人類滅亡を前にした世界をユーモラスに綴る
小惑星の衝突による地球滅亡を目前に、一緒に旅することになった中年男性と若く奔放な隣人女性の姿を描くロマンティックストーリー。
女優としても活動するローリーン・スカファリアが監督を務めます。
主演はスティーヴ・カレルとキーラ・ナイトレイ。ユーモアあふれるあたたかなタッチで、終末を迎える地球での物語が綴られます。
人類最期の日を前にして、偶然出会ったふたりはどんな運命を選ぶのでしょうか。
スリリングな内容でありながら、ユーモラスで心温まる作品です。その魅力についてご紹介します。
CONTENTS
映画『エンド・オブ・ザ・ワールド』の作品情報
【公開】
2013年(アメリカ映画)
【監督・脚本】
ローリーン・スカファリア
【編集】
ゼン・ベイカー
【出演】
スティーヴ・カレル、キーラ・ナイトレイ、コニー・ブリットン、アダム・ブロディ、ロブ・コードリー、ジリアン・ジェイコブス、デレク・ルーク、メラニー・リンスキー
【作品概要】
『ハスラーズ』(2020)のローリーン・スカファリア監督作。
惑星の衝突によって滅亡する運命を前にした地球で、隣人同士だった中年男性と若く奔放な女性が旅する姿をユーモアを交えながら描きます。
主演は『スイング・ステート』(2021)のスティーヴ・カレルと、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのキーラ・ナイトレイ。
映画『エンド・オブ・ザ・ワールド』のあらすじとネタバレ
地球に惑星が急接近し、3週間後に衝突することが伝えられました。人類が滅亡を前に、中年男性のドッジは妻に置き去りにされます。無気力になる彼の前に、掃除婦のエルサだけは、いつも通り仕事に現れました。
パーティーから自宅に戻りハーモニカを吹いていたドッジは、窓の外で隣家の若い女性・ペニーがうずくまって泣いているのに気づきます。彼女は飛行機に乗り遅れてしまい、イギリスの家族のもとに帰れなくなったことを悲しんでいました。
話をした後、ぐっすり眠ってから起きたペニーは、これまで自分の家に間違って届いたたくさんのドッジ宛ての郵便物を渡して、ドッジの妻に恋人がいた事実を屈託なく話します。何も知らなかったドッジはショックを受けます。
後日確認すると、ペニーから受け取った郵便のなかには、忘れられない高校時代の恋人・オリヴィアからの手紙がありました。そのとき、外で大きな暴動が起こります。危険を感じたドッジはペニーを迎えにいき、ふたりで車で逃げます。
ペニーに、オリヴィアからの手紙が届いていたと恨み言をいうドッジ。ふたりは通りがかりの男に車に乗せてもらい、一緒にオリヴィアを訪ねる旅に出ました。
映画『エンド・オブ・ザ・ワールド』の感想と評価
故郷代わりのハーモニカに込められた思い
スティーヴ・カレル演じる中年男のドッジと、キーラ・ナイトレイ演じる隣室に住む若い奔放な美女・ペニーの旅を描くロードムービー『エンド・オブ・ザ・ワールド』。
『アルマゲドン』や『ディープ・インパクト』などの超大作のドラマチックな展開とはまったく異なり、最期の日を迎えるふたりの姿を明るく綴る物語です。
冒頭から、地球滅亡を前にした人々の絶望感が映し出されます。人々は恐怖から逃れるために、パーティーを開いたり乱交したりして、狂気的の中に救いを求めていました。
そんな中、隣室同士に住みながらまったく互いの存在を知らなかったドッジとペニーはひょんなことから知り合い、暴動発生をきっかけに一緒に旅することとなります。
荒れ狂う暴動のなか逃げるシーンはとてもスリリングで、彼らの置かれた厳しい状況が伝わってきます。しかし、のどかな風景のなかに逃げ込んだ後のふたりは明るく、ごく普通の旅を楽しんでいるかのようです。旅には、「ドッジの元カノに会いにいく」という明確な目的があり、逃避行のような悲壮感はまったくありません。
ペニーは奔放で破天荒なところのある女性ですが、家族を心から愛する純粋な女性です。一方のドッジは、母を亡くし、父は蒸発し、妻にも逃げられた天涯孤独な男性でした。まったく異なる性質のふたりは、一緒に旅するなかで強く惹かれ合っていきます。
故郷を持たないドッジにとって、いつも身に着けているハーモニカは心の拠り所でした。父からのメッセージが刻まれたその楽器を、彼は何度も奏でます。初めてペニーに出会った日、刑務所に入れられた夜、ふたりで浜辺で楽しく過ごしたとき、そして、父と和解した夜……。
眠ったペニーを飛行機に乗せたドッジは、お守り代わりにハーモニカを持たせます。ドッジの彼女への強い愛情がひしひしと伝わってくる場面です。
その後、惑星の衝突寸前に、ハーモニカとともにペニーは彼のもとに戻ってきます。
故郷代わりのハーモニカをペニーに与えたように、ペニーもまたイギリスの家族ではなくドッジの隣で最期のときを迎えることを選びました。見つめ合うふたりの表情に心揺さぶられる、美しいラストシーンとなっています。
世界の終わりにリンゴを植える人たち
本作では、主人公カップルに加えて、終末を迎える人々の姿がくっきりと描き出されています。
滅亡を前にした地球には、2種類の人たちがいました。「たとえ明日、世界が終わりになろうとも、私はリンゴの木を植える。」と語ったマルチン・ルターのように生きる人たちと、そうではない人たちです。
もちろん、後者の人たちの方が圧倒的に多く、ほとんどの人たちは恐怖と絶望感から逃げるために快楽に走り、暴動まで発生します。彼らを愚かとはとても言えません。むしろ当然の行為ともいえるでしょう。
本作では、「リンゴを植える」少数の人たちの姿も丁寧に描かれます。ドッジの家の掃除婦のエルサはそのうちのひとりです。
滅亡する事実を知っていても、淡々といつも通りの仕事を明るい表情でおこなう彼女は、惑星衝突の当日でさえ変わらず仕事を終え、「また来週」と言いながら穏やかに帰っていくのです。彼女には家で帰りを待つ子どもたちがいるにも関わらず、です。
また、惑星衝突当日のテレビニュースで、リミットまであと16時間であることをたったひとりで伝えるアナウンサーも印象的です。彼以外のほかのスタッフたちの姿はすでになく、後ろにはガランとしたデスクだけが映し出されています。
どんなときも、変わらぬ自分でいられる人たちの強さというものに、胸打たれずにはいられません。
まとめ
もしも突然、人類滅亡の日を告げられたらどうするだろう……誰もが一度は考えたことがある問いではないでしょうか。
本作では、最期の日を最高に素敵なかたちで迎えた恋人たちの姿が描かれます。彼らはほんの少し前まで、まったく知らない者同士でした。しかし、小さなきっかけで出会い、愛情を積み重ねていくこととなります。
人生はいつどんなことが起こるかわかりません。目の前に滅亡の危機が迫っているときでさえも。
もしもその日を迎えるとしたら、あなたはどこで誰と過ごしますか?
もしかしたら、今はまだ知らない誰かと、心寄せ合いながら過ごす奇跡も起こるかもしれません。