映画『Arc アーク』は2021年6月25日(金)より全国ロードショー。
2011年に発表した短編集『紙の動物園』で、その年の最も優れたSF・ファンタジー作品に与えられる3大賞として知られる、ネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞の3冠を制覇するという史上初の快挙を成し遂げた奇才小説家ケン・リュウ。
ケン・リュウの傑作短編小説『円弧』(ハヤカワ文庫刊・『もののあはれ』に収録)が、『Arc アーク』のタイトルで実写映画化されます。
映画の主演は芳根京子、監督は石川慶が務めました。
話題沸騰の『Arc アーク』の原作小説『円弧』を、ラストまでネタバレ有りで、あらすじと感想をご紹介します。
短編小説『円弧』のあらすじとネタバレ
15歳のリーナは、恋人チャドとの子どもをお腹に宿していました。チャドとは破局し、両親からも出産を反対されたリーナですが、息子のチャーリーを出産。
チャーリーを「愛おしい」と思えないリーナ。両親の家から追い出され、チャーリーと二人の生活が始まりました。
そこへ、ジェイムズという男性が現れ、リーナは彼の荒っぽさや自由さに惹かれます。チャーリーを両親の家の前に置き去りにし、リーナはジェイムズと車で放浪する日々を送ることに。
4年後、ジェイムズはリーナの元を去り、リーナはひとりぼっちになってしまいます。
生きる希望を失い、路頭に迷うリーナ。そんな時『ボディ=ワークス』という会社の求人広告を発見し、彼女は会社の建物に足を踏み入れます。
10年以上が経ちました。リーナは『ボディ=ワークス』で、防腐処理した遺体を立体造形に仕上げる「プラスティネーション」を担当し、アーティストとして活躍していました。
「プラスティネーション」を依頼するのは、美術館や、最愛の存在を亡くした人たち。
「プラスティネーション」チーフのエマは、無口な女性でしたが、リーナの才能を認めています。
ですが、そんなエマも、自らの老いを認め、死者を生きているように見せる嘘に疲れたと言って、引退してしまいました。
短編小説『円弧』の感想と評価
文庫にして50ページほどの短編小説『円弧』。
SFの形を取りながら、不老不死を手に入れたからこそわかる「人生にとって大事なこと」を見つめ直した作品です。
主人公のリーナは、若くして生んだ息子を愛することができず、捨てるようにして自らの自由を選びます。そこでいくつかの出会いと別れを経験したのち、不老不死の体を手に入れたリーナ。
ですが、時間が永遠にあると思うことで現状に満足し、パートナーとの建設的な関係を築き上げることができなくなってしまいました。
これは夏休みに例えると、非常にわかりやすいんですが、8月31日という期限があるからこそ、夏休みは特別な輝きを放っています。
宿題、遊びの計画、イベント、ラジオ体操……。どれも決められた期間内でやりたいこと、やらなければならないことです。もし夏休みに終わりがなかったら、学ぶことをやめ、精神的にも成長することはなく、日々怠惰な生活を送ってしまうかもしれません。
そんなふうに、人生にも「死」という期限があるから、人は賢明に生きるんではないでしょうか。
リーナも、皮肉にもパートナーが亡くなったことで、再び「死」について考えるようになります。
見た目は自分より年嵩になってしまった息子と再会し、老いた息子を看取ったリーナは、人生の豊かさとは、若く健康であることだけではないと悟りました。
娘のキャシーが語る「円弧」は、長い人生のなかでのあらゆる出来事、例えば恋や友情のといった関係性の終わりと始まりを意味しています。
ですが、大切な人たちを失ってきたリーナにとっては、生から死という、生命の大きな理こそが「円弧」だったんです。
ストーリーの最後、砂浜の場面は、詩的な美しさに満ちています。ぜひ味わっていただきたい短編小説です。
映画『Arc アーク』の作品情報
【日本公開】
2021年(日本映画)
【原作】
ケン・リュウ『円弧』(ハヤカワ文庫刊 『もののあはれ-ケン・リュウ短編傑作集2』より)
【監督】
石川慶
【脚本】
石川慶、澤井香織
【キャスト】
芳根京子、寺島しのぶ、岡田将生、清水くるみ、井之脇海、中川翼、中村ゆり、倍賞千恵子、風吹ジュン、小林薫
【作品概要】
長編映画デビュー作の『愚行録』がベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に選出されるなど当初より海外においても熱い注目を浴び、続く『蜜蜂と遠雷』で毎日映画コンクール監督賞、報知映画賞作品賞、日本アカデミー賞優秀作品賞他多数の映画賞を受賞した石川慶監督が映像化。
『愛がなんだ』の澤井香織とともに脚本を手がけ、原作と新たなオリジナルストーリーを融合させました。
主役のリナに扮するのは、『累-かさね-』と『散り椿』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、新作『ファーストラヴ』も話題の芳根京子。
その他、リナが勤めるエターニティ社の責任者エマに、寺島しのぶ。エマの弟で天才科学者である天音役に、岡田将生。
さらに、物語の重要なカギを握る人物を、倍賞千恵子、風吹ジュン、小林薫が演じます。
映画『Arc アーク』のあらすじ
17歳で生まれたばかりの息子と別れ、放浪生活を送っていたリナは、19歳で師となるエマと出会います。
彼女は大手化粧品会社エターニティ社で、〈ボディワークス〉という仕事に就くことに。
それは最愛の存在を亡くした人々のために、遺体を生きていた姿のまま保存できるように施術(プラスティネーション)するもので、悲しみを乗り越えたい人々からの依頼は絶えることはありませんでした。
一方、エマの弟で天才科学者の天音は、その技術を発展させ、姉と対立しながら「不老不死」の研究を進めていました。
30歳になったリナは天音と共に、「不老不死」の処置を受ける人類史上初の女性となり永遠の命を得ます。
やがて、不老不死が当たり前となった世界は、人類を二分化していくこととなり、同時に混乱と変化を産み出していき……。
まとめ
映画『Arc アーク』の原作小説『円弧』をご紹介しました。
映画では、芳根京子が、主人公リナの10代から100歳以上までをどのように演じ分けるのか、期待が高まります。
肉体は若いままなのに、100年以上生きているという難しい設定の役どころのリナ。芳根京子ならば、リナの喪失感や深い愛情を体現してくれることでしょう。
原作に無かったエピソードも交えながら、長編映画として生まれ変わった『Arc アーク』。公開まで待ちきれませんね。
映画『Arc アーク』は、2021年6月25日(金)より全国ロードショーとなります。