市川拓司のベストセラー小説を新たに韓国で映画化
映画『Be With You~いま、会いにゆきます』は、『ただ君だけ』、『王の運命(さだめ)歴史を変えた八日間』のソ・ジソブと『私の頭の中の消しゴム』、『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』のソン・イェジンが共演。
公開わずか15日で韓国動員200万人を突破するという大ヒットとなりました。
監督のイ・ジャンフンは8年前、原作を初めて読み、2015年には映画化に向けての準備を開始。優しく麗しい暖かな作品を生み出しました。
誰もが心を打たれる珠玉のラブストーリー『Be with Youいま、会いにゆきます』は、現在、シネマート新宿、シネマート心斎橋にて絶賛好評上映中です!
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CONTENTS
映画『Be With You~いま、会いにゆきます』のあらすじ
スアは息子のジホに、一つの絵本を残していました。
それは死んだ母親ペンギンの話です。母親ペンギンは毎日、この世と天国の間の雲の上から息子の成長を見守っていました。
雨の季節になり、母親ペンギンは地上に戻ってきました。
幸せな日々が過ぎていきますが、ついに母親ペンギンが帰る日がやってきました。
もし遅れると母親ペンギンは天国に行ってしまい、もう二度と息子の成長を観ることはできません。
母親ペンギンは笑顔で子供ペンギンとお別れを交わし、子供ペンギンもまた笑顔で母親を見送りました。そんな物語でした。
ジホは雨の季節がきたら亡くなったお母さんが帰ってくると信じていました。
妻が亡くなってから、家事も何もかも一人でまかなっているウジンは、母親が帰ってくると信じているジホンを気遣いますが、否定はせずに待ってみようと声をかけます。
一年が過ぎ、梅雨が始まったある夏の日、ジホに引っ張られる形で、廃線を歩いていたウジンは、トンネルに女性が一人うずくまっている姿をみつけます。
「お母さんだ!」と駆け寄ろうとするジホをたしなめながら、ゆっくり近づいていくウジン。
それは間違いなく生前と同じ姿のスアでした。
しかしスアは記憶を失っていて、ウジンもジホも覚えていませんでした。
それでもスアが側にいるというだけで、ウジンとジホはこれ以上無い幸せな気分に包まれます。
スアは、ウジンに2人の馴れ初めを尋ねました。ウジンは、2人が出会った高校時代の話を始めました。もどかしいような2人の恋の過程が語られていきます。
スアはすぐに昔のように2人を愛し、3人に幸せな日々が戻ってきました。しかし、やがて梅雨が終わる時が近づいてきました・・・。
映画『Be With You~いま、会いにゆきます』の解説と感想
リメイク作品に対する韓国映画の心意気
本作は2004年に、市川拓司のベストセラー小説を竹内結子&中村獅童の主演で映画化し大ヒットした『いま、会いにゆきます』(土井裕泰監督)のリメイク作品です。
韓国の日本映画のリメイク作品といえば、伊坂幸太郎の原作を映画化したカン・ドンウォン主演の『ゴールデンスランバー』、(2018/ノ・ドンソク)が記憶に新しいところでしょう。
2010年の中村義洋監督、堺雅人主演の日本版とはまったく違う結末が意表を突き、新しい感動を生み出していました。
このように、韓国が制作するリメイク映画はオリジナルや原作をリスペクトし、その持ち味をいかしながらも、時に大胆なアレンジをして独自の面白さを加味しているものが多いのが特徴です。
例えば、ジョニー・トー監督の香港映画『天使の眼、野獣の街』(2007)のリメイク『監視者たち』(2013/チョ・ウィソク、キム・ビョンソ)は、派手なアクションシーンを大幅に増やし、実にパワフルな作品に仕上げていました。
自分たちならこう作る、こうすればもっと違う感動、もっと違う興奮が生み出されるのではないかという作り手の心意気がそこには宿っているのです。
韓国映画が作るリメイク作品はそんな点で非常にお薦めなのです。
笑いと哀しみが同居する名場面
『Be With You~いま、会いにゆきます』もまた、原作、映画が持つ雰囲気を大切にしながら、まったく別の作り方をしています。
何よりも笑いが豊富なのが特徴です。この作品でこんなに笑わせられるなんてと驚くほどですが、それが作品の爽やかさを損ねるどころか、キャラクターの味わいとしていかされているのです。
コメディーリリーフとして出演しているホング役のコ・チャンソクもいい味をだしていますが、ウジンとスアの二人が出会う高校時代のエピソードが秀逸です。
ダンスのペアを組んで、黒歴史としかいえないような赤っ恥を面前にさらしてしまう二人。そのぎこちなくあまりにもどんくさい様に思わず吹き出してしまいます。
穴があればはいりたいような、記憶から消したいような恥ずかしさと情けなさが画面に溢れ、傍から見ていれば笑いでしかないものが、当人にとっては泣きたくなるような出来事として心に刻まれます。
記憶喪失のスアがウジンの話を聞いて、「結局高校時代はなにもなかったのね」と言うほど、恋の発展が何一つないのも彼ららしく、あまりにも不器用な2人を愛さずにはいられなくなってしまうのです。
誠実に作られた胸を打つラブストーリー
それにしてもなんて優しく美しい映画に仕上がっているのでしょうか。
冒頭のペンギンの絵本なども、一つ間違えば、あざとくなってしまうのですが、素直に可愛いと思わせ、かつ感動的なものになっています。
それは造り手が誠実に真摯にこの作品に臨んだ証拠です。韓国映画といえば、感情を激しく揺さぶり、これでもかと泣かせてくる作品が多いという印象がありますが、この作品は、”泣かせのテクニック“とか、”こうやったら観客は泣くだろう”というような、小手先の安易な作り方は一切していません。
丁寧に主人公たちの心を掬い取り、見つめることで、じわじわと観るものの心を癒やし、感動を呼び起こすのです。
降り続ける雨や、雨に濡れた緑溢れる景色のロングショット、廃線の厳かで、いささか謎めいた雰囲気など、風景の美しさも瑞々しく忘れがたいものがあります。
若い頃に体調を壊し、激しい運動ができないウジンを演じるソ・ジソブの静かで穏やかで、人の良さそうな演技がこの映画の基盤をなしています。
映画全体に流れている暖かさは彼の存在によるところが大きいでしょう。
また、スアを演じるソン・イェジンのちょっとひねくれた感じもキュートで、「いま、会いにゆきます」というセリフを彼女が発する時、映画は最高潮を迎えます。
このスアの感情が溢れ出るシーンの畳み掛けるような演出は鮮やかで、イ・ジャンフン監督の力量を強く感じさせます。
まとめ
原作では主人公のウジンは元陸上選手ですが、本作では元水泳選手となっています。
それは、ソ・ジソブが子供の頃から水泳選手として活躍し、国家代表選手に選ばれたこともあるという経歴の持ち主であるゆえでしょうか。
それにより、水の要素が強まり、梅雨の季節のイメージをさらに膨らませることに成功しています。
また、プールそのものや、プールで泳ぐ人々は青春映画に欠かせない象徴的な存在であり、高校時代の場面ではとりわけウジンが水泳選手であるということが、映画を輝かせます。
ウジンの高校時代を演じたイ・ユジンとスアの高校時代を演じたキム・ヒョンスも初々しく清潔感に溢れ、実に瑞々しい演技をみせてくれます。
今時珍しい、心洗われる暖かで誠実な作品になっており、しみじみと優しい気持ちにさせられるのです。
『Be With You~いま、会いにゆきます』は、現在、シネマート新宿、シネマート心斎橋にて絶賛上映中です。
次回のコリアンムービーおすすめ指南は…
次回は、パク・チャヌク監督の『お嬢さん』で大抜擢され、目覚ましい活躍をみせるキム・テリ主演の『リトル・フォレスト 春夏秋冬』を取り上げます。
お楽しみに。