映画『僕らはみーんな生きている』は2023年10月21日(土)より大阪・十三シアターセブン、12月17日(日)より横浜・シネマノヴェチェントで拡大公開が決定!
《これが“愛”と“正義”なのでしょうか?》2人の若者が目にした、気持ち悪い大人を描く……。
今回ご紹介する映画『僕らはみーんな生きている』は、CMやミュージックビデオなど多くの映像作品を手掛け、2017年『インフォ・メン 獣の笑み、ゲスの涙。』で監督デビューした、金子智明監督の長編2作目となります。
本作はコロナ禍にあった2021年に、文化庁によるAFF(ARTS for the future!)の助成金を受け、監督をはじめとする若手のスタッフ、俳優が集結し制作され、2023年ロサンゼルス日本映画祭にて最優秀撮影賞を受賞しました。
シャッター街化し寂れた下町の商店街を舞台に、大人たちの闇と希望を見いだせない若者たちの姿に焦点をあて、現代社会の家族問題や過疎化する街問題を描きます。
小説家を夢見る宮田駿は20歳になったのを機に上京し、執筆活動をしながら弁当屋でアルバイトを始めます。気さくな店主・児玉ゆり子や先輩の小坂由香らに囲まれ、新生活を順調に開始します。
しかしある日、駿と由香はゆり子をはじめとする、商店街会長の佐伯と商店街の主要な住民が、商店街を巻き込む残忍な計画を企てていることを知ります。
CONTENTS
映画『僕らはみーんな生きている』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督・脚本】
金子智明
【キャスト】
ゆうたろう、鶴嶋乃愛、渡辺裕之、桑原麻紀、西村和彦、仁科亜季子、ミスターちん、兒玉遥、松尾潤、園田あいか、篠塚登紀子、ゆぶねひろき、小橋正佳、鷲田五郎、黒川鮎美、才藤了介、安田ユウ、ジェントル、堀口紗奈
【作品概要】
宮田駿役のゆうたろうは、広島と大阪で古着屋のショップ店員兼モデルという経歴を持ち、テレビのバラエティに出演したことで注目され、“可愛すぎる美少年モデル”として芸能界デビューします。「かぐや様は告らせたい」シリーズ、『サマーフィルムにのって』(2021)などの話題作に出演し、本作で初主演を務めます。
アルバイト先の同僚小坂由佳役の鶴嶋乃愛は「仮面ライダーゼロワン」シリーズに出演し、本作のヒロイン役に抜てきされました。
共演には『永遠の1分』(2022)、『銀平町シネマブルース』(2023)の渡辺裕之、『家族ごっこ』(2015)の桑原麻紀、『バニラボーイ トゥモロー・イズ・アナザー・デイ』(2016)の西村和彦ほか、Mr.ちん、仁科亜希子らベテラン勢が脇を固めます。
映画『僕らはみーんな生きている』のあらすじ
地方の田舎町で小説家を目指す青年、宮田駿は20歳になったことを機に、閉塞感のある環境を変えるために上京し、シャッター街化が進む、下町の商店街の弁当屋でアルバイトを始めます。
宮田が上京した理由は小説家への夢だけではなく、両親の不仲から逃れる意味もありました。小説を書くのはそんな荒んだ環境から、現実逃避する意味でもありました。
寂れた商店街ですが弁当屋は、近所に人気で昼時は多忙となります。店主の児玉ゆり子は身重で、認知症の母親トキを介護しながら、店を切り盛りしていたのでバイトを募集しました。
駿と先輩の小坂由香は歳は近いけれど、現実的でクールな子です。それでも仕事は親切に指導してくれるので、彼の新生活は順調に始まります。
ゆり子の夫、健二は彼女と歳が離れています。認知症の健気に母親を介護し、弁当屋を営む彼女を優しく労いました。
そんな弁当屋に佐伯という商店街の会長が頻繁に訪れます。まるで店の家人のように賄いを食べ、トキを見舞って帰っていきます。
駿の新生活に慣れ始めたころ、仕事のステップを次に進めるため、由香が駿に教えていると、トキが認知症の癇癪を起こし暴れます。
駿と由香がトキをなだめ落ち着かせていると、ゆり子が商店街の住人数名を連れた佐伯とともに帰宅し、商店街を巻き込んだ残忍な計画を話し始めます。
その話しを聞いてしまった2人ですが、由香には由香の隠している秘密があり、部外者である駿は何も行動を起こすことができません。
秘密を共有する駿と由香は大人達の企てを傍観しながら、互いの距離を縮めていきます。
映画『僕らはみーんな生きている』の感想と評価
過保護で依存する母親と闇の深い父親
映画『僕らはみーんな生きている』は、現代の様々な親の実態とその親に翻弄され、夢を見いだせず歪んだ生き方をする子が登場します。
若者の目に映る“気持ち悪い大人”……それは親のくせに、大人のくせに……そんな、若者たちの手本や希望にもならない、落ちぶれている姿を描いているようでもありました。
本来ならば親や大人が子に教えるべき社会の仕組みや秩序は、老人ばかりで過疎化した小さなコミュニティでは皆無となり、若者が活き活き暮らせる環境は失われています。
大事に育てられた子にとって東京は、“悪”の窟巣であるようなイメージを持つ親もいることでしょう。ある意味その偏見な考えは、子供の自立心や意欲を摘むエゴとなります。
子のためという親に限って、大人として自立しておらず、子供にかける期待や依存が大きく多くなるほど自分の価値観や都合で、子を自分に繋ぎ止めようとしているだけです。
逆に自分の生き方やり方に邪魔となる人間であれば、家族であろうと無慈悲に捨てることもあるでしょう。そんな親であれば子は不幸以外のなにものでもなく、生きる意味を見失うでしょう。
ところが駿と由香は違いました。親への反動がその時を生きる原動力になっています。本作にはそんな若者にとって害悪な大人と、親に感謝のない子供が出てきます。
そして、非現実の物語と言い聞かせるようとする一面と、現実にありうる可能性もあると思わせました。
自分は何者なのか?自問自答する若者
作中に登場する若者は、“~ぽい”生き方を試みながら、自分探しをする姿も描いています。何にでもなれるはずの若者は、住んでいる土地によっても影響があるかもしれません。
実際の下町の商店街は、後継者がいない悩みも実状としてありますが、店の存続を願う地域外の若者が経営を担い、街を活性化させることもあります。
それは長年地域密着で住民達に愛された証であり、努力が報われた事例でもあるでしょう。何もないところに奇跡はおこりません。
地域が活き活きとした街になるかどうかは、その街を真剣に活性化させようとする、大人の心意気にかかり、生産性のない古い体質の大人が街を牛耳れば、そこは本当に悪の巣窟に成り下がります。
子の意見に耳を傾け、バトンタッチする気概が親世代にあれば、街は廃れることなく若い世代が生活しやすい居場所になりうるでしょう。
由香の働く弁当屋が廃れず残っているのは、前代の女将が培った信頼があるからです。そのことを娘のゆり子がどのくらい理解していたのか……問題はそこにあります。
駿と由香は寂れた下町の商店街に現れた、“アダムとイヴ”のようです。2人は街を再生する救世主なのか、全てを破滅に導く“原罪”となるのか……?
まとめ
映画『僕らはみーんな生きている』は、廃れかけた街で生きる人々がどうあるべきなのかを問いかけています。
家や店に後継者がいなくても、街に魅力があれば外から後継者があらわれることもある……そんなわずかな希望が本作からは見えます。
コロナ禍の街中は本作に出てくるように閑散としていました。また、不安を抱えた人々の心につけ入る、悪徳な事件も横行しました。
新型コロナは街の持つ輝きやパワーを奪い、時代の流れは後継者問題以外の予想もつかなかい別の存続の危機与えました。
本作では廃れた商店街を舞台に、コロナ禍の現状をコンパクトに描いているとも見れます。しかし、アフターコロナの今こそ、再生に向けた若い感覚と発想が街を救う時です。
AFF(ARTS for the future!)の助成金によって制作された本作には、年齢上の若さではなく、老いも若きも互いに知恵を出し合える、風通しの良い環境が人を育てる街にするのだと、いうメッセージを感じました。
映画『僕らはみーんな生きている』は2022年に池袋シネマ・ロサで公開後、2023年10月21日(土)より大阪・十三シアターセブン、12月17日(日)より横浜・シネマノヴェチェントで拡大公開!