Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ラブストーリー映画

Entry 2020/03/31
Update

マシュー・ボーン『ロミオとジュリエット』感想とレビュー評価。映画館でバレエ舞台を堪能【IN CINEMA】

  • Writer :
  • 石井夏子

『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』は2020年6月5日(金)より全国順次公開。

マシュー・ボーンが演出・振付を手掛けたバレエの舞台が『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』として、2020年6月5日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMAを皮切りに全国の映画館で順次公開されます。

原作はウィリアム・シェイクスピアの恋愛悲劇。設定を近未来の施設内に変更したことで、古典を瑞々しく蘇らせました。

主演2人の軽やかさも見どころながら、それ以上にティボルトやマキューシオといったサブキャラクターたちへの新たな解釈と描き方が出色の作品となっています。

映画『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』の作品情報

(C)Illuminations and New Adventures Limited 2019

【日本公開】
2020年(イギリス映画)

【演出・振付】
マシュー・ボーン

【舞台・衣装デザイン】
レズ・ブラザーストン

【照明】
ポール・コンスタンブル

【音響】
ポール・グルースイス

【音楽】
セルゲイ・プロコフィエフ

【キャスト】
ロミオ:パリス・フィッツパトリック、ジュリエット:コーデリア・ブライスウェイト、ティボルト:ダン・ライト、マキューシオ:ベン・ブラウン、バルサザー:ジャクソン・フィッシュ

【撮影場所】
サドラーズ・ウェルズ劇場

【作品概要】
スワン役を男性ダンサーたちが演じた『白鳥の湖』など、古典を大胆な解釈で再構築してきたマシュー・ボーン。彼が率いるコンテンポラリー・バレエ集団ニュー・アドベンチャーズの舞台『ロミオとジュリエット』をスクリーン用に撮影。

ウィリアム・シェイクスピアの同名戯曲の設定を近未来に書き換え、愛が禁じられた世界で激しく互いを求めあう若者たちを描きます。

音楽は1936年に発表されたセルゲイ・プロコフィエフ作曲のバレエ音楽を使用。

映画『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』のあらすじ

(C)Illuminations and New Adventures Limited 2019

近未来、反抗的な若者たちを矯正する教育施設「ヴェローナ・インスティテュート」では、看守の監視と投薬により、収容者たちは肉体も精神もコントロールされていました。

施設内は男女別に分けられているため異性とも自由に交流できません。

毎日決められた時間に訓練をし、指図されるがままに作業を続ける収容者たち。少しでも足並みを乱すと、看守ティボルトから厳しい処罰を受けます。

作業後、ミスを犯した少女をティボルトが叱責。彼女を庇ってティボルトの前に立ちはだかったのは、収容者のジュリエットでした。

ジュリエットの体を弄び、別室に連れ込むティボルト。別室から戻ってきたジュリエットは打ちひしがれます。

一方で、有力政治家モンタギュー夫妻は、問題行動の多い息子・ロミオを見放し、「ヴェローナ・インスティテュート」に入所させました。収容者のマキューシオやバルサザーから茶化されるロミオでしたが、次第に彼らと友情を育んでいきます。

ある日、施設に出入りしているローレンス牧師の計らいで、ダンスパーティーが開かれることに。パーティーでは男女の交流が許され、皆ドレスアップして異性を踊りに誘うことができます。

ですがそんな時も看守たちの目が光り、収容者たちは心から楽しむことができません。

ロミオはジュリエットを一目見て恋に落ちました。ジュリエットも彼の眼差しに気づき、心奪われます。

2人の思いに気づいたマキューシオたちは看守やローレンス牧師の目を欺き、収容者だけの自由な時間を手に入れることに成功。

ロミオとジュリエットのほか、恋人同士のマキューシオとバルサザー、そのほかの収容者たちも情熱と恋心に身を任せ、ひとときの逢瀬を楽しみます。

しかし酒に酔ったティボルトが恋人たちを引き裂き、間に入ったマキューシオを射殺。収容者たちは復讐のためにティボルトに立ち向かいますが…。

映画『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』の感想と評価

(C)Illuminations and New Adventures Limited 2019

時代とともに変化する恋の障壁

シェイクスピア作の戯曲では、宿敵同士の貴族の家柄に生まれてしまったことで悲劇が起こります。しかし、21世紀を生きる観客にとって「お家問題」は身近なことでは無くなってしまいました。

バズ・ラーマンによる映画『ロミオ+ジュリエット』(1996)では、両家を敵対するマフィア同士という設定にすることで、若き恋人たちの悲恋を現代劇として成立させました。

ですが本作において家柄は恋の障壁ではありません。ロミオの両親は体裁を気にするばかりで息子への愛の無い人物として描かれていますが、ジュリエットに関しては、家族も収容所にいる理由も明示されていないんです。

そして他の収容者たちは2人の恋路に歓迎ムード。恋に落ちたロミオを囲む男子たちのちょっと際どい会話、ジュリエットを囲む女子たちのガールズトークの場面は愛敬たっぷりでとても和やか。

そんな本作で恋人たちを阻む大きな壁となるのは、看守のティボルトです。原作ではジュリエットの従兄弟として登場し、短気な性格ゆえに両家の諍いに拍車をかけ、悲恋を加速させる役回りのティボルト。

とにかく会話が通じずキレやすい性格の彼を、本作ではヴィランとして配し、ジュリエットら収容者を執拗に追いつめます。看守という立場を利用し、女性収容者を性的にも支配している彼は、他者を慈しむことを知りません。

ジュリエットを“処罰”するときの欲望が剥き出しになった荒々しいデュエットと、狂気の身のこなしは必見です。

雄弁な肉体に魅了される

(C)Illuminations and New Adventures Limited 2019

本作はバレエ公演の映像化のため、セリフはありません。シェイクスピア劇といえばその膨大なセリフが魅力でもあります。

ですがダンサーたちの肉体は言葉よりも雄弁に語りかけ、観る者の心を揺さぶります。手先から、眼差しから、呼吸から、彼らの声が聞こえてくるんです。

原作でもロミオの友人であるマキューシオは、飄々としたキャラクターはそのまま、物語に躍動感を与えてくれます。その分、彼が不在になってしまう後半部は、遺された登場人物たちと同じく大きな喪失感に駆られました。

そしてローレンス牧師、ロミオの母、看護師を演じたデイジー・メイ・キャンプは、ダンスパートこそ少ないものの、確かな表現力で役の性別も年齢も飛び越えます。

クライマックスはシェイクスピアの別作品を彷彿とさせる展開となり、マシュー・ボーンの構成力に驚かされること間違いなしです。

原作を知らなくても、バレエ公演を観た事がなくても、収容所という小さな世界で繰り広げられる大きな物語に魅入ってしまうことでしょう。

まとめ

(C)Illuminations and New Adventures Limited 2019

マシュー・ボーン率いるコンテンポラリー・バレエカンパニー、ニュー・アドベンチャーズは、バレエの古典作品の数々を斬新な解釈により、新しい世界観に創り上げています。彼の演出・振付する舞台では、ダンサーの誰もがキャラクターとして物語の中で生きています。

それもそのはず、このカンパニーでは役を演じる時に「キャラクター・シート」というものを作る決まりがあり、そこにダンサーが自分の役柄の経歴を書き込み、役を深めているんです。また、作品に関連する映像や書籍でのリサーチも大切にしているそう。

そういった一つ一つの取り組みが、登場人物たちをダンサー自身の肉体と結びつけ、物語を大きく膨らませているんです。

2020年6月にはローレンス・オリヴィエ賞で2冠を達成した舞台『赤い靴』の来日公演も予定されているニュー・アドベンチャーズ。本作を観てマシュー・ボーンの世界観に虜になった方はぜひ生の舞台も体感してみてください。

『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』は、2020年6月5日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMAを皮切りに全国の映画館で順次公開です。

関連記事

ラブストーリー映画

高倉健映画『夜叉』あらすじネタバレと感想。ラスト結末の考察も【田中裕子のマドンナ役の演技にも注目】

高倉健と田中裕子共演のおすすめ映画『夜叉』 1960~70年代の東映の任侠モノで一世を風靡した高倉健。「午前十時の映画祭8」でデジタル・リマスター版として、健さんが1985年に元ヤクザ役の“夜叉の修治 …

ラブストーリー映画

【ネタバレ】ティファニーで朝食を|あらすじ結末感想と評価考察。オードリーヘプバーン主演作映画は名曲が彩る“目に見えないもの”への愛の物語

ヘプバーンの新たな魅力が光る珠玉の名作! 作家トルーマン・カポーティの同名小説を映画化した、女優オードリー・ヘプバーン主演のラブストーリー映画『ティファニーで朝食を』。 当時「清純派女優」として人気を …

ラブストーリー映画

【ネタバレ】同感 時が交差する初恋|あらすじ結末の感想と評価解説。リメンバーミーの感動をリメイク韓国版で再び!時を越えた出会いが導く“奇跡と恋”

『リメンバー・ミー』(2009)を20年以上の時を経てリメイクした『同感 時が交差する初恋』 映画『同感 時が交差する初恋』は2009年の『リメンバー・ミー』のリメイク版です。 1999年。韓国大 …

ラブストーリー映画

『ナミビアの砂漠』あらすじ感想と評価解説。河合優実がエキセントリックなヒロインに圧巻の演技でなりきる

映画『ナミビアの砂漠』は2024年9月6日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開 19歳にして初監督作『あみこ』(2018)でベルリン国際映画祭フォーラム部門に史上最年少で招待されるなど高く評価 …

ラブストーリー映画

映画『マチネの終わりに』文庫本のネタバレ結末。キャストに福山雅治×石田ゆりこで実写化

運命の恋と言うには簡単すぎる。 その人の存在が自分の人生のすべてになる瞬間。 芥川賞作家・平野啓一郎の累計30万部を超える人気小説『マチネの終わりに』が、福山雅治と石田ゆりこの共演で実写映画化。いよい …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学