『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』は2020年6月5日(金)より全国順次公開。
マシュー・ボーンが演出・振付を手掛けたバレエの舞台が『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』として、2020年6月5日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMAを皮切りに全国の映画館で順次公開されます。
原作はウィリアム・シェイクスピアの恋愛悲劇。設定を近未来の施設内に変更したことで、古典を瑞々しく蘇らせました。
主演2人の軽やかさも見どころながら、それ以上にティボルトやマキューシオといったサブキャラクターたちへの新たな解釈と描き方が出色の作品となっています。
CONTENTS
映画『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』の作品情報
【日本公開】
2020年(イギリス映画)
【演出・振付】
マシュー・ボーン
【舞台・衣装デザイン】
レズ・ブラザーストン
【照明】
ポール・コンスタンブル
【音響】
ポール・グルースイス
【音楽】
セルゲイ・プロコフィエフ
【キャスト】
ロミオ:パリス・フィッツパトリック、ジュリエット:コーデリア・ブライスウェイト、ティボルト:ダン・ライト、マキューシオ:ベン・ブラウン、バルサザー:ジャクソン・フィッシュ
【撮影場所】
サドラーズ・ウェルズ劇場
【作品概要】
スワン役を男性ダンサーたちが演じた『白鳥の湖』など、古典を大胆な解釈で再構築してきたマシュー・ボーン。彼が率いるコンテンポラリー・バレエ集団ニュー・アドベンチャーズの舞台『ロミオとジュリエット』をスクリーン用に撮影。
ウィリアム・シェイクスピアの同名戯曲の設定を近未来に書き換え、愛が禁じられた世界で激しく互いを求めあう若者たちを描きます。
音楽は1936年に発表されたセルゲイ・プロコフィエフ作曲のバレエ音楽を使用。
映画『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』のあらすじ
近未来、反抗的な若者たちを矯正する教育施設「ヴェローナ・インスティテュート」では、看守の監視と投薬により、収容者たちは肉体も精神もコントロールされていました。
施設内は男女別に分けられているため異性とも自由に交流できません。
毎日決められた時間に訓練をし、指図されるがままに作業を続ける収容者たち。少しでも足並みを乱すと、看守ティボルトから厳しい処罰を受けます。
作業後、ミスを犯した少女をティボルトが叱責。彼女を庇ってティボルトの前に立ちはだかったのは、収容者のジュリエットでした。
ジュリエットの体を弄び、別室に連れ込むティボルト。別室から戻ってきたジュリエットは打ちひしがれます。
一方で、有力政治家モンタギュー夫妻は、問題行動の多い息子・ロミオを見放し、「ヴェローナ・インスティテュート」に入所させました。収容者のマキューシオやバルサザーから茶化されるロミオでしたが、次第に彼らと友情を育んでいきます。
ある日、施設に出入りしているローレンス牧師の計らいで、ダンスパーティーが開かれることに。パーティーでは男女の交流が許され、皆ドレスアップして異性を踊りに誘うことができます。
ですがそんな時も看守たちの目が光り、収容者たちは心から楽しむことができません。
ロミオはジュリエットを一目見て恋に落ちました。ジュリエットも彼の眼差しに気づき、心奪われます。
2人の思いに気づいたマキューシオたちは看守やローレンス牧師の目を欺き、収容者だけの自由な時間を手に入れることに成功。
ロミオとジュリエットのほか、恋人同士のマキューシオとバルサザー、そのほかの収容者たちも情熱と恋心に身を任せ、ひとときの逢瀬を楽しみます。
しかし酒に酔ったティボルトが恋人たちを引き裂き、間に入ったマキューシオを射殺。収容者たちは復讐のためにティボルトに立ち向かいますが…。
映画『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』の感想と評価
時代とともに変化する恋の障壁
シェイクスピア作の戯曲では、宿敵同士の貴族の家柄に生まれてしまったことで悲劇が起こります。しかし、21世紀を生きる観客にとって「お家問題」は身近なことでは無くなってしまいました。
バズ・ラーマンによる映画『ロミオ+ジュリエット』(1996)では、両家を敵対するマフィア同士という設定にすることで、若き恋人たちの悲恋を現代劇として成立させました。
ですが本作において家柄は恋の障壁ではありません。ロミオの両親は体裁を気にするばかりで息子への愛の無い人物として描かれていますが、ジュリエットに関しては、家族も収容所にいる理由も明示されていないんです。
そして他の収容者たちは2人の恋路に歓迎ムード。恋に落ちたロミオを囲む男子たちのちょっと際どい会話、ジュリエットを囲む女子たちのガールズトークの場面は愛敬たっぷりでとても和やか。
そんな本作で恋人たちを阻む大きな壁となるのは、看守のティボルトです。原作ではジュリエットの従兄弟として登場し、短気な性格ゆえに両家の諍いに拍車をかけ、悲恋を加速させる役回りのティボルト。
とにかく会話が通じずキレやすい性格の彼を、本作ではヴィランとして配し、ジュリエットら収容者を執拗に追いつめます。看守という立場を利用し、女性収容者を性的にも支配している彼は、他者を慈しむことを知りません。
ジュリエットを“処罰”するときの欲望が剥き出しになった荒々しいデュエットと、狂気の身のこなしは必見です。
雄弁な肉体に魅了される
本作はバレエ公演の映像化のため、セリフはありません。シェイクスピア劇といえばその膨大なセリフが魅力でもあります。
ですがダンサーたちの肉体は言葉よりも雄弁に語りかけ、観る者の心を揺さぶります。手先から、眼差しから、呼吸から、彼らの声が聞こえてくるんです。
原作でもロミオの友人であるマキューシオは、飄々としたキャラクターはそのまま、物語に躍動感を与えてくれます。その分、彼が不在になってしまう後半部は、遺された登場人物たちと同じく大きな喪失感に駆られました。
そしてローレンス牧師、ロミオの母、看護師を演じたデイジー・メイ・キャンプは、ダンスパートこそ少ないものの、確かな表現力で役の性別も年齢も飛び越えます。
クライマックスはシェイクスピアの別作品を彷彿とさせる展開となり、マシュー・ボーンの構成力に驚かされること間違いなしです。
原作を知らなくても、バレエ公演を観た事がなくても、収容所という小さな世界で繰り広げられる大きな物語に魅入ってしまうことでしょう。
まとめ
マシュー・ボーン率いるコンテンポラリー・バレエカンパニー、ニュー・アドベンチャーズは、バレエの古典作品の数々を斬新な解釈により、新しい世界観に創り上げています。彼の演出・振付する舞台では、ダンサーの誰もがキャラクターとして物語の中で生きています。
それもそのはず、このカンパニーでは役を演じる時に「キャラクター・シート」というものを作る決まりがあり、そこにダンサーが自分の役柄の経歴を書き込み、役を深めているんです。また、作品に関連する映像や書籍でのリサーチも大切にしているそう。
そういった一つ一つの取り組みが、登場人物たちをダンサー自身の肉体と結びつけ、物語を大きく膨らませているんです。
2020年6月にはローレンス・オリヴィエ賞で2冠を達成した舞台『赤い靴』の来日公演も予定されているニュー・アドベンチャーズ。本作を観てマシュー・ボーンの世界観に虜になった方はぜひ生の舞台も体感してみてください。
『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』は、2020年6月5日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMAを皮切りに全国の映画館で順次公開です。