映画『僕らはみーんな生きている』は2023年10月21日(土)より大阪・十三シアターセブン、12月17日(日)より横浜・シネマノヴェチェントで拡大公開!
「これが『愛』で、『正義』なのでしょうか」……一見平凡な寂れた商店街の中に潜む大人たちの闇と、現代の若者との対比を皮肉にも冷酷に描いた映画『僕らはみーんな生きている』。
2022年に池袋シネマ・ロサで劇場公開された本作は、2023年10月21日(土)より大阪・十三シアターセブン、12月17日(日)より横浜・シネマノヴェチェントでの拡大公開が決定されました。
今回の拡大公開を記念し、本作で主人公のアルバイト先の同僚・小坂由香役を演じられた鶴嶋乃愛さんにインタビューを行いました。
鶴嶋さんの目から見た由香と主人公・駿との関係性、由香を演じ続ける中で経験した彼女の苦しみを受け止めていく過程、演技において大切にしている“自分自身の本当の現実”など、貴重なお話を伺えました。
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“真っ暗なトンネルの中”を歩き続けている二人
──由香を演じられた鶴嶋さんの目から見て、ゆうたろうさんが演じられた駿と由香の関係性はどう映ったのでしょうか。
鶴嶋乃愛(以下、鶴嶋乃愛):まず、二人の間にあるのは“恋”ではないんだろうとは感じていました。
二人は出会った当初“無”の状態から始まっていて、お互いが嫌いなわけでもないし好きなわけでもない、本当に仕事場の先輩後輩として接しているだけでした。
ただ、映画のキャッチコピーでも「これが『愛』で、『正義』なのでしょうか」と問われているように、自分たちのそれと差があり過ぎる大人たちの価値観に対して、由香ちゃんと駿くんはそれぞれに嫌悪感を抱いて、共感することができたんです。
鶴嶋:由香ちゃんも駿くんも、お互いが大人の嫌な部分や汚い部分に傷つけられた過去があって、そのせいで共感できるものが生まれたからこそ、つながりができてしまった。それは「本当に誰でもいいから、自分の心の支えになってほしい」という、乱暴な言えばとても都合のいい関係でもあったんです。
ですが、都合という“溝”同士がバッチリはまってしまったがゆえに、あの結末になってしまったのかなとも思うんです。多分あの結末が二人にとっての限界だった。演じていても、ずっと灰色の世界を見ているような、深い海の中に沈んでいるような気分でした。
撮影の間に駿くんと由香ちゃんに“希望”が見えた瞬間はあまりなくて、二人は自分自身の生き方という正義を貫いているつもりで、ずっと真っ暗なトンネルの中を歩き続けている。「一人で歩くよりは、二人で歩く方がいいんじゃない」という想いが、二人のつながりの始まりなんだと思います。
本能的な“家族”に近いつながり
──そうした由香と駿の関係性が、特に顕著に表れていると鶴嶋さんご自身が感じられた場面はどこでしょうか。
鶴嶋:由香ちゃんが自分の秘密を駿くんに打ち明けて涙を流した場面では、やっと由香ちゃんも自分を少しでも他人へと預ける覚悟ができたといいますか、今までは何にも期待せずに生きていた由香ちゃんが、少しだけSOSを他人に見せることができた場面なんだと思っています。
ただ駿くんの家での場面では、お互いの距離感がかなり近い瞬間が多い一方で、恋人同士だったら「好きだよ」「愛してるよ」といった言葉を交わしそうな時でも、二人は終始無言なんです。
由香ちゃんが寝ている時にも駿くんは毛布をかけてくれるんですが、彼は「布団行きなよ」と声をかけるのではなくて、あくまでも無言で毛布をかける。そこには、いわゆる言葉がないから伝わる“温かみ”ではなく、むしろ“冷たさ”を少し感じたんです。
駿くんの家での場面は、由香ちゃんも駿くんも、目に少し光がないんですよね。「愛おしい」みたいな表情も別にしていなくて「お互いがお互いを支えなくてはいけない」という本能的な何かでやりとりをしている。それはある意味、“家族”に近いものがあるのかもしれません。
由香の運命を、演じる自分が受け止める
──完成した映画を通じて、改めて由香と駿の二人の姿をご覧になった際には、どのような想いを抱かれたのでしょうか。
鶴嶋:映画の物語自体はフィクションですが、現実の世界には作中で描かれているような理不尽や、あまり美しいとは言えないような行動をする人間も実際に存在しています。
それに対して由香ちゃんも駿くんも、まだエネルギーがあった頃は反発したり強気であろうとしていましたが、ある時から由香ちゃんは、諦めた大人たちを変えることを諦めてしまった。そして、駿くんとともに極論といえる考え方にたどり着いたのも、由香ちゃんが十分過ぎるほど“嫌なもの”を見続けた結果だった。
そう感じた時には私自身も苦しくなりましたが、もし反発を続けていたら、由香ちゃんの心は死を考えるほどに一層崩れていったかもしれません。“生きる”という抵抗に疲れて、自分の命を断つという道を選んでしまう方も実際にいる中で、由香ちゃんは駿くんと自分の身を守るための選択をしたんだと思います。
会長(演:渡辺裕之)とゆり子さん(演:桑原麻紀)は世間一般では世渡り上手として生きている部分がありますが、由香ちゃんと駿くんはあまりにも正直過ぎるんです。正直なのはとてもいいことなんですが、それが時には誤解を生むこともあるのは自分自身の生活でも感じています。
そのため由香を演じていても「どん底へ落ちる前に彼女を救ってあげたい」という想いがなくなることはなかったんですが、結局は「最後まで演じ切ることが、由香のためになる」「由香の運命を、私自身が受け止めなくてはいけない」と考えるようになりました。
22年分の“本当の現実”を役に振りかける
──本作で「苦しみを伴いながらも、由香という人間と最後まで向き合う」という経験をされた2023年現在、鶴嶋さんが俳優のお仕事において最も大切にされていることは何でしょうか。
鶴嶋:由香ちゃんに限らず、これまで役と向き合う上で大切にしてきたのは「誰が演じても、同じような役になる」にはしたくないということですね。
もし『僕らはみーんな生きている』がリメイクされて、他の方が由香ちゃんを演じることになっても、全く違う作品に感じられるような演じ方をしたい。自分だから演じられる由香ちゃんを表現したいし、これから出会う役に対しても同じようにありたいと感じています。
自分自身が22年間で得てきた全てを、エッセンスとして役に振りかけるんです。当たり前のことかもしれませんが、私以外の人は誰も、私の人生を生きてきてはいないんですから。かえって役を演じる時に全てを嘘で固めてしまったら、その嘘はすぐに観る方へ伝わってしまうんです。
自分はまだ22年しか生きていないですが、その22年分の本当の現実が振りかけられることで、観る方も作品に現実味を感じてもらえるはずです。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
鶴嶋乃愛プロフィール
2001年生まれ、高知県出身。
雑誌モデルとして10代から芸能界で活躍。2019年放送の『仮面ライダーゼロワン』でヒロイン・イズ役として女優デビューし、活躍の場を広げている。
主な出演作品はドラマ『仮面ライダーゼロワン』(2019〜2020)、『村井の恋』『恋に無駄口』(ともに2022)、『あなたは私におとされたい』(2023)、映画『仮面ライダー 令和 ザ・ファースト・ジェネレーション』(2019)、『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』(2020)など。
映画『僕らはみーんな生きている』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督・脚本】
金子智明
【キャスト】
ゆうたろう、鶴嶋乃愛、渡辺裕之、桑原麻紀、西村和彦、仁科亜季子、ミスターちん、兒玉遥、松尾潤、園田あいか、篠塚登紀子、ゆぶねひろき、小橋正佳、鷲田五郎、黒川鮎美、才藤了介、安田ユウ、ジェントル、堀口紗奈
【作品概要】
主人公・宮田駿役を演じたのは、ショップ店員から“可愛すぎる美少年モデル”として芸能界デビューし、実写映画「かぐや様は告らせたい」シリーズや月9ドラマ『シャーロック』などの話題作に出演し続けるゆうたろう。本作が初の主演作品となった。
主人公のアルバイト先の同僚・小坂由佳役は『仮面ライダーゼロワン』への出演で一躍注目された鶴嶋乃愛。また『永遠の1分』(2022)、『銀平町シネマブルース』(2023)の渡辺裕之、『家族ごっこ』(2015)の桑原麻紀、『バニラボーイ トゥモロー・イズ・アナザー・デイ』(2016)の西村和彦の他、Mr.ちん、仁科亜希子とベテランキャスト陣が脇を固める。
監督は映画のみならず、CMやMVなど幅広い映像作品の企画・演出を手がける金子智明。自身による完全書き下ろし脚本のもと本作を制作した。
映画『僕らはみーんな生きている』のあらすじ
人との交流が苦手な主人公・宮田駿は、環境を変えるべく上京し下町商店街の弁当屋にてアルバイトを始める。
小説家になる夢を叶えるためにアタックをかけていた出版社からの結果は芳しくない一方で、気さくで美人な弁当屋の店主・児玉ゆり子や、バイト仲間の小坂由香やその友人たちに囲まれ、東京での新生活は順調なスタートを切ったように見えた。
しかし、そんな状況も長くは続かない。
ある日、駿は由香とともにゆり子の秘密を知ってしまう。それは、商店街全体を巻き込んだ残忍な計画であった。
行動を起こすことのできない自分たちに悶々としつつも、秘密を共有する二人の距離は次第に縮まっていく。その傍で着々と進められていく商店街会長・佐伯とゆり子の計画。
若者二人は、何を感じ、何を見たのだろうか。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。