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Entry 2021/11/13
Update

映画『殺人の追憶』ネタバレあらすじとラスト結末の感想考察。犯人は誰だ⁈韓国実話の連続殺人事件をポン・ジュノ監督が描く

  • Writer :
  • 鈴木めい

ポン・ジュノ監督による二番目の長編作品、東京国際映画祭アジア映画賞受賞の『殺人の追憶』

冒頭の稲穂の黄金色ではじまるシーンとエンディングが印象的な『殺人の追憶』は、『パラサイト 半地下の家族』で世界に名を知らしめたポン・ジュノ監督の初期の長編作として、1980年代に韓国で実際におきた華城連続殺人事件を題材にした作品。

殺人を次々に犯す犯人を突き止めようと奔走する韓国郊外の土着の刑事と、ソウルから派遣された刑事2人の、異なる捜査視点から紡ぎ出す彼らの心理を丁寧に描いています。

韓国郊外の街で起きた連続殺人事件を追う中で刑事がかかえる焦りや、未解決のまま犯人を特定できずに終わる悔いを『タクシー運転手』(2017)や『パラサイト 半地下の家族』(2019)に出演のソン・ガンホが見事に演じています。

公開時点では未解決事件であったものの、2019年に別件で服役中の受刑者が容疑者として特定されたことから、再び脚光を浴びました。

実際の事件を綿密に調べ構成された脚本により、事件を追う刑事たちの心理面が緊迫感あふれる映像と共に展開されます。

映画『殺人の追憶』の情報


(C)2003 CJ Entertainment Inc

【公開】
2003年(韓国映画)

【原題】
Memories of Murder

【脚本・監督】
ポン・ジュノ

【キャスト】
ソン・ガンホ、キム・サムギュン、パク・ヘイル

【作品概要】
韓国で実際に起きた華城連続殺人事件を題材にしたクライム・サスペンス映画。

1980年代の韓国郊外で起きた連続殺人事件の犯人を追う地元の刑事とソウル市警から派遣された刑事の2人。異なる視点で捜査を行っていくも犯人特定に繋げられずに抱くいらだちや焦燥感、後悔といった心理を深く描いた作品です。

『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞を受賞し一躍有名となったポン・ジュノ監督の初期の作品の一つです。

ポン・ジュノ監督にとって長編2作品目となる本作は公開当時韓国内で大ヒットを記録し、韓国の映画賞である大鐘賞で監督賞・作品賞を受賞。また東京国際映画祭アジア映画受賞作品です。

事件が起きた郊外の刑事をソン・ガンホが演じるほか、ソウル市警から派遣されるイケメン刑事を『12番目の容疑者』にも出演のキム・サンギョン、また容疑者と思しき男性役を『22年目の記憶』『ラスト・プリンセス』またNetflixドラマの『上祐階級』に出演のパク・ヘイルが演じています。

映画『殺人の追憶』のあらすじとネタバレ


(C)2003 CJ Entertainment Inc

1986年10月23日、韓国郊外の稲穂が黄金色に輝く稲畑の水路から一人の若い女性の遺体が見つかります。

地元警察の刑事パク(ソン・ガンホ)は、強姦事件として捜査を始めますが、重要な証拠物も村の子供たちに荒らされ、また犯人目ぼしき人の尋問も初めていましたが、確証をつかめず逮捕に至らずにいました。

そこへ第二の殺人事件がおきますが、現場保存も多くの見物客により荒らされてしまいます。

またある日、懇意にしている女性のソリョンから、クァンホという男が殺された女を追いかけていた話を聞きます。

クァンホは右側の顔面にやけど跡があり、手指も自由にならず、知能レベルも子供のように低かったのです。

尋問室にクァンホを連れ出したパク刑事はクァンホを誘導尋問し、同僚のチョ刑事は暴力を働きくことでクァンホを脅します。

ある日、一人の男性が最初の事件現場を訪ねていました。

連続して女性を狙った殺人事件がおきていることから、男性を見かけると襲われるかもしれない不安に村の女性は足早に歩きます。

その一人の怪しげな男性からも逃げようとして土手に落ちかけた時、パク刑事が男性ともみ合い助け出してくれました。

パク刑事が確保した男性は、今回の連続殺人事件解明のためにソウル市警から派遣されたソ・テヨン刑事(キム・サンギョン)だったのです。

車に乗せたパク刑事は刑事と知らずに捕まえたことを謝ります。そして、刑事なのに喧嘩が弱くてどうすると笑いかけます。ソ刑事は、刑事が人を見る目がなくてどうすると応酬するのでした。

クァンホのスニーカーを証拠として没収したパク刑事は、第二の殺人事件現場に残っていたスニーカー痕の写真を撮り、照合を進めます。

そして証拠とスニーカー痕が合致したことから、パク刑事はクァンホをこれまでの2件の殺人事件の犯人として尋問を進めますが、クァンホは殺していないと言います。

パク刑事はクァンホに無理やり自供を進めさせ、誘導する形で殺害状況の話をさせます。一件目の殺人事件についてはうまく話せないクァンホもスニーカー痕の残っていた二件目の殺人事件の状況については、詳細に説明できたのです。

一方、ソウルから来たソ刑事は、クァンホを犯人説とすることに疑問を抱いていました。

そして現場検証の日、クァンホの手を見て子供の時から指がくっついておりうまく使えないことを確認したソ刑事は、クァンホは犯人ではないと告げ、現場検証を中止するように伝えます。

それを受け検事側もクァンホの検挙はできないとし、捜査は振り出しに戻ります。

しかし、クァンホが説明した二件目の殺害現場の状況は、あまりにも当事者しか知りえないほどの詳細さでした。

以下、『殺人の追憶』ネタバレ・結末の記載がございます。『殺人の追憶』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

事件の解決が進まないことから、捜査本部にソウルから上層部の警部がやってきます。

そこで事件の共通点を尋ねたところ、二件の殺人事件の被害者はともに独身であり若くて美しいという点、また雨の日に起きており、必ず赤い着衣であったことが確認できたのです。

ソ刑事は事件は二件だけでなく、まだ遺体が見つかっていないだけで三件起きているといいます。2カ月前に捜索願が出された村のヒョンスンも、失踪当日に赤い洋服を着ており、また雨が降っていたのです。

そういうソ刑事にパク刑事は「ヒョンスンはしょっちゅうソウルに行く」と言っていたと取り合いませんが、警部はソ刑事の自信ある仮説に機動隊を出動させ、遺体捜索を始めます。

そして、ススキ野原で実際に遺体が発見されます。

遺体で見つかったヒョンスンもまたこれまでに起きていた二件の殺害事件と同じ手口でした。後ろで手を縛られている、被害者の持ち物を用い殺害され、殺害後には下着を被せていたのです。

刑事たちはクァンホの父親の店で食事をしています。誤認逮捕のお詫びで、パク刑事はクァンホに新しいスニーカーを渡します。

食事後、カラオケを楽しむ彼らでしたが、酔いも回ったころパク記事はこんな田舎に何をしに来たのかとソ刑事に絡みます。

そして、自分たちの足を使った地道な捜査方法が功をなすこと、ソ刑事のように頭脳で捜査するのであれば大韓民国ではなく、広大な土地のアメリカに行くべきだと揶揄するのです。

二人をいなすように泥酔状態から起き上がった警部は、今回の連続殺人事件の犯人は再び事件を起こすだろうと断言し、警察はその前に先回りしなければならないと叱咤しました。

雨の夜、婦警に赤いワンピースを着せておとり捜査を実施しますが、犯人検挙には至りません。

おとり捜査の途中、雨宿りの最中に出会った女子学生から気になる話を聞きます。犯人が捕まらないのはトイレの下に隠れており、夜になると出てきては女性を殺すからだという話でした。

一方、雨の中工場か帰る旨の連絡を受けた女性は、傘を持って歌を歌いながら旦那を迎えに行きます。

その途中自分の歌声とは違う口笛が聞こえ、不安に駆られるなか逃げるように走るものの、犯人の餌食となってしまうのでした。

今回も現場の足跡以外には目ぼしき証拠が見つかれず、事件現場に犯人の痕跡を見つけられず、捜査に行き詰まりを感じ始める刑事たち。

髪の毛一本も現場に落ちていないことから、犯人は無毛症ではないかと仮説を立てます。

また婦警はFM局から放送局のリストを取り寄せ、事件が起きている夜に必ず「憂鬱な手紙」という曲が流れていることを突き止めていました。

はがきによるリクエストが届いていたもので、ペンネームは「テリョン村の寂しい男」となっていました。

パク刑事はサウナに通い、毛のない男性を探して始めます。一方、ソ刑事はラジオ局に行きリクエストはがきを調べはじめます。

無毛症の男性を探すのにも埒のあかないパク刑事は、ソリョンの提案もあり霊媒師を訪ねます。

霊媒師に殺害現場の土を祈祷した紙に書けると犯人像が浮かび上がると言われたパク刑事はチョ刑事を伴い、先日の殺害現場を訪れます。そこへソ刑事も訪ねては、「憂鬱な手紙」の曲を流し始めます。

するとそこへ、怪しげな男性がやってきては持ち込んだ女性下着を殺害現場においては、自慰をはじめたのです。

しばらく様子を見ていた刑事たちでしたが、怪しい男を確保するために動き出します。

逃げ足の早いその男を必至の思いで追いかけ確保し追及するものの、その男は妻が病気であり、自分の妄想による性的欲求を満たすためだけに変態行為を行っていたことが判明します。

パク刑事はまたもや誘導尋問で自白へ誘いますが、その男話す内容には一遍性がなくつじつまが合いません。

一方、女性学生の話していた内容が気になるソ刑事は、学校へ向かいます。そこで、学校の近くの畑で泣いていた女性がいることを知り、その女性の家とおぼしき場所を訪ねます。

そして、その女性から実はその女性も同じ手口で連続殺人犯の犯人と思われる男性から強姦されていたことを聞き出します。恐怖で犯人の顔は見ていないものの、自分をつかんだ手が女性のように柔らかい手であったという有益な情報とともに。

警察署に戻ったソ刑事は、現在不法に拘留されている変態男の手を確かめ、その堅さから、犯人ではないと釈放を命じます。

自分の手柄を取られたような気になったパク刑事はソ刑事につっかかり、暴力を振るいますが、そこへ警部がやってきて彼らを止めます。

そこへ、ラジオの生放送から「憂鬱な手紙」が流れ出し、ソ刑事が窓を開けると雨が降っていました。

焦る刑事たち。婦警はラジオ局に電話し、曲をリクエストしたもののはがきを確保しておくよう伝えます。

翌朝、同じ手口で殺害された裸体の女性遺体が見つかります。

推定犯行時間はパク刑事とソ刑事が喧嘩をしていた頃。そして、今回は女性の遺体の膣内から桃の破片が9つ見つかりました。

一方でラジオ局から見つけたリクエストはがきにより、差出人の名前がパク・ヒョンギュであると判明し住所も判明します。駆け付けるパク刑事とソ刑事。

そして大家からパク・ヒョンギュの勤め先を割り出します。

セメント工場で事務をしているパク・ヒョンギュはとても大人しそうな知的な男性でした。

尋問する刑事たちは、パク・ヒョンギュの柔らかい手に確信を強めます。またパク・ヒョンギュが工場で働きだしたタイミングと事件が起き出したタイミングが同じであることを突き止めます。

しかし、目撃者もなく、容疑者の自白以外には犯人検挙はできません。

ソ刑事は気づきます。クァンホの供述が詳細だったのは、クァンホが事件を目撃していたからであったことに。クァンホが目撃者だったのです。

ソ刑事とパク刑事はクァンホに現場で見たことをもう一度話すよう言います。しかし怒られるのが怖いクァンホは、刑事たちの焦りに脅え、逃げてしまいます。

彼が逃げたのは線路の上で、パク刑事が危ないからとクァンホを迎えに行きますが、やってきた汽車にクァンホは轢かれて死亡してしまいます。

パク・ヒョンギュが怪しいと思うパク刑事ですが、物的確証がないため、勾留できずに釈放されます。

一方で科学捜査犯は被害者の服から犯人の精液を見つけますが、韓国の技術ではパク・ヒョンギュとのDNA鑑定はできず、米国への鑑定依頼の結果を待つしかありません。

またチョ刑事は取調室での愚行により足に刺さった釘から破傷風になり、足を切断しなくてはなりませんでした。

パク刑事もまたソリョンに呼び出され、犯人検挙に忙しく走り回る体を心配され、点滴を受けていました。

そんななかパク・ヒョンギュが一人が酒をたしなんでいる様子を見張っていたソ刑事ですが、尾行しようにも車が動かず実行できませんでした。

先回りしたものの帰宅も確認できず、パク・ヒョンギュがどこかでまた犯行を犯すのではないかと焦る警察社内。

その頃、おばあさんの容態を確認しに夜道を歩くソリョンとすれ違った女子学生は、殺人犯によって縛り上げられていました。

翌朝、雨降る中で遺体が発見されます。またも膣内に異物が入っていました。

そして、殺された女子学生は、ソ刑事が学校を訪れた際に案内してくれた女子学生だったことから、怒りと悲しみに駆られたソ刑事は、パク・ヒョンギュに暴力を振るい、拳銃を向けます。

そこへアメリカからのDNA鑑定結果とともに、パク刑事が駆け付けます。

ソ刑事は結果を確認しますが、DNAの一致は見られませんでした。

何かの間違いではないかと思うものの、結局犯人検挙に至らない刑事たちの悲しみ。

土砂降りの中ソ刑事はそれでもパク・ヒョンギュを撃ち殺そうとしますが、パク刑事が阻止し、目を見つめながらパク・ヒョンギュを逃がします。

数年後、警察を辞めてジュースミキサーの販売員になっているパク元刑事は、その営業で連続殺人事件で彼が最初に立ち会った事件現場の近くを通ったことから、車を降り、当時同様、水路の中を覗き込むのでした。

勿論水路の中には何もありませんが、パク元刑事の目は刑事の目だったのです。そして、通りがかりの女の子が、先日他にも水路を覗いていたおじさんがいたと聞きます。

そしてその人は「昔自分がここでしたことを思い出しに見に来た」と言っていたと聞いたパク元刑事は、その人の人相を聞き出しますが、女の子は「よくある普通の顔」としかいいませんでした。

まだ犯人が自由に生きていることを確信するパク元刑事の前には揺れる稲穂が広がっていました。

映画『殺人の追憶』の感想と評価


(C)2003 CJ Entertainment Inc

本作の『殺人の追憶』は、実際に起きた連続殺人事件をモチーフにしており、その事件が実際に韓国郊外でおきていることからも、韓国の田園風景をとても美しいカメラワークで収めていることで、そこに穏やかさを醸し出す一方で、凄惨な殺人事件や焦燥感に駆られる刑事たちのいら立ちなどを警察署や取調室の暗い場面転換で対比的に映し出しています。

ポン・ジュノ監督作品のなかでも『殺人の追憶』とともに『母なる証明』(2009)の2作品は、韓国郊外の風景の自然をとても静かに絵画のように撮ることで、人間が小さな世界で生き、その中で人間が経験する感情の喜怒哀楽や人間同士の関係性を際立たせているように思います

音楽は岩代太郎が担当し、全体的に流れる暗いトーンの映像に合わせた切ない調べが、田舎の素朴な風景と街並みの中で起こる連続殺人事件に哀しみを添えています

またポン・ジュノ監督が意識してのことなのかわかりませんが、冒頭の稲穂の黄金色、被害者の赤い洋服、血の滴る赤い牛肉と、時折ハッとするような鮮やかな色合いで全体的に夜の雨のシーンが印象的なくらい映画の中でも「生」を感じる彩りを添えているように思います。

色々な感情や生き方を抱えつつも、人が生きていく・生きている意味を映し出しているかのように感じずにはいられません。

まとめ

本作品が題材にしている『華城連続殺人事件』は、韓国の未解決事件としても有名な事件の一つでした。

本作品以外にも韓流の刑事ドラマ『シグナル』など多くの作品でも、取り上げられている事件ですが、2019年に既に別件で服役中の受刑者が容疑者として特定されたことから、この『殺人の追憶』は再び脚光を浴びました。

主役のパク刑事を演じたソン・ガンホは田舎くさい刑事を演じるために撮影時には体重を増やして撮影に臨んだと言います。

ソウルからやってきたソ刑事が、捜査を進めていくうちにスマートな捜査方法からパク刑事のような人間臭い刑事に代わっていくところも一つの見どころです。

また1980年代ということで、殺人事件が起きた1986年はちょうど韓国が民主化する前の時代背景でもあり、そういった時代背景も垣間見えることで韓国文化をより理解できる内容となっています。

韓国において様々なことが変わりゆく時代の過渡期に起きた事件とは、一言では決して片付けられない凄惨な事件ですが、当時の技術力やそういったものも現代から振り返って見てみると、捜査方法などもまた新鮮に映ります。

ポン・ジュノ監督作品については、『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞を受賞し、同映画をご覧になってから注目した方も多いと思いますが、是非初期のころの彼の骨太な作品もお楽しみいただければと思います。





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