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Entry 2023/02/25
Update

『私の頭の中の消しゴム』ネタバレあらすじ結末と感想考察。切なくて泣ける恋愛ラブストーリーを“記憶を失くしていく”ヒロインと共に描く

  • Writer :
  • 谷川裕美子

アルツハイマー症に冒されたヒロインの悲しき愛

韓流スターのチョン・ウソンとソン・イェジンが共演した悲しくも美しい純愛ストーリー。

若年性アルツハイマー症というあまりにも辛い試練に直面した恋人たちの姿が切なく描かれます。

深く愛し合い幸せだったはずの夫婦が、記憶を失っていく病に冒されたことから絶望に陥ります。

彼らが失ったもの、そして手に入れたものとはいったい何だったのでしょうか。

人を愛することの意味について考えさせられる、珠玉のラブストーリーの魅力をご紹介します。

映画『私の頭の中の消しゴム』の作品情報


(C)2004 CJ Entertainment Inc.

【公開】
2005年(韓国映画)

【監督・脚本】
イ・ジェハン

【出演】
チョン・ウソン、ソン・イェジン、ペク・チョンハク

【作品概要】
ドラマ『愛の不時着』(2020)や映画『ラブストーリー』(2004)『四月の雪』(2005)で人気の女優ソン・イェジンと、映画『MUSA/武士』(2003)『スティール・レイン』(2021)のチョン・ウソン共演で描く感涙必至の韓国純愛ストーリー。

27歳にして若年性アルツハイマー症になってしまったヒロインとその夫との、悲しくも熱い恋を描きます。

映画『私の頭の中の消しゴム』のあらすじとネタバレ


(C)2004 CJ Entertainment Inc.

建設会社の社長の娘・スジンは、建築家志望のチョルスと出会いました。粗野だけれど優しい彼は、ひったくりにあったスジンを荒っぽい方法で助けます。

それからすぐに恋に落ちたふたり。社長令嬢のスジンとの身分の違いを気にしていたチョルスでしたが、彼女の一途な想いに心を開きます。ふたりの仲に反対していた父も、娘の真剣な想いを理解して結婚を認めました。

ふたりは幸せな新婚生活を迎え、チョルスは建築士の資格を取得します。生活はすべて順風満帆でした。

しかし、しばらくするとスジンは物忘れがひどくなり、自宅への帰り道も忘れてしまうようになります。

チョルスは自分を捨てた母を許せずに苦しんでいましたが、スジンに説得されて刑務所に会いに行きました。母から汚く罵られながらも、彼は母の借金を肩代わりしてやります。

一方、スジンの元不倫相手の上司・ヨンミンが海外赴任から戻ってきます。

ひどい物忘れが心配になり病院で診察を受けたスジンは、若年性アルツハイマー症だと診断されました。医師からは少しずつ記憶が消えていくことを告げられ、肉体的な死より先に精神的な死がくるからその準備するようにと厳しいことを言われます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『私の頭の中の消しゴム』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『私の頭の中の消しゴム』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2004 CJ Entertainment Inc.

急に仕事を辞めると言い出したスジンをいぶかしがるチョルス。妻の様子がおかしいことに気づいたチョルスはひとりで病院に行き、彼女の病名を聞きました。真実を知った彼は動揺します。担当医師もまた、妻を同じ病で亡くしていました。

そのころ、会社に事情を説明に向かったスジンは道で倒れ、警官に保護されます。スジンは混乱し、やってきたヨンミンに支離滅裂なことを言ってしまいました。

心傷つき、いつかチョルスと行ったバッティングセンターにいくスジン。迎えにきたチョルスに、スジンは別れようと言います。しかし、魂は消えないから自分に任せてとチョルスは言い、彼女の手を取りました。

スジンの記憶を助けるために、部屋の中はチョルスの書いたメモだらけになっていきました。会社に残っていた彼女の私物を持ってきたヨンミンを見たスジンは記憶が混乱し、自分が結婚していることを忘れて、ヨンミンに捨てないでとすがります。

帰宅したチョルスはその様子を見てしまい、ヨンミンをひどく殴りつけます。そこに、スジンからパーティーに招かれていた両家の家族が現れました。

スジンの父は、チョルスに娘の世話は無理だと言います。チョルスは自分がスジンをみると答え、みんなの前で失禁してしまった妻の世話を必死でしてやります。

時が過ぎ、スジンはチョルスをヨンミンと呼び、愛してると言うようになりました。チョルスは笑顔で自分もだと答え、ドアを出てから涙を流します。

最近のことから記憶が消えていくと医師から教えられても、チョルスはスジンが本当に愛していたのは昔の恋人なのではないかと疑ってしまいます。

ある日、突然奇跡的にさまざまなことを思い出したスジンは、その場に泣き崩れました。そして、「愛するチョルス」と書いた手紙を残して姿を消します。彼女は記憶が確かな時間に、自分はチョルスだけを愛していると必死で書きつけていました。

それからしばらくして、いなくなったスジンから手紙が届きました。チョルスは消印だったカンヌン市へ車を飛ばします。記憶が一瞬戻った彼女は、チョルスに別の人と幸せになってほしいと手紙に綴っていました。

スジンのいる療養施設にたどり着いたチョルス。スジンはチョルスの顔をクロッキー帳にずっと描き続けていました。

それでも自分を思い出せずにいるスジンに、チョルスは初めましてとあいさつします。スジンはチョルスのコロンの匂いに記憶を取り戻しそうになりますが、結局思い出せませんでした。チョルスは涙を隠すために、慌ててサングラスをかけます。

昔出会ったときのように、コンビニの入り口でスジンに缶ジュースを渡すチョルス。しかし、それを受け取らずに彼女は店内に入ります。中には彼女の家族や主治医たちがいました。

ここは天国なのかとチョルスに聞くスジン。彼は笑顔ではいと答え、スジンも涙を流しました。

ふたりは手を取り合って車に乗り込みます。チョルスは「愛してる」と初めて口にし、スジンは彼を抱きしめました。

映画『私の頭の中の消しゴム』の感想と評価


(C)2004 CJ Entertainment Inc.

愛し愛される奇跡

悲しい恋の行方を描いた名作映画『私の頭の中の消しゴム』。27歳にして若年性アルツハイマー症に冒されたヒロインのスジンは、タイトル通り頭の中に消しゴムで消されたかのように、記憶を次々に失っていきます。

純粋すぎて傷つきやすいヒロインのスジンを好演しているのは、映画『ラブストーリー』(2004)『四月の雪』(2005)で人気の実力派女優ソン・イェジンです。近年ではドラマ『愛の不時着』(2020)が大ヒットし、再ブレイクを果たしました。

主人公チョルスを演じるチョン・ウソンのフェロモンの威力には圧倒されます。暴力的ともいえるほどの色気に、スジンが瞬く間に恋に落ちるもの納得です。彼は社長令嬢のスジンに劣等感を持ち、自分を捨てた母へのトラウマに捕らわれていましたが、スジンと結婚した後は自信を持ち輝き始めます。

ヒロインのスジンは以前上司と不倫して別れたことがあり、そのことによって強いストレスを経験してきました。チョルスの真意がわからないなかで父から交際に反対された際には雨の中で倒れて記憶を失くすなど、精神的にはとても不安定な女性です。後にアルツハイマー症と診断されることを思うと、病気も大きく関係していたに違いありません。

お互いに心に傷を負っていたチョルスとスジンは、紆余曲折の末に幸せな結婚生活を手に入れました。しかしまもなく、スジンはさまざまな記憶が抜け落ち始めた末に、若年性アルツハイマー症という残酷な診断を受けます。

辛い運命が降りかかる中、スジンが口にした「忘れちゃうからやさしくしないで」という言葉に涙が止まりません。

チョルスの手によって無数にメモが貼られた部屋。記憶の欠片をかき集めたかのようなその空間は、まるで愛の墓標のようです。

ふとしたことをきっかけに、突然スジンに甦る記憶。すべてを思い出せば、嗚咽するしかないスジンはあまりにも哀れです。

思い出せることは幸せなのでしょうか。それとも、ただ残酷なだけなのでしょうか。

気まぐれのように訪れる奇跡の時間にスジンは必死にしがみつき、チョルスに愛のメッセージを書きつけます。彼女はその貴重な瞬間を、ただ彼の魂を救うことだけに使い切りました。

愛することにすべてを捧げられることは、やはり幸せといえるのではないでしょうか。どんなに辛く苦しくとも、愛を伝えられるという喜びに勝るものはないことを強く訴えかける作品です。

記憶の底に眠る真実の思い


(C)2004 CJ Entertainment Inc.

本作にはたくさんの名シーンがありますが、中でも特に印象深いシーンがあります。ラスト近く、チョルスが消印を頼りに訪ねていった療養施設での場面です。

ベランダにいたスジンは、クロッキー帳に似顔絵を描いていました。抽象画のように見える、幼い子どもが描いたかのようなつたない絵です。しかし、前のページへと遡るとどんどん写実的になっていき、その顔がチョルスであることがはっきりと見てとれます。

何日か前まではくっきり描けていたはずのスジンが、今はもうそういった能力も衰えていることが手に取るようにわかってしまうシーンです。

描くことが出来ていた頃も、描けなくなった今も、彼女はチョルスを覚えてはいませんでした。それでも彼女は、彼の顔だけを描き続けます。

「記憶」という壁をも越え、彼女のチョルスへの愛はもはや本能に近いものになっていたのかもしれません。

コロンの匂いを嗅いで記憶を取り戻しそうになりながらも、結局思い出せないままだったスジン。しかし、チョルスは、彼女の心の奥底にある自分への愛をはっきりと見ることができたに違いありません。

まとめ


(C)2004 CJ Entertainment Inc.

人気実力派俳優のチョン・ウソンとソン・イェジンのコンビが奏でる、切ないラブストーリー『私の頭の中の消しゴム』。

もし自分が同じ病に冒されたら、または、もし自分の恋人が同じように記憶を失くしてしまったとしたらあなたならどうしますか?

作中で医師は「肉体的な死より先に精神的な死がくる前に準備するように」と言いますが、いったいなにをすべきだといっていたのでしょう。生前整理を指して言っていたのであれば、スジンはその類についてはなにもしていなかったに違いありません。

しかし、彼女は一番大切なことを成すことができました。それは、愛する人に「愛している」と伝えることです。彼女は精一杯愛を叫び、チョルスはそれによって魂を救われました。彼女自身もまた、そうすることで救われたに違いありません。

どうしようもなく悲しい物語ですが、お互いがお互いの魂を救ったことを思うと、本作はやはりハッピーエンドに思えてならないのです。





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