映画『燕 Yan』は新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺にて公開中。以降、全国順次公開!
日本と台湾の間で引き裂かれた2人の兄弟の物語『燕 Yan(つばめ イエン)』。傷つきながらもそれぞれの状況を生き抜いてきたと兄と弟、そして兄弟のことを想い続けた母との海を超えたつながりを描いています。
幼い頃に兄・母と離れ離れになった弟の早川燕役を演じたのは、『パラレルワールド・ラブストーリー』などで知られる水間ロン。自身も日本人の父、中国人の母の間に生まれたこともあり、燕と共通するところがあるとのこと。今回の役どころについて語っていただきました。
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自己と重なる境遇の中で
──本作が映画初主演作とのことですが、日本人の父と台湾人の母の間に生まれた早川燕という役をどのような思いの中で演じられましたか?
水間ロン(以下、水間):僕自身も日本人の父と中国人の母の間に生まれ、劇中の燕と同じような思いを少なからず感じてきた経験があります。ところどころ自分自身を投影しつつも、あくまでも「別の人生」であり「自分」ではない人間である燕を演じようと強く意識していました。
また本作の劇中には、幼い頃に僕が実際に経験したことが部分的に描かれています。例えば、水餃子にコインが入っている場面などがそうですね。また、幼い燕が「日本人のママが良かった」と母親に訴える場面は、やはり子どもだった僕自身も母に言ってしまったという経験に基づいています。
一方で、僕と燕の間における大きな違いの一つが言葉ですね。本作では僕自身がこれまで話してきた北京語と日本語に加えて、母親役の一青窈さんが台湾語を話されています。現在の台湾では高齢の方を除けばほとんどの方が北京語を話せるそうですが、劇中ではそのことに触れた場面も描かれています。
──ちなみに、燕と龍心の母・林淑恵役を演じられた一青窈さんとは実際の現場でお会いになられましたか?
水間:燕の幼少期の記憶にまつわる回想場面の撮影は、僕も現場に入って拝見させていただいたので、母親役の一青さんとも実際にお会いすることができました。
その際に一青さんは、台本に幼少期の燕と兄である龍心の写真を貼られていたんです。くわえて、僕と山中崇さんがそれぞれ演じている大人にあった燕と流心の写真も貼ってくださっていました。一青さんが僕と崇さんが演じる兄弟のことを「自分の子ども」と強く意識しながら現場にいらっしゃるんだと感じられましたし、おかげで僕自身も一青さんを「この人がお母さんなんだ」とより意識できるようになりました。また一青さんご自身も僕と境遇が似ているところがあったため、それに関するお話もさせていただきました。
──ある意味では「幼少期の水間ロン」といえる、幼少期の燕役を演じた宇都宮太良くんとも会われましたか?
水間:めちゃめちゃ一緒に遊びましたし、とても可愛かったですね。実は本作では企画の初期段階から参加していたこともあり、僕も子役のキャストオーディションに参加させていただいていたんです。そのため、「僕の幼少期を演じる子なんだな」というという意識はなかったと言えば嘘になってしまいますが、現場ではあくまで太良くんとは戯れるだけにしていました。彼も懐いてくれていた……と僕自身は思っています(笑)。
先輩・山中崇と「兄弟」を演じる
──本作で印象的なのは、燕の兄・龍心を演じる山中崇さんとのお芝居でした。劇中では激しくぶつかり合う場面も描かれていましたが、山中さんとのご共演はいかがでしたか?
水間:現場では、崇さんとそれぞれの役についてや「兄弟」をどう演じるのかといったことを相談することはありませんでした。兄弟がぶつかり合う場面でのアクションの確認を行った程度ですね。
本作は撮影までの準備期間が長かったため、企画の初期段階から参加させていただいていた僕はもちろん、崇さんも撮影の半年ほど前から役作りを進めていました。そのおかげで、今村圭佑監督やプロデューサー陣とじっくりと話し合い、本作の物語における燕と龍心の感情の流れや、場面ごとで兄弟が感じていた想いについて共有し合うことができたんです。
ですから、僕と崇さんの間でお芝居や演技について相談し合ったというよりは、スタッフを含めて本作における大切なこと、重要なことを共有し合えたからこそ、兄弟を演じられたんだと思います。もちろん時には大変なこともありましたが、俳優として大先輩のである崇さんの胸をお借りしたところが大きかったと感じています。
──本作にて共演をされた水間さんにとって、山中崇さんとはどのような俳優でしょうか?
水間:所属している事務所の先輩ですから、元々崇さんご自身のことは存じ上げていましたし、プライベートでも「優しいお兄さん」という感覚でとても良く接してくださっています。
ただ崇さんは、「演じる」という時には人が全く変わるんです。恐ろしいほどの力強さを非常に感じられますし、そういったところを尊敬しています。本当の格好良さと色気を持っている、素晴らしい俳優の一人だと思っています。
中国での俳優活動と意外な「はじまり」
──2018年からは中国を拠点に活動されていますが、その活動について改めて教えていただけますでしょうか?
水間:2018年から中国の映画学校へ1年間通ったのですが、中国国内では学生だと仕事ができないことから、在学中に実際の現場で活動することはありませんでした。そして卒業後にビジネスビザを取得し、いよいよ本格的に俳優の仕事をやろうとした時に、新型コロナウィルスが流行してしまったんです。
ですから、中国での俳優活動については本当に「これから」という状況です。現時点においては作品への出演といった具体的な予定は入っていませんが、非常事態宣言の期間中は「今後の俳優活動に向けて貴重な時間を得られた」と捉え、英語の勉強や映画鑑賞、読書などをしながら過ごしていました。
──映画に関しては、俳優を目指される以前からお好きだったのでしょうか?
水間:両親がジャッキー・チェンさんのファンだったので、彼の出演作品が映画を好きになるきっかけとなりました。特に好きな作品は『シティーハンター』(1993)で、テレビ放映された際にVHSへ録画して何度も何度も観ました。ただ当時は、まさか自分も俳優になろうとは思ってもいませんでした。
映画を通じて「線」を飛び越えてほしい
──最後に、映画『燕 Yan』の見どころについてお聞かせください。
水間:劇中、燕が台湾で出会った龍心の息子と言葉を交わす場面があるのですが、そこには本作に込められたテーマや想いが最も凝縮されていると僕は感じてます。そこはぜひ、じっくり観ていただきたいです。
日本人と台湾人の血をひく自分自身について悩む燕の姿を本作では描いていますが、これから映画をご覧になる皆さんの中にも、大なり小なり何かしらの悩みは絶対に抱えていて、それゆえに物事に対して「線引き」をしてしまっているんじゃないかと思うんです。だからこそ本作を通じて、自分自身で引いてしまっていた「線」を飛び越えていける勇気を持ってもらえたらいいなと感じています。
──水間さんご自身は、本作への出演を通じてどのような「線」を飛び越えられたのでしょうか?
水間:冒頭で少し触れましたが、僕は幼い頃、燕と同じように母親へ「「日本人のおかんが良かった」と言ってしまったことがありました。その時の記憶は、母の雰囲気や部屋に置いてあった物、当時の僕がどう座っていたのかなど、とても鮮明に覚えています。そして思い出す度に嫌な気分になってしまうので、それ以降母とその出来事について話すことは避けていました。
これは個人的な話になってしまいますが、この映画を通して、母親にあの時のことを謝ることができたら良いなとひそかに思っていました。第15回大阪アジアン映画祭での上映時に本作を母に観てもらえたので、僕の気持ちを伝えることができたと思うし、ようやく一歩前に進めたかな、と今は感じています。
インタビュー/咲田真菜
水間ロンプロフィール
1989年、中国・大連で生まれたのち大阪で育つ。
大学卒業後に上京し、俳優活動を開始。映画『オケ老人!』『何者』(ともに2016年)、『パラレルワールド・ラブストーリー』(2019年)、テレビドラマ『孤独のグルメ Season5』『水族館ガール』などに出演。
2018年からは北京を拠点に中国での俳優活動を始めている。
映画『燕 Yan』作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督・撮影】
今村圭佑
【脚本】
鷲頭紀子
【キャスト】
水間ロン、山中崇、テイ龍進、長野里美、田中要次、宇都宮太良、南出凌嘉、林恩均 / 平田満、一青窈
【作品概要】
第43回日本アカデミー賞を受賞した映画『新聞記者』など数多くの話題作で撮影監督を務め、若きトップカメラマンとして活躍している今村圭佑監督の長編デビュー作。第19回高雄映画祭「TRANS-BORDER TAIWAN」部門に正式出品されたのち、第15回大阪アジアン映画祭にて日本初上映されました。
主人公・燕役は『パラレルワールド・ラブストーリー』などで知られる水間ロン。兄・龍心役は『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』などでバイプレイヤーとして活躍する演技派俳優の山中崇。兄弟の母・林淑恵役を歌手の一青窈が演じています。
映画『燕 Yan』のあらすじ
28歳の早川燕は、埼玉の父から台湾・高雄で暮らす燕の兄・龍心に、ある書類を届けるよう頼まれます。
かつて燕を中国語で「イエンイエン(燕燕)」と呼んでいた台湾出身の母は、燕が5歳の時に兄だけを連れていなくなってしまいました。
そんな母への複雑な思いを抱えながら、燕はしぶしぶ台湾へと旅立ちます。そこで燕を待っていたのは23年ぶりとなる兄との再会でした。