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Entry 2022/10/01
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【辻裕之監督インタビュー】映画『虎の流儀』キャスト・スタッフが楽しみながら撮れる現場を作り続ける理由

  • Writer :
  • 河合のび

映画『虎の流儀』は名古屋・岐阜にて2022年9月16日(金)より先行公開ののち、9月30日(金)より池袋HUMAXシネマズほかにて2作連続公開!

主演・原田龍二が演じる義理人情に厚いヤクザ・車田清が、世直しの旅へと繰り出す痛快娯楽任侠映画「虎の流儀」シリーズ。

第1弾『旅の始まりは尾張 東海死闘編』では清が旅立つに至るまでの物語を、第2弾『激突!燃える嵐の関門編』では旅の中で辿り着いた北九州での清の活躍を描き出します。


(C)Cinemarche

シリーズ2作を手がけたのは、リメイク版『修羅の群れ』(2002)や「日本統一」シリーズなどで知られる辻裕之監督。

このたびの劇場公開を記念し、辻監督にインタビュー。これまで撮り続けてきたヤクザ映画に対する近年の想い、そして映画の現場において辻監督が大切にされている「考え方」についてなど、貴重なお話を伺いました。

必要なのはテーマではなく「面白いか」


(C)2022「虎の流儀」製作委員会

──辻監督が映画制作において常に意識されていることは何でしょうか。

辻裕之監督(以下、):俺がリメイク版の『修羅の群れ』(2002)を監督した時、その映画のプロデューサーを務めていた俊藤浩滋さんが記者会見の後になぜか怒っていたんです。

その理由を尋ねると、俊藤さんは「あの記者はなんでバカなことを聞くんや」「『この映画のテーマは何だ』と聞いてきたんや」と答えたんです。そして、「ヤクザにテーマなんか、あるわけないやないか」「面白いか、面白くないか、それだけやろ」「わしは今までにな、300本近く映画撮ってきたよ。でも、テーマなんかを考えて1回も撮ったことはない」と言うわけです。

俺も一応、日本映画学校で勉強してきた身だったから、それまで「映画にはテーマがあり、そのテーマに基づいて作らなきゃいけない」と考えていたし、当初は「それゃあ記者も、映画のテーマは聞くだろうな」と内心は思っていた。ところが、ヤクザ映画を撮り続けてきた伝説的なプロデューサーがそう言い切ってしまったことに、思わず感銘を受けたんです。

それからは、映画を撮る時の裏テーマを考えたりもする一方で、「この映画は、こういうテーマで撮った」とお客さんへ全面的に伝えることは、「何か違う」と感じるようになった。今回の『虎の流儀』も、作品の空気感そのものである「昭和感」がとにかく伝わればいいと思っていて、あくまでも「あとは、面白けりゃいい」とだけ考えていました。

実録よりも任侠を描きたくなった理由


(C)2022「虎の流儀」製作委員会

──辻監督にとって、ヤクザ映画の面白さとは何でしょうか。

:基本的にはやっぱり、「弱きを助け、強きを挫く」の任侠ですね。ただ、そういった「任侠映画」なヤクザ映画ばかりを撮るようになったのにはワケがあるんです。

実は『実録・広島ヤクザ戦争』(2000)という映画がヒットした時、ヤクザや事件の描写に関して「勝手に描きやがって」と本物のヤクザにめちゃくちゃ怒られたんです。実録物には、実際のヤクザや事件を通じて日本の裏側の歴史を描くという面があるわけですが、あまりソッチに突っ込みすぎると「本物」に怒られてしまうことが時々あるんです。そういう経験を重ねていく中で、「こういうことを描いたら怒られる」という「さじ加減」が何となく分かっていったわけです。

映画を撮る上でのさじ加減と同時に、同時にヤクザの「現実」の部分も知り、「任侠」なんて失くなっていることも思い知らされてしまう。現実のヤクザの大半は金儲けや利益、権力といった理屈で動いていて、実録物も自然と「他人のために一切考えてない人たち」の話になる。すると、そんな話ばかりを長いこと撮り続けていると、やる気も失せてくるんです。

ヤクザ映画の金字塔である『仁義なき戦い』は今でも見習っていますし、一時期は「お客さんはみんな、実録の方が観たいはずだ」と思って実録物を撮っていたけれど、もう疲れてきちゃったんです。

あまりにもリアルで殺伐としたヤクザの利権争いよりも、少しクスリとできる笑いも交えた、昔ながらの任侠を今の時代に撮ってもいいんじゃないか。「もう、任侠に生きる人たちは存在しない」と感じるからこそ、最近は「失われたものを描くファンタジー」だと思ってヤクザ映画を撮っているところもありますね。

「面白いから」で続けてきた


(C)Cineamrche

──辻監督が映画制作の道を選ばれたきっかけとは何でしょうか。

:元々映画は好きではあったんだけれど「自分で撮ろう」だなんて全然思っていなくて、ミステリーや冒険小説、ハードボイルド小説が好きだったので、どちらかといえば小説家になりたいと思ったんです。

「どうやったら小説家になれるか」と考えた時、「小説を書いて賞に応募して、そこでトップを獲ればプロになれる」という方法しか思いつかなかったし、何も書けずにいる中で横浜国立大学に入った。その頃に、新聞記者として働きながら小説を書き、その作品で江戸川乱歩賞を受賞しプロになった小説家の伴野朗さんの話を知って、「そうか、新聞記者なら毎日文章も書けるし、文章で別の道を目指せるのか」なんてことを考えていたんです。

ただ、大学の四年間は遊び呆けていたので、全く勉強をしていなかった。そしていざ就職活動と始めようとなった時に「新聞社では入社のためのテストがある」と聞いて「就活って面接だけじゃねえの?」「俺無理じゃん」となったわけです。

当時はバブルの影響もあり、周りの友だちの大企業への内定がバンバン決まっていく中で、「どうしよう」とひとり路頭に迷っていた。そんな時、本屋で手に取った映画の専門誌に載っていた「日本映画学校・第1期生募集」の広告が目に止まったんです。

前身の横浜放送映画専門学院は、地元の神奈川県内にあったので名前は知っていたし、お袋と観に行った今村昌平さんの『復讐するは我にあり』(1979)も「凄い映画だ」と感じていた。何より映画学校を卒業した後も、テレビ局のスタッフとしても、映画の助監督としても働ける。「創作」という場に関わりながら飯を食えるし、現場で働く中で小説家を改めて目指そうという甘い考えを持っちゃったことで、「じゃあ、映画学校に行っちゃおう」と思い至ったんです。

ただ実際に現場へ出てみたら、小説を書いているようなヒマはなかった。睡眠時間は2〜3時間という環境で働く中で「もう、無理だ」と思い、ずっと小説を書かずに現場で働き続けてきたことで、今ここにいるわけです。

もの凄く不純な動機で映画の現場に入って、実際に映画を撮る中で「面白いじゃん」と思った。それだけで、続けてきた。お金にならない以上、面白くないとやってらんないよね(笑)。

続ける理由と続けられる理由


(C)2022「虎の流儀」製作委員会

──これまで映画制作の現場に携わり続けてきた理由である、映画制作の面白さとは何なのでしょうか。

:やっぱり、毎日違うことをやっているからじゃないかと思いますね。

今は食えないからバイトもしているけれど、そのバイトでは毎日同じ作業をしている。それもそれで違う面白さがあるんだけれど、映画の現場は毎回場所が違って、毎回違うスタッフや役者が来ていて、必要な画を撮り終えたらまた違う場所へ行くことになる。

『虎の流儀』も中部・北九州とそれぞれ全く違う場所で撮ったし、そこで暮らす地元の人たちとの出会いもあれば、時には美味しいものを食べさせてもらったりと色々な経験ができた。そこが、やっぱりデカいんじゃないかな。

また、これも本当はいけない不純なことなんだろうけど、俺は作品そのものの内容よりも、現場の楽しさを優先させたくなってしまう。最終的に「でも、現場は楽しかったからいいじゃん」と考えちゃうんです(笑)。

たとえば、撮影中にスタッフが「もう、しんどいな……」という顔をしていたら、事前に切った絵コンテ上ではその日撮るべき画があと10カット残っていたとしても、「1カットに済ませて、早く帰ろうか」と判断する。映画の内容自体は、1カットに済ませるよりは10カットに分けた方がきっと面白くなるんだろうけど、「でも1カットで終われたら、みんな助かるじゃん」と思ってしまうわけです。

ただ俺の中では、そうやって役者もスタッフも楽しんで撮っていれば、それは映画の雰囲気にも反映されると感じるんです。それに「しかめっ面しながら、つらい想いをしながら作る」と「笑いながら、楽しみながら作る」のどちらかを選べと言われて、もしどちらでも良い映画が撮れるのなら、やっぱり後者の方がいいじゃないですか。

2〜3年に1本ではなく、1〜2ヶ月に2〜3本のペースで撮り続ける中で「この1本に賭ける」とは思わない。だからこそ「その場その場で楽しく撮れたらいい」というスタンスでずっとやってきたんです。


(C)Cineamrche

:また、学生さんに「どうやったら監督になれるんですか」と聞かれる時があるけれど、「監督になるのは簡単だ。撮っちゃえば、いいんだから」といつも答えています。今はどんどん映像制作のハードルは少なくなっているわけですから。

ただ問題は、監督であり続けること。同期でも何人も監督デビューしているけど、みんな続けられなくてやめてしまう。それはやっぱり、結果が出ないからです。大ヒットとまで行かずとも、「数字が出ました」「何本売れました」「儲けが出ました」となれば「じゃあ次もお願いします」となるけれど、「アイツが撮る映画は客来ねえからな」という意見が出たら、もう終わり。

とにかく俺が身に沁みて感じているのは、「結果が出ないと負け」です。いくら良いものを撮っても、結果が出ないとダメ。逆に中途半端なものを作っても、結果さえ出たら勝ってしまう。その違いは何かというと、やっぱり「運」でしかない。俺はうまく運に乗っかれたから、今でも監督を続けられている。続ける理由は別にあるけれど、続けられる理由は、それしかないです。

うまく嘘を吐き、人を楽しませる人


(C)Cinemarche

──辻監督にとって、「映画監督」とは一体何者なのでしょうか。

:俺が作っているのは基本的に「エンタメ」と呼ばれる作品なので、やっぱり観ている人を楽しませるよう、うまく嘘を吐く人なんじゃないですかね。

芝居にしても物語しても、観ている人は短い時間の中だけでも、その「嘘」を「現実」のように捉えて感情移入してしまう。「こんな人はいないんだよ」「こんな話は嘘っぱちだよ」と観る前から分かっていてもそうなるのは、作る側の人間がうまく嘘を吐いて、その短い時間で人を楽しませようと仕事をしているからだと思っています。

それは、社会や自分の身近な出来事を通じて何かを訴える作品とは対極のもので、自分自身がその当時に思っていることを作品に取り入れたりもするけれど、あくまでもソッチが主ではなく、まず「面白かった」「泣いた」「笑った」と言われることが第一。もう、それだけを楽しみにしています。

そのためになら、どんな嘘でも吐く。今喋っている内容も、全部嘘かもしれないしね(笑)。

インタビュー/河合のび
撮影/出町光識

辻裕之監督プロフィール

1963年生まれ、神奈川県出身。

横浜国立大学経済学部を卒業後、日本映画学校(現・日本映画大学)へ入学・卒業。今村昌平、北野武の助監督等を務めたのち、1993年にVシネマ『銀玉命!銀次郎2』で監督デビューを果たした。

2002年に松方弘樹主演のリメイク版『修羅の群れ』を監督。Vシネマを中心に多数の作品の監督・プロデューサー・脚本を手がけている。

映画『虎の流儀 ~旅の始まりは尾張 東海死闘編~』の作品情報

【日本公開】
2022年(日本映画)

【監督】
辻裕之

【脚本】
村田啓一郎

【キャスト】
原田龍二、駒木根隆介、石橋保、高杉亘、石垣佑磨、脇知弘、工藤俊作、中倉健太郎、平塚千瑛、佐藤秀光、勇翔(BOYS AND MEN)、清水昭博、つまみ枝豆、薬師寺保栄、小西博之、渡辺裕之、川野太郎

映画『虎の流儀 ~旅の始まりは尾張 東海死闘編~』のあらすじ


(C)2022「虎の流儀」製作委員会

組同士の抗争により親分(清水昭博)を殺された柴山一家本部長の車田清(原田龍二)は、敵対する岩城総業へ乗り込むが返り討ちに遭い、追われる身となってしまう。

二代目組長となった笠寺(川野太郎)は清の身を案じ、名古屋で運送屋を営む待田組の元へ行き、おとなしくしているように命じた。しかし待田組には岐阜からきた備後組との諍いがあり、度々嫌がらせをされていることを清は知る。

初めはおとなしく耐えていた清だったが、堅気の運送屋の仲間にも手を出されると、遂に堪忍袋の緒が切れるのだった……!

映画『虎の流儀 ~激突!燃える嵐の関門編~』の作品情報

【日本公開】
2022年(日本映画)

【監督】
辻裕之

【脚本】
江良至

【キャスト】
原田龍二、石倉三郎、木下隆行、平野貴大、東根作寿英、森脇英理子、磯山さやか、はいだしょうこ、北代高士、楽しんご(友情出演)、工藤俊作、高杉亘、六平直政、せんだみつお、井手らっきょ、日向丈、松田賢二、佐藤秀光、薬師寺保栄、宮川一朗太、つまみ枝豆、小西博之、渡辺裕之、川野太郎

映画『虎の流儀 ~激突!燃える嵐の関門編~』のあらすじ


(C)2022「虎の流儀」製作委員会

岐阜の10人斬りで有名になり、名古屋の待田組にいられなくなった車田清(原田龍二)は、所払いで今度は北九州へと向かう。そして、代々地元の船や漁師たちを護ってきた名門・富岡一家の親分(石倉三郎)の下で世話になることに。

一見平和な港町であったが、実は裏で南豊不動産開発社長の青木(宮川一朗太)が、地元の代議士の二世である木佐貫(東根作寿英)を利用し、富岡一家が守ってきた漁港を埋め立て、空港を建設するという計画を企てていた。

それを知った清に怒りの炎が燃えあがり……。

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介



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