未来の世界をテーマにした、オムニバスSF映画『LAPSE ラプス』。
絶望的な未来に、必死で抗おうとする、3人の物語を描いた、本作の魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『LAPSE ラプス』の作品情報
【公開】
2019年2月16日(日本映画)
【プロデューサー】
山田久人、藤井道人
【監督】
『失敗人間ヒトシジュニア』アベラヒデノブ
『リンデン・バウム・ダンス』HAVIT ART STUDIO
『SIN』志真健太郎
【キャスト】
『失敗人間ヒトシジュニア』アベラヒデノブ、中村ゆりか、清水くるみ、ねお、信江勇、根岸拓哉、深水元基
『リンデン・バウム・ダンス』SUMIRE、小川あん
『SIN』柳俊太郎、内田慈、比嘉梨乃、手塚とおる
【作品概要】
クリエイティブチーム 「BABEL LABEL」が立ち上げた、映画製作プロジェクト「BABEL FILM」第1作目となる作品。
「クローン人間」「人工知能」「VRシュミレーション」をテーマに、暗い未来に立ち向かう若者を描いた、3つの作品から構成されるオムニバス映画。
映画『LAPSE ラプス』あらすじ
『失敗人間ヒトシジュニア』アベラヒデノブ監督
クローン人間が法律として認められた、未来の日本。
クローン人間を製造した商売を始める企業も現れ、人々は自分のクローン人間を作り出し、子供として育て、理想の自分を作り出すようになります。
しかし、クローン人間には欠陥が認められ、犯罪に走るクローン人間も現れ始めました。
この事態を問題視した政府は、2050年に欠陥のあるクローン人間の回収を始めます。
クローン人間の回収に、世間では賛否が分かれましたが、20歳の大学生ヒトシジュニアは「クローンは必要ない」と、反対の立場にいました。
ヒトシジュニアは母親を失っていましたが、ヤクザの組長の父親を持ち、人間国宝の書道家、詩織を恋人にしているという、何も不自由のない暮らしを送っていました。
ですが、ヒトシジュニアが20歳の時に、父親から「お前はクローンである」と告げられ、全く自分に外見が似なかったヒトシジュニアを、父親は欠陥品として回収する事を決めていました。
突然の事に動揺するヒトシジュニアは、家を飛び出し詩織に助けを求めますが拒絶され、行く宛を無くし橋から飛び降りようとします。
しかし、突然現れた、フランス人形のような顔立ちで、何故か顔に血しぶきを浴びている少女に自殺を止められます。
『リンデン・バウム・ダンス』監督HAVIT ART STUDIO
人工知能が、人間の医療を管理している2038年。
人工知能satiにより延命治療を受けている、寝たきりの祖母を持つ大学生のヨウは、祖母に話しかけたり、メイクをしてあげたりしながら付き添っていました。
ある日、ヨウは夢を見ます。
それは想像世界の中で、若い頃の祖母と、派手な音楽が鳴り響くクラブで踊り明かす夢でした。
現実世界では、人工知能satiが祖母を完全に管理し、家族もsatiに頼り切っていました。
ヨウは家族に心を閉ざし、テレビを見るなど1人の時間が増えていきます。
ヨウの妹が結婚した際も、ヨウは家族で結婚パーティーに参加しますが、どこか蚊帳の外という感じでした。
祖母に付き添い、コミュニケーションを取り続けるヨウの前で、satiは祖母の体調や趣味など、全てを分かっているように振る舞います。
satiに怒りを感じたヨウは、satiを投げ飛ばし破壊しようとします。
『SIN』志真健太郎監督
2082年、日本では政府による教育管理が進んでいました。
25歳の誕生日を迎えたアマは、友人のオオニシと、廃墟のようなバーで過ごしていましたが、突然何かを思い出したように意識が飛びます。
アマに、5歳の頃の記憶が蘇ります。
母親と2人で暮らしていた、5歳の頃のアマは、政府公認の教育機関「エルサ」に呼び出されます。
そこでアマと別室にされた母親は、20年後にアマが母親を殺害する可能性が高い事を告げられます。
一方、アマは「エルサ」の職員によって、これから自分が遭遇する未来をVRによって見せられます。
それは、アマが母親を殺害するまでのシュミュレーション映像でした。
映画『LAPSE ラプス』の感想と評価
未来の日本をテーマにしたオムニバス作品『LAPSE ラプス』。
3つの作品は、それぞれテイストが異なっています。
1本目の『失敗人間ヒトシジュニア』は、テンポの良いハイテンションな作品となっており、2本目の『リンデン・バウム・ダンス』は一転してアート色が強い、物悲しいストーリーとなっています。
3本目の『SIN』は、SF作品で描かれる事が多い、理想的な社会とは正反対の世界、いわゆるディストピア的な世界観となっています。
ですが、未来を変えてハッピーエンドで終わるのは、唯一『SIN』となっており、この作品で映画が終了する後味の良さが素晴らしいです。
3つの作品に共通しているのは、それぞれの主人公が、システム化された未来の制度や仕組みにより絶望を味わいますが、それに抗おうとする点です。
『LAPSE ラプス』で描かれている未来は、一昔前ならSF世界だけの話でしたが、現実世界でも「クローン技術」を研究した科学者が学会で非難されるニュースが流れ、人工知能は「Siri」など、家庭に根付いてきていますし、VR技術を使用したゲームやアトラクションは、今や当たり前の事になっています。
急速に進化する科学技術を考えると、本作で描かれている未来は、起こり得る事だと言えます。
しかし、いつの時代も大事なのは、人間の意志や感情であり、最後まで個性を貫いたヒトシジュニア、愛する祖母の死期を人工知能には委ねさせなかったヨウ、そして、未来を変えて幸せを勝ち取ったアマ。
三者三様の物語が、人間の素晴らしさや力強さを物語っています。
『LAPSE ラプス』は3つの作品を通して、人間にとってあるべき姿や、現実に立ち向かう大切さなどを、一貫したテーマで感じる作品です。
まとめ
『LAPSE ラプス』に参加した3人の監督は、それぞれバックボーンの違う方達となっています。
『失敗人間ヒトシジュニア』のアベラヒデノブ監督は、俳優としての顔も持ち、本作では主役のヒトシジュニアを演じています。
『リンデン・バウム・ダンス』の監督「HAVIT ART STUDIO」は、本作が映画デビュー。
メンバーの今野里絵が監督と脚本、大橋尚広が撮影監督を務めており『リンデン・バウム・ダンス』は女性監督ならではの、繊細な世界観が広がっています。
『SIN』の志真健太郎監督は、これまで社会的な題材をテーマに、多数の作品を制作されてきた方です。
それぞれの監督の持ち味が発揮されており、同じ未来をテーマにした映画でも、表現方法がこんなに違うのだと感じ、アプローチや作風の違いを楽しむのも、オムニバス作品である、本作の魅力となっています。