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Entry 2023/09/19
Update

【ネタバレ】ほつれる|映画あらすじ感想とラスト評価解説。加藤拓也監督作で門脇麦×田村健太郎が紡ぐ“愛のほつれ”の物語

  • Writer :
  • からさわゆみこ

平穏に見えた夫婦関係は静かに揺らぎ、彼女の何かがほつれはじめる。

今回ご紹介する映画『ほつれる』の監督は、劇団「た組」の主宰兼演出家として、読売演劇大賞優秀演出家賞、岸田國士戯曲賞などを受賞した加藤拓也が自らのオリジナル脚本で務めました。

物語は主人公の綿子と夫・文則との夫婦関係が、ギクシャクし冷え切っている中、友人の紹介で知りあった男性の木村と、頻繁に会うようになっているところから始まります。

綿子は木村との恋人関係を心の支えにし、夫婦関係も続けていました。そんなある日、絹子の生活を揺るがす決定的な出来事が起き、それまでの日常の歯車が狂い出します。

映画『ほつれる』の作品情報


(C)2023「ほつれる」製作委員会&COMME DES CINEMAS

【公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本】
加藤拓也

【キャスト】
門脇麦、田村健太郎、染谷将太、黒木華、古舘寛治、安藤聖、佐藤ケイ、金子岳憲、秋元龍太朗、安川まり

【作品概要】
綿子を演じたのは『愛の渦』(2014)、『渇水』(2023)など多くのジャンルでさまざまなタイプの女性を演じ、挑戦し続けている門脇麦が務めます。

綿子の夫・文則を『犬も食わねどチャーリーは笑う』(2022)、『』(2022)などの話題作でキャリアを重ねている田村健太郎が務め、綿子の恋人・木村役を『ヒミズ』(2011)で日本人初のベネチア国際映画祭・最優秀賞新人賞を受賞した染谷将太が演じます。

共演に『せかいのおきく』の黒木華、舞台を中心に活動し多くの映像作品で名バイブレーヤーとして活躍中の古舘寛治が出演しています。

映画『ほつれる』のあらすじとネタバレ

(C)2023「ほつれる」製作委員会&COMME DES CINEMAS

早朝、身支度を整えた綿子がキッチンで水を飲み終えると、リビングのソファで寝ていた夫の文則が目を覚まします。

綿子が「おはよう」と声をかけると、布団を冬用に変えていいか聞きます。彼女は了解し“こっちに”持ってきておくと答え、1人で出かけていきます。

綿子が向かったのは駅で、特急列車に乗って自分の席を探していると、誰かの姿を見つけると彼女の表情がほころびます。

彼女の目線の先にいたのは木村という男性です。2人は並んで座り互いに手をつなぎますが、木村の左手薬指にも指輪があります。

2人が来たのはグランピング場です。コーヒーキットをレンタルした綿子がテントに運ぶと、仲睦まじく自然豊かな風景を眺めながら、豆を挽きコーヒーを淹れます。

夜、テントのベッドに腰掛ける綿子に、木村はプレゼントを差し出します。それはペアリングでした。互いの右手薬指に指輪をはめると、右手を寄せ合い写真を撮りました。

綿子が誕生日のお返しのハードルが上がったと言い、夫なんか先妻に贈ったプレゼントの使い回しだと言うと、木村は自分のプレゼントも旦那の使い回しでいいと答え笑います。

翌日、帰りの特急列車の中で木村は着いたらどこかで、昼食でも食べて帰ろうと言います。綿子は誰かに会わないかと心配すると、木村は「大丈夫っしょ」と気楽でした。

列車が駅に着く頃、綿子は右手薬指の指輪を外し、財布の中にそっとしまいます。

レストランで昼食を食べながら、木村は夫から連絡はないのか聞きます。綿子は先妻との子を預かっているから、忙しいのだろうと言いました。

2人は次に会う日を約束し、食事を済ませ外に出ると、ちょうど綿子の携帯に文則から電話が入ります。木村はタクシー拾って帰ると言い、別れます。

文則は帰ったら話したいことがあると言い、綿子はその会話に応対しながら、反対方面に歩き始めてしばらくすると、自動車の急ブレーキと共に激しい衝撃音がします。

綿子が振り向くと人混みに見え隠れしながら、木村が着ていた服装とよく似た男性が倒れているのが見えます。

綿子は文則の電話を早々に切って、救急に通報しますが状況と現場を聞かれるうちに、動揺が強まり他に通報が入ってないかと聞きながら、呆然と電話を切りその場を立ち去ってしまいます。

夜、綿子が帰宅すると、文則が食事をして待っていました。そして、電話で伝えた話したいことをきり出しますが、耳に入ってこない綿子は「後でいい?」と言って、寝室に行きそのまま眠ってしまいます。

以下、『ほつれる』ネタバレ・結末の記載がございます。『ほつれる』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2023「ほつれる」製作委員会&COMME DES CINEMAS

翌日、綿子は恐る恐る、木村に電話をかけると「もしもし」と女性が出ます。綿子は木村の妻・依子だとわかり慌てて切ります。

文則の息子用にお菓子をスーパーで買っていると、親友の英梨から着信があり、1人でキャンプに出かけた木村が、帰宅途中に事故で亡くなり葬儀があると告げます。

言葉を失う綿子に英梨は「大丈夫?」と聞くと、綿子はとっさに木村とは久しく会っていないから実感がないと答えます。そして、葬儀に行くかどうかは当日決めるといいます。

帰宅すると文則の息子を連れた義母が、合鍵を使って家の中にいて綿子はそっと自室に入ります。その晩、綿子の部屋をノックする文則は母親が、留守中に勝手に家に入ったことを詫びます。

そして、話しそびれていたことを聞いてほしいと言います。綿子はそんな気分になれませんが、普段通りを装うように文則の話を聞き始めます。

彼は今の住まいを賃貸に回して家を買おうと提案し、母親には合鍵はわたさないと約束し、住宅展示場へ行きプランを立てようと言います。

話を早く切り上げたい綿子は文則の提案を了承し、「行く日が決まったら教えて」と返しますが、彼はどこか泊りに行きたいところはないか聞きます。

文則は今の状況のまま、この先何十年も一緒に暮らすのはきつい、やり直すのであればこのタイミングしかないと諭します。

翌日、木村の告別式に参列した英梨と綿子は合流します。英梨は何故、参列しなかったのかと綿子に聞きますが、「実感がわかなかっただけ」と答えます。

ある日、空港に向かうバスに綿子と文則がいましたが、バスに揺られているうちに綿子には、木村と空港に行った記憶が甦ります。

空港の展望デッキに向かいながら木村は、綿子に子どもを作ることは考えなかったのか聞き、綿子は先妻の子が思春期になった時のことを考え、作らない方がいいと思ったと答えます。

その代わりに“犬”でも飼おうかと考えていると言うと、木村は「犬かぁ……犬は嫌いだな」と返します。

空港内の飛行機が見えるカフェで、綿子と文則は一休みします。2人は出会ってからデートした場所を巡っていて、文則はこれもまたいいものだと言い、綿子は「不思議な気分」と答えます。

綿子はどこか上の空でした。そんな彼女に文則は思い出の場所に、来たくなかったのかと聞いてしまいます。

唐突なことを言われ綿子はむきになり、「行きたくなければちゃんという。文則も疲れた」と言ったと反論し、2人の会話がギクシャクしてしまいました。

翌日、綿子は英梨を呼び出して、木村の故郷である山梨まで、墓参りに連れていってほしいと頼みます。英梨はまだ、四十九日にもなっていないと怪訝そうにしますが、告別式に行かなかった後ろめたさがあると綿子は話します。

墓前で手を合わせる2人に「直樹の知り合い?」と、声をかける男性が現れます。男性は木村の父・哲也でした。

英梨は木村の元同僚で、綿子に木村を紹介してからの知人だと告げます。休憩所で哲也は木村の幼少時の話をします。

哲也と直樹の親子関係はあまりよくありませんでした。きっかけは子どもの頃に飼っていた“犬”が事故で瀕死になったことです。

可愛がっていた直樹は病院に連れていってと懇願したものの、連れていかず死んでしまってからは、口を利いてもらえなくなったと話します。

そこに綿子の携帯に文則から着信があり、その日が文則と約束した内見の日だと言われ、失念していたと答えた綿子に、文則は動揺し山梨にいる理由を確認するため、英梨や哲也に変わるよう迫ります。

自宅に戻ると文則が待ち構え、「忘れるかなぁ」とぼやきながら誰の墓参りかなど、一通り話を聞き、綿子の事情を汲み自分を納得させ、感じの悪いことをして悪かったと謝ります。

後日、内見に出かけた2人ですが、綿子が体調不良を訴えます。その日、文則は息子と会う日でしたが、それは断ると言います。

綿子は紳士靴の店に立ち寄り、文則の靴を購入します。その日は2人の記念日で、互いにプレゼントを交換するためです。

文則は記念日と同じ日のワインとプレゼントを用意していました。ワインを飲み文則はもらった靴を見て、服に合わせてみると着替えに行きます。

綿子が貰ったのは財布でした。早速、中を入れ替えようとしている時、小銭がこぼれ落ちますが入れ替えが終わった時、木村から貰った指輪がないことに気がつきます。

慌てて周囲を探し出す綿子ですが、着替えを終えた文則は上機嫌でリビングに戻りますが、綿子の反応はそっけないものでした。

彼はそんな綿子の隣りに座って手を握り、キスをしますが綿子は文則を押しのけると、部屋を出ていきます。

翌日、再び綿子はリビングや服のポケット、カバンの中などを探しますが出てきません。そして、英梨に連絡し車の中に落ちてなかったか聞きますが、分からないと言われます。

綿子はしなれていない運転で、山梨へ向かいあの日のルートを辿り、指輪を探し最後に木村の実家を訪ね、哲也に指輪のことを聞きます。

哲也は「これのことか?」と指輪を持ってきますが、それは直樹の妻・依子が見慣れない指輪が出てきたと、持ってきた物だと話します。

綿子は哲也に木村との関係を悟られ、自分の胸に納められない話だと告げられます。

その晩、綿子は温泉宿で一泊するため、文則に電話をします。居場所を聞かれ「山梨」と答えると、文則はなぜまた山梨なんだと不信感を募らせます。

翌日、綿子は木村の妻、依子から連絡を受けて会いにいきます。大学時代から付き合い結婚した依子にとって、木村の裏切りは青天の霹靂であり、既婚者と知って会っていた綿子にも疑問しかありませんでした。

その晩、帰宅した綿子に文則は指輪を差し出して、「まずは謝ろうか」と切り出し、自分にどんな非があったのか、理由を話すよう責め立てます。

すると綿子は半分開き直ったように、文則の浮気で家庭内別居になり、彼の母親の行動で苦しんでいた時に、寄り添ってくれた人だと言います。

そして、今でも文則を許していないと言い放つと、ならば離婚しようと文則も言い返しますが、綿子はその木村はもう死んでしまい、この世にはいないのだと泣き出します。

泣きじゃくる綿子は木村に会いたいとつぶやき、文則と離婚したいと告げます。肩を抱き手を握る文則は、「俺は別れたくない」と哀願します。

部屋を飛び出し夜道を歩く綿子……彼女をなぐさめ支える者は誰もいません。数日後、家の荷物がまとめられ、綿子は自動車に乗り込み発進させるとマンションを後にします。

映画『ほつれる』の感想と評価

(C)2023「ほつれる」製作委員会&COMME DES CINEMAS

“因果応報”の摂理を描いたような映画『ほつれる』は、ラストシーンから主人公・綿子の運命について、鑑賞者の考察に委ねられる形で終わります

本作は一見、平穏に見えた日常の生活も何かのきっかけで、親子の絆や夫婦の絆がほころび、すぐに補修しなければそこからどんどんほつれ、絡み合って収拾つかなくなるありさまを描いていました。

綿子と文則が結婚したのは、2人の不倫がきっかけでした。しかし、文則の不倫癖は綿子との結婚後も続き、綿子の嫌悪感から文則は家庭内別居を余儀なくされます。

文則は先妻との間にもうけた息子の面倒を見ると言いながら、母親に預けて浮気をしたのでしょう。合鍵を持っている義母が孫を連れて、家に来たことでそのことがバレたのだと推測します。

綿子は義母が勝手に家に入ることを嫌うのではなく、その行為で文則の浮気を知ったことで、猜疑心が生まれフラッシュバックしていたのだと察します。

しかし、文則はそのことに全く気づかず、一生懸命に綿子の機嫌を取る行動をしていました。綿子はそんな文則との夫婦関係に悩み、木村に話すうちに深い関係になったのでしょう。

しかし、木村にも長年寄り添った妻がいて、その妻に非があるようには感じません。綿子との関係は妻との生活に不満はないものの、木村がステイタスのように関係を楽しんでいたと思えます。

綿子もまた木村の存在ができたことで、夫への悩みが薄れこのまま両立できればそれなりに、乗り切れると短絡的に考えたのではないでしょうか。しかし、人の絆や営みは些細な“ほつれ”を見て見ぬし、放っておいたら完全に破城へ向かうことを物語っています。

木村が“犬”は嫌いと言ったのは、可愛がっていた犬の死をきっかけに、親を許すタイミングを逃して、親子関係が悪くなってしまったからともいえます。

その木村も自動車事故に遭い、綿子の通報が完全に伝われば、助かったかもしれない命を落とします。「綿子に見て見ぬふりをされたがために死んだ」としか思えてなりません

倒れていたのが木村であってもそうでなくても、通報できなかった綿子の行動は保身しか感じず、木村が亡くなったと知っても、支えを失って不安しかないという身勝手さが際立ちます。

それは綿子が略奪愛の末に結婚したにも関わらず、自分も浮気され夫婦関係が危うくなり、許すタイミングを逃し、木村との出会いで軽率な行動に移したからです。

綿子へのイメージは、自分がいかに可哀そうなのかを装い、同情を得ながら生きてきた女性なのではないかと、感じざるを得ません。

それゆえに略奪愛の経験のある綿子に、既婚者の木村との関係に背徳心があったとは思えず、「何が彼女をそうさせているのか?」という疑問が残ります。

この因果応報的な綿子の運命は、自業自得ともとれます。自分の行いを見なかったことにして、過ちから信頼を取り戻そうとする、夫の努力にも見てみぬふりをした結果、綿子の未来には何があるのでしょうか?

文則に対しては嫌悪感があり綿子に共感できる反面、終盤は文則に同情し綿子に対して同情できない自分に気がつきます。

木村の死、文則との離婚は綿子にとって、人生のリセットになったのではないでしょうか?全てを壊して一からやり直す……それができる強かさが、綿子の表情に見受けられたからです。

綿子が見せる憂いは一過性のもので、ある種の処世術のように、何かに依存しながら生きる、天性の才能が具わっているのだと感じました。

まとめ

(C)2023「ほつれる」製作委員会&COMME DES CINEMAS

映画『ほつれる』は何気ない平穏な生活も、軽はずみな言動や行動、思いやりに欠く自己中心的な感情によって、完成を見ない編み物の糸がほつれていくような、儚い絆を感じさせます。

平穏な人生など稀であり、人は過ちを犯したり、裏切りをうけながらも反省し修復を試みたり、許したりしながら編み上げていくものです。

しかし、我を通すあまり同じ過ちを繰り返しながら、安住を得られない人生もありうるのだと、この映画から感じました。

もしも、出会った人を心から愛し大切な存在だと思うなら、絆を守ろうと努力をしたり、努力を認め許すでしょう。

つまり大切な絆にほつれが生じたなら、放置せず互いに歩み寄る努力が必要で、それができるか否かで運命も変わるのだと、本作では訴えかけています。

本作は誰にでも心当たりのある心情や経験を描き、共感を呼ぶ作品です。しかし、物語の途中で主人公(ある意味自分)の、選択肢によって人生は何通りもあり、正解はないことを描いていました。




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