平昌オリンピックを直前に迎えた江陵を舞台に、開発利権をめぐる男たちの抗争を描いた韓国ノワール
韓国屈指のビーチリゾート地江陵では、平昌オリンピック直前新たなリゾート開発予定が進められていました。
地元警察にも一目置かれる組織の幹部キルソクは、秩序と義理を重んじ、義兄弟と手を組んで開発を進めようとする矢先、利権争いにミンソク率いる新興勢力が絡んできました。
昔カタギのキルソクと、非業なボスミンスク。2つの組織、警察をも巻き込んで凄惨な抗争へと発展していく……2人の男の生き様と争いの果てにあるものを丁寧に描き出した韓国ノワールの傑作。
『友へ チング』(2002)のユ・オソンが昔カタギのヤクザを演じ、『剣客』(2021)、『愛の棘』(2014)のチャン・ヒョクが非業なボスを演じ、血で血を洗う抗争を繰り広げました。
監督を務めたのは本作が長編監督デビューとなるユン・ヨンビン監督です。
映画『狼たちの墓標』の作品情報
【日本公開】
2022年(韓国映画)
【原題】
Tomb of the River
【監督・脚本】
ユン・ヨンビン
【撮影】
ユン・ジュファン
【キャスト】
ユ・オソン、チャン・ヒョク、ク・ソングン、オ・デファン、イ・ヒョンギュン、シン・スンファン
【作品概要】
仁義を重んじる昔カタギのキルスクを演じたのは、『友へ チング』(2002)、『母なる復讐』(2014)のユ・オソン。
生きるためなら手段を選ばない非業なボス、ミルソクを演じたのは『剣客』(2021)で剣劇アクションでみせたチャン・ヒョク。他の出演作は『ありふれた悪事』(2017)、『愛の棘』(2014)など。
ユ・オソンとチャン・ヒョクは、ドラマ『客主 ~商売の神~』(2015)以来6年ぶりの共演となりました。
更に『ただ悪より救いたまえ』(2021)、『ミッション:ポッシブル』(2021)のオ・デファンがキルソクの右腕のヒョングンを演じました。
映画『狼たちの墓標』のあらすじとネタバレ
2018年の平昌オリンピック直前の江陵。
土地を牛耳る組織の幹部キルソク(ユ・オソン)は、会長から開発中のリゾートホテルの経営をしないかと持ちかけられますが、そのリゾートホテルは弟分が会長に支配を任されている土地にありました。
義兄弟で争いをしたくないキルソクは断りますが、会長に一歩下がるのが良くないところだと言われてしまいます。
キルスクがリゾート地の経営に乗り出したことを知った弟分は面白くありません。そんななか開発利権の第2株主に不穏な動きが現れ始めます。
突如ホテルに姿を表したのは会長を殺しの仕上がってきた新興組織のボス・ミンスク(チャン・ヒョク)でした。キルスクはミンスクをご飯に誘い、これ以上欲を出すなと牽制します。
昔カタギのキルスクは相手と食事をすることでお互いのことを知ろうとしますが、話は終わったとミンスクは食事に手をつけることもなく、煙草の吸い殻を食事の中に投げ入れるとその場を後にします。
これ以上進出するなと牽制したのに対し、異論を唱えなかったためキルスクは腑に落ちない部分はあるものの同意したと判断します。しかし、キルスクは話し合いで何も解決したことがないと行動で示す以外の手段はないと考えていました。
ミンスクは会長の元に赴きナイフで刺し殺します。そして借金を背負った女がミンスクの代わりに自分が殺したと自首をしたのです。本当の犯人は誰だとキルスクらが詰め寄っても女は口を割ろうとはせず、「生きるために殺した」と言うのです。
安易な暴力ではなく、義理と人情で土地を牛耳っていたキルスクら組織は、地元の警察からも一目置かれ良い関係でやってきました。
だからこそ警察はキルスクらに早まるな、警察が必ずミンスクを捕まえると会長を殺され殺気だっているキルスクら組織の連中を抑え込みます。
映画『狼たちの墓標』の感想と評価
『新しき世界』(2014)や『悪人伝』(2020)、『哀しき獣』(2012)、『犯罪都市』(2018)など、傑作を生み出してきた韓国ノワール。
裏社会における仁義と秩序、容赦ない暴力、勢力争い……と、男たちの熱き抗争は見るものを惹きつけます。
新鋭ユン・ヨンビン監督が手がけた映画『狼たちの墓標』。
兄貴分が語った都市からやってくる企業らに俺たちの江陵を手に入れさせるな、という言葉などから江陵市出身のユン・ヨンビン監督の思いも感じられます。
昔カタギのキルスクと手段を選ばない非業で獣のようなミンスクの2人の男の生き様がぶつかり合う抗争劇は、ド派手なアクションはなくても、拳に込めた強き思いが伝わってくるような説得力がありました。
キルスクらの組織は土地を牛耳っているヤクザではありますが、江陵で薬は売らせないなど一本筋が通った組織であり、警察からも一目置かれていました。また情も厚く、子分をはじめ義理人情を大切にします。
一方でミンスクは裏社会のボスに拾われ、手を血に染め、皆がやらない汚れ仕事をしてきました。自分が殺されないために殺して奪うしかなかったミンスクは、ナイフを使ったこともないキルスクらは時代遅れとすらいいます。
異なる世界で生きてきたキルスクとミンスク。2人は血で血を争うことしか出来ませんでした。
生きるためにそうせざるを得なかった……その言葉が突き刺さります。
抗争を終えても一度血に染まった手はもう綺麗になることはありません。
その重みを噛み締めたキルスクの表情を、ユ・オソンの説得力ある演技が魅せます。
まとめ
韓国屈指のリゾート地、江陵を舞台に、開発利権争いを繰り広げる抗争を描いた映画『狼たちの墓標』。
美しい江陵の海を眺めながら、ミンスクは「人間の住む土地だ」と呟きます。
それは自身がもはや人間ではないという自覚と、他者から人間扱いをされてこなかったという背景もあるのでしょう。
キルスクの右腕であるヒョングンは部下思いの明るい人物でしたが、ミンスクの部下に襲われ多くの部下を失い、その表情は一変していきます。
そして、自身を襲ったミンスクの部下に復讐し、トドメを刺した時、その顔を見て「こんな思いで生きていたのか…」と呟きます。
誰かのものを奪うことでしか生きていくことのできなかった男の哀しさ、仲間を失った男の苦しみ…様々な思いが交錯する重苦しくも哀しい韓国ノワールになっています。