『御手洗家、炎上する』は、復讐劇としての緻密さと、SNSに依存した現代人の心理を巧みに描いた作品として話題となりました。
今回は、藤沢もやしの同名漫画をNetflixが連続ドラマ化した『御手洗家、炎上する シーズン1』を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
ドラマ『御手洗家、炎上する シーズン1』の作品情報
【配信】
2023年7月13日(Netflix独占配信)
【原作】
藤沢もやし『御手洗家、炎上する』(講談社・KC Kiss刊)
【監督】
平川雄一朗、神徳幸治
【脚本】
金子ありさ
【キャスト】
永野芽郁、工藤阿須加、中川大志、恒松祐里、北乃きい、濱田マリ、小西桜子、吉瀬美智子、及川光博、鈴木京香
【作品概要】
2017年から2021年にかけて漫画雑誌「Kiss」で連載された、藤沢もやしによる同名漫画をNetflixが連続ドラマ化した作品。
『陰日向に咲く』(2008)や『耳をすませば』(2022)を手がけた平川雄一朗が監督を務め、『マイ・ブロークン・マリコ』(2022)の永野芽郁が主演を務めました。
ドラマ『御手洗家、炎上する シーズン1』のあらすじとネタバレ
ある日、裕福な一家である御手洗家が火に包まれました。その13年後、「山内しずか」と名前を偽る村田杏子(旧姓:御手洗)は、現在の御手洗家に家事代行として忍び込みます。
火事の後、杏子の父・治と母・皐月は離婚し、開業医である治は皐月と親しかったシングルマザーの真希子と結婚。治の財産を使って、真希子はインフルエンサーとして一躍有名となっていました。
火事の原因は「皐月の火の不始末」として処理されましたが、杏子は納得ができておらず、御手洗家の中で「あの日の火事」の証拠を掴むために潜り込んだのです。
徐々に掃除以外のことを頼まれるようになった杏子は、真希子のいない隙に禁止されていた2階に立ち入ります。そこには、医学部に入学したはずの真希子の次男・真二と思わしき人物が部屋に引き篭もっていました。
真二が母親と強い確執を持っていることを知った杏子は、彼女の計画を知る親友・クレアと相談し、真二に毎日食事を提供して彼を籠絡することに。しかし扉越しに対話を続けた杏子は、彼が真二ではなく、表向きは商社に就職したことになっている長男・希一であると確信します。
「あの日の火事」から数日後、火元付近の防犯カメラの映像を調べた治と杏子は、火事発生の直後カメラに皐月のニット服を着た人物が現れていたことを目撃します。それ以降、治はその映像を封印し誰にも見せることはありませんでした。
クレアはそのニット服が、特殊なハイブランドであることを調べ上げており、真希子が皐月から盗んだニット服で家に火をつけたと考えていました。
真希子の次男・真二は医学部に通いながら容姿も頭脳も優秀な存在として周囲からも注目の的となっていました。しかし、真二は飲み会でたまたま再会した杏子の妹・柚子に入れあげており、柚子は真希子のことを快く思っていない真二を利用して真希子の情報を集めます。
杏子の協力もあって家の密着取材をやり遂げた真希子は彼女をより信用し、今まで禁止していた階段の掃除も頼むようになります。
家の鍵を預けられるほどに信頼を得た杏子は、衣装部屋に侵入しニット服を発見。過去に杏子自身が病院のカルテ保管庫に隠した防犯カメラの映像のことを思い出した杏子は、次は病院に侵入し映像データを手に入れることを目標にします。
徐々に希一は杏子と関係を深めますが、希一は杏子の発した言葉のすべてが引っかかり、やがて杏子の正体に気づいて彼女に目的を問い詰めました。希一は杏子の行動をスマホで録画しており、杏子に真実を話すように脅しますが、杏子は真実を隠したままそれらしいことを教えます。
翌日以降、希一は真希子に正体を隠す条件として自身の奴隷になるように杏子に命じます。
希一はゴシップ記事を専門としたホームページを運営して収入を稼いでおり、今後は杏子に記事の編集をするように強要。希一の命じるがままに記事を完成させた杏子は、希一が昔の誠実な性格から豹変していることにショックを受けます。
杏子は柚子が頼れる存在になったことを皐月の話から知り、自身が身動きが取れない現況を打開するために柚子に協力を求めます。
柚子は真二の提案で、治とおよそ10年ぶりに再会。しかし、それはカルテ保管庫に隠した防犯カメラの映像データを盗み出すためであり、その計画は成功しますが、柚子の動きは看護師の市原に監視されていました。
柚子の手に入れた防犯カメラのデータにはニット服を着た人間の犯行が映されてはいましたが、顔が映っていないことから決定的な証拠にはなり得ないことを知り、さらなる証拠を掴むため、深部に踏み込むことを余儀なくされます。
希一は真希子の人気を失墜させるために過去を暴露する記事をアップしますが、真希子は希一の運営するサイトのことを知っており、そのことを匂わすことで希一を支配下におきます。
翌日、自暴自棄に陥る希一は杏子を襲おうとしますが、そこで杏子が「あの日の火事」の犯人が真希子であると疑い、この家に侵入したという真意を知ります。
希一はずっと「あの日の火事」には真希子の介入があると疑っており、杏子に自身の知る真実を教えることにしました。
希一の提案を受けた杏子でしたが、意外なことに希一は真犯人につながる場所へ行くと杏子を連れて外出。しかし、希一は引き篭もりであることを他人に知られることに怯え、体調を崩し家へと戻ってしまいます。
希一の提案が彼の体調不良で不調に終わった杏子は、クレアからの情報で真希子が過去に書いたブログのことを知ります。
希一はすっかり意気消沈し、全てに対してのやる気を失っていましたが、杏子は希一に罵詈雑言を浴びせ「自身の秘密」と「希一の引き篭もりを公言しない」という対価を引き換えに、対等の関係を引き出します。
一方、柚子は杏子に内緒で治と会い、皐月がかつてmixiで「エリーゼ」という名前で登録していたアカウントを発見しました。
外に出かける練習として希一は杏子と外出しますが、学生時代の友人の野本と再会。希一は野本が再婚した途端に疎遠になったことを恨んでいましたが、野本は当時真希子から手を切るように言われたことを告白し謝罪します。
希一は過去に医大に受かりましたが、真希子が大学側に裏金を渡していたことが露見し裏口入学とネット上で炎上し、引き篭もりとなってしまったのでした。
杏子は自身を卑下し続ける希一に、自分を過小評価しないように告げると今でも昔のように素敵なままだと伝えます。困惑した希一は、今回はひとりで家に帰ると言うとその場を去って行きました。
再度、治から情報を引き出そうとする柚子は治が「あの日の火事」の動機を、皐月が自分を恨んでいたからだと真希子から聞いていることを知り、思わず盗み出した防犯カメラのデータを見せ真希子を疑っていることを話してしまいます。
治は皐月の現状を知らず、柚子の話すニット服が家の中にある分かれば動くと約束。一方、希一と杏子はかつて治と知り合う前の真希子が希一たちと住んでいた三沢野のアパートを訪れます。
アパートに隠されていたノートパソコンのデータを復旧すると、真希子がかつて付けていたと目していたブログは皐月のものであり、真希子がつけていた日記がmixiの「エリーゼ」だったことを知ります。
希一によれば、真希子は髪型や趣味に至るまで皐月の真似をし始め、ついには日記までも模倣を始めていたと言うことであり、杏子は手がかりとしてノートパソコンを受け取ります。
治との密会を続ける柚子でしたが、その場に真希子が現れます。治は柚子の話したことの全てを真希子に伝えており、真希子は杏子が今回の件に関わっているのかと柚子を問い詰めますが、柚子は機転を効かせ杏子の現住所が不明であると答えます。
真希子は柚子の不穏な動きから、市原に皐月の周辺を探らせ始めた上でニット服を燃やしました。
柚子から事情を聞いた杏子は正体が露見するのも時間の問題だと悟り、治と対峙することを決心。治のもとに突然押し入った杏子は、世間体や家族の体面を気にするあまり皐月を切り捨てた治の本音を聞きました。
思わず杏子は治を殴ろうとしますが、市原が杏子を止めます。市原は皐月に助けられた過去があり、さらに火事の時間に皐月と共にいたことから皐月の無実を信じていました。
市原は真希子が治の会話を全て録音していることを杏に告げると、真希子から頼まれた杏子と柚子の身辺調査に全て嘘の報告をすると誓い、皐月の無実を証明することを杏子に依頼しました。
ドラマ『御手洗家、炎上する シーズン1』の感想と評価
実在のSNSが登場する共感性の高いミステリー
本作で主人公・杏子の復讐相手となる真希子は、SNSで絶大な人気を集める「インフルエンサー」です。
杏子は別の名前を利用し真希子に近づきますが、目的は単なる復讐ではなく自分の家族に対して真希子が行った行為のすべてを知ることにあります。
真希子は昔から承認欲求が強く、本当の自分を知らない不特定多数の人間に対し虚飾を着飾り「インフルエンサー」として活動していました。
本作には「mixi」や「Twitter」「Instagram」といった実在するSNSが実名のまま登場し、他者の良い部分だけを見て崇拝したり、表から見える悪い部分のみを見て誹謗中傷を行うSNSの闇の部分に触れた内容が描かれています。
身近で触れる時間の多いSNSを題材としているからこそ、共感性の高い身近な闇を感じられる作品となっていました。
「炎上」にクローズアップした物語
タイトルである『御手洗家、炎上する』には二つの意味が込められています。
一つ目は文字通り、物語の中心となる「御手洗家の邸宅が火事で炎上する」という意味であり、本ドラマは配信前から炎上シーンに対するこだわりぶりが話題となっていました。
原作者の藤沢もやしはTwitterでこのシーンの撮影のために、建物を本当に一棟燃やしたとプロデューサーから聞いたと投稿しており、製作陣の本作に対する本気ぶりを感じることができます。
二つ目の意味である、「SNSを中心に御手洗家(主に真希子)に非難が集まる」というシーンに対しても、本作は他の作品と異なる演出がされています。
本作は「パソコンやスマートフォンを操作し、批判的文章を打つ人」をネット炎上シーンに映さないことで、批判的な文章を打っている人の存在の「匿名性」をより強調していました。
SNSの向こう側にいる正体不明の一般人と言う登場人物を上手く使い、現代社会のふたつの炎上を描いている作品でした。
まとめ
豊富な資金力と、配信という媒体だからこそできる攻めた物語構成が話題となる、Netflixドラマシリーズ。
同名漫画を原作とした『御手洗家、炎上する』は、2023年の現代だからこそ多くの人が共感できる、SNSと現代人の精神性を題材とした既存の作品とは全く異なる復讐劇となっていました。
二転三転する物語と、作品に漂った陰鬱とした雰囲気が払拭される最終話の爽快感が秀逸な本作をぜひ「Netflix」にてご覧になってください。