劇場版で彩られる”ぼっち”と”キング”の恋物語
吃音症によって周囲から浮いてしまったことでいじめの対象となった主人公が、一目で自身の全てを奪った”キング”に恋をする物語が人気を集めたドラマ「美しい彼」。
シーズン1では主人公となる平良の視点を中心に”キング”こと清居と結ばれるまでの物語が描かれていましたが、シーズン2以降はお互いの気持ちのすれ違いが中心となっていました。
そして対角線に位置するような2人の物語が大きな山場を迎える劇場版が2023年に公開。
今回は平良と清居の恋愛の総決算となる映画『劇場版 美しい彼~eternal~』(2023)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『劇場版 美しい彼~eternal~』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督】
酒井麻衣
【脚本】
坪田文
【キャスト】
萩原利久、八木勇征、高野洸、飯田基祐、金井勇太、伊勢佳世、綾乃彩、池田大、前田拳太郎、落合モトキ、仁村紗和、和田聰宏
【作品概要】
広瀬すずと松坂桃李主演で映画化されたことで話題となった小説『流浪の月』を執筆した、凪良ゆうによるボーイズラブ小説シリーズを映像化した劇場版作品。
「美しい彼」で第16回ギャラクシー賞でグランプリを受賞した酒井麻衣が、ドラマシリーズから引き続き監督を務めました。
映画『劇場版 美しい彼~eternal~』のあらすじとネタバレ
大学卒業が迫る中、平良一成はプロカメラマンである野口大海のアシスタントとして奔走する忙しい日々を過ごしながらも、恋人となった清居奏との同居生活にこの上ない幸せを感じていました。
若くして海外の映画賞を受賞した女優・安奈のバーターとして様々な撮影に参加する清居は、短い役どころながらも順調に場数を踏みファンを増やしていきます。
清居に対する”ファン”としての心を捨てられない平良は、”不審くん”と言うあだ名をつけられながらも撮影現場に足を運び、同じく安奈のファンである設楽と仲を深めていました。
ある日、不倫した夫との離婚によって住む場所を失った平良の従姉妹・菜穂が、平良の住む家を借りるため訪ねてきます。
清居との交際や同居を隠す平良は、清居に了承を取り2人で新たな新居を探すためマンションの内覧を繰り返しますが、男性同士のルームシェアを許可する物件が少なく部屋選びは難航。
アシスタントとしての給料だけでは清居の足を引っ張ってしまうと考える平良は、清居に命じられたプロカメラマンも参加する「野村伊兵衛賞」の受賞を本気で考え、写真サークルの友人・小山と共に匿名の大学生としてインターネットで相談しますが、返ってきたのは馬鹿にする言葉ばかりでした。
「病院へ行け」と特に辛辣なコメントを残したのは実は野口であり、野口は職場で怖いものを知らない若さは強いと平良に聞かせます。
野口による安奈の写真集の撮影に同行した平良は、自身のスタイルを持たず被写体に合わせて手法を使い分ける野口の技術に圧倒されます。
撮影終了後の夜、野口に「撮りたいもの」について尋ねられた平良でしたが、自身の実力不足を理由に清居を撮る自信を失った平良は「撮りたいものがなくなった」と返答してしまいました。
ある日、清居は野口に写真を撮ってもらうことが決まり、平良と同じ空間での撮影を喜んで彼に報告しますが、平良は自身より遥か高い実力を持つ野口によって清居の写真を撮られることに嫉妬し、当日の撮影を休んでしまいます。
撮影現場で野口に平良のことを尋ねた清居は、野口が平良の隠し持つ「我執」がアーティストとして強い可能性を秘めていると評価していることを嬉しく思う一方で、「撮りたいものがなくなった」と言う平良の言葉を野口を通して聞くことになりました。
同日、撮影をサボり清居のドラマの撮影現場にいち早く足を運んでいた平良は、設楽と共に撮影が始まらないことを疑問に思っていると、安奈が人気アイドル・桐谷恵介と付き合っていると言うニュースが舞い込みます。
撮影に現れなかった安奈が引きこもるホテルにマネージャーと共に足を運んだ清居は、桐谷の事務所がイメージダウンを阻止するため安奈との交際を破局させようとしていることを知ります。
家に帰った清居は憔悴しきった安奈を心配すると、平良は安奈が落ち着くまで自分たちが家を出て安奈と菜穂を2人で家に住まわせる案を話すと、清居はその案を実行に移しました。
平良と清居の関係性を知る安奈は、平良から清居はこの世に存在してくれるだけで生きていく糧になる「光」であると聞かされ、2人の関係性を羨ましく感じます。
家を出ていくことなった平良と清居でしたが、平良は清居にスキャンダルという迷惑をかけないために野口のアトリエに住み込むことを清居に相談せず決めており、清居は高校時代に自分のためになりふり構わず暴走した時の平良ではなくなったことを悲しみ家をひとり出て行きました。
映画『劇場版 美しい彼~eternal~』の感想と評価
“キングを”崇拝する平良と対等な関係を求める清居
愛情を受けることなく育ったことで、”崇拝”まがいのものであると理解しつつも多くの人に愛される「芸能人」の道に憧れた清居は、自身を愛してくれる平良と出会い恋に落ちます。
しかし、平良が自身に向ける好意は”崇拝”そのものであり、対等な関係での恋愛を求める清居と平良の想いは徐々にすれ違うことになります。
お互いの恋が実り、同居が続く劇場版となってもそのすれ違いは続いており、ふたりの関係は周囲の変化に揉まれながら形を変えずに深く結びついていました。
相手を変えようとするわけではなく、相手を理解し自分を変えようとするふたりの恋愛模様をドラマ版以上に味わうことのできる作品でした。
俳優によって引き出される「美しい」物語
“FANTASTICS from EXILE TRIBE”のボーカルとして活躍する一方で『HiGH&LOW THE WORST X』(2022)や『映画 イチケイのカラス』(2023)と言った作品に俳優として出演する八木勇征。
今作では彼がこれまでの作品で見せたワイルドさやお調子者な役の雰囲気は影を潜め、平良が一目で心を奪われた”キング”こと清居のクールな美しさに”雰囲気”だけで説得力を持たせていました。
清居の外での立ち振る舞いは常にクールであり、それゆえに萩原利久の演じる気の抜けるような雰囲気を持つ平良と共にいる時だけ、クールさが失われる清居のギャップが際立ちます。
明らかに他者とは雰囲気の異なる天才俳優の安奈を演じた仁村紗和も、こと恋愛に対しては”普通の人間”の弱さを持つ安奈を好演しており、俳優によって本作の持つ物語が完成していると言える作品でした。
まとめ
平良にとっての”美しい彼”である清居の生きる世界は輝きに満ちており、それゆえに本作の演出は”美しさ”に特化したものとなっていました。
屋内に桜の花びらが舞うような不自然な演出も、平良から見た世界だと考えると不自然ではなく、平良から見た世界を念頭に置くことで本作への理解もより深まります。
スクールカーストの最上位の清居とそんな彼をストーカー的に追い回していた平良の恋物語。
ふたりの物語の総決算とも言える『劇場版 美しい彼~eternal~』を、ぜひその目で確かめてみてください。