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【ネタバレ】アナログ|映画あらすじ感想評価と結末解説。ラスト“水色”で探る二宮和也/波瑠主演作が描く“本当の幸せへ続く道”とは

  • Writer :
  • 岩野陽花

恋したその人は、携帯電話を持っていなかった……
“アナログ”な恋の先にあった“本当の愛と幸せ”とは?

“映画監督・北野武”として数々の名作を生み出してきたビートたけしが、2017年(当時70歳)に初めて書き上げた恋愛小説を映画化した『アナログ』

他者とのコミュニケーションツールが無数に存在する現代社会で、携帯電話を持たない女性に出会った主人公の恋愛と本当の幸せの行方を描き出します。

ラーゲリより愛を込めて』(2022)の二宮和也が主人公を、『弥生、三月-君を愛した30年-』『ホテルローヤル』(ともに2020)の波瑠がヒロインを、『鳩の撃退法』(2021)のタカハタ秀太が監督を務めた本作。

本記事では映画のネタバレあらすじ紹介とともに、映画作中で登場する「“アナログ”が常に在り続ける場所」で主人公たちの記憶が“共有”される意味、映画序盤・終盤での「ある色」を通じて描かれる人間の“本当の幸せ”へつながる関係性などを考察・解説します。

映画『アナログ』の作品情報


(C)2023「アナログ」FP(C)2023 T.N GON Co., Ltd.

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
ビートたけし『アナログ』(集英社文庫刊)

【監督】
タカハタ秀太

【脚本】
港岳彦

【インスパイアソング】
幾田りら『With』

【キャスト】
二宮和也、波瑠、桐谷健太、浜野謙太、藤原丈一郎、坂井真紀、筒井真理子、宮川大輔、佐津川愛美、鈴木浩介、板谷由夏、高橋惠子、リリー・フランキー

【作品概要】
“映画監督・北野武”として数々の名作を生み出してきたビートたけしが、2017年(当時70歳)に初めて書き上げた恋愛小説を映画化。『ラーゲリより愛を込めて』(2022)の二宮和也が主人公を、『弥生、三月-君を愛した30年-』『ホテルローヤル』(ともに2020)の波瑠がヒロインを演じた。

主人公の友人役を演じた桐谷健太、浜野謙太の他、板谷由夏、坂井真紀、筒井真理子、高橋惠子、リリー・フランキーなど名キャスト陣が“アナログ”で純粋な物語を支える。また監督を『鳩の撃退法』(2021)のタカハタ秀太が担当した。

映画『アナログ』のあらすじとネタバレ


(C)2023「アナログ」FP(C)2023 T.N GON Co., Ltd.

水島悟(二宮和也)は、手製の模型や手描きのイラストなど、“アナログ”だが時間をかけた丁寧な仕事にこだわるデザイナー。しかし彼は、自身が店舗の内装を手がけた案件の評価を上司・岩本(鈴木浩介)にとられても何も言わないなど、どこかその仕事に自信を持てずにいました。

ある日、悟は小学校以来の友人である高木(桐谷健太)と山下(浜野謙太)との待ち合わせのため、自身がかつて内装をデザインした喫茶店「ピアノ」に訪れます。そして、そこで偶然「美春みゆき」という女性(波瑠)と出会いました。

窓扉の取っ手やトイレのペーパーホルダーなど、「誰も気づいてもらえない」と思いつつもさり気なく施していた自身のこだわりを良いと褒めてくれたみゆきに、思わず喜ぶ悟。店で別れた後、すでに彼の心は運命を感じてしまうほどに彼女へ惹かれていました。

そんな悟の浮かれようは、入院中である病床の母・玲子(高橋惠子)にも気づかれ、「結婚しな」とまで言われる始末。ところがみゆきの方も、イタリアでオーダーメイドされた物であり亡き母の形見でもあったバッグを「素敵だ」と言ってくれた悟を意識し始めていました。

徹夜での仕事後、「ピアノ」を訪れた悟はみゆきと再会。店に入る前に、徹夜明けのヒゲをコンビニで慌てて買ったヒゲ剃りで剃った結果、びしょ濡れで彼女と会うことになってしまいましたが、食事への誘いをみゆきは快く了承してくれました。

楽しい時間を過ごした後、みゆきとまた会いたいと思った悟は連絡先を交換しようとしますが、みゆきは携帯電話を持っていないと答えます。そして「毎週木曜日の同じ時間に、何もなければ『ピアノ』で会う」「お互いに会いたい気持ちがあれば、また会える」と告げました。

みゆきとの約束後、悟は大阪へ出張に。約束してから最初の木曜日に「ピアノ」へ行けるようにすべく、徹夜をしてでも仕事を片付けようとしましたが、結局トラブルのせいで出張は延び、木曜日に店へ行くことはできませんでした。

次の木曜日、みゆきと無事会えた悟は最初の木曜日に店へ行けなかったことを詫びますが、「そういう約束ですから」とみゆきは許してくれました。

悟はその日、焼き鳥屋での食事に誘いましたが、みゆきは焼き鳥屋に行くこと自体が初めてのようでした。また別れ際、みゆきは「好きなもの」としてクラシック音楽のことを語ってくれました。

その後も順調に仲が深まっていく中、ある週の木曜日、悟はみゆきをクラシックコンサートへと誘います。ところが演奏の最中にみゆきは涙を浮かべたかと思うと退席し、追ってきた悟に「ごめんなさい」と謝ると会場を後にしました。

それから2週間、みゆきは「ピアノ」に現れませんでした。

また悟が再び大阪へ出張していた間に、母・玲子が亡くなりました。木曜日に通夜を執り行ったため、悟はその日「ピアノ」へ行くことはありませんでした。

翌週の木曜日、久々に「ピアノ」で会った二人はお互いに謝ります。みゆきは「昼の美しさが分かる」という夜の海へと誘い、そこで悟は亡き母との海の記憶を思い出し、涙します。そんな彼のことをみゆきは抱きしめました。

それからは毎週会うようになった二人は、初めて夜ではなく「昼」にデートをすることになり、やはり海へと向かいます。

砂浜に落ちていた凧で遊んだ後、その凧糸を用いて作った糸電話で言葉を交わす二人。その中で悟は「あなたに何があったのか僕には分かりませんが、僕は全て受け止めます」「これからも一緒に歩いていきたい」と告白しました。

波の音のせいで、悟の声が届いたのかは定かではありません。みゆきは糸電話越しに何かを口にしましたが、その声が悟に届くことはありませんでした。

悟はついに、みゆきへのプロポーズを決意。購入した指輪を手に「ピアノ」と向かいましたが、その日はちょうどみゆきに急用ができてしまったため、わずかな時間しか会えなかったものの「来週、ちゃんとお話ししたいことがある」と伝えた悟に、彼女は「私もです」と答えてくれました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『アナログ』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『アナログ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2023「アナログ」FP(C)2023 T.N GON Co., Ltd.

ところが翌週の木曜日、みゆきは「ピアノ」に現れませんでした。

その後も悟は店に通い続けたものの彼女と会えず、次第に自分の“重さ”が嫌になったから会わなくなったのだろうと諦めた彼は、木曜日に店へ通うことを止めました。

それから1年半後。以前から進めていたプロジェクトのために大阪に常駐し仕事を続けていた悟は、わざわざ大阪へと尋ねてきた高木・山下と久しぶりに再会します。

高木・山下は、自分たちが悟のもとに来た理由……どうしても直接彼に話さなくてはならないと感じた「みゆきの過去」について語り始めます。

ある時、山下の妻・香織(佐津川愛美)はラジオ局での仕事の際に、もう必要がないからと大量に譲られた音楽素材用のCDを家へ持ち帰りました。山下がそのCDの山を何気なく見ると、ある一枚のCDのジャケットにみゆきの姿が写っていたのです。

ジャケットに写っていた女性は、天才的ヴァイオリニストとして知られる「ナオミ・チューリング」。旧姓は「古田奈緒美」である彼女は、留学中に出会ったピアニストのミハイルと20歳で結婚しましたが、元々病弱であったミハエルの急死を機に日本へ帰国し、音楽界を引退しているとのことでした。

そして高木はネット上で、奈緒美がタクシーに乗っていた際に交通事故に遭い重態に陥ったというニュース記事を見つけていました。その事故が起きた日こそが、悟が“みゆき”にプロポーズをする予定だった“木曜日”だったのです。

山下と香織のツテで、奈緒美の姉・香津美(板谷由夏)と会った悟。事故によって脳障害と下半身麻痺が残り、意識はあるものの意思の疎通はできない奈緒美は、悟が知る“みゆき”とは違うと伝えられますが、それでも悟は彼女に会いたいと願いました。

病院で再会した“みゆき”……奈緒美に悟が声をかけても、彼女が反応をすることはありませんでした。

後日「ピアノ」へ久方ぶりに訪れた悟は、そこで会った香津美から奈緒美の自室で発見された彼女の日記を見せられます。そして「読んだら忘れてほしい」という約束のもと、日記を読むように促されました。

……日本への帰国後は知人の輸入商社に勤め、本名も世間に知られているがゆえに「美春みゆき」という仮の名で日々を過ごしていた奈緒美は、心が落ち着ける場所だった「ピアノ」を作ってくれた張本人である悟と店で出会いました。

素性や過去を無理に聞かず、自分を“温かい場所”へと連れて行こうとしてくれた悟に惹かれていった奈緒美。

玲子の通夜があった木曜日には、「ピアノ」に高木が現れて事情を説明してくれたことで、彼女は「悟のそばにいたい」と思い、それが悲しみの中にある彼のためだけでなく、自分自身が求めている願いでもあることに気づきました。

ある時訪れた昼の海で、悟は糸電話越しに告白してくれた。そして「悟さんと生きていきたい」と答えた。遠ざけていたヴァイオリンにも久しぶりに触れ、私が捧げていたのはこういう音楽だと明かすためにも、いつか悟に演奏を聴かせてあげたい……。

事故に遭う前に、携帯電話も購入していたという奈緒美。

後日、奈緒美がリハビリ治療を受け続ける病院へと再訪した悟は、奈緒美のこれからの生活を手伝わせてほしいと香織に願い出ます。

香織は日記を読ませてしまったことを詫び、悟の人生を気遣いながらも「妹の今後の生活は、私たち“家族”には一生続くこと」「あなたはあくまでも“他人”」と厳しい本音を告げます。

しかし、それでも悟は「自分はみゆきさんと“家族”になろうとした」「少しでも会うことを許してください」と頭を下げました。

悟はそれまでの会社から独立し、海のそばに個人事務所を建てました。避けていたリモート通話や3Dモデルでの模型作成なども駆使し、元上司の岩本に案件の発注を回してもらえたのもあって仕事が軌道に乗った中、毎週木曜日には退院した奈緒美と会い散歩するという日課を続けていました。

散歩中、どれだけ声をかけても奈緒美からの反応はありません。ある時、教会に訪れた際に悟は「結婚してくれませんか」と口にしますが、やはり奈緒美は何も応えませんでした。

一年後、その日も奈緒美と散歩に出かけた悟は、いつもの海に訪れていました。そして奈緒美の家へ戻ろうと、彼女が乗る車椅子の手すりに手をかけた瞬間、奈緒美は悟の手に触れました。

口を動かすも、うまく発声ができない奈緒美に「何か言いたい?」と優しく促す悟。

奈緒美はかすれた声で「今日、木曜」と呟きました。「はい」「今日からずっと“木曜日”です」……悟の目から流れる涙を、奈緒美は覚束ない自らの手で拭いました。

「寒いから帰ろうか」という言葉に微笑んでくれた奈緒美とともに、悟は海を後にしました。

映画『アナログ』の感想と評価


(C)2023「アナログ」FP(C)2023 T.N GON Co., Ltd.

“積み重なり”を“積み重なり”で表現する

“映画監督・北野武”として数々の名作を生み出し、2023年11月には『首』が公開予定のビートたけしが、2017年(当時70歳)に初めて書き上げた恋愛小説『アナログ』。

ビートたけし曰く「全てがデジタル化されている世界だからこそ、当たり前の“誰かを大切にする”という気持ちを書きたくなった」という理由から執筆された小説を映画化した本作は、手製の模型や手描きのイラスト、オーダーメイドのバッグ、クラシック音楽、糸電話など、小説・映画のタイトル通りアナログな物たちが登場します。

連続する量を不連続な“数値”により標本化・量子化することで表現する「デジタル」に対して、連続した量を別の連続した量によって表現する「アナログ」

携帯電話やSNSなどのデジタル化されたツールに依存するのではなく、「毎週木曜日に会う」という約束の時間の積み重ねにより、お互いの募り続ける想いを確かめ合っていった悟と奈緒美の“つながり”の育み方は、まさに“アナログ”の思考に基づく表現といえます。

“アナログ”な海で記憶を“共有”する意味


(C)2023「アナログ」FP(C)2023 T.N GON Co., Ltd.

また映画作中では、悟と奈緒美の「記憶」というそれぞれが現在までに積み重ねてきた時間も、やはり“アナログ”が常に在り続ける場所……波という自然現象が絶え間なく連続して起こり、それを通じて見る者に“時間の積み重なり”を認識させる場所によって“共有”される様も描いています。

その場所こそが、「海」です。

早くして父が亡くなった後、母・玲子が働き詰めとなり旅行に行くことは中々できなかった悟にとって、幼い日に海へ潮干狩りに行った思い出は、母が亡くなった時にも思い出すほどに大切な記憶でした。

また奈緒美にとっても海は、かつての夫・ミハイルとの幸福の記憶、そして彼を早くして亡くしたという哀しみの記憶がともに眠るヨーロッパと日本をつなぐ場所でもありました。

たとえ“情報”として共有しなくとも、海という“時間の積み重なり”を認識できる場所にともにいるだけで、お互いの秘められた記憶を共有していく……。

それもまた、デジタル技術によって情報の共有が圧倒的に容易にはなったものの、情報の量産や複製、偽造も容易になったがために、情報への依存や不信感もはるかに強まり、他者との関係性の育み方を見失ってしまった現代社会に対するアンチテーゼともいえる“つながり”の育み方を描いているのです。

まとめ/“積み重ねられた時間”を尊重し合える関係


(C)2023「アナログ」FP(C)2023 T.N GON Co., Ltd.

映画序盤で奈緒美が持っていた、母の形見だというオーダーメイドのバッグ。その色も、どこか海の色を連想させる「水色」をしていました。

また映画終盤、悟との日課の散歩の際に奈緒美が着ていたコートも「水色」だったのは、そのコートを贈った誰かが「水色」に秘められた奈緒美の記憶……たとえ事故に遭っても失われることのない、彼女の中にある“積み重ねられた時間”を感じとっていたからでしょう。

自分自身のみならず、他者の“積み重ねられた時間”=“人生”をも尊重する。

それは、当たり前のことであるがゆえに日常において見落とされがちであり、結果として他者を傷つける原因となってしまうことでもあります。

だからこそ、生まれや境遇、性別や年齢に関係なく、“積み重ねられた時間”を真に尊重し合える関係性こそが、本当の幸せへと続くのではないか……映画『アナログ』は“恋愛”という関係性の一つの形を通じて、そんなありふれた“大切さ”を描いているのです。




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