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Entry 2021/06/25
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映画『夕霧花園』感想評価とレビュー解説。阿部寛が海外マレーシアの主演作品で“自分らしさ”を発揮する

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『夕霧花園』は2021年7月24日(土)より全国順次ロードショー!

阿部寛出演、戦後のマレーシアを舞台にとある日本人庭師が一人の女性との出会い、そして激動の中でたどり着いた愛の姿を描いた映画『夕霧花園』。

文学賞候補にものぼったタン・トゥワンエンの小説を、台湾のトム・リン監督が実写化。マレーシアのリー・シンジエ、日本の阿部寛のほか、台湾のシルヴィア・チャンやイギリスのデヴィッド・オークスら国際色豊かなキャストで、戦後のマレーシアで展開する愛の景色を描きます。

映画『夕霧花園』の作品情報

(C)2019 ASTRO SHAW, HBO ASIA, FINAS, CJ ENTERTAINMENT  ALL RIGHTS RESERVED

【日本公開】
2021年(マレーシア映画)

【原題】
夕霧花園 THE GARDEN OF EVENING MIST

【監督・脚本】
トム・リン

【キャスト】
リー・シンジエ、阿部寬、シルヴィア・チャン、ジョン・ハナー、デヴィッド・オークス、ジュリアン・サンズ、セレーヌ・リム、タン・ケン・ファ

【作品概要】
第2次世界大戦下の1940年代・戦後の50年代・80年代という三つの時代、そしてマレーシアの歴史を背景に、激動の時代に生きた男女の愛を描きます。文学賞のブッカー賞候補作にも名を連ねたタン・トゥワンエンの小説を、『九月に降る風』(2008)などを手掛けたトム・リン監督が映画化しました。

若き日の主人公ユンリンを『リサイクル -死界-(2016))などのリー・シンジエ、1980年代のユンリンを『妻の愛、娘の時』(2017)などのシルヴィア・チャンが演じるほか、日本人庭師を『海よりもまだ深く』(2016)『祈りの幕が下りる時』(2018)などに出演した阿部寛や、ジョン・ハナー、ジュリアン・サンズ、デヴィッド・オークスらが出演しています。

映画『夕霧花園』のあらすじ

(C)2019 ASTRO SHAW, HBO ASIA, FINAS, CJ ENTERTAINMENT  ALL RIGHTS RESERVED

1980年代のマレーシア。当時史上2人目の女性裁判官として多忙な日々を送るユンリン(シルヴィア・チャン)は、さらなるキャリアアップを目指していました。

そんな中、かつてとある機会で出会い、愛した日本人庭師・中村有朋(阿部寛)が、旧日本軍が密かに隠したとされる財宝にまつわるスパイ疑惑をかけられていることを知り、その真相を探ろうと決意します。

そしてユンリンの脳裏には、第2次世界大戦後の1950年代、亡き妹の夢である日本庭園を造るため有朋と出会い、愛の時を過ごした記憶がよみがえっていくのでした。

映画『夕霧花園』の感想と評価

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物語の舞台は敗戦後のマレーシア。この時代におけるマレーシアや連合国から見た日本の印象は当然負のイメージが強く、日本が現在の先進国の一つとなった要因は、戦後の高度経済成長による復興という一面に注目されがちです。

しかしこの物語では反面、負のイメージの奥にある日本の魅力を感じさせます。劇中では主人公の姉妹をはじめ現地の人間をひどい目に合わせた日本人の姿、そしてその虐待により妹すら奪われ、彼女を見殺しにしたと心に深く傷を負った主人公のエピソードが示される中で、主人公ユンリンが心を開こうとしない日本人庭師・有朋と衝突しながらも、徐々に理解を示していく姿が描かれます。

この物語の起点となるのが、日本の庭園文化です。マレーシア人の主人公たちは虐待を受けた日本に対して憎しみを持ちつつも、若き日に憧れた日本文化、特に美しい日本庭園の様式に触れた点に関して、まったく違う印象を持っていることが表されます。

ユンリンは過去に妹を救えなかったという事実が足かせとなっていましたが、有朋との交流は徐々に妹の憧れの理解に繋がっていくとともに、心の闇に徐々に光を照らしていきます。


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また、物語のユニークなポイントとして、「山下財宝」という伝説を物語に絡めている点があります。「山下財宝」とは、太平洋戦争時に英領マレーとシンガポールを攻略し「マレーの虎」の異名をつけられた日本の陸軍軍人、山下奉文が率いる日本軍によって、終戦時に莫大な埋蔵金がフィリピンのある場所に埋められたとされる都市伝説です。

これはある意味、日本が終戦後に残した汚点の象徴的なものの一つと見ることもできるでしょう。この「汚点」は有朋とも非常に大きな関係を持ち、庭師という立場とともに「汚点」を背負うという、日本という国を象徴する存在となって劇中に存在するわけです。

こういった「魅力」と「汚点」を併せ持つ存在として有朋が存在し、そんな彼を主人公はどのように接し、理解していくのか

この展開こそが単に敗戦国という汚名だけでは見えてこない、本来持ち合わせている光の部分を示しているわけであり、歴史の中でどうしても一側面でしか残されなかった敗戦国の違う面を改めて見つめ直すという意向もうかがえてきます。

このように「多面的に相手を見つめようとする姿勢」が、非常に深い世界観を持つ一方で、ふと現実のさまざまな場面を想起させるようなところもあり、興味深いテーマを示す作品となっています。

まとめ

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阿部寛の海外出演作品には、ムエタイアクションで人気を博したジージャー・ヤーニンとの共演作『チョコレート・ファイター』(2008)がありましたが、この作品ではどちらかというと阿部のルックスや雰囲気といった面での起用を感じさせます。

一方で本作のキャラクター・有朋は日本庭園の庭師という役柄で、ぶっきらぼうな一面で「庭園」文化に向けた自身の意志の強さ、細やかな神経の配り方が強い特徴を持っています。

こういった側面において、阿部は技術畑に没頭する会社社長を演じた『下町ロケット』、女性に受けが悪い、オタクっぽい建築設計士役を演じた『結婚できない男』、人と接する際の態度をわきまえないながら、驚異的な嗅覚と明晰な頭脳で難事件に挑む捜査官の姿を描いた『スニッファー 嗅覚捜査官』など、がっちりした体格と彫りの深い表情に似合わない細やかな神経の持ち主をドラマ作品で多く演じています。

こうした面からも、本作の有朋役はより阿部のキャラクター、「阿部らしさ」を存分に生かした作品ともいえるでしょう。

主人公のかなりアクティブなイメージに反して「静」という一言がまさにしっくりとくる阿部のたたずまいは、バランス的にも非常にマッチして物語の印象をより深いものとしています。

映画『夕霧花園』は2021年7月24日(土)より全国順次ロードショー

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