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Entry 2020/12/06
Update

『燃ゆる女の肖像』ネタバレあらすじと考察。映画のラストシーンで描かれたマリアンヌとエロイーズの視線を読み解く

  • Writer :
  • 西川ちょり

『燃ゆる女の肖像』は2020年12月04日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開!

2019年度・第79回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞し、世界の映画人から熱い視線を注がれたフランス映画『燃ゆる女の肖像」(セリーヌ・シアマ監督)。

18世紀、フランス、ブルターニュの孤島を舞台に、望まぬ結婚を控える貴族の娘と、彼女の肖像を描く女性画家の間に生まれた決して消えることのない愛の炎が描かれます。

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映画『燃ゆる女の肖像』の作品情報


(C)Lilies Films.

【日本公開】
2020年公開(フランス映画)

【監督・脚本】
セリーヌ・シアマ

【原題】
Portrait de la jeune fille en feu

【キャスト】
ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイラミ、バレリア・ゴリノ

【作品概要】
『水の中のつぼみ』(2007)のセリーヌ・シアマが監督・脚本を手がけ、エロイーズを『午後8時の訪問者』(2016)のアデル・エネル、マリアンヌを『不実な女と官能詩人』(2019)のノエミ・メルランが演じた2019年制作のフランス映画。

2019年度・第79回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞。ゴールデン・グローブ賞と英国アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされたほか、世界各国の映画祭で44もの賞を受賞。

18世紀フランス・ブルターニュ地方を舞台に、望まぬ結婚を控える貴族の娘と彼女の肖像を描く女性画家に芽生えた感情を静謐にかつ鮮烈に描いた愛の物語。

映画『燃ゆる女の肖像』あらすじとネタバレ


(C)Lilies Films.

1770年.激しく揺れる小舟に乗り、ブルターニュの孤島に上陸したのは、マリアンヌという名の女性画家です。

思い荷物を抱え、登っていくと、伯爵夫人の住む館が見えました。伯爵夫人の娘・エロイーズはミラノの男性と結婚話が持ち上がっていて、その肖像画を描くためにマリアンヌはやってきたのです。

使用人のソフィーによると、もともとこの話はエロイーズの姉に来たものでしたが、姉は「許して」という言葉を残して自殺してしまったそうです。夫人は修道院にいたエロイーズを呼び寄せ、この話をひきつぎました。

しかし、エロイーズは結婚を拒み、前にやってきた肖像画家には顔をみせなかったので、画家は絵を仕上げることができなかったと言います。

伯爵夫人は、散歩を一緒にしてくれる友人であると紹介するから、その間に観察して肖像画を仕上げてほしいと言い、「出来る?」と尋ねました。マリアンヌは「画家ですから」と即答しました。

散歩を共にしながらエロイーズを観察し、夜は絵筆を走らせるマリアンヌ。エロイーズは堅い表情をしたままです。ただ一度だけ、マリアンヌがピアノでヴィヴァルディの「四季・夏」を弾いた時だけ、彼女は笑顔を見せました。そしてついに絵が完成します。

伯爵夫人に絵が出来上がったことを報告したマリアンヌでしたが、まずエロイーズに見てもらい、真実を告げたいと申し出ます。

絵を見たエロイーズは、「私を見ていたのは肖像画を仕上げるためだったのですね」と言い、「この絵は私には似ていない」とその絵を拒否しました。

マリアンヌは激しく動揺し、自ら肖像画の顔の部分を消し去ります。それを見た伯爵夫人は激怒して彼女を追い出そうとします。

ところがエロイーズがモデルになりましょうと申し出て、マリアンヌは再び肖像画を描くチャンスを与えられました。

伯爵夫人は用事のため、本土に出かけ、その間の5日間で仕上げることとなりました。屋敷にはエロイーズとマリアンヌ、そして使用人のソフィーだけが残りました。

3人は身分の格差を超え、カード遊びに興じたり、ギリシャ神話に言及したりしながら友情を深め自由なひとときを過ごしました。

ある晩、望まぬ妊娠をしたソフィーが堕胎してもらうのにつきそう事になり、マリアンヌたちは島の中心へやってきます。

そこでは女たちの集会が開かれており、女たちは突然歌い始めました。漆黒の夜に煌々と燃え上がる焚き火。マリアンヌはその炎を通してエロイーズを見ていました。

エロイーズの服に炎が飛びますが、エロイーズは気付かず服が燃え始めます。あわてて女たちが火を消しに彼女に飛びかかりました。

ソフィーの堕胎は無事に終わり、横たわる彼女の顔の直ぐ側では小さな子どもたちが無邪気に笑っていました。

エロイーズとマリアンヌはその晩、結ばれ、濃密な時を過ごします。

肖像画が完成しました。「この絵は好きです」と感想を述べるエロイーズ。「あなたを知ったから」とマリアンヌは言い、「私も変わったから」とエロイーズは笑って応えました。

しかし、マリアンヌはエロイーズが別の人のものになることを思い、この絵も消したいと口走ります。2人の感情は激しく揺れ、口論にもなりますが、やがて仲直りし、「悔やむよりは思い出して」と、囁きあいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『燃ゆる女の肖像』ネタバレ・結末の記載がございます。『燃ゆる女の肖像』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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マリアンヌはエロイーズのポートレイトをペンダントに忍ばせ、エロイーズの本の28ページの余白に、マリアンヌは自身の裸体のポートレイトを描きました。

翌朝、伯爵夫人が本土から戻ってきました。夫人は絵の出来に満足し、エロイーズを呼びました。エロイーズは白い服に着替えさせられていました。

マリアンヌはソフィーに別れを告げ、そしてエロイーズともハグを交わしました。そのまま駆け足で階段を降りていくマリアンヌ。「振り返って!」というソフィーの声に思わず振り向くマリアンヌ。何度か幻視を見た白衣のソフィーの姿がありました。

年月が経ち、マリアンヌは絵画展にいました。父の名前が記されているので、本当に父の作品だと思う人々ばかりでしたが、全てマリアンヌが描いた作品でした。その一枚はエロイーズと共に語り合ったギリシャ神話の詩人オルフェとその妻をモチーフにした作品でした。オルフェの妻は白い衣装を着ていました。

ここでマリアンヌはエロイーズと最初の再会を果たします。エロイーズと娘の肖像画が出品されていたのです。

エロイーズの指先が本の28ページを示しているのを見て、マリアンヌはくすっと微笑みます。

最後にエロイーズと再会したのは、音楽会でのことでした。マリアンヌが一人で桟敷に座っていると、向かいの桟敷にエロイーズがやはりひとりで現れたのです。エロイーズはマリアンヌを見ませんでした。

ヴィヴァルディの「四季・夏」の演奏が始まりました。悲しげな顔を見せ、涙さえ浮かべていたエロイーズの表情は微笑みに変わっていました。

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映画『燃ゆる女の肖像』感想と評価


(C)Lilies Films.

18世紀のフランス。画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)が開く絵画教室の生徒である少女たちの顔が順番に映し出されていきます。男性の名前を名乗らなければ作品の発表もままならなかった時代、それでも画家を目指す少女たちの真剣な眼差しが映画の冒頭を飾ります。

一人の生徒が見つけて教室に引っ張り出したマリアンヌの作品に視線が集まります。海辺の風景の中に佇む一人の女性の衣服の一部が燃えているという幻想的な作品。その絵画に宿るマリアンヌの記憶をたどって映画は進行していきます。

フランス北西部に位置するブルターニュ地方の孤島に住む伯爵夫人から娘・エロイーズ(アデル・エネル)の肖像画を依頼されたマリアンヌ。エロイーズにはミラノの男性との結婚話が持ち上がっていて、肖像画は当時の「見合い写真」の役割を果たしていました。

マリアンヌの前に来た画家はエロイーズがモデルになることを拒んだため描くことができず、伯爵夫人は、女性であるマリアンヌなら散歩を共にする友人として振る舞いながら肖像画を描けると踏んだのです。

こうして出来上がった肖像画をエロイーズは拒否します。これは自分に似て非なるものだと。拒絶されたマリアンヌは激しい羞恥を覚えます。肖像画らしきものに仕立て上げたに過ぎなかったものに満足していた自分を。技術だけに酔い、中身の伴わない空っぽの絵を仕上げてしまったことを。こうして初めて、2人はまっすぐに見つめ合うことになります。

画家とモデルの関係が、「観る」、「観られる」ものであるとばかり思っていると、実は、モデルもまた画家を観ている「観察者」であることが明かされます。受け身であるとばかり思っていたエロイーズがマリアンヌをまっすぐ観ていたことは、まさに本作が「視線の物語」であることを強く印象づけます。

そして2人が交わす視線は急速に恋する者同士の視線へと変容していきます。

伯爵夫人が留守をしている間のわずか5日間の自由で幸せな一時。使用人のソフィアも交えた女性たちは対等な立場で連帯し、マリアンヌとエロイーズは濃密な愛の時間を過ごします。

3人で訪れた島の中心部では島の集会か、祭りが行われていました。そこには女性の姿しかなく、突然、彼女たちは不思議なリズムの歌を歌い始めます。カメラは緩やかに横移動して女達の表情をとらえていきます。

しかし、間もなく、台所に配達人である男性が現れることで、女だけの豊穣な時間の終焉が告げられます。ついに別れの日がやってきたのです。

秘密の場所にマリアンヌが描いたポートレイトを忍ばせながら、記憶は宝物として胸にしまわれ、荒波の世界へと漕ぎ出す2人の女性の生きる糧となります。

映画のラスト、「最後の再会」とマリアンヌが表現した場面が展開されます。ヴィヴァルディの「四季・夏」が演奏されるコンサートホールの向かいの桟敷に現れたエロイーズの姿をマリアンヌは認めます。

カメラはマリアンヌの視線に取って代わり、長回しでエロイーズを見つめます。あの時、マリアンヌがピアノで弾いてみせた思い出の曲に耳を傾けているエロイーズ。悲しみに打ちひしがれたような表情が次第に笑顔へと変わっていく、泣き笑いともいえる感情の露出が映し出されます。

エロイーズがマリアンヌを見なかったのは、全く気づいていなかったのか、あるいは気づいていて気づかぬふりをしたのか、判断することはできません。

しかし、実際の2人の視線が2度と交わされることはなくとも、記憶を介して、彼女たちは生涯、視線を交わし続けるのでしょう。

まとめ


(C)Lilies Films.

わずか5日間の連帯と共犯の日々。女たちはギリシャ神話の竪琴の詩人、オルフェが死んだ妻を連れ戻すのに決して後ろを振り向いてはいけないと言われながら振り向いたことについて議論を交わします。

ソフィーは振り向いては行けないと言われたにもかかわらずそれを破り妻を死なせたオルフェに憤り、マリアンヌは、オルフェは妻よりも詩を選び芸術家たらんとしたのだと主張します。そしてエロイーズは、妻を愛していたがゆえに無事を確かめようと思わずふりむいてしまったのだと解釈します。

誰よりも愛を信じたエロイーズ。「振り向いて!」と叫ばれ思わず振り向いたマリアンヌ。そこにはマリアンヌが度々見た幻視と同じ白衣のエロイーズが輝いていました。

本作には、絵画や音楽や文学などの芸術が人間にとってどれほど重要であるかというセリーヌ・シアマ監督の強い思いが込められています。それはまた映画にもあてはまるのではないでしょうか。

セリーヌ・シアマ監督は長編映画監督デビュー作『水の中のつぼみ』(2007)がいきなりカンヌ映画祭「ある視点部門」に正式出品されるなど早い時期から高い評価を得てきたフランスの女性監督です。本作で第72回カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞。また、女性監督として初めてのクィア・パルム賞も受賞しています。

ちなみに村の女たちが歌う唄は民謡や宗教音楽のたぐいのものではなく、映画のオリジナル曲です。歌詞は、シアマ監督がニーチェの詩を引用しラテン語で描き下ろしたものだそうで、心を揺さぶる圧巻の一シーンが展開します。

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