映画『サイレント・トーキョー』は 2020年12月4日(金)より公開。
「アンフェア」シリーズなど手がけた秦建日子が執筆した小説『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』。
本著を映画化した『サイレント・トーキョー』が、2020年12月4日(金)より公開されます。佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊らの豪華キャスト陣を、「SP」シリーズの波多野貴文監督がまとめあげます。
ジョン・レノンとオノ・ヨーコの楽曲『Happy Xmas(War Is Over)」にインスパイアされて書いたという小説『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』を、ネタバレあらすじありでご紹介します。
CONTENTS
小説『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』の主な登場人物
・朝比奈仁
訳ありな料理人。どんな料理も作ることができる器用な人物。
映画版では佐藤浩市が演じます。
・ヤマグチアイコ
40代の小柄な主婦。夫へのクリスマスプレゼントを買いに恵比寿に出てきたところ、事件が起こります。
映画版のキャストは石田ゆり子。
・来栖公太
大学生。テレビの情報番組で、雑用係のアルバイトをしています。
映画版は井之脇海が扮しました。
・須永基樹
30歳にしてアプリ会社の社長を務める天才プログラマー。雑誌の表紙を飾ったことも。人間関係の構築は苦手。
映画では中村倫也が演じています。
・世田志乃夫
渋谷書の交番勤務の警部補。経験から、事件への勘が働きます。
映画のキャストは西島秀俊です。
・泉大輝
世田の相棒の巡査。警官になって4年目。
勝地涼が映画で泉役を努めます。
・印南綾乃
食品会社の総務部で働く30歳の女性。3ヶ月前に恋人と別れたばかり。真奈美に連れ出された合コンで須永に出会います。
映画版では加弥乃が演じています。
・高梨真奈美
綾乃の同期で営業部の華やかな女性。20歳年上の既婚者と不倫中。
映画のキャストは広瀬アリスです。
小説『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』のあらすじとネタバレ
公太とアイコ
2016年12月22日。
テレビの情報番組でアルバイトをしている来栖公太は、先輩ADの高沢とともに恵比寿ガーデンプレイスへ向かいます。
番組宛に、「恵比寿ガーデンプレイスに爆弾を仕掛けた」という電話があったからです。
電話で言われたベンチへ行くと、40歳前後の中年女性・ヤマグチアイコが座っており、ベンチに腰掛けるよう勧めてきました。
高沢が座った途端、アイコは立ち上がります。ベンチには爆弾が仕掛けられていて、30キロ以上の重さでスイッチが入り、30キロを下回ると爆発するそうです。
犯人に命令されているという彼女は、公太の手首に、爆弾が仕掛けられた腕時計を回します。アイコの腕にも同じ腕時計が巻かれていました。
そして、犯人の言葉を伝えます。「きちんとカメラを回すこと。テレビ局に電話して、その映像を情報番組で流すこと」。
スマホが鳴り、電話に出るアイコ。電話を切ると、彼女は公太を連れ、恵比寿三越の警備室へ向かいます。
命令を拒絶すると、遠隔操作で腕時計を爆破すると犯人に脅されたと言うんです。ベンチから動けない高沢にカメラを回すよう伝え、公太はアイコに同行します。
警備室についたふたり。15時30分になるとベンチが爆発するから避難指示アナウンスを流すよう頼んでも、警備員は信じてくれません。
15時30分。
高沢の座ったベンチではなく、近くのゴミ箱が爆発しました。慌てて警備員は館内アナウンスで避難を促しますが、居合わせた人々はパニックを起こしています。
アイコと公太は現場を離れ、歩き出しました。と、背後からさらに大きな爆発音が。高沢の身を案じ、恐怖で震えながらも、腕時計をつけられた公太はアイコと進むしかありませんでした。
五反田まで歩いたふたりは、住宅街のマンションの703号室に入ります。リビングのテレビには、犯人からと思わしき手紙が貼り付けられていました。
そこにはこう書かれていました。
・声明文を男が読め
・女はそれをビデオカメラで録画しろ
・録画したデータは情報番組にメールで送り、YouTubeにもアップロードすること
・終わったらこの紙をキッチンで燃やすこと
・今すぐに!
ふたりは渋々従います。声明文には、日本の首相とテレビの生放送で一対一で対話させよ、要求が受け入れられない場合は明日18時30分に渋谷のハチ公前で爆弾を爆発させるとあります。
最後には、「これは、戦争だ」とメッセージが。
一連の指示を済ませた公太とアイコは、安心感からかお腹が空いていたことに気づきます。冷蔵庫にあったケーキを食べながら、ふたりは互いの名前を名乗り、他愛もない会話をしました。
すると、アイコのスマホが鳴ります。犯人からの指示は、「クローゼットをあけろ」でした。開けると、そこにはプラスチック爆弾の入ったボストンバッグが。
公太は渋谷へ向かい、アイコはプラスチック爆弾とともに待機するよう指示が出ます。ふたりは事件が終わったらラーメンを食べに行く約束をし、ハグをして別れました。
世田と泉
12月22日17時。警視庁渋谷署に、爆発事件の対策本部が設置されました。
少年係の泉大輝は、警察官になって4年目。先輩の警部補・世田と組んで、捜査本部に参加することになりました。
世田は配られた資料を、「先入観が捜査の邪魔をする」からと目を通しません。
会議が始まろうとした時、犯人からの犯行声明が出て、明日の18時30分に渋谷ハチ公前が爆破されるとの情報が入ってきます。
騒然とする捜査本部でしたが、警視総監鈴木が一喝し、会議は開始。
まず、恵比寿ガーデンプレイスの警備室に警告しにきた、来栖公太の顔写真と、一緒にいた中年女性(アイコ)の似顔絵が配られ、犯人と接触している可能性が高いため、このふたりを早急に確保するよう指示が出ました。
会議はすぐに終了。世田たちの聞き込みの担当地域は、恵比寿ガーデンプレイス近くの高層マンション。
部屋を出ようとした世田に、警視総監の鈴木が声をかけました。鈴木が去った後、泉は世田と鈴木の関係を聞いてきます。
「別れた女房の父親だ」と、世田は正直に答えました。
綾乃と須永
11月末。印南綾乃は、友人の真奈美に誘われ、IT関係の男性たちと合コンしていました。
乗り気ではなかったため、食べて飲んだら適当に帰ろうと考えていた綾乃。合コン開始から1時間経った頃、アプリの会社の社長を務めている須永基樹が遅刻してやってきました。
綾乃と同じ30歳で、各界の著名人しか表紙を飾れないという週刊誌の表紙の顔になり、個人資産も10億円を超えるという噂。
須永はマイペースに数学的な話を進めたあと、メールの着信を見て席を立ち、そのまま戻ってきませんでした。
12月21日の夜、須永から綾乃に「今から焼き鳥食べない?」とLINEがきます。合コンのグループLINEが作られていたため、須永は彼女の連絡先を知っていたんです。
突然の誘いに驚いたものの、綾乃は乗ることにしました。向かった先は店ではなく、須永の自宅。
マイ焼き鳥器を買ったという須永は、美味しい店の再現をしたかったと語ります。
ふたりの会話はなかなか続かず、その度に会話のネタを探す綾乃は、須永が表紙を飾った雑誌を話題にあげ、「ご両親が喜んだでしょう」と聞きました。
須永の返答は相変わらずそっけなく、綾乃はさらに彼に家族のことを質問しますが、父親の話題になった途端、須永は静かに怒りを見せ、「また連絡する」と言い、綾乃を帰らせました。
翌日の12月22日。勤め先の社員食堂で昼食を取っていた綾乃と真奈美。綾乃は昨夜の出来事を打ち明けます。
自分から連絡してみたらと真奈美からアドバイスされるものの、綾乃はそんな気にはなれません。
17時ごろ、恵比寿で爆発事故があったことを、外出から戻ってきた上司が興奮気味に伝えました。
その直後、綾乃のスマホに須永からLINEが。「また、ご飯食べましょう」。
どう返事をしたら良いかわからず、返信をしないまま終業時間を迎えます。それを知った真奈美は、渋谷で人気のイタリアンレストランのクーポン券を綾乃にプレゼント。
家族ある男性と不倫している真奈美は、クリスマスシーズンは家族サービスのため、彼とは会えないんです。
真奈美はレストランに電話をかけ、明日の19時から席を予約します。爆発騒ぎでキャンセルが出たそう。
そこへ上司が割って入り、明日は18時30分にハチ公前が爆破されると犯行予告のことを教えますが、真奈美は取り合いません。
真奈美と職場を出た綾乃は、須永に電話をかけ、明日の食事に誘いますが、東京駅近くで接待があるからと断られてしまいます。
綾乃と真奈美は、ふたりでレストランに行くことにしました。
一方、須永は、恵比寿の住宅街にある喫茶店にて、探偵のような男性と会っていました。探偵から手渡された情報は、彼が期待していた内容ではなかったようです。
探偵と別れ、恵比寿ガーデンプレイスのすぐ脇にあるオフィスに戻る須永。そこでは、世田と泉という警察官が聞き込みをしており、須永の名前と部屋番号を質問してきました。
彼らの問いに答えていると、綾乃から電話が。明日の夕飯を一緒に食べないかと言う彼女に、東京駅近くで接待があるからと断ります。
電話を切った後も、エレベーターの中で世田たちに聞き込みをされる須永。一通り話を聞いた世田たちは、須永が14階で降りた後、再びエレベーターで下へ向かいました。
須永はオフィスのある1402号室のドアを開けます。今日は社員は在宅勤務のためオフィスには誰もいません。須永はパソコンに入っていた音声データを再生します。
爆発事件直後のガーデンプレイスを録音したもので、そこには不明瞭な男の声が。
「これはあいつだ」と、須永は確信。そこへ、インターフォンが鳴ります。モニターから玄関の外の様子を見ると、警察官の世田と泉が立っていました。
朝比奈仁
六本木、夜。
朝比奈仁は、ビストロ「KIRAKU」で調理の仕事をしていました。ホールの人手が足らず、レジを頼まれた仁。
レジの前には屈強な西洋人の男性が立っており、仁をじっと見つめています。
「それで隠しているつもりか?俺にはすぐにわかった」と男はニヤリと笑い、店のカードに電話番号を書き、仁のエプロンに突っ込みました。
「店が終わったら電話をくれ。くれなかったらまた店に来るが、それは困るだろう?」
仁は翌日、店を辞め、知り合いの誰もいない町へ引っ越しました。調理の腕に自信があった彼は、隠れ家的な洋食屋の調理の仕事につきます。
値段が手頃で、仁の作るご飯が美味しいため、店は大繁盛。その日も、お昼時は主婦層で満席になっていました。
奥のテーブル席に、大きな体躯をした4人の男性客がいることに気づいた仁。そのうちのひとりは、例の西洋人でした。
仁は小声で彼に抗議しますが、「俺の頼みを聞いてくれないか?聞いてくれたら店に押しかけたりはしない」と持ちかけます。
時は流れ、仁はまた仕事を探していました。ある店の前に、バイト募集の紙が貼られているのを見た彼は、その店に入ります。
ダイビングショップ兼カフェのその店の店主は、履歴書が無いと言う仁のことを即採用。仁はその店で働き始めました。
木造の古いアパートに帰ると、ドアの下にメッセージカードが挟まっています。
カードの表には「with love」、中を開くと「marry me」と書かれていました。
小説『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』の感想と評価
あらすじとして書き出してしまうと、真犯人や動機、その人に関わる人物が唐突に出てくる印象を受けるかもしれませんが、本著は細かな伏線が張り巡らされており、読んでいてそのミスリードの巧みさに引き込まれました。
目まぐるしいほどに語り手が入れ替わることで、読者を語り手に共感させていくんですが、その共感こそが「先入観」となって、真犯人が誰かを不透明にしてしまうんです。
中でも仁とアイコのふたりの立ち位置の描き方は見事です。
仁に関わる外国人男性・ショーンとのエピソードは、物語の合間に挿入されて行きます。ですがそれらは全て過去のエピソード。
彼が犯人だと思わせるような出会いと再会の場面は、真相を知ってしまってから読むと、強烈な一目惚れとまっすぐな愛の告白だったんだとハッとさせられます。
同性であり、どちらも筋肉質な体型であるという情報から、爆弾魔とその正体を知る怪しい家業の男、という構図を勝手に作り出してしまっていたんです。
また、他の人物たちに執拗なまでに「おばさん」扱いされるアイコ。プロローグも彼女の語りで始まり、その時点で読者は罠にかけられます。
ここでも、「おばさん」は無害で非力であろうという思い込みから、多くの読者が彼女を犯人の候補から外してしまうことでしょう。
仁とアイコ。どちらも愛する人を戦争で失ってしまい、10年以上経ったいまも喪失という戦争の渦中で戦っています。
そんな彼らにとって、平和ボケした日本と、首相の発言は、大きなトリガーとなりました。
秦建日子が本著を書くきっかけとなったのは、ジョン・レノンとオノ・ヨーコによる楽曲『Happy Xmas(War Is Over)』。
この曲が発表された1971年は、ベトナム戦争中。戦争の終結を平和を願って作り出されました。それから50年近く経ちましたが、戦争は常にどこかで起こっており、世界は分断されようとしています。
『Happy Xmas(War Is Over)』の曲も、『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』で書かれた出来事も、深く胸に突き刺さってきます。
映画『サイレント・トーキョー』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本映画)
【原作】
秦建日子『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』(河出書房新社)
【監督】
波多野貴文
【脚本】
山浦雅大
【キャスト】
佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊、中村倫也、広瀬アリス、井之脇海、勝地涼、毎熊克哉、加弥乃、白石聖、庄野崎謙、金井勇太、大場泰正、野間口徹、財前直見、鶴見辰吾
まとめ
映画『サイレント・トーキョー』の監督は、深夜帯ドラマとして異例の平均視聴率15%越えを記録した『SP 警視庁警備部警護課第四係』(2007)と、その劇場版『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』(2010)・『SP THE MOTION PICTURE 革命篇』(2011)を手掛けた波多野貴文。本作でも、リアルでスリリングな演出力で引き込んでくれるでしょう。
キャストも、朝比奈仁役に佐藤浩市、アイコ役に石田ゆり子、世田役は西島秀俊と、芯のある実力派がピタリとはまります。
また、須永役は中村倫也、真奈美役に広瀬アリス、泉役に勝地涼と、若手俳優陣も抜かりないキャスティング。
小説だからこそミスリードさせられた部分も大きかった本著『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』を、どのように映像化するのか楽しみでなりません。
映画『サイレント・トーキョー』は 2020年12月4日(金)より全国ロードショーです。