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Entry 2021/05/01
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映画『カウラは忘れない』内容解説/公開日/上映館。満田康弘が事件はなぜ起きたか真相に迫るドキュメンタリー

  • Writer :
  • 石井夏子

瀬戸内海放送発ドキュメンタリー映画第2弾。

『クワイ河に虹をかけた男』で旧日本軍の贖罪と和解に生涯を捧げた永瀬隆を20年にわたって取材し続けた満田康弘監督。

満田康弘監督のライフワークともいうべき題材を取り上げた渾身の第2作、1944年のオーストラリアで起こった史上最多の集団捕虜脱走“カウラ事件”の真相に迫る『カウラは忘れない』の公開が決定しました。

(C)瀬戸内海放送

本作は、瀬戸内海放送製作のドキュメンタリー映画の第2弾であり、公開はその瀬戸内海放送の地元にて2021年7月に先行上映のち、ポレポレ東中野ほかにて全国順次公開となります。

あわせて、集団脱走を試みた捕虜たちが使っていたグローブを使用したティザービジュアルが解禁されました。

さらに満田康弘監督と“カウラ事件”を題材にした公演をオーストラリアで実現させ、本作の製作にも大きくかかわった坂手洋二(Theater company RINKOGUN 燐光群)のコメントが到着しました。

映画『カウラは忘れない』が問いかけるもの

太平洋戦争中の1944年8月、オーストラリアの田舎町カウラにあった捕虜収容所で近代戦史上最大といわれる捕虜脱走事件が起こります。

日本人捕虜234人、オーストラリア人の監視兵ら4人が死亡した、カウラ事件です。

正確に言えば「脱走」ではなく、日本人捕虜の目的は「死」でした。

事件はなぜ起きたのでしょうか?

「戦陣訓」に象徴される「捕虜を恥」とする旧日本軍の教義、当時の日本の「空気」がその背景にはありました。

一方、収容所で手厚い保護を受けた生活を送るうち、捕虜たちの間には生への執着が確実に芽生えていたんです。

“生きられれば生きたい”事件の生存者は正直な心理を吐露します。ですが、その思いはある捕虜のひと言でかき消されてしまいました。

「貴様らそれでも帝国軍人か!」

決行か否か、捕虜たちが選んだのは全員による投票でした。その結果は―。

同じ状況に置かれたとき、あなたは大きな声にあらがうことができるでしょうか?

生存者たちに今なお残る悔恨、その思いを受け止めようとする若者や演劇人、事件を教訓に和解への道を歩んできたカウラの人々―。

事件がコロナの時代を生きる我々に問いかけるものは何でしょうか。

満田康弘監督のコメント

私にとっては「クワイ河に虹をかけた男」(2016)に続く2作目のドキュメンタリー映画です。「クワイ河」が捕虜問題のコインの表とすると「カウラ」は裏。戦陣訓に象徴される捕虜の人権無視が泰緬鉄道などでは捕虜虐待に、カウラでは絶望的な脱走を生みました。加えてカウラ事件はその決行へ至る経緯で極めて日本人的な心理が働いています。同調圧力と空気に支配された先の悲劇は、現代の日本人に重い教訓を発しています。

満田康弘監督のプロフィール

1961年香川県生まれ。京都大学を卒業後、1984年、岡山・香川両県を放送エリアとするKSB瀬戸内海放送入社。

主に報道・制作部門でニュース取材や番組制作に携わる。ANN系列のドキュメンタリー番組「テレメンタリー」で数多くの番組を制作、プロデュース。

2003年、ウナギにまつわる様々な謎を追った「うなぎのしっぽ、捕まえた!?」で日本民間放送連盟賞優秀賞など、ドキュメンタリー番組で受賞多数。

元陸軍通訳・永瀬隆氏による泰緬鉄道の個人的な戦後処理を取材したテレメンタリーのシリーズは全5作品。

2016年、約20年間の永瀬氏の素材をまとめたドキュメンタリー映画『クワイ河に虹をかけた男』を制作・公開。同作品は第22回平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞、第3回浦安ドキュメンタリー映画大賞、第90回キネマ旬報ベスト・テン文化映画部門第5位、第34回日本映画復興奨励賞を受賞。

同名の著書も2011年に出版。永瀬氏の死後は「クワイ河平和基金」の理事も引き継ぐ。

カウラ事件をテーマにしたテレメンタリーは『ベースボール・イン・カウラ』(2011)「ダブル・プリズナー』(2011)『死への大脱走の果てに』(2014)の3本を制作。

今回の映画化は「カウラのことを伝え続けてくれ」という永瀬氏の「遺言」への回答であり、捕虜問題をテーマにしたいわばコインの裏表として『クワイ河に虹をかけた男』と一対をなす。

協力・坂手洋二のコメント

オーストラリアで「戦争の狂気」といえば、誰もが真っ先に「カウラ事件」を思い浮かべる。まわりに何もない大陸の真ん中から、1000人の捕虜たちが、いったいどこへ脱走するというのか。なんという絶望と自己否定の強さ。その後『カウラの班長会議』という劇を作り、大脱走から70周年の記念行事で上演し、その歴史を抱いたカウラの人たちと交流できたことは忘れがたい。そして今この国で、平和憲法があるという安心感の脆弱さを思う。

坂手洋二のプロフィール

作家・演出家。1983年、〈燐光群〉を旗揚げ。国内外で公演を重ねる。1993年、劇作家協会創設に参加。2006〜2016年、同会長を務める。

『屋根裏』『だるまさんがころんだ』等により、岸田國士戯曲賞、鶴屋南北戯曲賞、読売文学賞、紀伊國屋演劇賞、朝日舞台芸術賞、読売演劇大賞・最優秀演出家賞等を受賞。戯曲は海外で10以上の言語に翻訳され、出版・上演されている。

2005年、オーストラリア国立演劇大学の卒業公演の演出を担当し、滞在中にカウラを初めて訪問する。

2013年、『カウラの班長会議』初演。

作品に『ブレスレス ゴミ袋を呼吸する夜の物語』、『くじらの墓標』、『神々の国の首都』、『沖縄ミルクプラントの最后』、『ピカドン・キジムナー』、『ブラインド・タッチ』、『エレンディラ』(脚色)、『天皇と接吻』、『最後の一人までが全体である』等。

オペラ等、演出のみの仕事も手掛ける。

映画『カウラは忘れない』の作品情報

【日本公開】
2021年(日本映画)

【監督】
満田康弘

【撮影】
山田寛

映画『カウラは忘れない』のあらすじ

太平洋戦争中の1944年8月に、オーストラリアの田舎町カウラで起こったカウラ事件。

事件はなぜ起きたのか?「戦陣訓」に象徴される「捕虜を恥」とする旧日本軍の教義、当時の日本の「空気」がその背景にはありました。

一方、収容所で手厚い保護を受けた生活を送るうち、捕虜たちの間には生への執着が確実に芽生えていました。

“生きられれば生きたい”事件の生存者は正直な心理を吐露します。

まとめ

彼らが望んだものは生か、死か。あなたはあの「圧力」にあらがえるか―?

瀬戸内海放送製作のドキュメンタリー映画の第2弾『カウラは忘れない』は、2021年7月2日(金)より岡山県のシネマ・クレールにて、7月9日(金)より香川県のソレイユ・2にて先行公開

2021年夏、ポレポレ東中野ほか全国順次公開です。

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